仏メディア:グーグル家宅捜索の舞台裏(2016/06/01)
先週グーグルのパリ事務所への家宅捜索は前例のない大規模なものだった。家宅捜索の陣頭指揮を取ったのは金融犯罪担当のフランス検察(以下通称PNF)。1年をかけて極秘で進めた捜査の舞台裏をフランスメディアが報じる。
「チューリップ作戦」
『ルモンド紙』はPNFが明かした捜査の裏側を報じる。
仏税務当局の訴えを受けて昨年6月に予備調査が開始され以来、先週の家宅捜索が実施されるまで、脱税の捜査対象がグーグルである事は「完全極秘」だった。まず準備は「グーグル社の企業活動を考慮して絶対機密で行われ」、「機密性を完全に確保するために、“チューリップ作戦”とコードネームが与えられた」。作業中は「決してグーグルの名を口にしなかった」という徹底ぶりで、金融担当検察グループ(PNF)と反汚職と金融税務犯罪中央局(以下略称OCLCIFF)の捜査員の極一部だけで進められた。...
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「チューリップ作戦」
『ルモンド紙』はPNFが明かした捜査の裏側を報じる。
仏税務当局の訴えを受けて昨年6月に予備調査が開始され以来、先週の家宅捜索が実施されるまで、脱税の捜査対象がグーグルである事は「完全極秘」だった。まず準備は「グーグル社の企業活動を考慮して絶対機密で行われ」、「機密性を完全に確保するために、“チューリップ作戦”とコードネームが与えられた」。作業中は「決してグーグルの名を口にしなかった」という徹底ぶりで、金融担当検察グループ(PNF)と反汚職と金融税務犯罪中央局(以下略称OCLCIFF)の捜査員の極一部だけで進められた。
「オフラインの作業」
中でも今のIT社会を象徴するのが「全ての作業を完全にオフラインで行った」事である。
『トリビューン紙』によると、捜査員は「パソコン上では文書作成や閲覧でさえも回線を切った状態で作業した」。ブロードバンドやWiFiは今や生活に欠かせないが、パソコンを開けば繋がる事の意味を思い出させる。シャルリエブド襲撃後の反テロの流れの中で、フランスは広範囲な市民監視を認める「フランス版愛国法」を成立させた。プライバシーより国家の安全保障へと舵をきったフランス。そのリスクを最も理解するのは当局なのだろう。
「ダビテとゴリアテの戦い」
『AFP通信』によると「押収したパソコンから収集した大量データは数テラバイト相当」で、「パナマ文書と同じかそれ以上の量」だった。「解析には最低数か月」と検察は見積もるが、「予算上の制約から効率のよい解析ソフトを捜査チームは持っていない」と嘆く。場合によっては数年かかると示唆する検察は「世界最大規模の資本を誇るIT巨人」に対する「チューリップ大作戦」を「ダビテとゴリアテの戦い(*1)」になぞらえる。
「二つの対グーグル戦線」
『レゼコー紙』によると、今回家宅捜索は2011年の査察次ぐ「第二のロケット弾」と伝える。第一弾は「前回は純粋な税務査察」だったが、今回は「税務上の民事告訴と刑事告訴の二つの対グーグル戦線」を仏当局は繰り広げる。一年の予備調査で「税務上グーグル社の租税逃れの慣行が毎年繰り返されている」と専門家が解析したが、「今日までその慣行が続いているか」が今回の捜査で問われる。「この慣行は今日まで続いている」と当局は確信して家宅捜索に踏み切ったようだ。
(*1)聖書に登場する戦いで羊飼いの少年ダビテが巨人兵士ゴリアテを倒した事から、弱小なものが強大な相手を打ち負かす喩えに使われる。
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仏メディア:グーグルの家宅捜索(2016/05/27)
租税逃れでフランスで最も槍玉に上がっていたグーグル社のパリ事務所に大規模家宅捜索が入った。EUでは近年グーグルなどIT系多国籍企業の租税逃れが問題となっており、昨年の秋にEU加盟国とG20加盟国は租税逃れ防止プランを採択した。OECD主導で練り上げたプランは通称「BEPS」と呼ばれる。フランスのメディアは次の通り報じる。
「税の最適化」か「租税逃れ」か
店舗など所在が明確な営利活動なら当然その国に税金が納められるが、オンラインというボーダーレスな世界で得た収益をどの国で課税するかは曖昧な部分もある。分かり易い例の一つがバナー広告クリックによる収益で、フランスでもここ数年問題視された。「今回の家宅捜索には、検察官や財務税務犯罪取締り当局に加え25名のIT専門家が同行」(
『パリジャン紙』)した理由でもある。「グーグル社は、脱税でなく“税の最適化”と反論してきた」。...
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「税の最適化」か「租税逃れ」か
店舗など所在が明確な営利活動なら当然その国に税金が納められるが、オンラインというボーダーレスな世界で得た収益をどの国で課税するかは曖昧な部分もある。分かり易い例の一つがバナー広告クリックによる収益で、フランスでもここ数年問題視された。「今回の家宅捜索には、検察官や財務税務犯罪取締り当局に加え25名のIT専門家が同行」(
『パリジャン紙』)した理由でもある。「グーグル社は、脱税でなく“税の最適化”と反論してきた」。(
『トリビューン紙』)この「税の最適化」はIT業界の多国籍企業では慣行となっており、税務当局の標的となった。
これまでの経緯
『トリビューン紙』によると、「税の最適化」との闘いは2011年に既に始まっている。「移転価格」調査で、家宅捜索や差し押さえがグーグルパリ事務所に入った。グーグル欧州本社は、EU低課税国の中でも企業収益に課税するアイルランドにおかれたため、欧州と米国で同時告訴された事がある。仏当局からは2014年3月に課税変更通知を受け取った。
『レゼコー紙』によると、「悪質な脱税」と「組織ぐるみのマネーロンダリング 」で仏政府が告訴した後、昨年2015年6月に仏検察はグーグルパリ事務所の予備調査を開始した。予備調査の焦点は三つで、「グーグルアイルランドがフランスに恒久的に事務所を有するか」と、「仏国内での企業活動の申告漏れの有無」、「グーグルアイルランド社の法人所得税と付加価値税での違反の有無」である。起訴の場合、グーグルは1千万ユーロか資金洗浄とみなされる額の半分のどちらかの罰金が課される。
今年4月に既にグーグル社はフランスで税評価修正を理由にフランス当局から訴訟手続き開始の恐れがあった。
『フィガロ紙』は「グーグル社は他の多国籍企業のように、欧州各国の税制遵守に対応するだろう」と報じる。昨年12月にアップル社は3億1800万ユーロをイタリアに未払い分として支払った。グーグルも英国に1億7千万ユーロの追徴課税を支払った。「営利活動を行う国で税金を支払うよう仕向けるために、国別の調査結果と税負担を企業は詳細に説明する必要がある」が、これは前述のOECDが起草した「BEPS」内での提案事項の一つで、課税ベースの浸食や利益移転に対抗するものだ。現に「我々は当局の捜査に協力し、フランスの法律を完全に遵守する」とグーグル広報が
『ロイター通信』に送った声明で述べた。
パナマ文書の影響もあり、グーグル社が譲歩する形をみせる一方で、
『レゼコー紙』は「IT責任者までもが尋問対象となれば、いずれ経営幹部は常に備えるようになる」と、いたちごっこになる可能性も示唆する。
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