横須賀基地所属の米軍将校が昨年起こした死亡交通事故に関わる裁判結果について、米議員や擁護団体から日本の裁判制度の不公平さを非難する声が上がっている。中には、長年日本側から上がっている日米地位協定への不満のはけ口として、同将校がスケープゴートにされているとの極論も出る程で、ジョー・バイデン大統領(79歳)の介入要求まで出される始末である。
7月26日付
『星条旗新聞』(S&S、1861年創刊の米軍準機関紙)は、「米議員、禁固刑が下った在日米海軍将校の釈放を要求」と題して、死亡交通事故を起こした横須賀基地所属の将校の弁明も聞き入れず、一方的に懲役3年の有罪判決を下した日本の司法に対して米議員らが一斉に糾弾していると報じた。
在日米軍のリッジ・アルコニス中尉(34歳)は7月25日、昨年起こした死亡交通事故に関わり有罪判決を受けて収監された。
これに対して、米議会上院、下院議員らが一斉に不当裁判だと糾弾している。
同中尉は昨年5月、静岡県富士宮市で無謀運転による死亡事故を起こした容疑で、静岡地裁から禁固3年の有罪判決を受けていたが、東京高裁も今年7月13日、同中尉の控訴を棄却していた。
在日米海軍報道官のキャティ・セレーゾ中佐は7月26日、電話取材に応じて、アルコニス中尉は7月25日に東京拘置所に収監され、後日横須賀刑務所に移送されるとの報告を受けているとコメントした。
訴状によると、同中尉は家族とともに昨年5月29日、富士山に登った後に車で向かった富士宮市の蕎麦店の駐車場に突っ込んで、女性(85歳)とその義息(54歳)を死亡させ、他数人を負傷させたという。
同中尉は昨年8月24日、富士山登山の結果症状が悪化して失神したために起きてしまった事故だと証言したが、同地裁は認めず、また東京高裁もこれを退けたものである。
この結果を受けて、米議員はもとより同中尉家族及び両親も米テレビ番組に出演し、ジョー・バイデン大統領が介入するよう訴えた。
まず、アマタ・レイドワーゲン下院議員(74歳、米領サモア準州選出共和党員、2015年初当選)は7月20日、“日本の司法の間違いは深刻で、本来強化しなければならない日米関係を逆に棄損してしまう”とし、バイデン大統領及びラーム・エマニュエル駐日大使(62歳、2021年就任)が然るべく動く必要がある“と訴えた。
また、マイク・レビン下院議員(43歳、カリフォルニア州選出民主党員、2019年初当選)は7月22日、同中尉の裁判は不公正であるばかりか、日米地位協定(SOFA、注1後記)にも違反すると非難した。
更に、マイク・リー上院議員(51歳、ユタ州選出共和党員、2011年初当選)は、“罪のない人間を有罪にするのが日本のやり方とするなら、今こそSOFAを再評価しなければなるまい”とまでツイートしている。
米軍将兵のために活動しているパイプ・ヒッター財団(PHF、注2後記)によると、“アルコニス中尉は不当に26日間も勾留され、かつ、SOFAに違反して裁判官が勾留手続き等必要不可欠な措置をすぐに下さなかった”という。
また、“日本の警察が、同中尉を眠らせずに長時間取り調べを行う等、同中尉の人権を蹂躙した”とも言及している。
SOFAの下では、日本側当局が“被疑者を拘束しておく重要な事由がある”ということでない限り、即刻釈放して米側に引き渡す必要がある。
なお、日本弁護士連合会(日弁連、1949年創立)情報によると、日本の法律では、保釈金が納められない限り、被疑者は23日間勾留できるとされている。
しかし、アルコニス中尉の場合では、日弁連によると、弁護士の同席も許されず、長時間にわたり密室での取り調べが行われたという。
同日付『ニューヨーク・ポスト』紙(1801年創刊の保守系メディア)は、「海軍中尉の有罪判決に対して家族はもとより米議員らも一斉非難」と、日本側の司法が不公正だとして猛烈な非難の声が上がっていると報じている。
アルコニス中尉の家族は、同中尉の禁固3年の有罪判決を聞いて“ショック”を受けたと語った。
何故なら、不幸にして2人の犠牲者及び複数の負傷者を出してしまったが、医師は事故の原因として、同中尉の疾患があったと述べていたからである。
PHFが収集した情報によると、日本の警察がSOFA規定を顧みずに、不当に1ヵ月近くも独房に監禁して取り調べを行ったという。
また、神経科医は、富士山に登ってすぐの24時間内の場合、突発的な高山病に罹患した恐れがあるとし、今回の事故も無謀運転(法廷は居眠り運転と認定)などではなく、失神したために起こった可能性があると語っているからである。
更に、同中尉の家族は遺族宛に謝罪文を書き、慰謝料として165万ドル(約2億2千万円)を支払いたい旨申し入れていた。
かかる背景があったにも拘らず、東京高裁まで上記のような有罪判決を支持したことから、アルコニス中尉の早期釈放を訴え続けてきたマイク・リー上院議員は、“SOFAに基づき、同中尉が在留米軍の一員として防衛に努めてきているにも拘らず、その同盟国から、事故発生後に病院搬送もしてくれず、即時逮捕・勾留されるという仕打ちを受けたことに対して、非常に憤りを感じる”と述べた。
その上で同議員は、“SOFAが日本において長年物議を醸してきたことから、日本の司法が、SOFAの問題を浮き彫りにするため同中尉をスケープゴートにした可能性がある”とまで言及している。
そして、“本件は同中尉及び家族の問題に止まらず、日米間の安全保障協力にまで発展しかねない問題であるから、バイデン大統領に任命されたエマニュエル駐日大使が即刻日本側と直談判すべき事案となっている”と強調した。
一方、マイク・レビン下院議員は、“米海軍はアルコニス中尉の有罪判決に反対・抗議しており、国防総省としても日本側の対応を注視し、同中尉釈放に向けて最善を尽くす意向である”と付言した。
なお、PHFが7月25日にリリースした直近情報によると、“事故犠牲者の実娘が、同中尉を起訴した検察官の事務所に勤務していることが分かった”とした上で、“通常日本の司法では、事故の加害者が被害者宛に謝罪文を手交することが慣習となっているが、左記の事情によってアルコニス中尉のしたためた謝罪文の受け取りが拒否されており、結果として同中尉の控訴棄却となってしまった”とされている。
(注1)日米地位協定:日本と米国との間の「相互協力及び安全保障条約」第六条に基づく、施設及び区域並びに日本における米国軍隊の地位に関する協定。1960年日米安全保障条約改定と同時に制定。
(注2)PHF:米軍所属の将兵の権利と自由を擁護するために活動する米民間財団。主として外国政府等が関わる問題に巻き込まれた将兵への資金的援助・法的擁護、議員等への周知による支援獲得の活動を行う。パイプ・ヒッターとは、何があろうと屈することなく正しい行いをする人、の意。
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JPモルガン・チェース最高経営責任者(CEO)のジェイミー・ダイモン氏は4日、年次株主書簡で、世界の金融情勢について暗い見通しを示し、ウクライナ戦争、インフレの高騰、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響が数十年続くかもしれないと警告した。
英
『デイリーメイル』によると、ダイモンCEOは書簡で、世界は「重要かつ相反する3つの力の合流」に直面しており、それが世界経済の見通しを不確実なものにしていると述べた。そして、現在起こっていることは、「今後数年間の経済と今後数十年間の地政学に重大な影響を与える可能性が高い」と警告した。そのうえで、アメリカが「実力を取り戻す」ために、強いリーダーシップを発揮することを求めた。
「ウクライナでの戦争は、問題を抱えた世界では常に国家の安全保障が最大の関心事となることを思い起こさせる。平和な時代であってもそうであることを二度と忘れてはならない。また、誤った安心感に騙されることも二度とあってはならない。権力は真空を嫌う。アメリカの強力なリーダーシップがなければ、混乱が蔓延する可能性が高いことは、誰の目にも明らかになっているはずだ」。ただし、「世界は、傲慢なアメリカが皆に指図することを望んでいるのではなく、アメリカが同盟国と協力し、妥協することを望んでいる」とダイモン氏は指摘している。
ダイモン氏はまた、米政府の経済問題への対応について「誤った解釈に陥り、現実を直視することから目をそらしている。問題を正しく定義していない。もし、問題の診断を誤れば、必ずや解決策も誤るだろう。」と非難した。また、「政策はしばしば理解しがたいもので、連携がとれておらず、政策決定には先見性がなく、望まれる結果も特定されていない。」と指摘し、「規制は、良いインフラを適時に建設する能力を劇的に阻害している。高速道路の建設コストは、規制による経費のためだけに、20年間で3倍以上になった」と非難した。
さらに、「米国政治は機能不全に陥っており、そのため、最も優秀で有能な人たちが政府で働きたがらない。政府には経済学者や学者、終身雇用の政治家がたくさんいて、彼らはベストを尽くそうとしていることは知っているが、企業を含む社会のあらゆる部門のリーダーから、さらなる頭脳、能力、経験を必要としている。問題を解決するためには、並外れた幅広いリーダーシップが必要だ」と述べた。
米ニュースサイト『ショアニュース・ネットワーク』によると、ダイモンCEOは、「ウクライナ戦争が世界秩序を危うくする以前から、私たちは例外的で巨大な世界的課題に直面していた。核拡散(これは今でも人類にとって最大のリスクであり、ウクライナ戦争によってさらに顕著になった)、サイバーセキュリティへの脅威、テロ、気候変動、自由で公正な貿易への圧力、社会における広大な不公平などである」と指摘した。「これらの問題を解決するために不可欠なのは、米国の強力なリーダーシップである」とし、「アメリカのグローバル・リーダーシップは、世界にとってもアメリカにとっても最善の道である。」と述べ、「指導者は、なぜそうなのかを国民に明確に説明する必要がある」と述べている。
また、ダイモン氏は書簡の中で、経済における自由な企業活動を促進することで、米国が国際的な競争力を維持するよう呼びかけている。「自由とその兄弟である、適切に規制された自由企業が答えである。制約のない資本主義や、企業が自らの地位を維持したり、高めたりするために政府や規制を利用する縁故資本主義ではない」とくぎを刺した。
民主党の大規模な支出政策に関しては、「民主党は、ワシントンに送られたお金が大規模な無駄なプログラムに使われ、最終的に地域社会にほとんど価値あるものをもたらしていないという共和党の正当な懸念を認めるべきだ。良い政府は必要だが、政府がすべてに対する答えではないことを認めるべきである。」と指摘している。
米『ニューヨーク・ポスト』は、ダイモン氏は書簡の中で、ロシア・ウクライナ戦争、パンデミックからの回復、インフレの激化に対処するための連邦準備銀行(FRB)の取り組みの3つが、世界経済にとって「前例のない」影響をもたらしていると指摘していることを伝えている。
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