東南アジア諸国連合(ASEAN、1967年設立)の今年の議長国であるインドネシアは今月初め、ジャカルタで開催された加盟国の軍司令官の会合において、東南アジア地域の緊張と不確実性の高まりに対応すべく、ASEAN初となる合同軍事演習を南シナ海において実施することが決まった旨発表した。ところがこの程インドネシアは、開催場所を南シナ海ではなく遥か南方のバタン島近海(シンガポール南沖のマラッカ海峡南端)に変更すると表明したが、多分に中国の反発を恐れてのこととみられている。
6月22日付
『ロイター通信』、
『ザ・ディプロマット』、
『ラジオフリーアジア』等は、インドネシアが、ASEAN初の合同軍事演習の開催場所を南シナ海から遥か南方に変更した旨発表したと報じている。
ASEANは今月初め、初となる加盟国合同軍事演習を9月18~25日の日程で、南シナ海で開催する旨決定した。
非戦闘訓練であり、かつ人道的・災害援護活動が主体の合同演習で、南シナ海南端の北ナトゥナ海域が開催場所とされていた。
同海域は、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)である一方、中国が南シナ海の大部分を主権範囲と主張する「九段線」の中に含まれている。
そうした中、インドネシアは6月22日、当該合同軍事演習の開催場所を南シナ海の遥か南方のバタン島近海に変更すると、突然発表した。
同国国防省報道官のジュリアス・ウィジョジョノ少将によると、“非戦闘訓練が主体であることから、加盟国にとってアクセスしやすい場所に変更することが望ましいと判断した”という。
更に同報道官は、“他国からの圧力があったためではなく、あくまで(議長国としての)独自の判断によるものだ”と強調している。
但し、同報道官によると、(ASEANはこれまで全会一致を旨としてきているが)軍事政権のミャンマー、また中国の同盟国と目されるカンボジアから、当該合同軍事演習準備のための事前打ち合わせ会合への参加の意思表明がなされていない、という。
一方、カンボジア国防省は今月半ば、当該合同軍事演習の開催にまだ同意していないと表明していた。
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習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は先月、異例となる3期目続投を決めた。そこで、早速対米強硬路線を展開するためか、無謀なウクライナ戦争を仕掛けて落ち目となったロシアを見限り、アジアにおける味方を増やそうと、海洋・国境問題で長く対立しているベトナムを取り込む作戦に出ている。
11月1日付米
『ザ・ディプロマット』(2001年設立)オンラインニュースは、「習近平国家主席、訪中したベトナム最高指導者を熱烈歓迎」と題して、長らく懸案だった中・ベトナム関係改善のため、同国家主席が訪中したベトナム最高指導者をレッドカーペットを敷いて歓迎したと報じている。
ベトナム最高指導者がこの程、3日間の訪中に際して、中国側から今までにない異例な歓迎を受けている。
両国国営メディア報道によると、中国側は10月31日に中国に到着したグエン・フー・チョン共産党書記長(78歳、2011年就任)を、最高となる21発の礼砲で以て歓迎したという。
習近平国家主席は、北京の人民大会堂でチョン書記長の来訪を迎えて、握手しかつ抱擁した上で歓迎レセプションに誘った。
同書記長は、先月の第20回中国共産党大会で異例となる3期目続投を決めた習国家主席にとって、初めての国家主席訪問者となる。
両トップにとって、2017年11月にベトナムで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC、注後記)で会談して以来の再会となる。
ある事情通の情報によると、同書記長の随行団は過去に例のないほど大規模だが、更に異例なことは“公安及び国防トップが随行していること”だという。
それによると、トー・ラム公安相(65歳、2016年就任)及びファン・バン・ザン国防相(62歳、2021年就任)が随行しているという。
更に、習国家主席が、中国側の最高勲章である「中国友好メダル(2016年制定)」を同書記長に贈ったことである。
中国国営メディアの『環球時報』によれば、同メダルは“中国社会主義の近代化及び中国との関係発展に貢献した外国人に授けられる”ものだとする。
ベトナム最高指導者の訪中を最大限歓迎するに当たって、習国家主席は、中国とベトナムの共産党は、米国等の諸外国からの干渉に対して一致協力して対抗していく、と発言している。
『中国中央テレビ(1958年開局)』報道によれば、同国家主席は、“中国及びベトナムの両共産党は、人民の幸福のために全力を尽くし、社会主義の近代化を推し進め、また、両国の発展を阻害しようとする如何なる部外者の干渉にも、一致協力して対抗していく”と言及したという。
また、ベトナム国営メディアも、チョン書記長の訪中は、“両国関係の新たな発展段階”に導くものだと報じている。
しかし、これら全てのコメントは、両国共産党間関係の儀礼の一部として割り引いて捉える必要があるとみられる。
何故なら、飾り立てられた儀式の数々にも拘らず、背景にあるのは、中国と米国間の熾烈な競合関係への対抗手段だと考えられるからである。
一つ言えることは、両国間では南シナ海における領土問題やベトナムとしての対中国抵抗意識等が存在しているものの、両国政府にとって分かち合うべき共通の利益がある。
すなわち、両国共産党政権にとって、西側諸国が策謀していると考えられる(一党独裁という)体制変更や近代化の押し付けに対して、一致協力して対抗していくことが肝要だと考えられるからである。
同日付ベトナム『ベトナム・ニュース・エイジェンシー』(1945年設立の国営通信)は、「党書記長、中国から友好メダル受賞」と報じている。
チョン書記長への中国友好メダル授与式は、10月31日に北京の人民大会堂で行われた。
その際、習国家主席は、友好メダルの授与は、チョン書記長及びベトナム人民に対する中国共産党・同政府及び中国人民の感謝の証であり、新時代へ向けての中国・ベトナム両国関係の総合的発展への貢献に報いるためのものである、と表明した。
同国家主席は更に、中国側は、両国における社会主義を形成・発展させていく上で、毛沢東主席(マオ・ツゥードン、1893~1976年、1945~1976年在任)とホー・チ・ミン主席(1890~1969年、1951~1969年在任)が育てて築き上げてきた伝統ある友好関係を更に継続・発展させていくべく、チョン書記長率いるベトナム共産党と連携していくことを誓う、とも言及している。
(注)APEC:アジア太平洋(環太平洋地域)初の経済協力を目的とする非公式協議体。1989年にオーストラリアのホーク首相の提唱で、日本・米国・カナダ・韓国・オーストラリア・ニュージーランド及び当時の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟6ヵ国の計12ヵ国で発足し、同国のキャンベラで閣僚会議を開催。1993年には米国のシアトルで初の首脳会議がもたれた。非公式協議体のため、「加盟」は使わず「参加」とし、台湾・香港の参加も認められている。現在、21ヵ国・地域が参加している。今年の議長国はタイ。
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