韓国の2大半導体メーカーは、世界のメモリチップ市場の約3分の2を占める。その上で、今後大きく飛躍する中国市場にも拠点を設けて、更に拡大を狙っている。しかし、米民主党政権によって、中国市場へのアクセスが一部緩和されたものの、今年11月の米大統領選で件の共和党前大統領が返り咲いた場合、中国拠点作りが裏目に出る恐れがあるため、同選挙結果に戦々恐々となっている。
1月23日付
『ブルームバーグ』オンラインニュースは、韓国の2大半導体メーカーが、米大統領選の結果に伴う対中国政策がどう展開していくのかに戦々恐々となっていると報じている。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI、米大手総合情報サービス会社『ブルームバーグ』傘下の情報収集・分析部門)のデータによると、2022年の世界メモリチップ市場(1,420億ドル、約21兆160億円)の約3分の2が韓国の2大半導体メーカーによって占められている。
断然トップのサムスン電子(1969年設立の世界最大の電子メーカー)が550億ドル(約8兆1,400億円)、2位のSKハイニクス(1983年設立)が330億ドル(約4兆8,840億円)である。
因みに、日本のキオキシア(2017年東芝から分社化、2019年東芝メモリから改名)は110億ドル(約1兆6,280億円)である。
韓国半導体メーカーは、大きく飛躍している中国市場にも拠点を設けて拡大政策を展開しようとしているが、米国政府の対中政策に大きく左右されている。
特に、SKハイニクスは大きく先行するサムスンに追い付くべく、2020年に米インテル(1968年設立)保有の中国東北部在の大連工場を90億ドル(約1兆3,320億円)で買収し、拡大を図ろうとした。
ところが、共和党のドナルド・トランプ前大統領(77歳、2017~2021年在任)から政権を引継いだ民主党のジョー・バイデン現大統領(81歳、2021年就任)も、半導体含めた最先端技術で中国が最大の競争相手となるとして、対中強硬政策を継続した。
韓国経済にとって、最大貿易相手国の中国も大事であるが、それ以上に米国依存から脱することは不可能である。
そこで、尹錫悦大統領(ユン・ソンニョル、63歳、2022年就任)が2023年4月下旬、韓国大統領として12年振りに訪米してバイデン大統領と会談し、米政府による中国への半導体製造装置の導入規制の緩和等について精力的に協議した。
同大統領に同行した、サムスン・SK・現代自動車等のトップも挙ってロビー活動を行った。
かかる努力が実ったためか、米政府は昨年10月初め、“韓国企業は特別な手続きなしに装置導入が可能”とする特別許可を下したことから、サムスン電子とSKハイニックスは中国内の自社工場への追加投資が認められることになった。
ただ、これら韓国半導体メーカーにとって、11月の米大統領選の行方が非常に重要な意味を持つ。
すなわち、万が一トランプ前大統領が返り咲こうものなら、上記の緩和策も一瞬にして葬り去られる恐れがあるからである。
SKハイニクスの郭廷潤代表取締役(クヮク・ノジョン、2022年就任)は今月初めの記者会見で、“中国における当社事業を取り巻くリスクが大幅に低下した”としたものの、トランプの大統領就任の可能性についてのコメントはせず、ただ、大連工場の売却を検討しているとの噂を強く否定している。
ただ、同社は2025年、米インテルに買収金の残額全額を支払わなければならない。
これに関し、BI所属の経済アナリスト若杉正博氏(2018年就任)は、“SKハイニクスの大連工場は、米国による対中ビジネス規制の結果に左右されるという、韓国半導体メーカーの置かれた困難な立場を象徴するものだ”とコメントした。
その上で同氏は、“米大統領選後の米国政策の不確実性を考慮すると、現段階で同社が大連工場の生産能力拡大に踏み切ることは理に適っていない”と強調している。
一方で、BIのサプライチェーン分析によると、世界最大のIT企業である米アップル(1976年設立)は収益の約20%を中国事業に依拠しており、SKハイニクスのみならずサムスン電子の中国工場生産品供給に大きく頼っているという現実がある。
なお、韓国政府が2024年初めに発表した貿易統計によると、中国が韓国にとって最大の貿易相手国ではあるが、直近の数ヵ月をみると、およそ20年振りに対米貿易額が対中実績を上回っている。
従って、韓国政府はもとより経済界としても、米・中国間でバランスを取る政策を展開する必要があるとしても、貿易上は対米依存に傾きつつある証左と言える。
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中国では、昨年12月初めに漸く「ゼロコロナ政策」を転換して以降、行動制限が緩和されたことに伴って多くの中国人が国内旅行に勤しんだ。しかし、1年経った現在でも、経済停滞・人民元安・航空運賃高騰等が足枷となっていることから、2024年での中国人の海外旅行熱回復は容易ではないと航空業界アナリストが分析している。
12月29日付
『ブルームバーグ』オンラインニュースは、中国では国内旅行が活況を呈しているが、2024年でも海外旅行熱の回復は容易ではないと報じている。
中国では、「ゼロコロナ政策」転換後、移動制限が緩和されたことから、国内旅行がブームになっている。
しかし、依然国内景気が停滞している上に、折からの人民元安に見舞われていること、更には航空運賃高騰というトリプルパンチに遭っていることから、中国人による海外旅行は低調で、2024年を展望しても、コロナ禍前のような勢いで海外旅行に出かけることは然程期待できないと航空業界アナリストが分析している。
主なコメントは以下のとおりである。
●モルガン・スタンレー(MS、1924年設立の金融機関グループ)所属アナリストのファン・チャンリー(范倩蕾)、テニー・ソン、ジャスミン・チュウ(邱燕)各氏
・12月初めの予測では、中国人の海外旅行熱回復は不確実で、コロナ禍前の70~80%レベルで推移する現在地からの復活は予想以上に時間がかかるとする。
・12月26日現在、(クリスマスシーズンをはさむ)直近1週間においても低調のままで、例えば、かつて隆盛だった米・中国間の国際航空便搭乗率は2019年レベルの僅か22%でしかなかった。
・中国人の海外旅行が以前のレベルまで回復するのは、2025年になってからと予測する。
●ブルームバーグ・インテリジェンス(BI、ブルームバーグ傘下のデータ収集・分析部門)所属のティム・バッカス、エリック・チュー各氏
・MSアナリストの見立てに同意していて、中国人の海外旅行願望は、経済回復と訪中外国人向けビジネスの低迷によって見通しは暗い。
・具体的には、人件費、運賃高騰、為替レート下落、ビザ問題が海外旅行にも影響している。
・従って、中国人の海外旅行熱が高まるとしてもその程度は緩やかとみられ、国際便の搭乗率は中々上昇しまい。
●HSBCホールディングス(1865年前身設立の世界最大のメガバンク)所属のパラッシュ・ジェイン輸送調査担当部門長(アジア太平洋地域)
・コロナ禍後初の春節(2月10~15日)を迎える中国人にとって、行動制限緩和が後押しされ、海外旅行にも目を向ける可能性は高い。
・従って、航空業界の人たちにとって、中国人の海外旅行需要がいつ、どのくらいまでに回復するのかがもっぱらの関心事になっている。
なお、中国人の国内旅行熱は異常で、コロナ禍前よりも盛況となっていて、航空規制当局によると、第3四半期(7~9月期)における旅行者数は夏季休暇時期が入っていることもあって1億8千万人過去最高を記録したという。
また、中国当局は、訪中外国人及び海外旅行中国人数をそれぞれ増加させるべくビザ発給条件を緩和している。
更に、フランス・ドイツ等6ヵ国からの旅行者にはビザを免除することとしただけでなく、2024年まで渡航書類の申請費用を割り引くとしている。
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