米軍は2月4日、中国製偵察気球が米領空を侵犯したとして同気球が沖に出たところを撃墜した。しかし、荒海のために、海面に浮いていた風船部分やごく少数の電子部品を除き、海中に沈んだ機材の主要部分の回収が難航している。
2月10日付米
『ニューヨーク・ポスト』紙(1801年創刊)は、「国防総省、サウスカロライナ州沖に沈んだ中国偵察気球の残骸回収が荒海のため難航と発表」と題して、ごく一部の部品を除き、肝心の偵察気球主要部分の回収が難航していると引用報道している。
米空軍報道官のパット・ライダー准将(2022年就任)は2月10日の記者会見で、“荒海のため、撃墜した中国偵察気球の残骸回収に手間取っているが、回収チームは引き続き天候を見ながら回収作業に注力している”と公表した。
米軍チームによる回収作業によって、一部の残骸が回収されているが、同報道官は何が回収されたのか等は明言を避けた。
関係者情報によると、気球の電子部品の主要部分は50フィート(約15メートル)の海底に沈んでいるとし、そこには中国が機密情報を得るために搭載した偵察用電子機器が含まれていると考えられるという。
同報道官は、“回収チームは主要な残骸が沈んでいる場所を特定している”とした上で、“既に回収された残骸は研究施設に搬入されていて、分析が進められている”と付言した。
国防総省は、中国の偵察気球の情報収集能力、今回の偵察で取得した情報の中身や、その他中国側偵察部隊の関連情報が得られることを期待して、当該気球の残骸回収に躍起になっている。
ただ、関係筋によると、回収及び解析作業に数年かかる可能性があるという。
なお、当該偵察気球は1月28日にアラスカ州領空に侵入したが、北米航空宇宙防衛司令部(1958年設立、米加共同運用)は軍事的脅威になると感知することに失敗していた。
同気球はその後、カナダ領空を通過した後に、米軍の重要拠点がある場所を含めて1週間程米領空上を通過していたが、2月4日についに撃墜された。
ジョー・バイデン大統領(80歳、2021年就任)は、米領土上であっても撃墜すべしと表明していたが、米軍高官から地上の市民生活を脅かす恐れがあるとして、大西洋沖に出ていくまで待つよう説得されていた。
同日付英国『デイリィ・エクスプレス』紙(1900年創刊)は、「米高官、偵察機器が含まれた中国気球残骸を捜索中とコメント」と詳報している。
米高官が2月10日、米『ABCニュース』のインタビューに答えて、サウスカロライナ州沖に沈んだ中国気球には偵察用電子機器が装着されていたと考えられるとコメントした。
同高官によると、当該装置が据えられていた台座は30フィート(約9メートル)長であるといい、目下、米海軍と沿岸警備隊組成の合同チームが回収作業に取り掛かっているという。
ただ、現地の悪天候の影響で、回収作業は少なくとも2月13日まで見合わせられることになっているという。
同回収チームは、米潜水艦キングフィッシュ(1942~1960年運用)等を模した偵察用水中ドローンやダイバーを起用して、当該偵察気球の残骸回収に当たっている。
これまで回収できたのは、一部の残骸であるが、回収後に米中東部バージニア州・クアンティコ在の米連邦捜査局(FBI、1908年設立)研究施設他に運び込まれて、解析作業が進められている。
なお、米政府は2月9日、当該中国気球には“複数のアンテナ”が付いていて、かつ、“明らかに偵察用と認められる”電子機器が装備されていたと公表している。
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日本の大手メーカーはかつて、「チャイナ・プラス・ワン(注後記)」政策の下、中国以外のアジアの国に生産拠点を移転した。そしてこの程、中国による「ゼロコロナ政策」で工場生産停止等の被害を受けた米国等の大手メーカーが、いよいよ脱中国に舵を切り、その候補先としてインドが挙がっているが、専門家は、中国に代わって“世界の工場”として君臨するのにはまだ時間がかかる、と分析している。
12月12日付
『ビジネス・インサイダー(BI)』オンラインニュース(2009年設立)は、「インド、中国に代わって“世界の工場”を目論むも中々困難」と題して、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に伴う“ゼロコロナ政策”で被害を被った世界の大手メーカーが、生産拠点をインドに移すことを検討しているが、共産党一党独裁の中国と違って、曲がりなりにも民主主義を標榜するインドにあっては、思うように迅速に事は運ばない、とする専門家分析について報じている。
中国による頑なな“ゼロコロナ政策”の下、1980年代から中国に生産拠点を置いていた世界の大手メーカーが、いよいよ脱中国政策を実行しようとしている。
この政策はそもそも、ドナルド・トランプ大統領(76歳、2017~2021年在任)が中国との貿易紛争を勃発させ、2018から2019年に掛けて中国製品に多額の追加関税を課して、脱中国を目論んだことによる。
このときは余り実行性がなかったが、“ゼロコロナ政策”に伴う大損害から、当該大手メーカーの尻に火が点いたことになった。
すなわち、多くの大手メーカーが、(中国という)一国だけに部品・完成品のサプライチェーンを依拠することの危険性を思い知った訳である。
米独立系リサーチ会社のフォレスター(1983年設立)のアシュトシュ・シャーマ副社長(リサーチ担当部門長)は『BI』のインタビューに答えて、“(米・中間の)地政学的対立では動かなかったこれら大手メーカーも、COVID-19問題で尻に火が点いてしまったために移転を余儀なくされた”とコメントしている。
一番多くの被害を受けたのは、IT企業大手のアップル(1976年創業)で、スマートフォンのアイフォン(世界で22億台以上販売)製造を中国に依拠していたため、“ゼロコロナ政策”に伴う工場生産停止で大損害を被っている。
そこで、アップルとしてもいよいよ真剣に代替拠点への移転を検討し始めている。
その一番候補がインドで、アップルの製造委託先のフォックスコン(1974年創業の台湾企業、世界最大の電子機器受託生産企業)が、他半導体メーカーと同様インドを選択しているからである。
脱中国は、バイデン政権が今年10月に、最先端技術の半導体部品を中国傘下の生産工場向けに輸出することに制限をかける政策を発表したことからも、より拍車がかかっている。
サプライチェーン・リスクマネジメント専門のエバーストリーム・アナリティクスのジュリー・ジャーデマン最高経営責任者(CEO)は『BI』のインタビューに答えて、“インドには潤沢な労働市場があり、製造産業も長い歴史があり、更に、政府も国内及び輸出産業発展の後押しをしており、移転先としては申し分ない”と語った。
しかし、予想以上に実現化は難しいと言える。
すなわち、インドは官僚制度やお役所仕事がはびこっていることで悪名が高い国であるからである。
目下インド駐在中のシャーマ副社長によれば、“例えばインドで店を開くとなったら、余りにも多くの障害が立ちはだかり、とても一筋縄ではいかない”とし、“中国も同様の問題があるが、しかし、当局との折衝が奏功すれば、中国で事を運ぶのはかなり迅速である”という。
その上で同副社長は、“インドは曲がりなりにも民主主義の国であることもあって、満足させるべき関係者の数が途轍もない程多いという問題を抱えているからだ”と強調している。
世界銀行(1944年設立)による加盟190ヵ国の2019年ビジネス環境改善指数評価の結果、インドは2014年時の142位から大幅に評価を上げたものの、依然63位である。
一方、中国は31位とインドを遥かに凌駕している。
(編注;2019年評価の1位はNZ、2位シンガポール、3位香港で、米国6位、日本は29位)
更に、インドは長い間保護貿易政策を取ってきており、特に多額投資の面で競争力がかなり落ちる。
そこで、ジャーデマンCEOも、“中国では大きな製造拠点を展開できたが、インドでは、連邦政府の様々な規制や、特に中小企業を保護する政策があるため、多くの工場が小・中規模でしかない”とコメントした。
ただ、ナレンドラ・モディ首相(72歳、2014年就任)が就任以来、外国直接投資(FDI)の呼び込みに注力してきており、政府データによると、昨年度のFDI高は836億ドル(約11兆4,530億円)と最高記録を更新したという。
しかし、シャーマ副社長は、依然中国にはとても敵わないとする。
何故なら、中国はバリューチェーン(事業価値創造政策)を広範囲にわたって構築しており、モノの製造に必要な部材・原材料等を国内で容易に入手できることから、製品を大量にしかも安価で製造できる体制ができているが、インドではまだ全く無理であるからである。
従って、同副社長は、“まず、(インド外で手当ての)部品の組み立て工程から始めて、軌道に乗り始めたら、インド国内での部品供給システムを構築していくことになるが、国内生産部品の品質向上までにはかなりの時間を要すると考えられる”とする。
なお、アップルやファックスコンの他、スポーツ用品大手メーカーのナイキ(1964年設立)、大手自動車メーカーのトヨタ自動車(1937年設立)、IT大企業のサムスン(1938年設立)も脱中国で、生産拠点移転の検討を余儀なくされている。
シャーマ副社長は、“これら大手企業は確かにインドを候補地として選択するだろうが、例えばベトナムとか他のアジアの国も候補地として検討することになろうし、その拠点は一カ所とせず、二、三拠点とすることが十分考えられる”と分析している。
(注)チャイナ・プラス・ワン:繊維、電気部品、自動車部品などの製造業が、中国のみに工場を構えるリスクを回避するため、他アジア諸国に製造拠点を展開した政策。1990年代の円高進行時に、台湾、マレーシア、フィリピンなどに生産拠点を展開してきた企業も、深圳 (しんせん)など中国沿岸部に移転し、量産展開を中国へ集中。しかし、2010年に発生した尖閣諸島中国漁船衝突事件を機に、中国で日系企業に対する襲撃事件などが頻発したことに伴い、日中の政治情勢による生産活動中断のリスク、また、中国沿岸部の人件費上昇による中国生産拠点のメリット減退を懸念して、中国以外のアジアの国に生産拠点を移転。
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