豪州新首相、中国首相の秋波に肩透かし【米・豪州メディア】
豪州では、5月21日投開票の代議院議員(下院に相当)の総選挙の結果、9年振りに労働党が政権を奪取した。そこで、労働党政権下で友好関係を築いていた中国が、保守連合政権時代の両国間軋轢を忘れたかのように、新首相宛に秋波を送ってきた。しかし、ロシアのウクライナ軍事侵攻をみるまでもなく、豪州としては、中国も力による現状変更を推し進めていることを懸念して、まず中国側による一方的な豪州産品輸入規制の撤廃が絶対必要だとする強硬姿勢を示した。
5月24日付米
『AP通信』は、「豪州新政権、中国側に貿易障壁撤廃を要求」と題して、労働党新政権が、中国側からの友好関係復活要請に対してけんもほろろに対応した旨報じている。
豪州の労働党新政権は、中国側から出された、以前のように親密な関係を求めるとの要請に対して、まず一方的に設けた貿易障壁を撤廃することが先決だと対応した。
李克強首相(リー・クーチアン、66歳)は過日、総選挙に勝利を収めたアンソニー・アルバニージー新首相(59歳)に対して祝辞を送っていることから、中国が直近2年間豪州政府に科してきた禁止措置を緩和するとみられている。...
全部読む
5月24日付米
『AP通信』は、「豪州新政権、中国側に貿易障壁撤廃を要求」と題して、労働党新政権が、中国側からの友好関係復活要請に対してけんもほろろに対応した旨報じている。
豪州の労働党新政権は、中国側から出された、以前のように親密な関係を求めるとの要請に対して、まず一方的に設けた貿易障壁を撤廃することが先決だと対応した。
李克強首相(リー・クーチアン、66歳)は過日、総選挙に勝利を収めたアンソニー・アルバニージー新首相(59歳)に対して祝辞を送っていることから、中国が直近2年間豪州政府に科してきた禁止措置を緩和するとみられている。
李首相は、豪州との友好関係を発展させていく意向であると述べている。
しかし、アルバニージー新首相は、労働党が2013年に政権を失って以来、両国間関係を変更したのは中国側である、として反発した。
すなわち、同新首相は5月24日、東京で開催されたクワッド会議(注後記)後の記者会見の場で、直近数年間、中国は数十億ドル(数千億円)に相当する豪州輸出品である石炭・ワイン・大麦・牛肉・海産物に関し、公式あるいは非公式に不当な貿易障壁を設けている、と非難した。
同新首相は、“かかる貿易障壁を設けるのは全く理不尽だ”とし、“速やかに撤廃されるべきだ”とも付言した。
また、ジム・チャルマーズ新財務相(44歳)も、“中国側の不当な制裁で、豪州経済は大打撃を受けている”とし、自由貿易のパートナーとするなら、“速やかにかかる制裁が取り除かれることを要望する”と言及した。
一方、中国は5月24日、王毅外交部長(ワン・イー、68歳、外相に相当)が間もなく、ソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東チモール訪問のために10日間の外遊に出発すると発表した。
そこで、豪州地元紙報道によると、ペニー・ウォン新外相(53歳)が急遽、日本でのクワッド首脳会議後に豪州に戻った翌日の5月26日、中国側による南太平洋島嶼国への影響力牽制のためにフィジーに飛んで対応を協議する意向であるという。
5月25日付豪州『NCAニュースワイア豪州』は、「アンソニー・アルバニージー新首相、クワッド会議で中国に警告」と題して、就任早々の新首相が、かつての労働党政権時代と同様の二国間友好関係を求めるなら、中国側が翻意することが前提だと強調したと報じている。
アルバニージー新首相は5月24日、中国が豪州との関係改善を望むというなら、対豪州貿易障壁を撤廃することが唯一の道だと強調した。
中豪両国間はここ数年、ギクシャクした関係が続いているが、就任早々の同新首相は、同日開かれたクワッド首脳会議の席上、全ての国と良好な関係を築いていきたいとしながらも、中国に対しては毅然とした対応を取ると明言した。
新首相は、“二国間の関係がギクシャクしているのは豪州の責任ではなく、中国側が不当な貿易障壁を設けていることが原因である”とした上で、“中国が即刻不当な制裁行為を止める必要がある”とも付言した。
なお、同新首相はクワッド会議の冒頭、中国の李首相から総選挙勝利を祝福するメッセージをもらったことを披露した上で、中国に対する姿勢を吐露したものである。
同日付豪州『スカイニュースTV』(1996年開局)は、「労働党政権、太平洋島嶼国での中国行動牽制のため即応」と、新外相が中国外交部長の南太平洋島嶼国訪問に合わせて、現地を急遽訪問することになったと報じた。
新労働党政権は5月26日、中国による南太平洋地域への影響力行使に対抗するため、担当閣僚を現地に電撃派遣することになった。
すなわち、ウォン新外相が日本での首脳会議から帰国後すぐさま、王外交部長の外遊初日に合わせる形で、急遽フィジーを訪問することになった。
(注)クワッド会議:2006年に当時の安倍晋三首相が、環太平洋における日本・米国・豪州・インドの四ヵ国の戦略対話を提唱。第2次以降の安倍政権で2017年に局長級会合、2019年に外相会談を開き、2021年3月に初めてオンライン形式での首脳協議が実現。同年9月、バイデン政権の呼び掛けで初の対面による四ヵ国首脳対話を実施。以降毎年の開催について合意。対中国牽制に重心を移すバイデン政権は、クワッドに中核的な役割を求めている。
閉じる
豪州首相;直前の総選挙結果判明まで、5/24東京開催のクワッド会議に自由党か労働党かどちらの党首が出席するか未定【米・豪州メディア】
日米が主導する四ヵ国戦略対話(クワッド会議、注後記)が、5月24日に東京で開催される。しかし、直前の5月21日に代議院議員(下院に相当)総選挙を控える豪州では、与党・自由党あるいは最大野党・労働党のどちらが政権を掌握するか蓋を開けるまで分からない(単独過半数が取れない場合、連立協議が必要となるため、開票当日に結果判明しない恐れ)。クワッド会議直前の日本移動という物理的な理由から、自由党・労働党両党首が揃って来日する可能性がある。
5月18日付米
『AP通信』は、「豪州首相、日本開催のクワッド会議に誰が出席するか未定」と題して、直前の総選挙の結果を踏まえてどの政党が政権を掌握するか確定するまで、東京で開催されるクワッド会議に誰が正規メンバーとして出席するか不詳だと報じている。
豪州のスコット・モリソン首相(53歳、2018年就任)は5月18日、5月21日の総選挙の3日後に東京で開催されるクワッド会議に、豪州首脳として誰が出席するのかまだ言えないと表明した。...
全部読む
5月18日付米
『AP通信』は、「豪州首相、日本開催のクワッド会議に誰が出席するか未定」と題して、直前の総選挙の結果を踏まえてどの政党が政権を掌握するか確定するまで、東京で開催されるクワッド会議に誰が正規メンバーとして出席するか不詳だと報じている。
豪州のスコット・モリソン首相(53歳、2018年就任)は5月18日、5月21日の総選挙の3日後に東京で開催されるクワッド会議に、豪州首脳として誰が出席するのかまだ言えないと表明した。
同首相は、“(来週の首脳会議の)「準備は進めている」が、土曜日の総選挙の結果が僅差となった場合、どういう対応ができるのかということになるが、今は何とも言いようがない”とコメントした。
一方、野党・労働党のアンソニー・アルバネージ党首(53歳、2019年就任)は、総選挙に勝利したら、5月22日に即刻宣誓の上で首相に就任し、クワッド会議に出席するために訪日すると述べている。
同党首は、“同盟国の米国のジョー・バイデン大統領(79歳、2021年就任)はもとより、友好国である日本の岸田文雄首相(64歳、2021年就任)、インドのナレンドラ・モディ首相(71歳、2014年就任)と直接会って協議したい”と地元紙のインタビューに答えた。
シドニー大学(1850年設立の公立大)憲法学専門のアン・トゥーミー教授は、モリソン首相の与党・自由党の敗北が決定していれば、同首相は、デビッド・ハーリー豪州総督(68歳、2019年就任)による新首相宣誓式前に辞任する必要があるが、もし決着が付いていないならば、最終確定するまでの間はモリソン氏が首相に留まることになる、と解説している。
更に同教授は、来週の首脳会議までに事態が確定しない場合に備えて、モリソン・アルバネージ両氏が訪日するということも考えられる、とも付言した。
ペニー・ウォン元老院議員(上院に相当、53歳、南オーストラリア州選出の労働党議員、2002年初当選)は、もし労働党が勝利すれば、外相(野党が組織する影の内閣の外相に2016年就任)としてアルバニーズ党首に同行して訪日する、と表明している。
同議員は先週、豪州『ABCニュース』のインタビューに答えて、“総選挙後の初外遊先は日本となる”とし、“クワッド首脳会議にはメンバー国外相も出席するからだ”と述べた。
更に同議員は、“通常であるならば、アルバニーズ党首も自身も、初外遊先はインドネシアとなるが、今回はクワッド会議開催が迫っているので、日本が最初となるだろう”と付言した。
インドネシアは、豪州にとって特異な二国間関係先であることより、新政権を担うことになったトップの最初の訪問先ということが慣例となってきていた。
なお、通常ならば、総選挙開票当日に結果が判明して、即刻組閣となるが、直近の世論調査によると、自由党・労働党の支持率は僅差でどちらが勝利するか不明の状態となっている。
もし、どちらの党も単独過半数(75/150以上)が取れない場合、他党との連立協議が必要となり、新政権誕生までにはしばらく時間を擁す。
2010年時に労働党が少数与党として政権を担った際は、他党と連立協議を行って組閣するまで17日も擁していた。
一方、同日付豪州『スカイニュース・オーストラリアTV』は、「モリソン首相、アルバニーズ党首が総選挙後に即刻首相就任宣誓式を行ってクワッド会議に出席するとする発言を“厚かましい”と糾弾」と題して、フライング気味の野党党首を非難した旨報じている。
モリソン首相は、総選挙の結果がどうなるか分からない段階で、アルバニーズ労働党党首が来週予定されているクワッド会議に出席すると表明しているのは、“少々厚かましい”と言わざるを得ないとコメントした。
アルバニーズ党首は、総選挙の結果を踏まえて即刻首相の就任式を行い、ウォン外相とともに来週のクワッド会議出席のために訪日すると発言していた。
これに対してモリソン首相は5月18日朝の記者会見で、“アルバニーズ党首は、すでに総選挙結果が判明して、勝利を収めているかのような発言をしており、少々厚かましいと思われる”と表明した。
同首相は、前回総選挙時(2019年5月)も、当時のビル・ショーテン労働党々首(当時52歳)及び労働党が、“あたかも総選挙に勝利したかのように振舞っていた”ことを非難していた。
実際は、自由党保守連合が政権を継続奪取(2013年以降3期連続)していた。
(注)クワッド会議:2006年に当時の安倍晋三首相が、環太平洋における日本・米国・豪州・インドの四ヵ国の戦略対話を提言。第2次以降の安倍政権で2017年に局長級会合、2019年に外相会談を開き、2021年3月に初めてオンラインで首脳協議が実現。同年9月、バイデン政権の呼びかけで初の対面による四ヵ国首脳対話を実施し、以降毎年の開催について合意。対中国牽制に重心を移すバイデン政権は、クワッドに中核的な役割を求めている。
閉じる
その他の最新記事