習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)の外交部門の片腕とされる楊潔篪(ヤン・チエチー、72歳、2013年に党中央外事活動委員会弁公室主任に就任)は、対米強硬政策の急先鋒役を担ってきている。そこで、欧米諸国のみならず国内からも、同国家主席の「ゼロコロナ政策」や中国経済に対する疑問や非難の声が上がってきたことを受けてか、同政策も経済活動そのものも秀逸である、とボスを擁護する論説を国営メディアに寄稿した。
5月16日付米
『ブライトバート』オンラインニュース(2005年設立の保守系メディア)は、「習近平の番犬の楊潔篪、都市封鎖措置で経済成長が毀損される中、中国経済は“堅調”だとの反論を投稿」と題して、習政権の外交部門トップが、習近平国家主席の政策も中国経済そのものも秀逸だとする論説を国営メディアに投稿したと報じている。
習政権下で、外交部門を率いている楊潔篪氏は5月16日、2021年3月にバイデン政権外交部門代表と会談した際に対米強硬路線を貫いたのと同様、上海やその他の都市で講じられている都市封鎖措置によって経済が疲弊しているという現実に背を向けて、中国経済は全く堅実だとの主張を展開した。
同氏が国営メディアの論説欄に投稿したもので、“「習近平思想(注後記)」の下、中国は団結と不屈の精神が養われ、中国共産党中央政治局の示す計画及び決断によって、様々な分野で発展を遂げてきた”と主張した。
同氏は、一例として北京冬季大会の成功を上げ、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に際しての武漢(ウーハン)都市封鎖措置が奏功したとし、現在上海等で実施されているオミクロン株流行に伴う都市封鎖措置は、“堅実な”中国経済の成長に対して僅かな影響しか及ぼさない、と強調した。
その上で同氏は、西側諸国が都市封鎖措置を放棄したことや、感染力の弱いオミクロン株に対してチグハグな厳しい制限措置を講じていると揶揄する表現を使う一方、中国が推進している“力強いゼロコロナ政策”は十分奏功していて、国民は皆評価しているとも言及している。
その他、同氏は論説の中で、次の点を強硬に述べている。
・中国が、自由世界の構築に専念してきていること。
・中国共産党はCOVID-19感染問題によって弱体化していないこと。
・台湾、東トルキスタン(現在の新疆ウィグル自治区)、香港、南シナ海における中国主権を益々強化していくこと。
・COVID-19感染問題の最中に発揮したように、今後とも中国が国際社会の新リーダーとして君臨していくこと。
・中国経済弱体化で、これまで主導してきた「一帯一路経済圏構想(BRI)」の下での海外出資が減じられるとの憶測を全否定して、BRIは今後とも最大限に推進していくこと。
かかる強気な主張は、今秋の中国共産党第20回全国大会(5年に一度開催される中国の最高指導機関)開催に先立って、国内外で起こりつつある習政権への批判の声を潰そうとしたものとみられる。
ここ数ヵ月、中国共産党を批判する人たちの間では、習国家主席のリーダーシップに対する疑問の声が益々高まっていることは事実である。
しかし、楊氏の主張に反して、COVID-19対策のための都市封鎖措置に伴い、小売も製造業生産活動も収縮しており、中国の4月の経済成長率は急落している。
海外の経済アナリストは、中国がオミクロン株による景気後退から回復するのは、2020年時に回復を遂げたときよりかなり時間を要することになると予想している。
5月16日付英国『フィナンシャル・タイムズ』紙は、“昨年来の不動産開発業者の連鎖倒産や住宅販売の落ち込み等で、中国経済は既に後退リスクを抱えていた”とした上で、“その上、上海における都市封鎖措置は広範囲に悪影響を及ぼし、国際経済にとっても大きなリスクとなる”と報じている。
5月17日付中国『チャイナ・デイリィ』(1981年発刊の中国共産党宣伝部保有の英字紙)は、「外交部門トップ、経済再生は確かなものと主張」と、楊氏の強気の論説について報じている。
中国外交部門トップの楊氏は5月16日、『人民日報』(1948年創刊の中国共産党中央委員会機関誌)に投稿して、“中国を中傷したり攻撃したりするための偽情報を拡散する企みは決して成功することはなく、また、中国の発展や成長を遅延させたり妨害しようとする陰謀も必ず失敗する”と訴えた。
同氏は、「習近平思想」の下で、今冬の北京大会等大規模イベントの開催、高度な進歩、世界の他の国々との対話の進捗等々、中国が如何に大きく発展してきたかについて詳述している。
同氏の論説について、識者は、台湾・新疆ウィグル自治区・香港・海洋主権・人権等々で中国を攻撃している国々に対して、共産党政府が毅然と対抗している姿勢をバックアップするために寄稿したものだとみている。
中国政府はまた、ロシア・ウクライナ間紛争について根拠のない非難を受けたり、一部西側諸国からCOVID-19感染症問題を契機に中国側の社会システムを指弾されたりしたが、これにもしっかり対応している。
そこで同氏は、“かかる対応に当たって、中国は国際社会での正義を強く訴え、求められる責務を果たし、公正かつ平等を粘り強く堅持してきたことによって、多くの国々、特に非常に多くの途上国から幅広い支持と理解を得るに至っている”と強調している。
更に同氏は、“中国は、米国側が中国を抑え込もうとしたり倒そうとしたりする悪巧みに対して、徹底的に対抗していく”とも言及している。
(注)習近平思想:正式には、習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想。2017年10月に開かれた中国共産党第十九回全国代表大会で、習国家主席が披露したもの。過去中国が使った五つの共産主義的な思想(マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・鄧小平理論・3つの代表・科学的発展観)が習近平により洗練され、自ら第6の思想になるものと言われている。現在の中国や中国共産党の指導思想でもあり、中国政府側は現代の中国の現状に最も相応しい理論だと公式的に宣伝している。
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中国では、毎年民族大移動が起こる春節を10日後に控える。更に、北京冬季大会が2週間後に始まることもあって、中国本土の多くの都市で厳格な行動制限措置を講じている。例えば、北東部のハルビン(黒竜江省)では、新規感染者が発生していないのにも拘らず、約1千万人の全市民に対して新型コロナウィルス(COVID-19)の検査を実施するという。
1月22日付欧米
『ロイター通信』:「ハルビン市政府、春節の長期休暇前に全市民のCOVID-19検査実施」
中国北東部のハルビン市政府は、約1千万人の全市民に対して1月24日からCOVID-19検査を実施すると発表した。
同市において直近ではCOVID-19新規感染者は発生していないが、春節の長期休暇を控えることから、予防対応のためだとしている。
同市政府は、ITアプリ「ウィーチャット(微信、IT大手テンセントが開発)」のオフィシャルアカウント上で、多くの人の移動が起こる春節を控え、“多くの都市でオミクロン株の感染が発生しており、これを防ぐため、厳しい対応を行う必要がある”と表明した。...
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1月22日付欧米
『ロイター通信』:「ハルビン市政府、春節の長期休暇前に全市民のCOVID-19検査実施」
中国北東部のハルビン市政府は、約1千万人の全市民に対して1月24日からCOVID-19検査を実施すると発表した。
同市において直近ではCOVID-19新規感染者は発生していないが、春節の長期休暇を控えることから、予防対応のためだとしている。
同市政府は、ITアプリ「ウィーチャット(微信、IT大手テンセントが開発)」のオフィシャルアカウント上で、多くの人の移動が起こる春節を控え、“多くの都市でオミクロン株の感染が発生しており、これを防ぐため、厳しい対応を行う必要がある”と表明した。
中国国内の多くの都市では、来月初めに北京冬季大会開催を控えることもあって、COVID-19感染拡大を防ぐために厳しい行動制限措置が取られている。
ただ、一部の国営メディアは、例えば東部河南省のある県当局が、この時期に故郷に帰るような“悪意に満ちた行動”を控える様にとの通達を無視した県民に対して検査を行い、陽性と判明すれば拘束する、と表明したことを酷評している。
『人民日報』は、ミニブログサイト「ウェイボ―(微博、新狼公司が運営)」上で、“春節時に故郷に帰りたいと思うのは人の常であり、それを悪意を持った行動と評するのは如何なものか”と苦言を呈した。
そして、“感染を抑えるのは重要な任務であるが、それは科学的かつ法に適う方法で行うことが肝要であり、故郷に帰りたいと思う人たちにもっと思いやりを持って接するべきである”と言及している。
なお、中国国家衛生健康委員会(NHC、1949年前身発足)は1月22日、1月21日の新規感染者は63人と、前日の73人より減少したと発表した。
そのうち、市中感染は23人で、残り40人は海外からの渡航者だとする。
1月21日現在の中国全土の総感染者は10万5,547人で、死者は出ておらず4,636人のままである。
同日付中国『チャイナ・ナショナル・ニュース』:「中国の新規感染者のうち23人が市中感染」
NHCが1月22日、前日に市中感染者23人が出たと発表した。
内訳は、北京10人、天津6人、河南省4人、広東省3人となっている。
また、中国全土で海外渡航者のうち40人の感染が確認されたとする。
中国政府は、北京等の大都市における新規感染者の発生を懸念しており、特に冬季大会開催を控える北京において、オミクロン変異株の感染者が出たことを憂慮している。
そこで、北京においては厳しい防御措置が取られることになり、例えば同市に入る全ての旅行者は、直近72時間前までのCOVID-19検査が必須とされている。
『北京日報(1952年発刊)』は、オミクロン株の早期発見及び感染拡大防止対策のため、当該措置が1月22日から3月末までの期間適用される、と報じた。
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