訴訟大国の米国では、今年の7月にも、米マクドナルドが提供した異常に熱いチキンナゲットで女児が火傷したとの理由で、80万ドル(約1億1600万円)の損害賠償金の支払いが科せられている。そうした中、世界的化学・電気素材メーカーの3M(1902年設立、2021年度売上高354億ドル・約5兆1300億円、純利益59億ドル・約8560億円)がこの程、自社製品による水質汚染問題に関わる和解金103億ドル(約1兆4,940億円)に続いて、不具合耳栓供給に伴う米軍兵士らからの損害賠償請求事件に対する和解金60億ドル(約8700億円)の支払いに応じている。
8月29日付
『CNNニュース』、
『AP通信』、
『フォーブス』誌は、米大手化学・電気素材メーカーの3Mが、7月の水質汚染問題に関わる和解金103億ドルに続いて、この程米軍兵士らから損害賠償請求されていた不具合耳栓供給事件に関わって計60億ドルの和解金支払いに応じることになったと報じている。
世界有数の化学企業である3Mはこの程、米軍兵士らから訴えられていた不具合耳栓による聴力損失等に関わる損害賠償事件に関し、総額60億ドルの和解金を支払うことで合意した。
これは30万件に上った全訴訟を解決するための和解金で、今後数年間で現金50億ドル、3M株式10億ドル相当を原告側に支払うことになる。
同社発表によると、この和解金支払いで、2023年第3四半期(7~9月期)で42億ドル(約6090億円)の税引き前損失を計上するという。
問題の耳栓は、同社が2008年に買収したエアロ・テクノロジーズが製造したコンバット・アーム・イアープラグで、戦闘での騒音から兵士を守るために2003~2015年まで供給されていた。
しかし、2016年に不具合耳栓による難聴や耳鳴りを訴えた損害賠償請求を皮切りに訴訟が相次いで、30万人以上の現役兵士・退役軍人による同社を相手取った訴訟事件に発展していた。
ただ、和解金について発表した同社は、“当該耳栓は適切に使用されれば安全かつ効果的だ”と主張していて、和解金支払いはあくまで訴訟問題を落ち着かせるためだと強調している。
一方、同社は今年7月、かねて22州の政府から提訴されていた、同社製品の撥水剤・表面処理剤・消火剤・コーティング剤等に含まれた有機フッ素化合物(PFAS、パープルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物、注後記)によって発生したとみられる水質汚染問題に関わり、計103億ドルの和解金を州公共水道業者に支払う旨発表している。
(注)PFAS:自然界や体内で分解しない化学物質で、「永久に残る化学物質」と呼ばれ、環境破壊や発ガンリスク等、人体への影響が指摘されている。ファストフードの包装・容器などにも使用されていて、マクドナルドは今年1月、PFASの全面使用廃止を決定している。
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トランプ前大統領及びその支持者は、2020年の大統領選で票が盗まれた等、根拠のない主張を繰り返して、形振り構わずに勢力維持に拘泥している。そしてこの程、米領空に侵入してきた中国の偵察気球に関しても、前大統領が“即刻撃ち落とせ”と言えば、強烈なトランプ信奉者も、“トランプ政権下であったなら、同偵察気球の米領空内侵入など起こり得ない”等々と主張している。しかし、これは全くの虚偽で、トランプ政権下で3度も侵入を許していたことが米メディア報道で明らかになっている。
2月4日付
『メディアITE』オンラインニュース(2009年設立の政治及びメディア報道チェック専門ニュース)は、「トランプ信奉者、トランプ政権下だったら偵察気球が米領空内侵入前に撃墜していたと主張するも、事実無根」と題して、バイデン政権の弱腰姿勢を批判するために、トランプ信奉者が、トランプ政権下だったら当該気球を即刻撃墜しただけでなく、侵入さえも許さなかった等と表明するも、事実無根の主張だと報じている。
米領空内に侵入した中国の偵察気球は2月4日、米南東岸サウスカロライナ州沖上空で撃ち落とされた。
これに関し、極右派のトランプ信奉者のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(48歳、ジョージア州選出共和党員、2020年初当選)が早速、もしトランプ氏が大統領だったら、当該気球の米領空内侵入を決して許さなかっただろうとして民主党政権に嚙みついた。
同議員は、トランプ氏と会話した上での話として、“トランプ氏が大統領だったら、当該気球が米軍基地や関係施設上を飛行することなど許さなかったし、米領空内に侵入してくる前に撃ち落としていただろう”とツイートした。
また、トランプ政権下で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏(59歳、2018~2021年在任)も2月3日、『Foxニュース』の政治会談番組司会者ショーン・ハニティ氏(2009年放送開始)のインタビューに答えて、“もしトランプ政権が続いていたら、当該気球はもうとっくに撃ち落とされていた”と発言していた。
しかし、いくつかの米メディア報道によると、事実は全く違っていた。
まず、経済誌『フォーブス』(1917年創刊)は2月4日、作家マット・ノバク氏のコメントを引用して、国防総省が今週発表した声明によると、“偵察気球飛来という事例は、トランプ政権時代含めて過去に何度か起こっていた”と報じ、グリーン議員のツイート内容を否定している。
また、『AP通信』(1846年設立)も2月4日、米シンクタンク・民主主義擁護財団(2001年設立)のクレイグ・シングルトン上級研究員のコメントを引用して、“中国の偵察気球は直近5年間で、ハワイ在の軍事施設上空含めて何度も視認されている”と報じている。
同メディアは更に、米高官の話として、“中国の偵察気球はトランプ政権下で3度、また、バイデン政権になったばかりのときに1度、米領空上を飛行しているのが確認されている”とした上で、“ただ、今回ほど長い間飛翔してはいなかった”と引用している。
(編注;今回の偵察気球は1月28日にアラスカ州領空内に侵入し、1月30日にカナダ上空を飛翔した後、1月31日にアイダホ州領空内に再侵入)
かかる報道から言えることは、偵察気球が飛翔した長さや侵入場所に関係なく、トランプ政権下でも侵入していたということと、それらを撃墜したという公式発表は一切なされていないことから、グリーン議員のツイートは、事実に基づいたものではないということが明らかである。
なお、テッド・クルーズ上院議員(52歳、テキサス州選出共和党員、2012年初当選)は、民間人の目撃によって公に報道されることにならない限り、バイデン政権は当該気球を撃墜することはしないだろうと、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は高を括っていたと考えられる、と示唆している。
一方、ロイド・オースティン国防長官(69歳、2021年就任)は2月3日、中国の偵察気球は明らかに米国の“戦略上重要な施設”を偵察する目的で飛行していたと明言している。
当該気球が通過したモンタナ州には、核弾頭搭載ミサイル等の軍事施設がある。
同日付『Foxニュース』(1996年開局)は、「中国の偵察気球が撃墜された理由」の記事中でトランプ政権下での件について触れている。
偵察気球は今に始まったものではなく、原始的なものは数世紀前から存在していて、第二次大戦が起こってから多くの頻度で使われるようになったものである。
なお、今回の中国の偵察気球について、複数の米高官が2月4日、当該気球はトランプ政権下で少なくとも3度、バイデン政権に移行したばかりのときに1度確認されていると証言している。
ただ、今回ほど長い間(米領空上を)飛翔したことはなかったともコメントしている。
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