欧州委員会は、ロシアによる黒海沿岸の港湾の封鎖により、食糧不足の危機に瀕している世界の地域へ重要な物資を届けることができないウクライナに対し、鉄道、道路、河川による小麦やその他の穀物の輸出を支援することを提案した。
仏ラジオ局
『フランス・アンフォ』によると、ウクライナとポーランド、ハンガリー、ルーマニアとの国境では、主に小麦や石油を積んだ2万4千両近い鉄道車両が足止めを食らっている。戦争が始まって以来、2500万トンの穀物が出国を待っている。欧州委員会運輸部門の広報担当であるアダルベルト・ヤーンツ氏は、ウクライナ国内で止められている穀物の半分に相当するこれらの穀物は、「食料安全保障や経済的な理由、そして何よりも収穫が近づいていることから、7月末までに国外に出さなければならない」とし「これは本当に巨大な挑戦だ」と述べた。
ヤーンツ氏によると、「ウクライナ産小麦の75%は輸出向けであり、ヨーロッパ向けが3分の1、中国向けが3分の1、アフリカ向けが3分の1である。」という。「ヨーロッパでは、食の安全という問題はないものの、アフリカでは、早急に対応しなければならない課題となっている。そのため、連帯の回廊と呼ばれるものを設定し、欧州委員会とウクライナ、各国当局、そして輸送事業者が共同で、ウクライナからできるだけ多くの穀物や油糧種子を搬出するための行動計画を提示した」とのだという。
ただし、穀物を鉄道で運び出すことは至難の業となっている。ヤーンツ氏は「ウクライナの鉄道とヨーロッパで使われているレールの間には互換性がない」ことを指摘している。「これは実務的な問題であり、輸送する穀物や油糧種子の積み替えは可能であるものの、時間がかかってしまう。適切な機械を使えば、1台の車両につき2時間程度で完了する。しかし、十分な機材が用意されていることが必要となる。コンテナに穀物を入れて、コンテナを運ぶことも出来るが、同じような問題に直面する。そして、ヨーロッパ内の輸送については、レールを使用できる枠があるかという問題もある。そのため、ヨーロッパ全域おいて、ウクライナ当局と協力して、大きなパズルのような仕組みを組み立てていく必要がある。欧州委員会が、事業者、機器のサプライヤーなど、さまざまな関係者をまとめることで、物流ネットワークのプラットフォームを構築し、異なるプレイヤーに調整を要求していく」という。
一方『AP通信』は、ウクライナの食糧を世界に供給するために、EU諸国を経由してオーストリアやドイツに鉄道やトラックで穀物を運び始めているが、現在その量は黒海経由で輸出されていた量のほんの一部に過ぎないと伝えている。
欧州委員会によると、ウクライナと27カ国との国境にある数千の鉄道車両の平均待ち時間は16日で、場所によっては30日に達するという。ウクライナでは非軍事機の運航が停止しているため、新たな供給ルートとして、陸路以外に河川輸送も検討されているという。同委員会は、加盟国に対し、国境通過地点での手続きを迅速化し、EU域内でウクライナの輸出品を一時的に保管するための容量を増やすよう促している。
なお、ウクライナ外務省は、ロシアが黒海沿岸の港湾を封鎖しているだけでなく、穀物を盗み、その一部を世界市場で売ろうとしていると非難している。同省は、ロシアがすでに40万から50万トン、1億ドル(約129億円)以上の穀物を盗んでいる可能性があるとする公式推定を引用した。また、黒海の主要港であるセヴァストポリから出航する穀物運搬船は、「実質的にすべてウクライナから盗まれた穀物を運んでいる」と主張している。
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環境保全先進国の呼び声が高いNZは、再生可能エネルギー活用政策・ゴミ削減計画・環境保護・生態系保護等々の施策に積極的に取り組んでいる。そしてこの程、低所得世帯に対して、多量の温室効果ガスを発生させるガソリン車から、環境に優しいハイブリッド・電気自動車への買い替えのための補助金を支給する政策を発表した。
5月16日付米
『AP通信』は、「NZ、温室効果ガス削減政策の一環でクリーンエネルギー車への買い替え補助金を支給」と題して、低所得世帯に対して、高燃費ガソリン車から環境に優しいクリーンエネルギー車への買い替え用補助金を支給するとの政策について報じている。
NZ政府は5月16日、低所得世帯に対して、温室効果ガスを多量に発生させるガソリン車から、環境に優しいハイブリッド、あるいは電気自動車への買い替えのための補助金を支給するとの政策を発表した。
これは、温室効果ガス削減のために取り組んでいる様々な総合政策の一部で、5億6,900万NZドル(3億5,700万ドル、約464億円)を予算計上するとしている。
同政府は、その他次のような取り組みを行っている。
・温室効果ガス削減のための事業補助金
・2035年までに全てのバスをクリーンエネルギー車に転換
・食品ロス削減のため、今後十年を目処に全世帯に回収用街頭ゴミ箱を設置
ジャシンダ・アーダーン首相(41歳、2017年就任)は声明文で、“(今回の政策発表となった本日は)温室効果ガス排出量低減の将来を見据えた、画期的な出来事を迎えた日となる”とした上で、“海水面の上昇等、NZにとっても深刻な事態が起こりつつあり、気候変動対策に後れを取った、という事態は絶対に避けなければならない”と強調している。
今回提言された政策は、NZ政府がパリ協定(注1後記)に基づいて掲げた、2050年までにカーボンニュートラル(注2後記)達成という目標に適うものだとしている。
政府説明によると、当該補助金はまず、45億NZドル(28億ドル、約3,640億円)の気候変動緊急対策基金から拠出することとするとする。
ただ、ある政府高官によると、時の経過とともに、汚染源の事業体等から徴収した資金を充てることもあるとしながらも、各世帯への課税による捻出はないとしている。
しかし、何人かの批評家は、NZの輸出産業の主力を担っているものの、同国で排出される温室効果ガスの約半分の排出元となっている酪農産業への対応策が不十分だと批判している。
自由至上主義を標榜するACT党(1994年設立)のデイビッド・シーモア党首(38歳、2014年就任)は、“世の堕落者を支援するこのような政策は、全く有益でないことは明白で、多くの国の失敗例に枚挙のいとまがない”と痛烈に非難した。
同党首は、消費者には、市場原理に基づいた温室効果ガス排出取引等のスキームを通じて、如何に温室効果ガスを削減していくか等の選択肢を残す必要がある、とも付言している。
同日付NZ『スタッフ』オンラインニュース(2000年設立)は、「温室効果ガス削減計画は電気自動車販売戦略にとって“多くのことをするのに急過ぎる”」として、NZ政府の発表した環境政策への批判について報じている。
NZ南島南端のサウスランド地方のインバーカーギル市で自動車ディーラーを営む経営者は、政府が公表した29億NZドル(約2,350億円)の温室効果ガス削減計画の要とされる補助金支給制度について、むしろ電気自動車の価格を押し上げてしまい、反って一般人の買い控えを誘発してしまうと批判した。
政府は5月16日、気候変動緊急対策基金の中から12億NZドル(約970億円)を輸送関係の環境対策に充てると発表した。
そのうち5億NZドル(約400億円)余りが、低所得世帯に対する、環境に有害なガソリン車から、電気自動車等の環境に優しい車に買い替えるための補助金に回されるという。
しかし、この政策について、サウスランド地方本拠の電気自動車販売会社オーナーのアレックス・デ・ボア氏は、補助金支給制がサウスランド地方の住人の電気自動車への買い替え促進に繋がるようなことにはならず、逆に販売価格を暴騰させる結果となってしまう、とコメントした。
同氏は、“補助金を当てにする人からの電気自動車需要が高まると、それにつられて、供給が限られているNZで運転可能な右ハンドル(左側通行)の電気自動車の価格が高騰し、結果的に補助金分くらい上がってしまう恐れがある”と解説した。
すなわち、欧米の大手自動車会社は左ハンドル(右側通行)の電気自動車を多量に注文販売しているが、NZや豪州のように、右ハンドルの車が使用されている市場向けは日本が主要供給元となっていて、オークションによって手当てをするシステム(需要が高まれば値段高騰)となっているからであるという。
なお、同氏は、世界の多くの自動車メーカーが、2035年までにガソリン・ディーゼル車生産を止めて電気自動車にシフトするとの方針を打ち出しているものの、NZに潤沢な電気自動車供給が期待できるのはまだ当分先になる、とも嘆いている。
(注1)パリ協定:第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されたパリにて2015年12月に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)。1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196ヵ国全てが参加する枠組みとしては史上初。排出量削減目標の策定義務化や進捗の調査など一部は法的拘束力があるものの罰則規定は無い。2020年以降の地球温暖化対策を定めている。2016年4月のアースデーに署名が始まり、同年9月に温室効果ガス2大排出国である中国と米国が同時批准し、同年10月の欧州連合の批准によって11月4日に発効。日本の批准は、協定発効後の同年11月8日。
(注2)カーボンニュートラル:環境化学の用語のひとつ、または製造業における環境問題に対する活動の用語のひとつ。カーボンオフセット、排出量実質ゼロという言葉も、同様の意味で用いられる。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量にする、という考え方。
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