今月数日間にわたり、中国の戦闘機が台湾の防空識別圏に侵入、2日は39機が飛行し1日あたり過去最多となった。米国務省は中国による相次ぐ軍事活動に懸念を表明している。
10月4日付米国
『NBCニュース』は「中国機の台湾防空識別圏侵入を“挑発行為”とし中国を批判」との見出しで以下のように報道している。
米国は台湾の領空に軍事機20数台を飛行させた中国の挑発行為を批判。台湾国防省は3日ツイッターで、戦闘機16機が航空識別圏に侵入したとした。2日には39機の軍事機(20機が日中、19機が夜間)が、領空に侵入、前日1日には38機が侵入しており、中国軍機によるこれまでで最多の活動だとした。1日は中華人民共和国の建国72周年となった。防空識別圏は、多くの国が領空内の航空機往来を監視するための空域で、国際法上の規定はない。
中国は1年以上に渡り軍用機を台湾南部に頻繁に侵入させており、軍事的、政治的圧力を強化する目的とみられている。中国は台湾を領地内の違法な自治区域と認識しており、軍事活動はサイバーセキュリティ、人権問題、貿易等を巡る米国と中国の対立関係を背景に増加している。中国国営新聞「The Global Times」は3日の論説で、「台湾当局をまたも愕然とさせ、この地域での記録を更新する演習であった」としている。中国は以前、このような飛行は自治権を守るものであり、台湾と諸外国との衝突に対応するものだとしていた。
10月3日付台湾『TIME』は「台湾南部での中国機飛行に米が懸念」との見出しで以下のように報道している。
中国の戦闘機16機が日曜、台湾沖を飛行。米国は中国の挑発行為だとして懸念を表明した。中国は38機の戦闘機を金曜、土曜は39機を同地域に飛行させた。昨年9月台湾が航空機に関する報告書を発表し始めて以来、一日としては最大となる。航空機は日夜問わず飛行。
米国務省のネッド・プライス報道官は声明で、台湾近郊での軍事行為は誤解を生む恐れがあり、地域の平和と安定を損なうものだと非難し、「我々は中国に台湾への軍事的、外交的、経済的圧力と恐喝をやめるよう求める」とした。また米国は台湾の防衛能力を維持するため協力を続けていくとしている。中国は一年以上にわたり頻繁に台湾南部へ戦闘機を送り続けている。
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いろいろ批判がある中で、取り敢えず新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題禍の東京オリンピックが終焉した。そして6ヵ月後に北京冬季オリンピックが控えるが、中国の人権問題が国際社会から大きな非難を浴びる中、米国高官も完全ボイコット案から外交・財務上のボイコット案まで持ち出す等、ともかく平穏に開催することへの問題提起が喧しい。
8月11日付
『デイリィ・コーラー』(2010年創刊の保守系メディア):「米国、冷戦下でのモスクワオリンピックのボイコットと違って、2022北京大会ボイコットは問題含み」
米国の高官の中には、中国政府による人権蹂躙やCOVID-19発生時の間違った対応等が、2022北京オリンピックをボイコットする十分な理由となると主張する声があるが、専門家は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、政治的・財政的な悪影響より完全なボイコットは難しいとコメントした。
完全ボイコットを主張するニッキー・ヘイリィ元国連米大使(49歳)は『Foxニュース』への寄稿文の中で、ウィグル族への不当な扱いを含めて中国政府の人権蹂躙問題は深刻であるので、米国が選手団を派遣することは、中国政府のプロパガンダ(注後記)の正当性を認めることになる、と糾弾した。
同氏は『デイリィ・コーラー』のインタビューに答えて、“1936年ドイツ大会は、ナチスドイツのプロパガンダ高揚の場と化してしまった”とした上で、“もし今回のオリンピックがキューバや北朝鮮で開催されるとならば、当然選手団を派遣する話など考えられないはずだ”と強調した。
一方、共和党重鎮のミット・ロムニー上院議員(74歳、ユタ州選出)は『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿文の中で、オリンピック目指して長い時間努力を重ねてきたアスリートを落胆させるのではなく、同大会に幹部外交官を派遣しないとか、米企業がスポンサーから降りる等の限定的なボイコットの方がもっと効果的である、と主張している。
その他、上院超党派グループは国際オリンピック委員会(IOC)に対して、2022年冬季大会の開催地変更を申し入れている。
また、下院外交委員会は、IOCに開催地変更を求める決議案を下院議会に提出して、もしIOCが応じない場合、ボイコットも辞さじとの脅しをかけている。
このように、米国における北京大会ボイコットの話は、マイク・ポンペオ前国務長官(当時57歳)が今年1月、中国政府によるウィグル族の不当な扱いを“民族大虐殺”だと非難した頃から俄然活発化した。
ただ、専門家は『デイリィ・コーラー』に対して、中国政府からの政治的・財務的な報復が巻き起こり、ボイコットを検討している米国やその他諸国にとって、具体的な結論を出すことを難しくさせていると解説している。
オリンピックへの参加ボイコットは、1980年モスクワ大会に対して米国及び同盟国が行った。
国務省の保存公文書によると、当時のソ連軍がアフガニスタンからの撤退を拒否したことから同大会をボイコットすることになったという。
当時の記録によれば、ジミー・カーター第39代大統領(1977~1981年在任)が、モスクワに渡航しようとするアスリートのパスポートを没収すると脅したと言われる。
米保守系シンクタンクのヘリテージ財団(1973年設立)によれば、同大統領は更に、ソ連と初めて締結した米国産トウモロコシ・小麦・大豆合計1,700万トンの供給契約を破棄したという。
しかし、国連ジュネーブ事務所元米国大使で、現在NPO法人共産主義犠牲者記念財団(1994年設立)代表のアンドリュー・ブレムバーグ氏(42歳)は『デイリィ・コーラー』に対して、1980年のボイコットは、結果的にソ連よりもアスリートに大きな被害をもたらす結果となってしまったとコメントした。
その上で同氏は、同財団は完全ボイコットを主張してはいないが、開催地の変更を要求していて、“(予定どおり北京で開催されるならば)米国やその他諸国が外交トップの出席を見合わせることが最も効果的である”とし、“米放送局には、中国における人権問題を詳報し、かつ、オリンピックへの参加は、中国政府ではなくオリンピックそのものを支援しているということをきちんと伝えるよう求める”としている。
一方、自由至上主義系のシンクタンク、ケイトー研究所(1977年設立)のティム・カーペンター上級研究員は、外交上のボイコットは良い考えだとするも、“その規模や強調すべきレベルについて、米国は中国と敵対することを厭わない他諸国と協調する必要がある”としている。
同氏によれば、“特に弱小国は、中国と敵対することを望まず、また、ボイコットすることに価値を見出さないため、ボイコット運動に参加することは避けると考えられるからだ”という。
また、同氏は、スポンサー企業の撤退や広告取り止め等を求める声もあるが、企業自身がビジネス上の問題で中国ともめたくはないと考えるため、この案も難しいと分析している。
“中国側が、台湾問題や東・南シナ海での領有権問題を理由として米国産品の不買運動等を展開することに、米企業は恐れを抱いている”とする。
例えば、世界規模でスポーツ用品ビジネスを展開するナイキ(1964年設立)のジョー・ドナヒュー社長(61歳)は『CNBCニュース』のインタビューに答えて、同社は中国にもっと投資していく意向であり、中国市場を重要拠点と捉えていると強調している。
英国コンサルタント会社グローバル・データ(1999年設立)スポーツ分析部門のコンラッド・ワイアセック部門長は、“中国の現在の国際市場における地位を考えたら、どの国にとっても北京大会ボイコット運動を展開することなど難しいと考えるはずだ”と分析している。
同部門長によれば、特に中東・アフリカ・南米の多くの国が、中国との貿易や経済的支援に頼っている現状から、ボイコットへの同調を求めることは難しいという。
更に同部門長は、財務的なボイコットについても、中国市場への食い込みを目論んでいる巨大企業にとっては考えにくいとする。
そして、肝心のIOCも、2024年パリ大会、2028年ロスアンゼルス大会、更には2032年ブリスベン大会を控えていることから、中国を刺激するような対応は取れないはずだ、とも言及している。
(注)プロパガンダ:特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為の事。通常、情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省の名称である。ラテン語のpropagare(繁殖させる、種をまく)に由来する。
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