親中政権のフィリピン、同国排他的経済水域内と主張するルソン島北東側の大陸棚(ベンハム隆起)での中国側海洋調査を許可するも、同隆起内地形に中国名の命名には反発【米・英・フィリピンメディア】(2018/02/16)
南シナ海の領有権問題をめぐる、中国・フィリピンの二国間協議が今週開かれた。既報どおり、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、各国の同海域での活動を規制する行動規範(COC)を年内に制定すべく、間もなく最終交渉が開始されるが、その前哨戦と位置付けられる。親中政策を取るロドリゴ・ドゥテルテ政権は、中国からの巨額の経済支援に期待する傍ら、領有権争いのある南沙(スプラトリー)・中沙(スカボロー)諸島においての天然資源、特に水産資源はしっかり権利を主張したい考えとみられる。一方、南シナ海と反対側(ルソン島東側)に広がる大陸棚(ベンハム隆起、注1後記)について、フィリピンは排他的経済水域(EEZ)と主張しているが、一時は中国の求めに応じて同海域の海洋調査を認めた。しかし、中国が同海域内の海山(注2後記)に中国名を命名し、あたかも中国主権内と新たに主張する気配を見せたことから、フィリピンがそれを阻止すべく、あわてて国際水路機関(IHO、注3後記)等に訴え始めている。
2月14日付米
『ABCニュース』(
『AP通信』配信):「フィリピン、同国EEZ内の大陸棚地形に中国が中国名を命名することを拒絶」
フィリピン大統領府のハリー・ローク報道官は2月14日、フィリピンのEEZ内のベンハム隆起内の海山について、中国が中国名を命名しようと画策しているとして、これを明確に拒絶し、かかる動きを阻止すべくIHOにも公式にはたらきかけると発表した。
中国の外交部(省に相当)の耿爽(コン・シュアン)報道官が同日、ベンハム隆起がフィリピンの大陸棚であることは認めるとしながらも、関係国として同隆起の詳細・正確な海図作成事業に携わっていくことを望んでいて、具体的にはIHOの規定に基づき、国際慣行に沿って同隆起内の地形に新たな名称を付ける意向であると表明していた。...
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2月14日付米
『ABCニュース』(
『AP通信』配信):「フィリピン、同国EEZ内の大陸棚地形に中国が中国名を命名することを拒絶」
フィリピン大統領府のハリー・ローク報道官は2月14日、フィリピンのEEZ内のベンハム隆起内の海山について、中国が中国名を命名しようと画策しているとして、これを明確に拒絶し、かかる動きを阻止すべくIHOにも公式にはたらきかけると発表した。
中国の外交部(省に相当)の耿爽(コン・シュアン)報道官が同日、ベンハム隆起がフィリピンの大陸棚であることは認めるとしながらも、関係国として同隆起の詳細・正確な海図作成事業に携わっていくことを望んでいて、具体的にはIHOの規定に基づき、国際慣行に沿って同隆起内の地形に新たな名称を付ける意向であると表明していた。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、フィリピンが中国側と長い間南シナ海の領有権争いを繰り広げてきた歴史があるのに、ベンハム隆起の海洋調査について、今年初めに中国グループに許可を出しており、それは余りに軽率な行動だったと非難の声が上がっている。
なお、同大統領は先週末、同隆起において如何なる第三国の調査も認めず、かつ、石油・天然ガスや水産資源を取ろうとすれば、発砲してでも追い払うよう同国海軍に命令を下した旨明らかにした。ただ、中国による同隆起の海洋調査は既に終了してしまっている。
同日付英『デイリィ・メール・オンライン』(『AFP通信』配信):「フィリピン、中国がフィリピン大陸棚内地形に新たな中国名を付けようとしていることに苦情表明」
フィリピン大統領府は、ベンハム隆起内の地形に中国名を付けることで、中国が新たに海洋権を主張してくるのではと恐れて、在マニラの中国大使館に対して、中国がIHOに新たな名前を登録しようとしている動きに反対する旨伝えたと発表した。
国連は2012年、同隆起がフィリピン大陸棚に続いているとしてフィリピンのEEZ内であると認めている。
ドゥテルテ大統領は今年初め、中国の求めに応じて、同隆起の海洋調査を認める決定をしていた。その後、この不用意な許可への非難を受けてか、今月初め、同大統領は同隆起における第三国の如何なる調査・探査を禁ずる旨宣言しているが、中国側の海洋調査は既に終了してしまっている。
2月15日付フィリピン『ザ・マニラ・タイムズ』紙:「フィリピン、中国によるベンハム隆起の地形への新たな命名に抵抗」
ローク大統領府報道官は2月14日の声明で、ベンハム隆起内の5つの海山について、中国が2017年に一方的に申告した中国名につき、IHOが承認してしまっていることが判明したと言及した。
同報道官によれば、これまで中国は、IHO・政府間海洋学委員会(IOC)が合同で組織する大洋水深総図(GEBCO、注4後記)合同指導委員会傘下の海底地形名称小委員会(SCUFN)にはたらきかけ、既に5つの海山に中国名を冠するよう提言しているという。
それらは、荊浩(チンハオ)海山、天宝(ティエンバオ)海山、海頓傾(ハイドンクィン)海山、崔照(スイヂャオ)海山、朱九(チュウチウ)海山である。
なお、デルフィン・ロレンザーナ国防相は同日、かかる中国の動きに対抗して、フィリピンとしても同隆起内の海山にフィリピン名を付ける意向であると表明している。
(注1)ベンハム隆起:ルソン島北東側沖に広がる、水深35メーター前後の1万3,000平方キロメーターの、水産資源が豊富な高原。ルソン島の大陸棚の続きとして、フィリピンが長らくEEZと主張。
(注2)海山:深海底から1,000メーター以上の高さの海面下の山で、その頂上が海面上に出ておらず、島となっていない地形や場所。
(注3)IHO:1967年の国際水路機関条約に基づき、海図などの改善により航海を容易かつ安全にすることを目的に設立された機関。世界の海域の境界と名称を記載した「大洋と海の境界」の編集・出版も手掛ける。本部はモナコ。
(注4)GEBCO:全世界の海底地形図の作成と海底地形名称の標準化を行っている、IHO及びIOCの共同プロジェクト。
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フィリピン大統領、麻薬犯罪者には厳しいが環境には優しく、大規模露天掘り非鉄鉱山開発差し止め措置を継続【米・フィリピンメディア】(2017/11/22)
フィリピンは世界最大のニッケル鉱石生産・輸出国である。そして、世界最大のニッケル鉱石需要国の中国は、その輸入量の8割以上をフィリピンに頼っている。しかし、親米から親中路線に舵を切ったロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、麻薬犯罪撲滅のために超法規的殺人をも許容しているにも拘らず、中国を袖にしてでも環境には優しい政策を進めようとしている。すなわち、今年4月に前環境天然資源相が打ち出した、大規模露天掘り非鉄鉱山開発差し止め措置を改めて支持・継続する旨表明した。
11月22日付米
『ロイター通信米国版』:「フィリピン、ドゥテルテ大統領が差し止め措置見直しの答申を拒否したため、露天掘り鉱山開発禁止措置が継続」
フィリピンのロイ・シマツ環境天然資源相は11月22日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の意向に基づき、新規露天掘り鉱山開発は引き続き禁止されると発表した。
新規露天掘り鉱山開発禁止措置については今年4月、レジーナ・ロペス前環境天然資源相が、新規露天掘り鉱山が環境破壊を引き起こす恐れがあるとして、大臣令(DAO)を発令していた。...
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11月22日付米
『ロイター通信米国版』:「フィリピン、ドゥテルテ大統領が差し止め措置見直しの答申を拒否したため、露天掘り鉱山開発禁止措置が継続」
フィリピンのロイ・シマツ環境天然資源相は11月22日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の意向に基づき、新規露天掘り鉱山開発は引き続き禁止されると発表した。
新規露天掘り鉱山開発禁止措置については今年4月、レジーナ・ロペス前環境天然資源相が、新規露天掘り鉱山が環境破壊を引き起こす恐れがあるとして、大臣令(DAO)を発令していた。このため、開発されればフィリピン最大規模となるフィリピン南部ミンダナオ島のタンパカン金銅鉱石露天掘り鉱山(総事業費59億ドル、6,610億円相当)も、開発が差し止められた。
ドゥテルテ大統領は11月21日晩、フィリピン鉱業審議会(MICC)の答申を拒否して、同DAOを継続するとコメントしていた。同大統領は、鉱山業からの収入より環境保全の方が重要だと語っている。
なお、シマツ大臣は、カルロス・ドミンゲス財務相とともに、MICCを仕切っていて、先月には同DAOの撤回を示唆していた。
同日付フィリピン『マニラ・タイムズ』紙:「ドゥテルテ大統領、露天掘り鉱山開発禁止措置は撤回しないと表明」
ドゥテルテ大統領は11月21日晩、鉱業からの700億ペソ(約1,560億円)の税収入よりも環境破壊リスク回避の方が重要だと述べた。
2012に設立されたMICCは今年10月、環境天然資源省のDAO撤回について理事の過半数が賛同していると表明していた。
なお、フィリピンにおける露天掘り鉱山開発は、1995年の新鉱業法が制定されて増産が図られた。露天掘り鉱山開発は国際的にも認められたものである。
しかし、ドゥテルテ大統領は今年9月にも、同DAOを発令したロペス前環境天然資源相の決定を支持するとして、後任のシマツ大臣にも露天掘り鉱山の閉山の見極めを指示したと語っていた。
(編注)ニッケル鉱石(ステンレス鋼・硬貨・充電式電池等の原料)の世界生産量は、①フィリピン、②カナダ、③ロシア、④豪州、⑤ニューカレドニア、⑥インドネシア(2014年1月からの非鉄鉱石禁輸政策により大幅落ち込み)。世界輸入量は、①中国(全体の過半数を占める大量輸入国)、②日本(中国の6分の1以下)、以降は極少量。
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