既報どおり、ジョー・バイデン大統領(78歳)は、アジア政策においてはもっぱら、中国の軍事力及び経済力の台頭を阻止することに注力すると明言している。その戦略の急先鋒として、アントニー・ブリンケン国務長官(58歳)が早速、中国包囲網の礎となる四ヵ国
戦略対話(クワッド、注後記)を主導したが、当然のことながら中国は大いに苛立っている。
2月18日付米
『ワシントン・タイムズ』紙:「中国、米新政権の“クワッド”対話戦略推進に苛立ち」
アントニー・ブリンケン国務長官は2月18日、日・米・豪・印の四ヵ国による安全保障対話を司るクワッド会議を早速開催した。
同省の声明によると、同長官が同日、豪州のマライズ・ペイン外相(56歳)、インドのS.・ジャイシャンカル外相(66歳)、日本の茂木敏充外相(65歳)とテレビ会議を行ったという。
クワッド会議開催は、バイデン新政権が、トランプ前政権によって進めた中国封じ込め政策を更に推し進めようとしている証しである。
同四ヵ国は、準公式の同盟で、既に“アジア版NATO(北大西洋条約機構)”と呼ばれている。
同省声明では、具体的に中国の名は出ていないが、中国がインド洋までの陸路網構築の一環で経由地としているミャンマーにおいて、“民主的な選挙で選出された政権復活を至急図る必要がある”という認識で一致したと言及されている。
ただ、同省としては、クワッド会議を基に中国包囲網を模索しようとしているが、一方で、日・豪・印各国の中国との貿易高が巨大となっていることを懸念している。
しかし、昨年後半、前政権のマイク・ポンペオ国務長官(当時、57歳)主導でクワッド会議を通じての安全保障問題に重点が置かれ、結果として昨年11月、ベンガル湾等における史上最大規模の合同演習開催に繋がっている。
そこで、新政権事情通が『ワシントン・タイムズ』紙に語ったところによれば、バイデン新大統領が先週、インドのナレンドラ・モディ首相と電話会談した際、可及的速やかにクワッド首脳会議の開催につき協議したという。
なお、冒頭のブリンケン長官の他三ヵ国外相とのテレビ会議において、クワッド首脳会議の件が討議されたかは明らかにされていない。
しかし、同長官主導のクワッド会議開催について、早速、中国国営メディア『環球時報』がその意見欄で、“越えてはならない一線を越えるならば、中国は経済力で以て報復しよう”として、クワッド会議によって、中国を外交・軍事提携で以て封じ込めようとする姿勢に不快感を示している。
同日付中国『環球時報』:「専門家、越えてはならない一線を越えたなら、中国には経済的報復の道があると主張」
中国の専門家は2月18日、バイデン新政権下で初めて、日・米・豪・印四ヵ国外相による会議開催に当たって、中国はインド太平洋地域戦略において、越えてはならない一線を越えようとしているかどうか、注視する必要があると説いた。
米国務省のネッド・プライス報道官(38歳)が2月17日、アントニー・ブリンケン国務長官が間もなく、日・豪・印三ヵ国の外相とクワッド会議を催すと発表していた。
このクワッド会議は、NATOインド太平洋版と称され、日米主導による対中政策戦略組織そのものである。
『ロイター通信』報道によると、同報道官は、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題、気候変動対策、及び“インド太平洋地域における自由で開かれた構想作りの強化・発展”について協議すると発表したとしている。
日本は昨年10月、四ヵ国外相会議を主催し、その結果11月、四ヵ国によるマラバール合同演習が実施されている。
中国社会科学院(1977年設立の国営シンクタンク)傘下の米国問題研究所の馮(フォン)副所長は2月18日、『環球時報』のインタビューに答えて、“クワッド会議はインド太平洋戦略の中心であり、バイデン新政権もトランプ前政権方針を継承して、対中政策として注力しようとしている”と解説した。
また、中国国際問題研究所(1956年設立の国営シンクタンク)の阮(ルアン)筆頭副所長は、ジョー・バイデン大統領はオバマ政権(2009~2017年)時代の“アジア再構築”政策をよく承知しており、今後、中国及びその同盟国による平和的な発展政策にいろいろな手を使って対抗してくると分析している。
更に、同副所長は、米新政権の中国政策はクワッド会議のみに限らないが、もしクワッド会議を以て反中国クラブを組織していこうとするなら、中国はそれ相応の対抗措置を講じる必要があると強調した。
一方、馮副所長は、“クワッド会議メンバーの国益はそれぞれ異なるので、中々機能しないだろう”としながらも、“もし、米国に追随して対中抗争を仕掛けてきたなら、目下豪州に対する経済戦略が奏功しているとおり、経済的影響力を行使すればよい”と言及している。
(注)クワッド:非公式な戦略的同盟を組んでいる日本、米国、オーストラリアおよびインドの四ヵ国間における会談で、二ヵ国間同盟によって維持されている。対話は2007年当時、日本の首相であった安倍晋三によって提唱され、その後ディック・チェイニー米副大統領の支援を得て、ジョン・ハワード豪首相とマンモハン・シン印首相が参加し開催される。対話は、インド南西端で毎年開催されるマラバール演習(四ヵ国合同演習)の実施に繋がった。
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1月30日付米
『ウェスターン・ジャーナル』オンラインニュース(2008年創刊の保守系メディア):「中国軍爆撃機、南シナ海航行中の空母“セオドア・ルーズベルト”に向けて攻撃シミュレーションを実行」
米空母“セオドア・ルーズベルト”が率いる空母打撃群が1月23日、南シナ海を航行中にPLA爆撃機が攻撃シミュレーションを仕掛けてきたという。
米『ビジネス・インサイダー』オンラインニュース(2009年設立)報道によれば、同日にはPLAのH-6K爆撃機8機、J-16戦闘機4機、Y-8対潜戦闘機1機が台湾領空に侵入していたという。
また、英国『フィナンシャル・タイムズ』紙(1888年創刊)は、“ある関係者の証言によると、H-6K爆撃機のパイロットの操縦室内のやり取りで、米空母に対して対艦ミサイル発射の攻撃シミュレーションを実行する旨の会話がなされたという”と報じた。
台湾NGO国防安全研究所(2018年設立)研究員の蘇紫雲(スー・ツーユン)氏は、“これは明らかに対艦攻撃の脅しに他ならない”とコメントしている。
同紙記事によると、PLAは1月23日に台湾の防空識別圏(ADIZ、注後記)に11機の戦闘機を侵入させ、翌日には15機を飛行させたという。
米インド太平洋軍のマイク・カフカ報道官は『ビジネス・インサイダー』のインタビューに答えて、“米空母打撃群はPLA海軍及びPLA空軍の行動を常に監視しているが、目下のところ米戦艦、航空機、乗組員にとって脅威となる行動は認められていない”と表明した。
同報道官は、“但し、中国軍のこれらの活動は、公海や領空において周辺国や領有権を争っている当事国に対する威嚇や強制力を誇示する以外の何ものでもない”とし、“米軍は、国際法に則ってこれら海域において監視飛行、監視航行を実施することによって、これら活動を阻止する作戦を継続する”と明言した。
中国国営メディア『環球時報』は、“PLAの爆撃機群は米空母の行動を抑止するだけでなく、対艦攻撃の訓練の標的としたと推測される”と報じている。
国務省は中国軍の領空侵犯飛行に対して、“米国は、中国による台湾含めた近隣諸国への威嚇行動に重大な懸念を持っている”とした上で、“中国に対して、武力・外交・経済力による圧力をかけるのではなく、選挙で民主的に選ばれた台湾代表と対話するよう求める”との声明を発表している。
1月31日付台湾『台北タイムズ』紙(『ロイター通信』配信):「米国、中国軍戦闘機の南シナ海威嚇飛行を非難するも、米軍にとっては何ら脅威ではないと表明」
米海軍の高官は、中国軍戦闘機が米空母打撃群に威嚇飛行を仕掛けてきたことに関し、“戦闘機は米空母に250海里(463キロメートル)至近まで飛行してくることはなかった”として、何ら脅威とはならなかったと述べている。
東アジア海域の安全保障・外交問題関係者は、“中国軍戦闘機群が1月23日午前から台湾が実効支配しているプラタス諸島(東沙)領空に侵入してきたが、丁度同じ頃、米空母打撃群が同諸島南を航行していた“とし、”今回の中国軍の行動は、台湾そのものに対するというより、米軍が南シナ海に入ってくることを阻止したいがために仕掛けてきた行動と考えられる“と分析している。
一方、中国国防部(省に相当)は1月28日、“台湾独立という動きは戦争を意味する”とした上で、かかる“挑発”や域外国の干渉に対しては、武力で対応すると宣言している。
(注)ADIZ:各国が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域のこと。ここでは、常時防空監視が行われ、通常は強制力はないが、あらかじめ飛行計画を提出せず、ここに進入する航空機には識別と証明を求める。さらに領空侵犯の危険がある航空機に対しては、軍事的予防措置などを行使することもある。
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