ドゥテルテ比政権;またしても米・比軍事協定破棄と脅し【米・フィリピンメディア】(2020/01/25)
ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領は、2016年に就任以降、脱米国、親中・ロ政策を打ち出し、しばしば長年の同盟国である米国との軋轢を生じさせている。そしてこの程、米国が同大統領の右腕の上院議員の入国を拒否したことに腹を立て、同政権一丸となって「訪問米軍に関する地位協定(VFA、注1後記)」を破棄すると息巻いている。
1月25日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「フィリピン政府、米国とのVFA破棄と脅し」
フィリピン政府は1月24日、米・比間VFAを破棄することを検討すると発表した。
実は先日、米国政府が、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の右腕として、麻薬犯罪撲滅運動で取り締まりを率先したロナルド・デラ・ロサ元フィリピン国家警察長官で現上院議員の入国を拒否していた。
理由は、フィリピン当局が、ドゥテルテ政権の麻薬撲滅運動の下で繰り広げられた超法規的殺人を糾弾する運動を展開していたライラ・デ・リマ元司法長官で現上院議員(注2後記)を逮捕・拘留したことは、民主主義に反する行いだとして、米議会がこの事件の関係者の米国入国を拒む手続きを取ったものである。...
全部読む
1月25日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「フィリピン政府、米国とのVFA破棄と脅し」
フィリピン政府は1月24日、米・比間VFAを破棄することを検討すると発表した。
実は先日、米国政府が、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の右腕として、麻薬犯罪撲滅運動で取り締まりを率先したロナルド・デラ・ロサ元フィリピン国家警察長官で現上院議員の入国を拒否していた。
理由は、フィリピン当局が、ドゥテルテ政権の麻薬撲滅運動の下で繰り広げられた超法規的殺人を糾弾する運動を展開していたライラ・デ・リマ元司法長官で現上院議員(注2後記)を逮捕・拘留したことは、民主主義に反する行いだとして、米議会がこの事件の関係者の米国入国を拒む手続きを取ったものである。
この措置に対して、ドゥテルテ大統領は1月23日夜、米国は“無関係の事態”でフィリピンに難癖をつけているとして、VFA破棄の手続きを取ると宣言した。
これを受けて、テオドロ・ロクシン外相は1月24日朝、VFAフィリピン側議長として、VFA副議長のデルフィン・ロレンザーナ国防相に対して、“VFA終結のための手続き”に着手するよう指示したと表明した。
同外相はまた、国家レベルの条約締結には上院議会の承認が必要だが、終結や破棄するのにその承認が必要だとは考えていないと付言した。
一方、ロレンザーナ国防相も同外相の考えに同調し、米国側の一方的措置に対して、断固たる対応を取るべきだと語った。
なお、フィリピン政府の対応をみて、在フィリピンのスン・キム米国大使は、ドゥテルテ政権側と本件につき討議するべく動き出している。
同日付フィリピン『マニラ・タイムズ』紙:「VFA破棄の手続き開始」
フィリピン大統領府のサルバドル・パネロ報道官は1月24日、フィリピン政府はドゥテルテ大統領の警告に対する米国側回答をこれ以上待つつもりはないと表明した。
同報道官はまた、VFA破棄の手続きを取るとの大統領指示を、即刻ロクシン外相にも伝達したとした上で、間もなく訪米する同外相は、ロレンザーナ国防相とともに、VFA破棄手続きを踏む委員会を立ち上げたとも言及した。
フィリピン政府はここ1ヵ月、米政府によるロサ上院議員の入国拒否決定を撤回するよう強く求めていたが、米国側からは何ら動きはなかった。
米国では昨年、リチャード・ダービン及びパトリック・リーヒー両上院議員が、「国務省、外国事業及び関連プログラム歳出法」の一部改定案を提案し、リマ上院議員を不当に逮捕・拘束するような反民主主義的行為に関わった人間を米国に入国させないようにすることを上院で決議していた。
一方、フィリピン国防省のある高官は匿名を条件に、VFA破棄は南シナ海周辺国に懸念を抱かせ、中国を喜ばせるだけだとコメントした。
そして同高官は、ドゥテルテ大統領はまず、米国で開催される米国・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議について、もし自身に随行するロサ上院議員の入国を認めないなら、ドナルド・トランプ大統領による米国招待は受けない、と米国側に伝え、再考を促すべきだとも付言した。
(注1)VFA:1951年に米・比間で締結された相互防衛協定に基づき、米・ソ連間冷戦における東アジアの砦とするため、フィリピンに米軍が駐留。1989年の冷戦終結を経て、米軍の東アジア政策見直しに伴い、1991年以降駐留米軍の撤退が始まり、1995年以降は米・比合同軍事演習も取りやめられた。しかし、時を同じくして中国による南シナ海進出が如実となり、フィリピンが領有権を主張する南沙諸島(スプラトリー)内のミスチーフ礁が中国によって実効支配された。そこで中国牽制のため、1998年に本協定が新たに締結され、1999年以降米・比合同軍事演習が再開された。
(注2)ライラ・デ・リマ元司法長官・現上院議員:人権活動家弁護士で、アロヨ大統領の時にフィリピン人権委員会委員長(2008~2010年)、アキノ政権下で司法長官(2010~2015年)を歴任。2016年に上院議員に当選。2016年就任のドゥテルテ大統領が推進した麻薬犯罪撲滅運動の下での超法規的殺人を糾弾していたが、2017年2月、同氏が司法長官時代に職権を使って麻薬取引関係者に便宜を図ったとして当局によって逮捕・拘束。欧州議会や国際人権団体等は、でっち上げの不当逮捕とフィリピン政府を非難。
閉じる
親中政権のフィリピン;南シナ海のフィリピン領海付近への中国船団押しかけを公に非難【米・フィリピンメディア】(2019/04/05)
3月30日付Globali
「中国;西沙諸島内のウッディ島を拠点に南シナ海の領有権既成事実化を着々と推進」で触れたとおり、中国は、表向きはあくまで東南アジア諸国連合(ASEAN)との行動規範(COC)合意に注力するとしているが、実際のところは、南シナ海全体を実効支配すべく、西沙(パラセル)諸島内のウッディ島に三沙(サンシャ)市政府を置き、既成事実化を着々と進めている。そして、親中政権に代わったフィリピン政府に対して、中国マネーで黙らせ、南沙(スプラトリー)諸島内で我が物顔の振る舞いをしている。しかし、さすがのフィリピン政府も唯々諾々と従うことを良しとしなかったのか、同諸島内のティツ島(フィリピン名パグアサ島、1971年より実効支配)周辺に中国船団が押し寄せて違法行為をしていると、公に非難する声明を発表した。
4月4日付米
『AP通信』:「フィリピン政府、領海侵入を犯す中国船団を強く非難」
ロドリゴ・ドゥテルテ政権となって以降、フィリピンは中国からの経済支援に期待して、南シナ海領有権問題で中国に対して強く出ることは控えてきた。
しかしこの程、フィリピン外務省は4月4日、同国が実効支配するスプラトリー諸島内のパグアサ島近海に多くの中国船団が侵入しているとして、厳しく非難するとともに、事態好転がなければ“相応の行動”を取るとの強い声明を発表した。...
全部読む
4月4日付米
『AP通信』:「フィリピン政府、領海侵入を犯す中国船団を強く非難」
ロドリゴ・ドゥテルテ政権となって以降、フィリピンは中国からの経済支援に期待して、南シナ海領有権問題で中国に対して強く出ることは控えてきた。
しかしこの程、フィリピン外務省は4月4日、同国が実効支配するスプラトリー諸島内のパグアサ島近海に多くの中国船団が侵入しているとして、厳しく非難するとともに、事態好転がなければ“相応の行動”を取るとの強い声明を発表した。
フィリピン軍によれば、今年1~3月の間、パグアサ島近くのサンディ・ケイと呼ばれる砂州に中国船200隻以上が進出してきているという。
同島はパラワン州に属し、フィリピン軍関係者等が常駐しているが、同島北西にあるスビ礁(1988年にベトナムから中国が奪取して実効支配)に中国が人工島を建設し、灯台や滑走路も設けて同海域の支配を高めている。
そして、フィリピンが2017年にパグアサ島近くの砂州を支配下に置くべく進出を試みたところ、すぐさま中国海軍、海警(沿岸警備隊に相当)によって、しばしばフィリピン軍艦や漁船を威嚇していた。
その当時、デルフィン・ローレンザーナ国防相によれば、ドゥテルテ大統領の命令で同計画を中止したという。
なお、今回の問題について、フィリピン外務省は3月29日、在マニラ中国大使館に非難声明を文書で届け、また、4月3日にも中国高官に対して、直接懸念を伝えたとする。
一方、中国外交部(省に相当)の耿爽(ガァン・シゥアン)報道官は4月4日、前日に中比高官が南シナ海の件で協議したことを認め、2017年以降始まった相互協力・信頼に基づく両国間対話の一環で、建設的に処理されると了解していると表明した。
同日付フィリピン『マニラ・タイムズ』紙:「外務省、パグアサ島周辺に中国船団が大挙していることは“違法”と表明」
外務省のエマニュエル・フェルナンデス次官補は4月4日、南シナ海のカラヤーン群島(スプラトリー諸島のフィリピン名)内のパグアサ島周辺を膨大な数の中国船団が取り巻いているが、これは明らかに1982年国連海洋法条約(UNCLOS、注後記)違反であると語った。
同次官補は、“大群による威嚇”であり、中国海軍であろうと漁船団であろうと、今後もかかる威嚇行為が継続するのであれば、フィリピン政府として相応の行動を取らざるを得ないと付言した。
更に、現在ASEANと中国間で協議が進められているCOCの精神にも反し、悪戯に緊張を高め、相互不信を惹起し、地域の平和と安定を損なうものだとも言及した。
(注)UNCLOS:海洋法に関する包括的・一般的な秩序の確立を目指して1982年4月30日に第3次国連海洋法会議にて採択され、同年12月10日に署名開放、1994年11月16日に発効した、海洋法に関する国連条約。通称・略称は国連海洋法条約で、別名「海の憲法」。日本は1996年6月に批准。
閉じる
その他の最新記事