ウクライナ戦争:中国の諜報活動の弱点
中国は近年、スパイ活動を拡大するだけでなく、その実力も飛躍的に伸びている。その多くは、ロボット工学、航空宇宙、バイオ製薬など、中国が支配を目指す業界の技術を盗むことに重点を置いている。欧米の政府関係者たちはその巧妙なスパイ活動に対する警告を鳴らし続けてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻については、中国は予測することができなかったことが注目を集めている。
英紙
『エコノミスト』は、習近平国家主席はプーチン大統領と2月4日に会談を行っていたにもかかわらず、その3週間後のロシアのウクライナ侵攻を予測することが出来なかったと伝えている。そのため、ウクライナにいる自国民を避難させる計画を立てていなかった。国連では、政府が一貫した立場を打ち出さなかったため、中国の外交官たちは対応に悩まされた。さらに中国当局は、ウクライナのロシアに対する抵抗と欧米のウクライナ支援にも驚いているようであった。...
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英紙
『エコノミスト』は、習近平国家主席はプーチン大統領と2月4日に会談を行っていたにもかかわらず、その3週間後のロシアのウクライナ侵攻を予測することが出来なかったと伝えている。そのため、ウクライナにいる自国民を避難させる計画を立てていなかった。国連では、政府が一貫した立場を打ち出さなかったため、中国の外交官たちは対応に悩まされた。さらに中国当局は、ウクライナのロシアに対する抵抗と欧米のウクライナ支援にも驚いているようであった。同紙は、プーチンは習近平に警告を発し、数日で終わると説得した可能性があるものの、中国が有事の際の計画や状況認識に欠けていたことは、深刻な情報収集の失敗を示唆していると指摘。
中国はもともと人的諜報活動に長けている。アメリカの政府関係者の中には、2010年から2012年にかけて中国で多くのCIA情報源が投獄または処刑されたのは、盗聴に加え、中国の二重スパイが原因であると指摘する者もいる。中国はまた、民主主義国家における政治的影響力を確保するために政治家に多額の資金や特典を提供してきた。
しかし、英『エコノミスト』は、外国政府に対する諜報活動に関しては、中国の世界的な関心は過去30年間に急速に拡大したこともあり、どの情報をどこで探すかについて明確な優先順位をつけることに苦労しているようだと指摘している。
元CIAアナリストのピーター・マティス氏は、「例え機密情報を取り出せたとしても、実際に知りたいことは何なのか、すべてを整理しなければならない。膨大なデータを検索するのであれば、検索結果の良し悪しは質問の良し悪しで決まる」と指摘している。他の専門家は、中国は防衛や商業技術に重点を置いているため、外国資本の意思決定に対する洞察力が犠牲になっている場合が多いと指摘している。
中国のもう一つの盲点は情報分析だという。中国の情報分析力は、独自の見解を述べることや異議を唱えたりすることに対してインセンティブをほとんど与えない政治文化によって阻まれているという。例え高官であっても、習近平の意向や世界観と相反する結論を伝えることをためらう可能性があるということだ。
米ABCニュースと提携している米テレビ局『WKBW』によると、元駐北京外交官のマット・ブラジル氏も、中国の情報機関は抑制と均衡のシステムが欠如していると指摘していることを伝えている。
ブラジル氏は、慎重な諜報員は、異端的な視点を指導部に提供した理由を問われた場合、自分たちの視点ではなく、外国の専門家の視点だと反論できるように、実際の分析を外国人に委託する傾向があると説明している。諜報員たちは、密かに処分されたり、あるいは汚職で訴えられたりすることで、降格、逮捕、身体的危害、無期限拘留、あるいは処刑の可能性を恐れているという。
一方でブラジル氏は、中国の情報機関は、間違いなくウクライナでも活動していると述べている。「諜報員たちはロシア軍の失敗を学んでいる。ロシア軍の士気がいかに早く低下したかを学んでいる。ウクライナ人がいかに自国を必死で守っているかを学んでいる。だから、台湾で活動する諜報員には、台湾の人々がウクライナ人のような行動に出る可能性はどのくらいあるのか、確認を取っているだろう」と指摘している。
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中国「ゼロ・コロナ」政策に恩恵を受けるベトナム
中国と米国の緊張関係を懸念して生産ネットワークの地理的多様化を進めていた多くの多国籍企業が、中国の厳しいロックダウン政策に懲りてその動きを加速させている。アップルもベトナムへの工場移転をさらに推し進めていくことを決定した。
仏経済紙
『レゼコー』は、アップルが初めて、中国以外の国でiPadの組み立てを行うことを決定したことは、象徴的な動きであると報じている。アップルはまだこの「移転」を正式には発表していないものの、すでにサプライヤー、特に中国の組立メーカーBYDに対し、同社の新世代タブレットの一部をベトナムの工場で製造する準備をするよう要請しているという。
アップルは、この生産拠点の多様化について、特に米国と中国の間の地政学的・経済的緊張が高まっていることから、何年も前から検討し、2020年には、すでにAirPodsの一部の製造をベトナムに移していた。...
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仏経済紙
『レゼコー』は、アップルが初めて、中国以外の国でiPadの組み立てを行うことを決定したことは、象徴的な動きであると報じている。アップルはまだこの「移転」を正式には発表していないものの、すでにサプライヤー、特に中国の組立メーカーBYDに対し、同社の新世代タブレットの一部をベトナムの工場で製造する準備をするよう要請しているという。
アップルは、この生産拠点の多様化について、特に米国と中国の間の地政学的・経済的緊張が高まっていることから、何年も前から検討し、2020年には、すでにAirPodsの一部の製造をベトナムに移していた。しかし、習近平政権が「ゼロ・コロナ」戦略の一環として実施している厳格なロックダウンにより、アップルは他の高付加価値製品の移転を加速させている。投資銀行ナティクシスでアジア新興国を専門とするエコノミストのトリン・グエンさんは、「アップルのサプライチェーンは中国に極度に集中していた。アップルはサムスンに続き、ベトナムなど生産拠点を大幅に分散させている」と述べている。
アナリスト達は、大規模な多国籍企業の多角化の努力は、すでにベトナム経済の統計で測定可能であると指摘している。5 月の製造業 PMI は、4 月の 51.7 から 54.7 に上昇し、東南アジア地域で最もダイナミックな産業活動を記録した。一方中国では、工場の活動の成長と縮小の分かれ目となる50を依然として下回っている。中国の輸出が停滞する中、ベトナムの輸出は記録的な成長を遂げている。グエンさんは、「ベトナムは、この地域の他の国々と同様に、中国のロックダウン政策の影響を受けていることは確かだが、優れた回復力を示し、多様化戦略の妥当性を証明している」と述べている。
今年、ベトナムのGDPは6.5%の成長が見込まれている。東南アジアの近隣諸国も、中国から流出する生産(繊維、自動車など)の一部を受け入れており、経済活動は力強く回復すると予想されている。この数十年で初めて、アセアン6カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム)の経済成長率が中国を上回る可能性が出てきている。マレーシアの銀行メイバンクのアナリストによると、2022年のアジア6カ国のGDP成長率は5%近くになることが見込まれているが、中国は最大で4.5%の成長にとどまると推測されている。
独『ドイチェ・ヴェレ』も、エレクトロニクス業界をはじめ、多くの企業が多額の資金をベトナムに投入していると報じている。韓国の電子機器大手サムスンは2月、ベトナムにさらに9億2000万ドル(約1195億円)を投資すると発表した。また、ハイテク産業においても生産拠点を中国からベトナムに移す傾向も続いているという。コンサルタント会社フィッチ・レーティングスのラファエル・モック氏はロイターに対し、「ベトナムはサプライチェーンのシフトによる主な受益者の1つになるだろう」と述べている。ドイツアジア太平洋ビジネス協会のミュラー氏は、「中国に対するビジネス上の不満は、以前にはなかったレベルにまで達している」と指摘している。
しかし、ベトナム経済には課題もある。近年の開放的な経済政策により、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていることが、近年の経済成長を可能にしている一方で、ベトナムは原材料や部品製品の供給に依存しているため、その一部がパンデミックによって欠品または遅延しているという。また、ベトナムは米国と中国の地政学的緊張の高まりの影響を受けやすいため、その経済力を維持するためには、弾力性のあるサプライチェーンが鍵となる。しかし、ミュラー氏は、この分野でベトナムはまだ十分ではないと指摘している。例えば、サプライチェーンのすべてのプロセスやステップのデジタルネットワーク化はまだ遅れており、デジタル化への関心も低い。さらに、ベトナム経済全体もレジリエンスを高めるために、付加価値の高い生産の基盤の充実が求められ、あらゆるレベルの専門性を高めるためにベトナムの教育システムの改善が必要だという。国内の消費者需要の強化の必要性も指摘されている。世界銀行によると、2020年のベトナムの対外貿易比率は209%であり、経済依存度の高さを示している。しかし人口1億人弱のベトナムは、中国のような内需中心の経済発展を目指すことはできない点が弱点となっている。
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