中国政府は、“ゼロコロナ政策”の看板は下ろしたものの失政であることは決して認めず、統計上は死者も感染者も低く抑えられているとして、いよいよ海外旅行制限を緩和することになった。これに対して、日本や欧米諸国の多くは、感染爆発が発生していると疑われることから、3年前の轍は踏まないよう、中国人旅行者の入国前検査を徹底し水際対策を強化している。しかし、観光産業復活を切望する東南アジア諸国や航空業界等は、入国制限を設けずに春節に続く大旅行シーズン中の中国人旅行客受け入れに躍起になっている。
1月6日付
『ロイター通信』は、「感染急増の中国による海外旅行解禁に備えて多くの国で水際対策強化」としながらも、観光業や中国ビジネス再興を切望する東南アジア諸国等は、入国制限を設けずに中国人旅行者を熱烈歓迎しようとしていると報じた。
世界でこれまで以上に多くの国が、中国による海外旅行解禁期日を数日後に控えて、中国人旅行者の入国前新型コロナウィルス(COVID-19)検査を徹底するとしている。
多くの中国人は、過去3年間で都市封鎖措置等による行動制限で自宅待機を強いられてきており、旅行解禁を非常に待ち望んでいた。
中国政府としては、先月発生した“ゼロコロナ政策”に対する表立った抗議運動を受けて、同政策の大幅緩和に舵を取ることとなり、1月8日から遂に旅行解禁に踏み切った。
しかし、拙速すぎる急激な政策変更に伴い、“ゼロコロナ政策”の下で総人口14億人のうちほとんどの人が感染したことはなく免疫を持っていないことから感染爆発を引き起こしたと考えられ、多くの病院に受け入れ能力を超える患者が殺到し、また薬局の医薬品在庫が払底する事態となっている。
それでも政府高官や国営メディアは、感染防止対策は万全だとし、感染者急増の事態を軽視するだけでなく、中国人旅行者に対する諸外国の受け入れ条件厳格化を非難するばかりである。
外交部(省に相当)の毛寧報道官(マオ・ニン、50歳、2022年就任)は1月6日、欧州連合(EU)が中国人旅行者の中国出発前の検査を要求するとしたことに対して遺憾の意を表した。
また、『環球時報』は社説で、いくつかの西側諸国のメディアや政治家は、中国が取る政策はそれが何であっても“全く満足しようとしない”と糾弾している。
更に、世界の航空業界も、数年間COVID-19の世界的大流行に打ちのめされていたことから、大のお得意である中国人旅行者に対する事前検査実施という政策を非難している。
一方、中国国内では市民の間から拙速な対応に疑問の声が上がっている。
上海在の70歳の高齢者が『ロイター通信』のインタビューに答えて、“制限緩和前に種々準備をする必要があった”とし、“一例を挙げれば、薬局に十分な医薬品を用意させておくとか、である”と強調した。
実際問題、葬儀場が満杯になっていたり、人工呼吸器を付けた高齢患者が病院の廊下に溢れていたりと、矛盾が露呈している。
『上海モーニング・ポスト』紙報道によると、上海の200人以上のタクシー運転手が、不足している救急車に代わって患者を病院まで搬送しているという。
そこで世界保健機関(WHO、1948年設立)の専門家も、中国政府はCOVID-19死因要件を狭義のものに変更していると疑っていて、WHO定義でいけば今年だけで死亡者は100万人以上になっているはずだとしている。
(編注;中国政府は、COVID-19死因要件を「感染後、主に呼吸が困難になり死亡した場合に限られる」としていて、高齢者や基礎疾患のある感染者が重症化して死亡した場合などを除いている。)
しかし、機関投資家らは中国政府の緩和政策を歓迎していて、直近50年で最低の経済成長率となっている年17兆ドル(約2,278兆円)規模の中国経済が復活すると楽観的にみている。
また、緩和政策に伴い不調だった不動産業界も活気づくとの期待から、1月6日の人民元が値上がりした。
更に、優良株とされるCSI300指数(注後記)及び上海総合指数とも、年初の株式市場開場週にあって2%以上値上がりしている。
これに関し、HSBC(1865年前身設立)アジア太平洋地域株式資本戦略担当部門のヘラルド・バン・デル=リンデ部門長は、“COVID-19感染急増に伴い医療体制への影響が高まる中での制限緩和は色々問題含みではあろうが、当行のエコノミストは、中国がけん引してアジア全域での経済活性化を促すことになると期待している”と表明した。
一方、香港と中国本土との往来が1月8日以降、3年振りに解放されることから、香港拠点のキャセイパシフィック航空(1946年設立)は1月5日、中国本土との航空便を昨年比倍以上に増便するとしている。
ただ、WHOは、1月21日から始まる春節長期休暇期間中の民族大移動によって、ワクチン接種率が低調な地方の小都市まで感染が拡大することを懸念している。
中国当局によると、昨年時の10億5千万人に対して、今年はのべ21億人が車・電車・飛行機・船で旅行することになると予想しているという。
かかる事態に対して、中国近隣の東南アジア諸国は、中国人旅行者が大挙訪れることを望んでいて、入国に当たって特に制限を設けていない。
ITBチャイナ(上海本拠の旅行見本市)によると、中国在旅行会社の実に76%が、旅行解禁となった際に最も人気なのが東南アジアだと認識しているという。
(注)CSI300指数:上海証券取引所及び深セン証券取引所に上場しているA株(人民元取引対象銘柄)のうち時価総額及び流動性の高い300銘柄で構成された株価指数。
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1月3日付
『ブルームバーグ』オンラインニュース(1981年設立)は、「IMF専務理事、2023年は厳しい年と警告」と題して、2023年の世界経済見通しが厳しいと警鐘を鳴らしたと報じている。
IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事(69歳、ブルガリア人経済学者、2019年就任)は1月1日、2023年の世界経済は“厳しい年となり、昨年を上回る厳しさ”になると警鐘を鳴らした。
同専務理事が、米メディア『CBS』(1927年開局)の日曜放送の報道番組「フェイス・ザ・ネーション」(1954年放送開始)に出演してコメントしたもので、“世界の三大経済圏-米国・中国・欧州連合(EU)-が揃って同時に景気後退に陥ると予想するからだ”と言及している。
IMFは昨年10月、世界経済の3分の1余りが2023年にマイナス成長となり、全世界の国内総生産(GDP)伸び率が、25%の確率で、IMFが世界的な景気後退と定義する2%未満になると警告していた。
1月2日付『CNNニュース』は、「IMF、2023年には世界の3分の1が景気後退に陥ると警告」と詳報している。
IMF専務理事は1月1日、2023年には米国・中国・EUの景気後退に伴い、世界経済にとって厳しい年になる、と語った。
同専務理事は、“三大経済圏の景気後退の影響を受けて、昨年よりも厳しい経済状況に陥る”と警告している。
そして、“米国の景気後退は回避できるかも知れないが、欧州はウクライナ戦争でかなり深刻な打撃を被っているので、EU加盟国の半分は景気後退に見舞われるだろう”とした。
更に、同専務理事は、“中国経済が2022年の頑なな「ゼロコロナ政策」で大きく沈み、この影響が世界にも及ぶこととなるため、2023年の世界経済成長率は+2.7%と2022年の+3.2%より鈍化すると見込まれる”と表明した。
習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は先週末、2022年の経済成長率は少なくとも4.4%になったとみられると、多くのエコノミストが予想していたより高い数値を上げた。
それでも、2021年の8.4%よりは大きく下げた結果となる。
しかし、同専務理事は、“中国の2022年の経済成長率は直近40年で初めて、世界経済成長率並みかそれを下回るとみられる”とし、“コロナ禍前は、世界の経済成長率の34~40%は中国の経済成長率に依るところとなっていたが、今後はそこまで大きなシェアを占めることにはならないだろう”と評価している。
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