アジア開発銀行;ウクライナ戦争によってアジアの経済成長率見通しを下方修正【欧米・中国メディア】(2022/04/06)
4月6日付
『ロイター通信』や
『新華社通信』は、アジア開発銀行(ADB、注後記)がウクライナ戦争の影響で、アジア地域の経済成長率が当初見通しより下落すると公表したと報じている。
『ロイター通信』
ADBは4月6日、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題から回復していないアジア地域が、今回のウクライナ戦争の影響で経済回復の勢いが削がれ、経済成長率が前年比鈍化するとの見通しを発表した。
ADBが「アジア経済展望(ADO)2022」報告の中で言及したもので、同地域の経済成長率は中国・インドも含まれていることもあって、2021年は6.9%を達成したが、2022年の成長率はウクライナ戦争の影響を受けて、昨年12月に見通した5.3%より下がって5.2%の成長に留まるとしている。...
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『ロイター通信』
ADBは4月6日、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題から回復していないアジア地域が、今回のウクライナ戦争の影響で経済回復の勢いが削がれ、経済成長率が前年比鈍化するとの見通しを発表した。
ADBが「アジア経済展望(ADO)2022」報告の中で言及したもので、同地域の経済成長率は中国・インドも含まれていることもあって、2021年は6.9%を達成したが、2022年の成長率はウクライナ戦争の影響を受けて、昨年12月に見通した5.3%より下がって5.2%の成長に留まるとしている。
2023年については、5.3%の成長を見込んでいる。
成長率鈍化の直接要因は、(ウクライナ戦争の結果原油等高騰に伴う)現下の物価上昇であり、また、米国が自国内で進むインフレを抑制するために導入した利上げ政策に伴う金融の不安定化、更には、依然猛威を振るっているCOVID-19変異株流行問題も挙げられるとする。
特に、中国の成長率鈍化が顕著であり、2021年の8.1%に対して、2022年は5.0%まで落ち込むとし、現下のCOVID-19対策に伴う経済活動停止や消費大幅減少が大きく影響するとみている。
更に、アジア全体でみると、南アジアを除いて、東アジア、東南アジアとも当初の見通しから下方修正されていて、前者は5.0%から4.7%に、後者は5.1%から4.9%にそれぞれ下がるとみている。
また、地域全体に物価上昇の波が襲うとし、2022年インフレ率は当初見込みの2.7%から3.7%に大幅に上昇し、2023年には若干解消するとしても依然3.1%と見通している。
『新華社通信』
ADBが4月6日にリリースした「ADO 2022」報告によると、アジア地域の経済成長率は2022年が5.2%、2023年が5.3%と、“国内需要の回復及び堅実な輸出伸長が継続”していくという。
2021年の6.9%に比して減速しているものの、依然高い成長率が期待できるとする。
2022年の成長率の内訳は、南アジアが7.0%と最も高く、続いて東南アジアが4.9%、そして東アジアが4.7%と見込んでいる。
ADBのアルバート・パーク主任エコノミスト(香港科技大教授)はオンライン形式でのインタビューで、ウクライナ・ロシア紛争(注2後記)の影響で、“折からの物価上昇やCOVID-19問題下の金融不安が更に悪化している”とコメントした。
更に同主任は、米連邦準備制度理事会(FRB、1913年設立、中央銀行に相当)による金融引き締め政策やCOVID-19変異株蔓延によって、“アジア地域の経済成長率見通しを更に押し下げる可能性がある”とも付言している。
(注)ADB:アジア・太平洋における経済成長及び経済協力を助長し、開発途上加盟国の経済発展に貢献することを目的に設立された国際開発金融機関。1966年発足、本部はフィリピン・マニラ。加盟国は67ヵ国(アジア太平洋地域48、域外19)。主な出資国は、日本・米国15.65%、中国6.46%、インド6.35%等。現総裁は浅川雅嗣(64歳、元財務官、2020年就任)。
(注2)ウクライナ・ロシア紛争:ロシアを擁護する中国国営メディアの報道記事であるが故の表現。紛争は、対立する二つ以上の国やグループ間の争いであるため、ロシアが一方的にウクライナに軍事侵攻してきた今回の争いは紛争ではなく、戦争である。
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対ロシア制裁、アジア諸国の反応(2022/03/01)
アジア諸国では、ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁による原油価格の高騰、市場の変動、サイバーセキュリティ攻撃、サプライチェーンに与える影響が懸念されている。
アジア地域のニュース連合
『アジアニュース・ネットワーク』は、主要なアジア経済の政治家や専門家たちは、米国やロシアの両方との関係を維持することに関心を持っていることから、最善の対応方法を検討している、と報じている。特に、中国、日本、韓国の3大経済大国が、ロシアの石油、ガス、石炭の大口顧客であることからも、ロシアに対する制裁に大きな関心が寄せられている。しかし、中国はロシアの安全保障上の懸念を黙認している一方で、日本と韓国では、特に燃料価格の高騰、サイバー攻撃の可能性、米国との関係の持ち方などについて懸念が高まっており、対照的な反応となっている。...
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アジア地域のニュース連合
『アジアニュース・ネットワーク』は、主要なアジア経済の政治家や専門家たちは、米国やロシアの両方との関係を維持することに関心を持っていることから、最善の対応方法を検討している、と報じている。特に、中国、日本、韓国の3大経済大国が、ロシアの石油、ガス、石炭の大口顧客であることからも、ロシアに対する制裁に大きな関心が寄せられている。しかし、中国はロシアの安全保障上の懸念を黙認している一方で、日本と韓国では、特に燃料価格の高騰、サイバー攻撃の可能性、米国との関係の持ち方などについて懸念が高まっており、対照的な反応となっている。
中国政府の利益に沿った論評を載せてきた中国日報は、王毅外相とロシアのラブロフ外相との会談を大々的に報道した。中国日報によると、王氏は、中国がすべての国の主権と領土を尊重すると述べた一方で、モスクワの「合理的な安全保障上の懸念」に理解を示したという。
大統領選を控えている韓国でも、有力な大統領候補者2人がこの問題に言及した。与党・民主党の李在明氏は、原油価格の高騰やバイデン政権による制裁など、戦争がもたらす経済的な影響に注目した。野党「国民の力」の尹錫悦氏は、ウクライナ危機は戦争の終結が必ずしも紛争の終結を意味しないことを示唆し、北朝鮮との架け橋を築こうと懸命になっている文在寅大統領への当てつけのような発言をした。
韓国紙コリア・ヘラルドは、サムスン電子やSKハイニックスなどの企業が、制裁によって通信機器やレーザー、センサー、チップなどの製品をロシアに販売できなくなる可能性があり、「巻き添え被害」を受けるかもしれないと報じた。また、特に北朝鮮が「新冷戦対決を最大限に利用しようと挑発をエスカレートさせる」可能性を考慮し、米国との同盟を「堅持」することの重要性を訴えた。
その他の東南アジア諸国では、ウクライナで働くフィリピン人、マレーシア人、タイ人などの自国民の帰還に大きな関心が集まっている。
なお、南アジアでは、パキスタンの首相が、ロシア軍がウクライナに侵攻しているにもかかわらず、モスクワ訪問を決定したことが注目されている。インドにとって、中国との関係が緊迫している今、パキスタンとロシアの関係が深まることを警戒している。インド政府はまた、最近設立されたクワッドのメンバーとしての米国との関係と、数十年にわたるロシアとの関係とのバランスを保つことに努めているという。
ジャカルタ・ポスト紙は、「プーチン大統領はすでに中国との同盟関係を確保しており、近いうちにインド太平洋地域にも緊張が及ぶと予想される」と報じている。
仏誌『レゼコー』は、東南アジア諸国連合(アセアン)加盟国でロシアに対して制裁を敢行したのはシンガポールにとどまり、他のほとんどの国は、政治的、経済的な理由から、ウクライナ側に立つことを拒否している、と伝えている。
アセアン諸国は先週末、何時間にもわたる外相会談を経て、ウクライナの紛争に関わるすべての当事者に対し「自制と対話の継続」を求める短い声明を発表した。侵略者を名指しすることも、あえてロシアに言及することもしなかった。ワシントンにある国防大学のアセアン地域の専門家、ザカリー・アブザ氏は、「極めて弱い声明だ」と述べ、「この地域の国々は、大国が突然、小国の領土保全と法の支配を疑問視するのを懸念しているはずだ」と、この地域における中国の圧力について指摘している。
ロシアの攻撃開始以来、ウクライナへの侵攻を公式に非難したアセアン諸国は、シンガポール、ブルネイ、フィリピンの3カ国にとどまる。シンガポール政府は、今のところモスクワに対して経済・金融制裁を敢行した唯一の国である。同国外相は2月28日、プーチンの言葉を引用して、「我々は、国が正当な理由なく他国を攻撃し、その独立が歴史的誤りと愚かな決断、の結果であったと主張することは受け入れられない」と正当性を主張した。
他の国々は、危機に対する「悲しみ」を表明したり、国民の救助に向かうと約束したりするだけにであった。ビルマにいたっては、ロシアの侵攻を「正当化」して歓迎した。また、ベトナム共産党政府は、ベトナム戦争以降ロシアとのつながりを強化し、ロシア軍需産業の最大の顧客のひとつとなっている。そして、南シナ海での中国との緊張関係に対抗するため、プーチンとの関係維持を優先している。
アブザ氏は、ラオスやカンボジアの独裁政権も、他の権威主義的な政権を批判する勇気を持っていないと述べる一方で、「タイ、マレーシア、インドネシアは、ロシアの攻撃を非難することによって失うものがほとんどないため、沈黙していることは驚くべきことだ」と指摘している。声を上げることで、二国間貿易に影響を与える可能性があると考えているのではないかと推測している。
アセアン諸国以外では、インドもロシアの侵略を非難することを拒否してきた。国連安保理でロシアに対してウクライナからの撤退を求める決議案が採決された際、棄権した。インドのモディ首相は、中国の台頭に対抗する戦略上、長年にわたって築いてきたロシアとの関係を台無しにしたくないと考えている可能性がある。
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