既報どおり、ドナルド・トランプ前大統領(76歳、2017~2021年在任)は、2021年1月6日発生の議事堂乱入事件を扇動した嫌疑や、退任後に不当に機密文書等を私邸に持ち込んだ容疑で取り調べられている。そしてこの程、米司法省が、同前大統領から直接指示を受けて、押収前の秘匿文書等を保管庫から別の場所に移したとされる側近を更に審問することになった。
10月24日付
『AP通信』は、「米捜査当局、トランプ別邸マー・ア・ラゴの家宅捜査に続いて側近を更に事情聴取」と題して、連邦捜査局(FBI、1908年設立の司法省傘下の捜査機関)がドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州在の別邸を家宅捜査した事態に関し、同前大統領から事前に、機密文書等の一部を別の場所に移動するよう直接指示を受けたとする従者について、FBIが更に事情聴取することになったと報じている。
FBIは今年8月初め、ドナルド・トランプ前大統領が退任後、不当に機密文書等をフロリダ州の別邸に持ち出した嫌疑で、同邸を家宅捜査した上でかなりの数の機密文書等を押収した。
同捜査の事情通によると、司法省が更に、同邸において機密文書等を移動させている姿が監視カメラに捉えられた側近を事情聴取することになったという。
同事情通は匿名を条件に『AP通信』のインタビューに答えて、当該人物は既に一度審問されていた従者のウォルト・ノータ氏(39歳、2017年より雑用係として勤務、2021年フロリダ州私邸に異動)で、FBIは更に、家宅捜査前に当該文書等を移動させようとした経緯について事情聴取する意向であるという。
本件について、司法省はコメントすることを控えているが、これまでの報道によると、同省は、前大統領による国家防衛に関わる情報の不当な所有や捜査妨害等違法行為の嫌疑について、捜査を進めている。
捜査妨害容疑については、FBIが今年の8月初め、裁判所からの家宅捜索許可証を得た上でフロリダ州在の別邸を捜査した際、機密文書等が同邸の保管庫から別の場所に“移動されて隠されようとした”疑いがあることが判明していた。
同省は今年5月、トランプ側に対して、ホワイトハウスから持ち出した機密文書等を返還するよう求める召喚令状を提出した。
これに基づき、FBIが6月3日にフロリダ州別邸を訪れ、38種類の文書等が入った封筒を回収したが、その際トランプ弁護団に対して、次の通知があるまで、同邸に残された機密文書等を納めた箱を保管庫で厳重に保管しておくよう指示していた。
しかし、FBIは後に、更に隠匿した機密文書等があるとの嫌疑が高まったとして、8月8日に同邸を家宅捜査することとなり、その結果、超極秘と記された機密文書等を含めて100余りの文書等を押収している。
なお、『ワシントン・ポスト』紙が今月初め、ノータ氏の名前を初めて記載して、トランプ従者である同氏がトランプの明確な支持に従って文書が入った箱を移動させた旨FBIに証言したと報じている。
また、『ニューヨーク・タイムズ』紙も10月24日、捜査当局がノータ氏に再び事情聴取する旨報じている。
同日付『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「捜査当局、機密文書等の取り扱いでトランプ側近を厳しく取り調べ」と報じている。
連邦捜査局は目下、トランプ前大統領が不当に持ち出した機密文書等の取り扱いについて、国家安全保障に反する行為があったことを立証すべく総力を挙げている。
具体的には、まず、フロリダ州別邸の保管庫にあった当該文書等を、同前大統領の指示で移動させようとした側近の証言を取ろうとしている。
その対象となっているのが、ホワイトハウス及びフロリダ州別邸で同前大統領の身の回りの世話をしていたノータ氏(グアム出身の元海軍兵)で、別邸の監視カメラに彼の行動の一部始終が映っていることから、同前大統領を裏切ることになっても真実を証言させようとしている。
もう一人が、強烈なトランプ信奉者であるキャッシュ・パテル氏(42歳、弁護士)で、トランプ政権下で、クリストファー・ミラー国防長官代行(57歳、2020~2021年在任)の首席補佐官を務めていた人物である。
同氏は現在、トランプ前大統領から指名されて、前大統領の保有文書等の取り扱いについて、米国立公文書記録管理局(NARA、1935年前身設立)と種々遣り取りする代理人になっている。
従って、同氏は、同前大統領がホワイトハウスから別邸に持ち出した文書の詳細や、NARA及び司法省から文書返還を求められた際の対応について、深く関わっている人物である。
同氏は、8月初めにFBIが家宅捜査に入った際、同前大統領が、文書の機密性を解除した上でホワイトハウスから文書類を持ち出している、と公に表明していた。
司法省としては、ワシントンDC連邦地裁の大陪審の場で、証言させようと努めているが、目下のところ同氏は、米憲法修正第5条自己負罪拒否特権(注後記)に基づき、証言を拒んでいる。
そこで同省は、同地裁裁判長に対して、同氏を大陪審の前に出廷させる暫定命令を出すよう申し立てている。
(注)自己負罪拒否特権:米憲法修正第5条の4項の条項で、「何人も、刑事事件において自己に不利な証人となることを強制されることはなく、また法の適正な手続きによらずに、生命、自由または財産を奪われることはない」と定められている。
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中国人の男女が、私欲から、マーシャル諸島の環礁に、台湾のような自治領を樹立しようとしたとして米国で起訴されたという。マーシャル諸島は米国が太平洋の軍事拠点として安全保障協定を結んでいるが、中国が影響力拡大を図っている。
9月8日付英
『Yahooニュース』(BBC):「マーシャル諸島:中国人カップルのミニ国家計画」:
米検察によると、中国人カップルが、議員や高官への賄賂を通じ、マーシャル諸島にミニ国家を作ろうと画策したという。彼らは議員らを賄賂でほのめかし、同国内の環礁に「半自治領(SAR)」を樹立しようとした。
マーシャル諸島は、ハワイとオーストラリアの間にあり、1979年米国から独立。今も米国の太平洋上の戦略拠点となっており、米国が安全保障協定を結んでいるが、中国が影響力拡大を図っている。
米検察によると、中国人被告のヤンとチョウは、2018年と2020年に、SAR成立を盛り込んだ法案に関わり、議員数名が賄賂を受け取った後、議案に賛成票を入れたとされる。2人は2020年タイで拘束され、先週米国に送還された。
彼らはマーシャル諸島の当局者への支払いや連絡に使うため、ニューヨークを拠点とするNGOで活動していたとされる。米国の水爆実験で放棄されたロンゲラップ環礁に自治領を樹立するため、2016年から協力者とコンタクトをとり始め、海外からの投資に繋げようと、減税や移民制限緩和を狙い「同国の法律を変えること」を目的としていたという。
SAR推進会合の際は、協力者の議員や高官らのニューヨークや香港への渡航費や滞在費を負担し、少なくとも6回会食を行っていたという。ヤンはマーシャル諸島の特別顧問に任命され、2人は帰化市民権も得ていたとされる。
2018年、賄賂を受け取った議員らは、SARを支持する議案を議会に提出。だが、当時のハイネ元大統領からの強い反対にあい、議案は通過しなかった。当時ハイネ氏は中国の利益ため「環礁を国内に組み込もうとする」反対派を批判していた。
その後、ハイネ氏は2019年の総選挙で敗退。 2020年の新議会では、SARのコンセプトが決議で承認された。しかし、その後同年、ヤンとチョウはタイで拘束され、米国で海外汚職、マネーロンダリング、収賄罪の容疑で起訴された。マーシャル諸島では、野党の要求にもかかわらず、この事件の存在をまだ認めていない。
9月7日付中国『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』:「米国が防衛拠点とするマーシャル諸島で香港のような国家樹立を目論んだ中国人カップルを逮捕」:
米司法省は、旧米国領マーシャル諸島における自治領計画を含む「長期的策略」の罪で、中国人カップルが逮捕起訴されたとしている。
先週の司法省のプレスリリースによると、ケーリー・ヤン(50歳)とジーナ・チョウ(34歳)が、マネーロンダリングと海外汚職行為防止法違反の罪に問われているという。
彼らは米国領に居ながらにして、マーシャル諸島の高官に賄賂を渡そうと試みたとされ、ニューヨークの非政府団体(NGO)の関係者のふりをして、話を持ちかけたが焦点となっている。起訴内容によると、このNGOは2016年~18年頃に、国連経済社会局の特別顧問だったとされる。
ヤンとチョウ他の組織は、ロンゲラップ環礁という所に、香港のような自治政府を作ろうと策略、その自治領に経済や社会プロジェクトを誘致する狙いがあったとみられる。マーシャル諸島は、台湾の友好国で、台湾と正式な外交関係を結んでいる14カ国の一つでもある。
米FBIマイケル・ドリスコル副長官はプレスリリースで、ヤンとチョウが「マーシャル諸島の人々を犠牲の上に、個人的利益のため、複数の不法行為を行った」とし、米司法省は声明で、彼らは「マネーロンダリング罪により最大20年、海外汚職行為防止法違反により最大5年の刑となる見込み」だとしている。
マーシャル諸島は1986年米国から独立、戦後米国が水爆実験を行ったビキニ環礁で知られ、米国が軍事面で今もなお「完全なる統治義務」を維持している。
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