サウジアラビアのエネルギー相は29 日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による石油施設に対する攻撃により、サウジアラビアが世界に十分なエネルギーを供給する能力が損なわれていると述べた。
米
『ブライトバート』によると、サウジアラビアのエネルギー相は、3月29日にドバイで開催されたアラブ首長国連邦(UAE)主催の世界政府サミットで、「イランが支援するイエメンのフーシ派反政府勢力による、25日のドローンやミサイルによる一連の攻撃を含むサウジの石油施設への攻撃」に言及した。
サウジアラビアのエネルギー相は、これらの攻撃が「必要なエネルギーを世界に供給する我々の能力を危うくしている」と述べた。「昔は、アラブ首長国連邦にいる友たちとともに、エネルギーの安全保障を確保するために、一丸となって取り組んできた。このような柱は、もはや存在しない。」と語った。
フーシ派は最近、隣国サウジアラビアの石油プラントへの攻撃を相次いで行っている。フーシ派のテロリスト集団は2015年にイエメン政府を転覆させ、現在も続く内戦を引き起こした。同テロ集団はイランと連携して、「アラー・アクバル、アメリカに死を、イスラエルに死を、ユダヤ人に呪いを、イスラムに勝利を」というスローガンのもと活動している。しかし、アメリカのバイデン大統領は就任直後、フーシ派の外国テロ組織指定を解除した。
米『ABCニュース』によると、フーシ派はドローンやミサイルを使って王国の石油施設を狙い、UAEの首都アブダビの標的も攻撃している。UAEを含むサウジ主導の軍事連合が2015年からフーシ派と戦っているイエメンでの戦争は、この2つの湾岸アラブ諸国を揺るがし、石油施設の脆弱性を露呈している。サウジアラビアは公式声明で、攻撃による石油供給不足の責任は一切負わないとして、不満を表明している。米国とサウジアラビア政府は、フーシ派はイランによって武装されていると主張しているが、イラン政府はこの疑惑を否定している。
OPEC最大の産油国であるサウジアラビアへのフーシ派の攻撃を受け、すでにここ数年で最高値となっている原油価格がさらに高騰している。エネルギー価格の高騰は石油輸出国に利益をもたらすだけでなく、ロシアがウクライナ侵攻に対する欧米の制裁から受ける経済的苦痛の一部を相殺するのに役立っている。
米国、欧州諸国、日本は、石油の生産能力に余裕のある湾岸アラブ諸国に対し、石油の増産を要請してきた。英国のボリス・ジョンソン首相は今月、リヤドとアブダビで直接その要請を行った。しかし、UAEのエネルギー相はサミットで、「我々が求めているのは(中略)我々にああしろ、こうしろという指示ではない。私たちはこの分野の専門家であり、非常に長い間携わってきた」と述べた。
UAEは前日に開催されたエネルギーフォーラムでも、OPEC+の同盟を擁護した。サウジアラビアのエネルギー相とともに、ロシアの日量約1000万バレルの原油生産の重要性を強調し、世界の石油需要のほぼ1割に相当すると述べた。また、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、政治とエネルギー政策は切り離すべきだと主張し、「我々は今日、どちらの側にもつかない」と述べた。OPEC+の目的は、市場の安定化だという。
一方、米国がフーシ派を非難し、米国がサウジアラビアに対ミサイルシステムを供給しているにもかかわらず、バイデン政権とサウジアラビアの実質的な統治者であるムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の関係は依然として緊迫したままである。バイデン大統領は王子の父であるサルマン国王と会話しているが、米大統領就任以来、両者の直接の通話はない。バイデン政権がイランとの核合意に近づく中、イスラエルと湾岸アラブ諸国は、イランへの制裁を解除するような取り組みに依然として激しく反対している。
ドイツ公共放送局『ドイチェ・ヴェレ』は、ここ数週間、フーシ派の攻撃が著しく増加していることを考えると、豊かな大国であるサウジアラビアがなぜ軍事的に劣勢にあるように見えるのか、意外な感じがする、と報じている。そして、その理由のひとつは、サウジアラビアの最大の同盟国であり武器提供国であるアメリカとの関係がぎくしゃくしていることだと伝えている。アメリカは、2018年10月にイスタンブールのサウジアラビア領事館内でジャーナリストのジャマル・カショギが殺害された後、支援を取りやめていた。
その結果、サウジアラビアの石油生産と空港に対するフーシ派の攻撃を受け、2019年に設置した対ミサイル砲台「パトリオット」と終末高高度防衛システム(THAAD)は規模を縮小した。さらに、同年夏にはリヤドから約115キロ(70マイル)離れたプリンス・スルタン空軍基地から数千人の部隊が移転させられた。やがてサウジアラビアではミサイルが不足し始め、同国の防衛力はさらに弱体化したという。
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『ニューヨーク・タイムズ』
この程リークされた機密文書によると、中国とソロモン諸島(SI、1978年英国より独立した英連邦王国)が、中国軍部隊や軍艦が同国に自由に出入りできるようにする安全保障条約の締結間近になっているという。
SIは、南太平洋の島嶼国のひとつで、第二次大戦時に旧日本軍が同諸島内のガダルカナル島を拠点としたことから、激戦地となっていた。
当該文書は、SIの親中国政策に反対するグループによって3月24日晩にオンラインで公開されたもので、豪州政府も正規の文書であると認めている。
米中道シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、ワシントンDC本拠)豪州支部のチャールズ・イーデル新代表は3月25日、“SIに戦略的敵対国(中国)の海外軍事基地が設営されれば、豪州及びNZの安全保障をすこぶる低下させるだけでなく、地元政治家の不正を惹起し、資源の搾取がまかり通るようになることが懸念される”と警鐘を鳴らした。
目下のところ、どちら側が同条約締結をはたらきかけたか明らかではないが、中国にSIにおける軍事拠点化を認めることで、米国・豪州間の南太平洋海域の航行を分断する機会を与える代わりに、SIのマナセ・ソガバル首相(67歳、2019年に4期目就任)にとっては、政権維持のための支援を中国に求め易くなることになる。
5ヵ月前、中国が密かにSIへの影響力を高めていることに反発したグループが、首相官邸を襲撃し、また、首都ホニアラのチャイナタウンの商店を焼き討ちする事件を起こしていた。
この事件の犠牲者は3人であったが、現在SI市民が恐れる最悪のシナリオは、来年予定されている総選挙までに民主主義が冒されて、暴動が頻発し、平定のために中国軍や治安部隊が介入してくることである。
何故なら、リークした文書によれば、“SIは、社会秩序や国民の生命・財産を守るために必要と判断した場合、中国に対して、警察・軍・その他治安部隊をSIに派遣するよう求めることができる”と言及されているからである。
野党党首のマシュー・ウェイル議員(53歳、2019年就任)は、“どのようにも解釈しうる当該条約案は、現首相の保身だけのためのものであり、SIの安全保障とは何ら関係のないものだ”と酷評した。
一方、中国側にとっては、同条約案によれば、“SIが同意すれば、必要とされるときはいつでも、中国船舶を寄港させ、兵站を補充し、短期滞在のための便宜供与を受け、かつ如何なる設備も使用することができる”とされている。
そこで、これまでSIと伝統的に安全保障関係を有してきた豪州は、即刻外務省の声明を発表し、“当該安全保障条約締結に伴い、南太平洋地域の安定を損なう恐れがある”と警告している。
ただ、ソガバレ首相の今回の対応は以前から推測できていて、2019年に4期目の首相として返り咲いた際には、就任早々長年国交のあった台湾と断交し、中国との国交を樹立させているからである。
なお、米国政府関係者も、中国が何年も前から、SIの他、キリバス(1979年英国から独立、英連邦加盟国)やフィジー(1970年英国から独立、英連邦加盟国)等の南太平洋島嶼国に外交官を多く派遣し、中国人を移民させ、また、インフラ整備を積極的に行い、影響力を高めているとして、懸念してきていた。
先月になって漸く、アントニー・ブリンケン国務長官(59歳)がフィジーを訪問し、中国に対抗して南太平洋島嶼国におけるプレゼンスを高めるべく、SIに大使館を再設置すると宣言している。
野党代表のウェイル議員も、“米国なら、可及的速やかに有効な手段を講じてくれるはずだ”と期待を込めてコメントしている。
『ABCニュース』
3月24日にリークしたSI政府関係文書について、SI政府は3月25日、“SI市民の生命・財産を守るため、必要に応じて、より多くの国々と安全保障条約を締結する意向”であると釈明している。
しかし、豪州・NZ両政府とも即座に懸念を表明している。
豪州のゼッド・セセリャ国際開発・太平洋担当大臣(44歳、2020年就任)は『ABCニュース』のインタビューに答えて、専制国家が太平洋島嶼国の“安全保障環境”に関わってくることを全く望んでいないとした上で、SIの行動について非常に懸念していることを他の太平洋島嶼国にも伝えているとコメントした。
同大臣によれば、駐SIのラチラン・ストラハン高等弁務官(英連邦の呼称で特命全権大使に相当、56歳)が既にソガバレ首相に対して豪州政府の懸念を伝達しているという。
同大臣は、“公開された文書は依然条約案の段階のものであるので、まだ両政府間の協議によって如何なる対応も可能だと信じる”とも言及した。
なお、同大臣は3月25日夕、マリーズ・ペイン外務大臣(57歳、2018年就任)と連名で、“豪州政府は同胞である太平洋島嶼国が独自の決定を行うことを尊重する”としながらも、今回の中国との安全保障条約締結とのニュースについては重大な関心を抱いている旨発表している。
すなわち、同声明では、“中国がSIに軍事基地を開設する等の結果、南太平洋地域における安全保障が脅かされることを深く懸念する”と強調している。
また、NZのナナイア・マフタ外務大臣(51歳、2020年就任)も、駐SI高等弁務官を通じてSI政府にNZ政府の懸念を伝達済みである旨コメントしている。
一方、中国外交部(省に相当)の汪文斌報道官(ワン・ウェンビン、50歳、2020年就任)は定例記者会見で、関係各国は、中国とSI間の安全保障協力関係について“過剰に反応しない”ように求めた。
同報道官は、“豪州の何人かの政治家が、「中国による支配」などと誤った考えを公表しているが、このような偏見は悪戯に緊張を高めるだけで、地域の安定や平和を脅かす無責任な発言”だと一蹴した。
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