南は中国、西は核武装した北朝鮮、北はロシアに挟まれている日本は、安全保障に対する不安が高まってきており、第二次大戦後の平和主義から脱却しようとしていると報じられている。
米
『CNN』は、岸田首相は使命感に燃えていると報じている。2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、モスクワに制裁を加え、ローマ法王と核なき世界の追求に合意し、東南アジアとヨーロッパへの外交ツアーで、世界のリーダーたちに民主主義を守るよう呼びかけてきた。そして、日本国内では今、ウクライナ戦争が、かつてないほど日本の安全保障に関する議論を喚起しており、4月には与党議員から、防衛予算を1%からNATO諸国並みの2%に引き上げ、「反撃能力」を整備する案が提出されるなど、平和主義を貫いてきた日本の安全保障に大きな変化が起きている、と伝えている。
岸田政権は防衛に投資するだけでなく、外交を駆使して地域や国外との関係を強化しようとしているとも伝えている。専門家たちは、世界第3位の経済大国である日本が抑止力へのアプローチを再評価し、世界の舞台で信頼できるパートナーとして自らをアピールしていると指摘している。明日予定されている日米豪印によるクアッドの首脳会議も、もともとは安倍元首相が提案したものであった。専門家たちによると、米国は現在、日本がこの地域でより強い指導的役割を担うことを期待しており、岸田政権はそれが防衛を強化する必要があることを意味することを認識しているという。昨年12月、岸田政権は日本が敵基地を攻撃する能力を持つための選択肢を検討していると発表した。それ以来、日本の与党内からは、米国と連携して「反撃能力」を開発するよう求める声が強まっている。
また、オーストラリア戦略政策研究所のシニアフェロー、トーマス・ウィルキンス氏は、日本は、地元の労働力を使い、質の高い管理を行い、参加国に持続不可能な債務負担を残さない独自の質の高いインフラプロジェクトを紹介することで、中国に代わるものを提供したいとも考えている、と指摘している。アメリカのシンクタンク「民主主義防衛財団」のインド太平洋関する専門家であるクレオ・パスカル氏は、クアッドでリーダーシップを発揮しようとしている日本は、アジア太平洋地域において「尊敬され、評価されている」と述べている。
仏メディア『ブルソラマ』は、バイデン大統領と岸田首相は23日の共同記者会見で、「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョン」を再確認し、中国が野心を強めている地域における中国の海軍活動を監視することに合意したと述べ、中国に対して厳しい口調で発言したと伝えている。岸田首相は、経済的な問題を含め、「中国に国際法を遵守するよう求める必要がある」と指摘し、バイデン大統領も、中国政府が台湾に侵攻した場合、米国は軍事的に台湾を防衛すると警告したという。
なお、イギリスの『ロイター通信』は23日付けの記事で、日本が宇宙に対しても野心を持っていると報じている。日本は、米国の助けを借りることで宇宙での存在感を高めていこうとしており、人類をもう一度月に送るというNASAのアルテミス計画の一環として、2020年代後半にアメリカ人以外の宇宙飛行士として日本人を1人、月面に送ることを望んでいるという。バイデン米大統領が岸田首相と会談する際、宇宙協力が話題に上る可能性が高いとされている。日本の宇宙への野心と投資は、新しい宇宙開発競争の可能性で中国の先を行こうとするアメリカは歓迎しているという。
閉じる
習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)の外交部門の片腕とされる楊潔篪(ヤン・チエチー、72歳、2013年に党中央外事活動委員会弁公室主任に就任)は、対米強硬政策の急先鋒役を担ってきている。そこで、欧米諸国のみならず国内からも、同国家主席の「ゼロコロナ政策」や中国経済に対する疑問や非難の声が上がってきたことを受けてか、同政策も経済活動そのものも秀逸である、とボスを擁護する論説を国営メディアに寄稿した。
5月16日付米
『ブライトバート』オンラインニュース(2005年設立の保守系メディア)は、「習近平の番犬の楊潔篪、都市封鎖措置で経済成長が毀損される中、中国経済は“堅調”だとの反論を投稿」と題して、習政権の外交部門トップが、習近平国家主席の政策も中国経済そのものも秀逸だとする論説を国営メディアに投稿したと報じている。
習政権下で、外交部門を率いている楊潔篪氏は5月16日、2021年3月にバイデン政権外交部門代表と会談した際に対米強硬路線を貫いたのと同様、上海やその他の都市で講じられている都市封鎖措置によって経済が疲弊しているという現実に背を向けて、中国経済は全く堅実だとの主張を展開した。
同氏が国営メディアの論説欄に投稿したもので、“「習近平思想(注後記)」の下、中国は団結と不屈の精神が養われ、中国共産党中央政治局の示す計画及び決断によって、様々な分野で発展を遂げてきた”と主張した。
同氏は、一例として北京冬季大会の成功を上げ、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に際しての武漢(ウーハン)都市封鎖措置が奏功したとし、現在上海等で実施されているオミクロン株流行に伴う都市封鎖措置は、“堅実な”中国経済の成長に対して僅かな影響しか及ぼさない、と強調した。
その上で同氏は、西側諸国が都市封鎖措置を放棄したことや、感染力の弱いオミクロン株に対してチグハグな厳しい制限措置を講じていると揶揄する表現を使う一方、中国が推進している“力強いゼロコロナ政策”は十分奏功していて、国民は皆評価しているとも言及している。
その他、同氏は論説の中で、次の点を強硬に述べている。
・中国が、自由世界の構築に専念してきていること。
・中国共産党はCOVID-19感染問題によって弱体化していないこと。
・台湾、東トルキスタン(現在の新疆ウィグル自治区)、香港、南シナ海における中国主権を益々強化していくこと。
・COVID-19感染問題の最中に発揮したように、今後とも中国が国際社会の新リーダーとして君臨していくこと。
・中国経済弱体化で、これまで主導してきた「一帯一路経済圏構想(BRI)」の下での海外出資が減じられるとの憶測を全否定して、BRIは今後とも最大限に推進していくこと。
かかる強気な主張は、今秋の中国共産党第20回全国大会(5年に一度開催される中国の最高指導機関)開催に先立って、国内外で起こりつつある習政権への批判の声を潰そうとしたものとみられる。
ここ数ヵ月、中国共産党を批判する人たちの間では、習国家主席のリーダーシップに対する疑問の声が益々高まっていることは事実である。
しかし、楊氏の主張に反して、COVID-19対策のための都市封鎖措置に伴い、小売も製造業生産活動も収縮しており、中国の4月の経済成長率は急落している。
海外の経済アナリストは、中国がオミクロン株による景気後退から回復するのは、2020年時に回復を遂げたときよりかなり時間を要することになると予想している。
5月16日付英国『フィナンシャル・タイムズ』紙は、“昨年来の不動産開発業者の連鎖倒産や住宅販売の落ち込み等で、中国経済は既に後退リスクを抱えていた”とした上で、“その上、上海における都市封鎖措置は広範囲に悪影響を及ぼし、国際経済にとっても大きなリスクとなる”と報じている。
5月17日付中国『チャイナ・デイリィ』(1981年発刊の中国共産党宣伝部保有の英字紙)は、「外交部門トップ、経済再生は確かなものと主張」と、楊氏の強気の論説について報じている。
中国外交部門トップの楊氏は5月16日、『人民日報』(1948年創刊の中国共産党中央委員会機関誌)に投稿して、“中国を中傷したり攻撃したりするための偽情報を拡散する企みは決して成功することはなく、また、中国の発展や成長を遅延させたり妨害しようとする陰謀も必ず失敗する”と訴えた。
同氏は、「習近平思想」の下で、今冬の北京大会等大規模イベントの開催、高度な進歩、世界の他の国々との対話の進捗等々、中国が如何に大きく発展してきたかについて詳述している。
同氏の論説について、識者は、台湾・新疆ウィグル自治区・香港・海洋主権・人権等々で中国を攻撃している国々に対して、共産党政府が毅然と対抗している姿勢をバックアップするために寄稿したものだとみている。
中国政府はまた、ロシア・ウクライナ間紛争について根拠のない非難を受けたり、一部西側諸国からCOVID-19感染症問題を契機に中国側の社会システムを指弾されたりしたが、これにもしっかり対応している。
そこで同氏は、“かかる対応に当たって、中国は国際社会での正義を強く訴え、求められる責務を果たし、公正かつ平等を粘り強く堅持してきたことによって、多くの国々、特に非常に多くの途上国から幅広い支持と理解を得るに至っている”と強調している。
更に同氏は、“中国は、米国側が中国を抑え込もうとしたり倒そうとしたりする悪巧みに対して、徹底的に対抗していく”とも言及している。
(注)習近平思想:正式には、習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想。2017年10月に開かれた中国共産党第十九回全国代表大会で、習国家主席が披露したもの。過去中国が使った五つの共産主義的な思想(マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・鄧小平理論・3つの代表・科学的発展観)が習近平により洗練され、自ら第6の思想になるものと言われている。現在の中国や中国共産党の指導思想でもあり、中国政府側は現代の中国の現状に最も相応しい理論だと公式的に宣伝している。
閉じる