カタール;中東初のサッカーワールドカップ開催の栄誉の裏でアジア人移民労働者に対する人権侵害【欧米メディア】(2022/12/02)
カタールは、中東で初めてサッカーワールドカップ(WC、1930年開始)を開催する栄誉に慕っている。しかし、2200億ドル(約30兆円)かけて造った競技場や関連インフラ建設に投入されたアジアからの移民労働者に対する人権侵害問題で、国際人権団体のみならず欧州諸国のサッカー協会からも厳しい非難の声が上がっている。
11月30日付
『ロイター通信』は、「カタールWC2022開催の裏で、どれ程の移民労働者が死亡しているか?」と題して、中東初のWC開催に沸くカタールで、諸インフラ設備建設に関わったアジアからの移民労働者に対する人権侵害問題について詳報している。
中東のカタールは、人口約290万人を抱えるが、その8割以上が移民労働者で占められる。
そのカタールは、中東初のWC開催の栄誉に慕っているが、それと同時に、深刻な人権侵害問題で国際人権団体から厳しい目を向けられている。...
全部読む
11月30日付
『ロイター通信』は、「カタールWC2022開催の裏で、どれ程の移民労働者が死亡しているか?」と題して、中東初のWC開催に沸くカタールで、諸インフラ設備建設に関わったアジアからの移民労働者に対する人権侵害問題について詳報している。
中東のカタールは、人口約290万人を抱えるが、その8割以上が移民労働者で占められる。
そのカタールは、中東初のWC開催の栄誉に慕っているが、それと同時に、深刻な人権侵害問題で国際人権団体から厳しい目を向けられている。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(AI、1961年設立、本拠ロンドン)がリリースした「実情調査2021」によると、カタールでは2014年に一部労働慣習が見直されたものの、雇用主が移民労働者の賃金を保留したり、転職する際に当該労働者に罰金を科す等の悪行が依然横行しているとする。
カタール政府は、労働環境改善の途上にあるとしながらも、数千人の移民労働者が騙されて搾取されているとの報告を否定した。
英国の『ガーディアン』紙は昨年、カタールがWC開催地として選ばれた2010年以降現在までに、WC関連施設等の建設に携わった移民労働者のうち少なくとも6500人が死亡していることが公式記録より判明したと報じている。
これに対して同政府は、死者数が多いのは人口比移民労働者数が非常に高いことがあるとした上で、当該数には肉体労働者ではない人(すなわち建設作業に携わっていない人)も含まれていると反論している。
国際労働機関(ILO、注後記)カタール支部のマックス・タノン代表は、カタールにおける移民労働者の死亡報告書はしばしば必要不可欠な情報が欠落したままであると警鐘を鳴らしている。
しかし、カタールWC運営委員会は、競技施設建設現場での作業員の死者数は3人だけで、建設作業に無関係な死亡者(例えば病死や交通事故死)は34人だったと主張している。
ただ、ハッサン・アル=サワディ委員長は11月30日、英国人ジャーナリストのピアーズ・モーガン氏(57歳)のインタビューに答えて、WC施設等の建設作業に関わった移民労働者の死者数は“400~500人”だと認める発言をしている。
カタールは、「カファラ」と呼ばれた、雇用主が保証人となり仕事やビザ発給を管理し、転職や本国への帰国等にも雇用主の許可が必要とする悪慣習を撤廃し、労働環境の改善に努めているとするが、国際人権団体によれば、改善は不十分で、移民労働者は依然不当な扱いを受けていると非難している。
一方、WC開催前に、英国やドイツ等欧州10ヵ国のサッカー協会がWC主催者の国際サッカー連盟(FIFA、1904年設立、本部スイス・チューリッヒ)に公開質問状を出し、カタール在住の移民労働者の人権問題改善のためにILOが積極的に動けるよう支援すべきだと訴えている。
また、AI他人権団体もFIFAに対して、WC賞金相当の4億4千万ドル(約616億円)を、人権侵害を被っているカタールの移民労働者への補償に投じるべきだと要求している。
なお、FIFAは、AIの調査報告等について、“労働者保護の一環で前例のない適正評価の作業”を進めているとしながらも、“関連委員会を立ち上げて、多くの労働者への補償を行っている”とコメントしている。
(注)ILO:国際労働基準の制定を通して世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする、国際連合の専門機関。1919年に国際連盟に創設され、国際連合において最初で最古の専門機関である。本部はスイスのジュネーヴ。ILOはこれまで、結社の自由、団体交渉権の効果的承認、強制労働の撤廃、児童労働の廃止、差別の撤廃を擁護してきた。1969年には、国家間の友愛と平和に貢献し、労働者の働く意義と正義を追求し、途上国に技術支援を行ってきたことが称えられ、ノーベル平和賞を受賞している。
閉じる
ミャンマー軍事政権;民主化に背を向けるも、同国史は無視せずに「国民の日」祝日に日本人ジャーナリスト等4人に恩赦【米・英国メディア】(2022/11/17)
ミャンマー(1948年に英国より独立)では、2021年2月にクーデターを起こして政権を収奪した国軍が、民主化運動の主導者らを極刑に処す等やりたい放題である。そして、政権に対して批判的活動をする外国人ジャーナリスト等も容赦なく逮捕して、一方的な有罪判決を下している。ただ、同国建国の歴史は無視できないのか、あるいは国際社会からの批判をかわすためか、軍事政権は「国民の日(注1後記)」に合わせて、それまで投獄していた日本人ジャーナリスト等4人に恩赦を与える決定を下した。
11月17日付米
『AP通信』は、「ミャンマー、投獄中の4人の外国人に恩赦」と題して、同国軍事政権が、“国民の日”を祝う11月17日、それまで逮捕・投獄していた日本人ジャーナリスト等4人に恩赦を与えたと報じている。
ミャンマー国営メディアは11月17日、「国民の日」を祝うに当たって、国軍政府がそれまで投獄していたオーストラリア人学者、日本人映画製作者、英国人元外交官ら4人に恩赦を与えた、と報じた。...
全部読む
11月17日付米
『AP通信』は、「ミャンマー、投獄中の4人の外国人に恩赦」と題して、同国軍事政権が、“国民の日”を祝う11月17日、それまで逮捕・投獄していた日本人ジャーナリスト等4人に恩赦を与えたと報じている。
ミャンマー国営メディアは11月17日、「国民の日」を祝うに当たって、国軍政府がそれまで投獄していたオーストラリア人学者、日本人映画製作者、英国人元外交官ら4人に恩赦を与えた、と報じた。
軍事政権報道局長のゾー・ミン・トゥン少将(2021年就任)が『ボイス・オブ・ミャンマー』及び『ヤンゴン・メディア・グループ』に告げたもので、解放されたのはショーン・ターネル氏(58歳、注2後記)、久保田徹氏(26歳、注3後記)、ビッキー・ボーマン氏(56歳、注4後記)及び身元不明の米国人の4人で、釈放の後国外退去処分にされたという。
同日付英国『BBCニュース』は、「ビッキー・ボーマン元駐ミャンマー英国大使、他の拘留者とともに解放」として詳報している。
ミャンマー軍事政権は、2021年2月1日にクーデターを起こして政権を奪取して以来、デモ等を厳しく取り締まり、これまでに1万6千人以上を逮捕している。
そして「国民の日」を迎えた11月17日、軍事政権はこれを祝う一環で、ボーマン元英国大使を含め約6千人の拘留者を釈放した。
ボーマン氏は2013年、夫のミャンマー人画家のティン・リン氏(55歳)とともに「責任あるビジネスのためのミャンマー・センター(MCRB)」を立ち上げ、同国における透明性・人権を重んじた事業展開活動を行っていた。
しかし、軍事政権から、活動家で元政治犯であったリン氏とともに監視されていたためか、自宅のある同国東部シャン州からヤンゴンに戻った今年8月に、住所虚偽報告容疑で逮捕され、翌月に1年の有罪判決を受けていた。
また、豪州人経済学者のターネル氏や日本人ドキュメンタリー映画監督の久保田氏等も、軍事政権による一方的な取り締まりで逮捕・拘束され、それぞれ不当な有罪判決を受けていた。
爾来、日米英等政府が各々ミャンマー軍事政権に、釈放を求めて交渉を続けてきている。
ただ、今回の軍事政権による恩赦に関し、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(1961年設立、本部ロンドン)のオーストラリア支部(1962年設立、本部シドニー)幹部ティム・オコーナー氏は、“軍事政権はこれまで、数千人余りの罪のない人々をでっち上げの容疑で拘束してきている”とした上で、“今回の恩赦で以て、軍事政権に対する国際的な非難活動を停止してはならない”と強調している。
(注1)国民の日:英国植民地時代の1920年に起きた学生による反英ストライキを記念して、毎年、ビルマ暦(タザウンモン月)の満月から10日目を国民の日に定めて祝う。今年は11月17日。
(注2)ショーン・ターネル:豪州人経済学者で、同国民主政権時代、アウンサンスーチー国家顧問の経済アドバイザーだった。2021年2月、軍事政権によって捕らえられ、同国財務に関わる国家機密を持ち出そうとした容疑で起訴。2022年9月の裁判で、スーチー氏とともに3年の有罪判決。
(注3)久保田徹:ドキュメンタリー映画監督。2022年7月、市民によるデモ行動を撮影していたことで治安当局によって逮捕。容疑は扇動罪及び入管法違反で、軍事法廷は10月、同氏に7年の有罪判決。
(注4)ビッキー・ボーマン:2002~2006年に駐ミャンマー英国大使として勤務。その後、同国において倫理的事業展開(透明性・人権・資源ナショナリズム等)を指導する活動をしていたが、夫のミャンマー人芸術家・元政治犯とともに2022年8月逮捕。容疑は住所虚偽報告違反で、夫婦に対して9月に1年の有罪判決。
閉じる
その他の最新記事