先に報じたとおり、国際仲裁裁判所(PCA)から中国主張を全否定された中国は、超大国としての武力・経済力を以て、PCA裁定を無効化しようと躍起になっている。そして、中国が次に繰り出したのが、南シナ海に防空識別圏(ADIZ、注後記)の設定であり、いよいよ力による同海域制圧に動き出した。
7月13日付米
『AP通信』:「中国、南シナ海にADIZ設定を検討と宣言」
「・PCAの全面敗訴を受けて、中国外交部の劉(リゥ)次官は7月13日、PCA裁定に惑わされた他国によって南シナ海における中国主権が脅かされるようなことがあれば、同海域にADIZを設定すると発表。
・同時に劉次官は、PCA裁定に反論する“白書”を示し、その中でフィリピン(旧政権)による一方的な提訴について、歴史的事実及び国際法の観点から根拠がないと主張。
・一方、フィリピン新政権のロドリゴ・ドゥテルテ大統領には、PCA裁定結果によらないで、中国が主張している二国間対話に応じるよう要求。
・なお、PCA裁定には強制執行力がないが、中国の武力・経済力によって虐げられてきたアジアの弱小国にとっては、国際社会からの支援という後ろ盾を得るとの利点。
・米国のジョシュ・アーネスト大統領報道官は、関係各国がPCA裁定を尊重することを望むが、同裁定を以て同海域の緊張を高めたり、相手国を挑発することは控えるよう主張。」
同日付英
『ジ・インディペンデント』紙:「中国、南シナ海にADIZを設定すると脅し」
「・劉次官は、中国には、かつて東シナ海にADIZを設定したと同様、南シナ海にもADIZを設定する権利があると主張。
・同時に、PCA裁定に基づいて他国が中国主権を脅かしたり、挑発するような行為を示すと、軍事的衝突に発展しかねないと脅し。」
同日付ロシア
『ロシア・トゥデイ』(
『ロイター通信』記事引用):「中国、南シナ海にADIZ
設定を検討」
「・PCA裁定公表と同日の7月12日、中国海軍は海南(ハイナン)島の三亞(サンニァ)軍港で、最新鋭駆逐艦“052D銀川(ユィンチュアン)”の進水式を挙行。
・中国国防部の陽(ヤン)報道官は、PCA裁定には断固反対で、中国軍は、中国の主権、安全保障、及び海洋権を脅かす如何なる行為・挑発にも敢然と対抗すると宣言。」
同日付フィリピン
『マニラ・ブルティン』紙(
『AFP通信』記事引用):「中国、南シナ海権益主張を退けたPCAに激怒」
「・PCAのあるハーグ(オランダ)駐在の武(ウー)中国大使は7月12日、PCAは国際法を無視する裁定を出し、ハーグは暗黒の火曜日(7/12)を迎えたと嘆息。
・中国は、中国漁船が南シナ海域に何世紀にもわたり漁に出ていることから、中国主権の範囲と主張しているが、PCAは、中国が国連海洋法条約(UNCLOS)を批准したことで、歴史的権利は消滅したと認定。」
同日付中国
『新浪(シナ)英字ニュース』(
『新華社通信』記事引用):「中国、フィリピンとの領有権問題解決に当り白書発行」
「・7月13日にリリースした白書の中で中国は、フィリピンの南シナ海諸島の領有権主張は、歴史的事実及び国際法上の理解より根拠なしと断定。
・また、フィリピンが、中国主権範囲内の一部諸島を実効支配していることは違法と非難。
・更に、領有権問題について二国間の対話による解決を目指すと合意していたのに、2013年に突然一方的にPCAに提訴したことは当該合意違反。
・中国は、2000年余り前に南シナ海諸島を発見し、以降平和的に同海域を管理・管轄。
・また、中国はこれまで、国際法に準拠して様々な対応をしてきており、それに基づき南シナ海海域の中国主権の平和と安定を確保。
・従って、同海域外の国も含めて、中国のこうした努力、経緯を尊重すべき、と主張。」
中国の主張する、国際法に準拠して対応してきたとの件は、UNCLOSに則ったPCAの審理やその裁定を無視するという“論理矛盾”を起こしていることは明らかである。中国トップには、武力や経済力で、あくまで“黒”を“白”だと国民や弱小国に認めさせようとする治世は、無理・矛盾を生じさせて、やがて滅びてしまうという“歴史的事実”に学んで欲しいと願う。
(注)ADIZ:防空上の必要性から、領空とは別に設定した空域。ADIZでは、常時防空監視が行われ、(通常は)強制力はないが、予め飛行計画を提出せずここに進入する航空機には、識別と証明を要求。更に、領空侵犯の危険がある航空機に対しては、軍事的予防措置などを行使することもある。中国は2013年11月、尖閣諸島を含む東シナ海にADIZ設定を宣言している。
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