ウクライナ戦争において、6月頃から米国から提供された高機動ロケット砲システム(HIMARS)等が威力を増し、ロシア軍の形勢がかなり不利になっている。そこでロシア側は、形勢逆転を狙ってイラン製攻撃・偵察大型ドローン数百機を取得する目処を立てたが、8月下旬に最初に引き渡されたドローンに多くの不具合が見つかり狼狽しているとみられる。
9月2日付米
『ワシントン・ポスト』紙は、「イラン、ウクライナ戦争投入用のドローンをロシア側に輸送」と題して、今年7月頃にロシア・イラン間の交渉でイラン製攻撃・偵察大型ドローン数百機のロシア側への提供が決まったが、8月下旬に最初に引き渡されたドローンに多くの不具合が見つかった模様だと報じている。
匿名条件で諜報機関の米高官が語ったところによると、ロシア軍の貨物輸送機が8月19日、イラン製攻撃・偵察大型ドローン(UAV)2機を積んでイランを飛び立ったという。
それは、イラン最新鋭の攻撃ドローン「シャへド129」及び監視・偵察ドローン「サーエゲ(シャへド191)」という。
米高官によると、近年急接近を続けていたロシア・イランが、反米の一環でイラン製UAV提供の話が7月にまとまり、以降、イラン技術者がロシアを訪れたり、ロシア兵がイラン製UAV操作訓練のためにイランに派遣されたりしていたとする。
しかし、この程ロシア側に提供された最初の2機にプログラム・バグ等、多くの技術的不具合が見つかったという。
同高官によると、“システムにバグがかなり見つかり、ロシア側は非常に不満を表している”という。
ウクライナ軍は、ロシアによる軍事侵攻に抵抗するため、トルコ製ドローンを駆使してロシア軍の装甲車・トラック・迫撃砲等を有効に攻撃していた。
一方、ロシア軍もロシア製ドローンを1,500~2,000機を投入してウクライナ側を攻撃してきた。
しかし、専門家によると、ロシア製ドローンは西側諸国の電子部品等を多く使っていることから、対ロシア制裁で追加手配が不可能になっており、イラン製UAVは鬼に金棒と期待していたとみられる。
親イスラエル米シンクタンク、ワシントン近東政策研究所(1985年設立)の軍事・安全保障問題専門家のマイケル・ナイツ氏は、イランはこれまで軍事用クローンをイエメンの反政府武装勢力フーシ(1994年活動開始)等同盟関係にある国・グループに供給してきたが、精密誘導弾搭載可能な精緻な「シャへド129」を提供したことはなかったので、回路系統のバグ等不測の事態に備える体制ができていなかったとみられる、と分析している。
同氏によれば、“フーシによるサウジアラビアや在イラク米軍へのイラン製ドローン攻撃も全てうまくいっていた訳ではなかったことに加えて、高度な対空防衛システムが整備されたウクライナに高性能ドローンを用いた作戦を実行したこともなかったため、今回のような技術的不具合を生ぜしめたものと考えられる”という。
なお、米国はウクライナ支援の一環で、6月よりHIMARSを提供し始めているが、これによってウクライナ軍は、前線から50マイル(約80キロメートル)離れた後方よりロシア軍の弾薬庫や補給基地を正確に攻撃することができ、かなりロシア軍を後退させている。
従って、ワシントン在シンクタンク、シルバラード・ポリシー・アクセラレーター(2020年設立)のドミトリー・アルペロビッチ会長は、“ロシア軍としては、HIMARSからの攻撃をかわす術を全く持ち合わせていないので、イラン製高性能攻撃・偵察大型ドローンを何としても投入したいと期待していたはずだ”と分析している。
8月31日付UAE『ザ・ナショナル』(2008年創刊の英字紙)は、「米高官、ロシア軍がイランから提供のドローンに多数の不具合を発見して難儀していると表明」との『AP通信』記事を引用して報じている。
米高官情報によると、ロシアがイランから8月中旬に取得したイラン製UAVに“多くの不具合”があったことで狼狽しているという。
匿名条件での情報開示として複数の高官が、ロシア軍はイランから監視・偵察ドローン「マハジェル6」及び攻撃ドローン「シャへド・シリーズ」を数百機取得することで合意していたが、今月受け取った最初のUAV 2機にコンピューター・プログラムのバグ等技術的不具合が見つかったものとみられる、と語っている。
ロシア軍としては、ウクライナ戦争で形勢挽回のため、イラン製高性能ドローンを投入して、空対地攻撃や電子戦を優位に運ぼうと考えたとみられる。
なお、西側による制裁に苦しむロシアは、新たな武器供給先としてイランとの連携を強めることとし、6月頃からイラン側と高性能UAVの提供交渉を行っていた。
一方、イランのホセイン・アミール=アブドッラーヒヤーン外相(58歳、2021年就任)は先月、“国防分野含めて、ロシアとあらゆるレベルでの協力体制を構築することになった”としながらも、“イランとしては、ウクライナ戦争の早期終結を望んでいることから、どちら側にも加担する意向はない”と語っていた。
閉じる
カンボジアの海軍基地に中国軍が利用する施設を建設しようとしていると欧米メディアが報じたが、カンボジアと中国は、中国による軍事的使用が目的ではないとこれを否定している。
6月8日付英
『ガーディアン』:「豪首相が懸念する海軍計画をカンボジアと中国は否定」:
カンボジアと中国は、カンボジアの基地に中国艦隊が利用する海軍施設を秘密裏に建設しているとした報道を否定している。オーストラリアの新首相は、このプロジェクトに懸念を表し、透明性を求めている。
米「ワシントン・ポスト誌」が、匿名の当局者の話として、戦略的拠点であるタイランド湾に面したカンボジアのリアム基地に中国軍が利用する新たな施設を建設されていると報じた。この基地は以前から米国とカンボジアの間で懸案事項となっていた場所。米国は、国際的軍拡を狙う中国の利用目的に転換されるのではと懸念していた。
豪外務大臣との電話会談で、カンボジアのソーケーン副首相は、この報道を「根拠のない言いがかり」だと否定。一方、中国台頭への対策としてインドネシア訪問中の豪のアルバニージー新首相は、これらの報道を「懸念している」とし、中国に透明性を求めた。また、「豪は定期的にカンボジアと連絡を取っているが、如何なる海外の軍も特別待遇をしないと確約していた」とした。
豪は、太平洋地域での中国の軍拡に懸念を高めている。4月には豪から2千キロ以内にあるソロモン諸島と中国の平和条約締結案がリークされ、中国海軍の太平洋諸島への展開にむけ懸念が高まった。
カンボジアのフン・セン首相は、リアムの建設は、中国の支援による船舶のメンテナンス施設基地の近代化に他ならないと主張。5月の演説では、「カンボジアは領土内における如何なる外国軍の存在を必要としない」と述べていた。
中国側も、基地はカンボジア側の使用のみの目的だと主張。 趙麗建外務省報道官は7日、報道陣に対し、「リアム基地の工事はカンボジアの海軍力の補強による海洋自治権強化と海洋犯罪の取り締まりのみが目的」と述べ、米国の批判はカンボジアへの「悪意ある攻撃と汚名」と批判した。
2019年米メディアにより、中国の戦艦を同基地に停泊させる協定案が報道されていた。その後、カンボジアは米国資金で建設された基地内の施設や、米軍との合同演習に使われた施設の一部を解体していた。カンボジア防衛相と中国の大使は、船舶修理工場や防波堤などのリアムの新施設の開幕式に出席する予定。
6月7日付米『ブルームバーグ』:「中国が秘密裏に海軍施設を建設との報道をカンボジアが否定」:
カンボジアが再度、中国が秘密裏に同国の基地に海軍施設を建設中との懸念を否定した。両国は、今週軍事プロジェクトを開始する予定。
欧米当局は、中国の軍事プレゼンス拡大を懸念。カンボジアの政府報道官は、今週、中国との港湾関連プロジェクトが開始されるとするも、中国に基地への特別アクセス権はないと主張した。8日には、船舶修理工場や船台の建設に関連するプログラムを予定。カンボジアの外交官も招待されており、「何も隠していることはない。基地の特別使用は憲法違反となる。誰もが使用でき、問題視されるものではない」としている。
このカンボジアでの動きは、中国の同地域での軍拡懸念をさらに高めることとなる。王毅外務相は、開発協定締結のため、最近でも多くの太平洋諸国を訪問している。中国は、今年始め、カンボジアを「鉄壁の友人」と表現、両国の軍事強化で覚書に署名をしたが、詳細については示されていない。
プノンペンの米大使館のチャド・ローデマイヤー報道官は、「リアム基地での中国のプレゼンスは、カンボジアの自治権および地域の安全保障を脅威となる」とし、我々は「信頼に足る報道により、中国がリアム海軍基地での重要な新規建設プロジェクトに関わっているとみなすもの」としている。バイデン米政権は、11月、カンボジアの基地の汚職問題に関連した軍事高官2名を含む、企業や個人を制裁対象としている。
閉じる