既報どおり、7月12日にリリースされた国際仲裁裁判所(PCA)裁定に対して、日米等西側諸国は、当事国に対して同裁定を尊重するよう求めているが、全面敗訴した中国、及びその経済力・軍事力に屈している国が、異論を唱えている。そして中国は、PCA裁定を不受諾と表明するだけでなく、PCAの存在を否定し、また、PCA判事任命の公平性まで持ち出して、徹底的に対抗しようとしている。
7月17日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「カンボジア高官、米空母に乗船して南シナ海航行」
「●カンボジアはそもそも中国支持を打ち出している国であるが、米原子力空母“ロナルド・レーガン”のマイケル・ドネリィ艦長の招待に応じて、カンボジア国軍及び内務省の高官10人が7月17日、同空母に乗船して南シナ海を航行。
●同艦長によると、領有権争いの火花が散るスプラトリー(南沙)諸島とパラセル(西沙)諸島のほぼ中間海域を航行したが、多くの船舶が行き交う姿を見せて、航行の自由の大切さを理解してもらう意図と説明。
●カンボジアのプルム・ソカー内務相は、微妙な時期であるが、同海域の平和と安定を維持するため、関係国との連携、相互理解は必要とコメント。
●なお、同内務相は7月14日、領有権争いについてカンボジアは、当事国の対話による平和的解決を望む立場だと表明。」
同日付米
『ロイター通信米国版』:「ベトナム活動家、南シナ海問題で中国を非難したために拘束」
「●中国と領有権問題を抱えるベトナムにとって、PCA裁定は追い風になるはずであるが、ベトナム警察は7月17日、中国がPCA裁定拒否を表明したことを非難して抗議活動をした約20人のベトナム人活動家を拘束。
●目下、ベトナム政府はPCA裁定に関し正式コメントを控えているが、ハノイのフィリピン大使館前で、“中国はPCA裁定を守れ”とか“フィリピン政府は勇敢”等のプラカードを持って抗議行動をしていた活動家を取り締まり。」
7月18日付英
『メール・オンライン』(
『ロイター通信』記事引用):「中国海軍上将、航行の自由と称する監視航行は“惨憺たる結果”をもたらすと警告」
「●中国海軍上将で、党中央軍事委員会の孫建国(スン・ジェングオ)副参謀長は7月16日晩、今後如何なる国であろうと、南シナ海の中国主権内において、軍艦による航行の自由と称する監視航行を行えば、中国は武力による対抗措置を取ると宣言。
●中国は、同海域の航行の自由を支持しているが、(米国を想定して)中国が不受諾のPCA裁定に乗っかって軍艦による監視航行を行うことは不寛容と主張。」
同日付フィリピン
『マニラ・ブルティン』(
『AP通信』記事引用):「中国、南シナ海での軍
事演習実施と発表」
「●中国海事局は7月18日、海南(ハイナン)島南東部海域で7月19~21日の間、軍事演習を行うため、如何なる船舶も同海域の航行を禁止すると発表。」
一方、同日付中国
『チャイナ・デイリィ』(
『新華社通信』記事引用):「臨時の仲裁裁判所
が南シナ海問題を審理」
「●7月12日にリリースされたPCA裁定に対して、中国は不受理を表明し、かつ、反論文を発表しているが、更に以下の問題点を提起。
●臨時の仲裁裁判所
・西側メディアは、PCAの最終判断とか、国連指導の仲裁というがこれらは全て事実無根。
・今回は、南シナ海問題審理のためだけに臨時に開設されたもので、常設に非ず。
・国連憲章によって設立された紛争解決機関は国際司法裁判所(ICJ)だが、PCAとは無関係。
・国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて設立されたのは国際海洋法裁判所(ITLOS)であるが、PCAはこれとも無関係。唯一の関係性は、PCAの判事が当事者から任命されない場合、ITLOS所長が任命するという条項のみ。
●判事選任の不公平さ
・ICJの15人の判事は全大陸を代表して選出され、国連総会及び国連安全保障理事会で承認、また、ITLOSの21人の判事もUNCLOS加盟国によって選出。
・これに対して、PCAの5人の判事は、南シナ海があるアジアから1人も選出されておらず、また、南シナ海の海洋問題や歴史に詳しい人物が皆無。
・更に、当該5人の判事を選出したのは、当時ITLOS所長だった柳井俊二氏だが、日中間には東シナ海の魚釣島(尖閣諸島)で領有権問題があり、かつ、同氏は、日中間の軋轢を高めることになった安全保障関連法を制定し、集団的自衛権を確立させた安倍政権において、首相の私的諮問機関の委員を歴任していることから、同氏がPCA判事を選任することは公平性を欠く。
●異常に高額なPCA審理費用
・専門家筋によれば、この種の仲裁裁定の審理費用は、時間当り600ユーロ(666ドル、約7万円)、1日当り4,800ユーロ(5,330ドル、約56万円)。
・しかし、今回フィリピンは、2,600万ユーロ(2,890万ドル、約30億円)を支払ったと試算。
・更に、フィリピンの
『マニラ・タイムズ』の評論家のリゴベルト・ティグラオ氏は7月15日、フィリピンが今回の仲裁のために雇った弁護士事務所の報酬が3,000万ドル(約32億円)と、フィリピン国家予算の0.1%に相当するとコメント。
・そして同氏は、米国が望むような裁定を獲得したのだから、米国はこの仲裁費用を弁済すべき、とも主張。」
柳井氏は7月14日付『朝日新聞』のインタビューに答えて、「PCA判事は、UNCLOSに基づき公正に選出した」と述べている。しかし、政府プロパガンダの宣伝機関と自他ともに認めている中国国営メディアが、日本のメディア1紙掲載のかかる記事をまともに取り上げるはずもない。従って、中国の無茶苦茶な言い掛かり的発表をきっちり論破し、他国にも中国発言を鵜呑みさせないためにも、日本以外の国際メディアの前でしっかり反論していく必要があるのではなかろうか。
閉じる
【時流】及びGlobal iで詳報されているとおり、日米を中心として、G7伊勢志摩サミット、シンガポール・ダイアローグ(アジア安全保障会議、更に、米中戦略・経済対話を通じて、中国の南シナ海における海洋活動について集中砲火を浴びられた腹いせか、中国はここへきて、フィリピンに国際仲裁裁判所(PCA)提訴取り下げを強要し、米軍偵察機には戦闘機をニアミスさせ、更に、東シナ海尖閣諸島に軍艦を派遣と、立て続けに逆襲に出ている。
6月8日付米
『ジ・エポック・タイムズ』オンラインニュース:「米国、中国戦闘機が米軍機の飛行妨害と非難」
「・米国太平洋軍司令官は6月7日、中国人民解放軍の戦闘機“成都(チョンドゥ)J-10”2機が、東シナ海の国際空域を飛行中の米軍偵察機“RC-135”の進路を妨害したと発表。
・今年5月に続いて2度目のニアミスで、昨年に米中も署名した“海上衝突回避規範(CUES)”に違反するものと非難。」
同日付英
『UKニュース』:「東シナ海上空で、中国戦闘機が米軍機に“危険な”異常接近」
「・米国太平洋軍司令官が、国防総省から中国に対し、外交・軍事上チャネル経由厳重に抗議したと発表。
・これに対して中国国防部は、調査中としながらも、米国は事態をいつも大袈裟にしようと画策していると反論。」
一方、同日付ロシア
『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース:「中国、
南シナ海に最新鋭の深海研究所を建設計画」
「・中国は南シナ海に様々な設備を建設中だが、6月7日の情報では、深海探査等に資するための深海研究所を建設する計画。
・深度9,800フィート(約2,900メーター)に構える予定で、未開発の深海資源の探査、採掘等に当る。
・中国社会科学院の東南アジア地域担当の徐(シュウ)主任研究員は、他国を標的とするものでなく、あくまで民生用の施設であり、他国が深海研究に同様の設備を保有していることと変わりないと説明。」
また、6月10日付フィリピン
『ザ・マニラ・タイムズ』:「(中国の)灯台が領有権争いのある諸島に建設」
「・中国国営メディア
『新華社通信』は6月6日、中国がミスチーフ礁とファイアリークロス礁に築いた人工島の上に、今年中にそれぞれ1基ずつ灯台を建設すると発表。
・この発表は、6月10日から沖縄東方で開催される、日米インドの合同演習に先駆けたもので、中国側の抵抗の表れ。
・なお、両礁は中国が軍事拠点化の中心と位置付け、滑走路を建設済みで、また、ファイアリークロス礁には、最新鋭設備が整った病院も建設中。」
一方、同日付中国
『新華社通信』:「駐米中国大使館、南シナ海に関わるウォール・ストリート・ジャーナル社説を非難」
「・駐米中国大使館の朱海権(チュー・ハイクァン)報道官は6月9日、
『ウォール・ストリート・ジャーナル』の社説は“無謀で憂慮すべきもの”とする書簡を同紙に送付。
・同紙の6月3日社説では、米軍がしばしば航行の自由作戦に基づき軍艦等を南シナ海に派遣しているのは、中国がフィリピン提訴のPCA裁定を拒否するとしているためで、必要な行為と主張。
・中国側は、フィリピンによる一方的なPCA提訴であることから拒否しているもので、また、南シナ海の中国の主権は国連海洋法条約(UNCLOS)発効以前の権利であり、UNCLOSの取決めが許容する範囲内で活動しているものと主張。
・更に、米軍の航行の自由作戦は南シナ海の安定を反って損なうものと反論。」
閉じる