アメリカ情報中央局(CIA)は今月初旬、中国の情報収集を専門に行う「中国ミッションセンター」の設置を発表した。海洋進出を強める中国に対抗するための措置で、バイデン米政権の公約に沿ったものだとしている。これに対し、中国軍による国営メディアはスパイ活動への抵抗を国民に呼びかけている。
10月17日付香港
『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は「CIAの対中国専門組織設立で、中国軍報が米スパイへの人民戦争を呼びかけ」との見出しで以下のように報道している。
中国軍メディア「人民解放デイリー」が、米CIAが対中戦略新センターを設立したことを受け、米国人スパイに対抗する人民戦争を呼びかけた。
今月7日、CIAのウィリアム・バーンズ長官が「世紀の重要な地政学的脅威への対抗策」として発表した「中国ミッションセンター」設立のニュースは、中国のソーシャルメディア上で拡散した。この国営メディア(人民解放デイリー)の動画によると、CIAは中国語が達者で標準語、広東語、客家語、上海語が理解できる工作員をリクルートしているという。また、ウェイボーのアカウントでは、CIAを外敵組織と呼び、特別工作員をリクルートしている米情報機関は、裏で汚いやり方をしていると批判し、国家安全保障のため国民の支援を仰ぐとした上で諜報リスクに対抗する人民戦争を呼びかけている。
中国外務省の趙立堅報道官は、「CMCは、米国の典型的な冷戦時代のメンタリティの表れ」だと反発。ここ数年、中国当局は外国の諜報リスクに警戒しており、取り締まり強化や国民に疑わしいスパイを報告するよう呼び掛けてきた。一方、米国家安全保障省によると、昨年、経済や金融で5年前と比べ7倍の諜報活動事例が確認されたとされ、中国が米国内でのスパイ活動を強化しているとの懸念もこのセンター設立の理由とされている。
ロバート・ベア元CIA工作管理官は以前、多くの工作員が中国語を話せなったと証言していた。レオン・パネッタ元CIA局長かつ元国防長官は、中国は依然として諜報が困難な国であるため、中国にフォーカスしたセンター設立は理に適うとしている。
同日付『Newsweek』は「中国軍報がCIAを批判、米スパイ対抗の人民戦争呼びかけ」との見出しで以下のように報道している。
今月初め、バーンズCIA長官は、中国の活動を監視するための諜報組織「中国ミッションセンター」の立ち上げを発表、21世紀の地政学上最大の脅威となる中国政府への情報収集を強化するとした。
中国国営メディアは、発表後一週間、「CIAがネイティブの中国人採用を精力的に行っている」とする動画を拡散。「国家安全保障を守るには、国民を信頼するしか方法がない。スパイの脅威から国を守るため、戦う必要がある」と主張している。
米情報機関や米国会議員からは、経済急成長を遂げ覇権主義を続ける中国の脅威への懸念が高まっている。中国人ハッカーがサイバー攻撃を米国にしかけたとの情報もあり、南シナ海での武力衝突への懸念も高まっている。
パンデミックの影響によるサプライチェーン問題で米中の経済問題も深刻化している一方、トランプ前大統領同様、バイデン大統領も貿易摩擦や安全保障問題と並び、中国を外交政策課題の柱としてきた。
閉じる
8月3日付欧米
『ロイター通信』:「台湾チームのメダル獲得で、“チャイニーズタイペイ”の名の下でのオリンピック参加に物議」
東京大会のバドミントン男子ダブルス競技において、台湾チームが決勝で中国チームを破って金メダルを初めて獲得した。
そして王斉麟選手(ワン・チーリン、26歳)が試合当日の7月31日の晩、フェイスブック上で、優勝の喜びと共に“自分は台湾出身だ”と書き込んだ。
しかし、この書き込みによって、長く燻っている“ひとつの中国”問題論争が勃発している。
台湾チームは目下、金メダル2個の他8つの銀・銅メダルを獲得する程大躍進していることから、台湾の政治家から有名人まで、“チーム台湾”、“台湾は台湾”との大合唱が起こっている。
そして、王選手のフェイスブックの書き込みを100万人以上が称賛していて、SNS著名人の林佳瑩氏(リン・チアユン)も、“もう「チャイニーズタイペイ」の呼称は使わず、「台湾」名でオリンピックに参加し、かつ、世界にも訴えていこう”と言及している。
しかし、中国政府の台湾政策は不動で、あくまでも“ひとつの中国”と見做しており、必要に応じて将来的に武力で統一する可能性も示唆する程である。
現実問題、中国は国際機関や民間事業会社に対して、台湾が中国の一部であると宣言しており、これに抗って台湾を独立国として認めているのは、世界で僅か15ヵ国、それも小国ばかりである。
中国の国務院台湾事務弁公室(1988年設立)は『ロイター通信』のインタビューに答えて、“「チャイニーズタイペイ」名でのオリンピック参加は、「ひとつの中国」原則の下での取り扱いであり、国際スポーツ機関・連盟も了解してのことだ”とし、“スポーツイベント上の扱いで以て、「台湾独立」を求めることなど全くあり得ない話だ”と一蹴している。
そもそも「チャイニーズタイペイ」という呼称は、1970年代後半に台湾オリンピック委員会とIOC間の妥協で決められた。
IOCは条件として、参加に当たって台湾国旗や国歌は使用しないこととしたが、同様の措置が他の国際スポーツイベントでも踏襲されている。
しかし、今回の東京オリンピックに当たり、開会式で『NHK』が、「チャイニーズタイペイ」というプラカードを掲げて入場した同チームを“台湾”と呼んだことで改めて注目を集めた。
これには、台湾の政治家もまた多くの著名人も称賛した。
ただ、肝心の台湾民衆は少々異なるようで、2018年に実施された住民投票では、「チャイニーズタイペイ」ではなく「台湾」名での参加を認めるようIOCと協議するとの提案が否決されている。
当時の市民は、悪戯に中国を刺激して、台湾をオリンピックから締め出す行動を起こされることを懸念したとみられる。
しかし、与党・民主進歩党の羅致政書記長(ロー・チーチェン、56歳)は、チャイニーズタイペイという呼称の使用は、“力づくで吞まされた受け入れがたい措置だ”と非難の声を上げている。
同日付台湾『フォーカス台湾』(1924年設立の国営台湾中央通信社):「バドミントン決勝で使用された“ホークアイ・チャレンジ(ビデオ判定)”画像ネタに注目」
7月31日に行われた、バドミントン男子ダブルス競技の決勝戦で、台湾チームの打った羽根が中国チームのエリア内に落ちて、台湾チームが勝利した。
しかし、中国チームが“ホークアイ(注後記)・チャレンジ”を要求したため、ホークアイ画像で確認されることになったが、結果は“イン”であって、台湾チームの勝利に変更はなかった。
オリンピックの当該競技で、台湾チームが金メダルを獲得するのは史上初であり、当日夜から、“台湾”、“台湾イン”、“T-aiwan”、更には、“Tに羽根”という画像がSNS上で拡散した。
台湾の人たちにとって、中国側の“チャレンジ”にも拘らず、結果として“台湾が勝利”したことが、現在の台湾の置かれた状況についての不満及び反発を表す格好の材料となったとみられる。
バドミントンチームのスポンサーでもある台湾土地銀行(1946年設立)も8月2日、“T”や “T-aiwan”をイメージしたクレジットカードを作成・発行すべく準備していると発表する程である。
ただ、現実は、台湾チームの表彰式において、掲揚されたのは台湾国旗ではなくオリンピック旗であり、また、国歌演奏は許されず、旗を掲揚する際に使われる台湾の古い歌が使用されている。
この背景は、1981年に台湾オリンピック委員会とIOCが合意した、台湾のオリンピック参加を認めるための条件に基づくものある。
すなわち、中国が当時、台湾が“中華民国”の名の下でオリンピックに参加することを強硬に反対したため、台湾側として止む無く妥協した産物である。
(注)ホークアイ:ソニーが2011年3月に買収した、ホーク・アイ・イノベーションズが開発を進める審判補助システム(ゴールライン・テクノロジー)。球技において、試合中にボールの位置や軌道を分析し、それらをコンピューターグラフィックスで再現することにより、審判が下す判定の補助を行うコンピューター映像処理システム。またボールの位置や軌道の統計を作成し画面に表示する。クリケットの試合やテニスのウィンブルドン選手権等の国際大会で採用されており、他の球技にも応用可能とされる。
閉じる