仏メディア マイナス金利をめぐる攻防 ECB対ドイツ(2016/06/14)
欧州中央銀行(以下ECB)が打ち出したマイナス金利政策は、その是非というより、ドラギ総裁と貯蓄大国ドイツの激しい対立の構図が鮮明になった。フランスメディアが報じる。
仏経済紙
『トリビューン紙』は「ECB対ドイツ」と題してドイツ第二のメガバンクがマイナス金利回避のためにマネーストックを検討すると報じる。ドイツの財政黒字はGDPの9%相当で、貯金大国ドイツの預金過剰ぶりがわかる。しかし2016年初めから融資が増える一方で、ドイツの銀行は高金利を貯金に払い、ECBへは利息を支払う。ドイツの現金ストック検討は「ドラギ総裁に直接送られた警告」と評する。またコメルツ銀行株は半官半民で、「ECBマイナス金利迂回措置の検討は政府の直接関与なしにはできない」と指摘する。...
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仏経済紙
『トリビューン紙』は「ECB対ドイツ」と題してドイツ第二のメガバンクがマイナス金利回避のためにマネーストックを検討すると報じる。ドイツの財政黒字はGDPの9%相当で、貯金大国ドイツの預金過剰ぶりがわかる。しかし2016年初めから融資が増える一方で、ドイツの銀行は高金利を貯金に払い、ECBへは利息を支払う。ドイツの現金ストック検討は「ドラギ総裁に直接送られた警告」と評する。またコメルツ銀行株は半官半民で、「ECBマイナス金利迂回措置の検討は政府の直接関与なしにはできない」と指摘する。ECBと独政府の本格的な対立に発展した事を示唆する。
この警告で「コメルツ銀行はECBに0.4%徴収される基本通貨を金利なしにするよう求める」との見通しを示す。これに対しECBも現金ストック阻止に動く。仮に200ユーロ紙幣で20億ユーロを備蓄すると11トンで、備蓄場所と保険にかなりコストがかかり、ECBへ支払う金利を超える可能性もある。「5月にECBが500ユーロ紙幣発行停止方針を発表した理由」とみる。
しかし「トリビューン紙」は、今回はドイツに否定的である。ECBへの非難は「ユーロ圏の機能不全に対するドイツの責任を隠し、ECBだけに負わせる政治的駆け引き」とし、「一番の原因はドイツの経済モデル」と指摘する。「独財務大臣によるインフラのニーズへの財政刺激策の拒否はドイツの融資需要を減少させる」、「ドイツの銀行も高金利で貯蓄を好み支出を削減する」、「貯蓄と財政黒字の心理的過大評価に基づく経済モデルは成長予測でマイナスの影響を与える」。「ECBのマイナス金利は、改革を拒否し、重商主義モデルを放棄して真のリバランスに取り組むことを拒否するドイツが招いた」と総括する。
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『レゼコー紙』は「もし構造改革の流れの中で実施されるなら、ECBの全ての措置は経済に浸透しうる」と改革の重要性を指摘する。昨年の10月にもECB理事の一人が、改革が遅れている加盟国に警告した。ドラギ総裁も「経済支援をECBのみに依存しないよう求めた」。「急進的な改革を遅れず実施する事で、それにより雇用と成長を創出できる」との主張。
また社説で「需要側の深刻な偏りだけでなく、不均衡は供給の問題からも起こる」とドイツ経済モデルの問題点を指摘する。ドイツでは借換えのために借りる事はない。また預金超過は欧州協定で合理的とされる6%の上限を超える。欧州最大のドイツ経済がほとんど投資しない事も懸念するが、投資の少なさはEU全体の問題でユンケル計画の不備とする。
他の反応
経済協力開発機構(以下OECD)はECBと正反対の主張で「OECDはECBを含む欧州の中央銀行の超金融緩和策が、経済成長へと経済を導く事は不可能」と断言した。ドイツ従来の金融政策へ回帰を求める。
IMFはECBと同じ主張。「財政手段の余地がある国は、需要を支えるためにより多くの公共投資を実施する必要がある」と繰り返す。「IMFはまずドイツを標的にする」と報じる。
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仏メディア:対Brexit戦線とEU今後の動向(2016/06/03)
EU残留の是非を問う英国の国民投票まで3週間をきった。EU離脱を阻止すべく各国で攻防が続く。IMFに続きOECDまでが警告的な調査研究を発表しユンケル欧州委員長は語気を強める。フランスメディアは動向を報じる。
『レゼコー紙』はOECDもEU離脱の影響について極めて悲観的な予測を発表した。「金融市場パニックで株式や英国投資リスクのプレミアムが今後1年でピークを迎え150ポイント上昇」。また「2030年までに英国のGDPは5%減少」、英国経済への信頼性が低下によって「貯蓄率上昇とそれに伴う金利上昇」、「対ドルで10%ポンド安とそれに伴う輸入価格高騰によるインフレ」を予測する。また近隣諸国も巻き込まれ、最も影響を受けるのはアイルランドや輸出が多いオランダ、金融分野で繋がりのるスイスやノルウェー、次いで独仏スペインである。...
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『レゼコー紙』はOECDもEU離脱の影響について極めて悲観的な予測を発表した。「金融市場パニックで株式や英国投資リスクのプレミアムが今後1年でピークを迎え150ポイント上昇」。また「2030年までに英国のGDPは5%減少」、英国経済への信頼性が低下によって「貯蓄率上昇とそれに伴う金利上昇」、「対ドルで10%ポンド安とそれに伴う輸入価格高騰によるインフレ」を予測する。また近隣諸国も巻き込まれ、最も影響を受けるのはアイルランドや輸出が多いオランダ、金融分野で繋がりのるスイスやノルウェー、次いで独仏スペインである。離脱派のジョンソン元ロンドン市長は一連の悲観的予測を「恐怖をあおる」と反発する。
最も厳しい姿勢を見せたのがEUのユンケル欧州委員長である。「レゼコー紙」は「脱走兵が歓迎される事はない」と圧力をかけるユンケル委員長の発言は「強迫に近い」と評する。「残留の場合はEUを再設立の可能性」もある。ユンケル委員長は「主要国が主導すれば、EU再設立を受け入れるがその場合は欧州部門を新設する」意向を示す。
最近の世論調査で残留派と離脱派がほぼ均衡を保つ事から、「英国なきEUについてEUは本格的な議論を始めた」と
『トリビューン紙』は報じ、今後のEUの動向を占う。
「欧州委員会の最大の懸念はEUの基本条約であるリスボン条約第50条の適用」である。加盟国の多くはEU脱退を不可能と考えるが、50条は一定の法的手続きで自主脱退を認めている。「国民投票で離脱となれば、EUの締付けに不満をもつ加盟国へ扉を開き」、また「離脱による悲観的な影響が実際にない場合」や「EUが英国に譲歩した場合」でも「結局離脱の前例を作る」。「離脱の成功はEUの終焉」と評する。
「トリビューン紙」によると、EU主要国の意見は既に割れ、擦り合わせが必要である。
フランス:最も強硬姿勢で離脱の場合は、「強制力ある貿易協定を英国と結び」、「欧州経済領域への英国の参入を拒否」も厭わない。2017年4月の大統領選でEU離脱を掲げる極右政党の躍進を封じる事が目的。
ドイツ:慎重姿勢を示す。英国はドイツの第3の輸出国である。市場混乱によるポンド安による輸出への影響と、新興国の英国への輸出増加を懸念する。ドイツは無傷で英国との貿易関係を維持しEU内の分裂を避けたい。フランスの制裁的対応に反発する。
また部外者の中国が残留支持を表明した。
『フィガロ紙』は二つの理由を伝える。「英国は中国の欧州最大の直接投資国」である事と「米国の対抗勢力である欧州の弱体化を懸念する」ためだ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に英国が一番乗りして米国を激怒させたのは記憶に新しい。EU内の自由な移動が制限され「中国企業の多くが欧州本社を他国に移す」と中国投資家は警鐘を鳴らす。キャメロン政権下で両国は接近し、「中国はEUと中国の貿易協定における英国の支援に満足する」と報じる。
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