3月2日付米
『スぺース・ポリシー・オンライン』ニュース(1973年設立の米宇宙政策等の専門ニュース)は、「ロゴージン長官、ISS含めて米・欧州との事業協力模索」と題して、英国政府参画の衛星通信会社の衛星打ち上げを中止すると脅しをかける一方、最終的には欧米との宇宙開発事業継続を望んでいる模様と詳報している。
ロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』テレビニュースは、ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス、1992年設立)のドミトリー・ロゴージン長官(58歳、2018年就任)が3月1日、欧州が制裁によってロシアのロケット・宇宙産業を破壊しようとし、ウクライナ人ハッカーがロシアの宇宙船コントロール・センターにサイバー攻撃をかけようとしていると非難していると報じた。
更に同長官は、ロシアに敵対的な英国政府が参画している衛星通信会社ワンウェブから出資を引き揚げること、及び、同社衛星を軍事目的に使用しないことを保証することを要求するとし、もし実行されなければ、3月5日発射予定の同社衛星36基搭載のソユーズ・ロケット打ち上げを中止する、と脅した。
ワンウェブは、英国政府及びインドの移動通信会社バーティ・グローバル(1976年設立)が主要出資者となっていて、他にフランスの通信衛星運営会社ユーテルサット(1977年設立)、ソフトバンク(1986年設立)、米国の衛星通信会社ヒューズ(1971年設立)、韓国の複合企業ハンファグループ(1952年設立)が加わっている。
同社はこれまで、衛星通信運用のために計画した648基の衛星のうち422基の打ち上げをソユーズ・ロケットに委ねてきていた。
この脅しに対して、英国のビジネス・エネルギー・産業戦略担当のクワシ・クワルテン国務長官(46歳)が、英国はワンウェブから撤退するつもりはないと言い返したことから、ロゴージン長官は3月2日、英国政府に2日間の猶予を与えるとして、3月4日までにロシア側要求を呑む回答がない限り、3月5日のソユーズ・ロケット打ち上げを中止する、とやり返してきた。
一方、ロゴージン氏は米国に対しても冷ややかなコメントをしていた。
同氏は2014年当時、国防及び宇宙開発事業担当の副首相であったが、同年発生のクリミア半島併合に伴う欧米による制裁に遭っている。
その際、同氏は、米国が対ロシア制裁に踏み切れば、ロシアは米国人宇宙飛行士をISSに向かわせるためのロケット提供を止めることになるが、そうなったら、米国はトランポリンを使ってISSまで飛行士を飛ばすのか、と皮肉交じりに批判していた。
米国は、スペースシャトル運用を2011年に終了してしまったので、その後の米国人宇宙飛行士をISSに送り込むのにロシアの協力を仰いできていた。
ただ、同氏の批判はあったものの、その後もロシアは米国人宇宙飛行士をISSに送り届ける協力は続けてきていた。
今回、同氏が言わば降格人事で2018年にロスコスモス長官に就任していることから、米国への対応が注目される。
何故なら、昨年4月9日にソユーズ・ロケットでISSに向かった米国人のマーク・バンデ・ヘイ宇宙飛行士(55歳)が、ISSに連続355日という最長滞在記録を打ち立てた後の今年3月30日、ソユーズ・ロケットで地球に帰還する予定となっているからである。
しかし、今のところロゴージン長官は、米国がロシアに対してこれ以上“冷酷にならなければ”、ISSに関わる事業協力を再考する用意はあると仄めかしている。
3月3日付フランス『AFP通信』は、「ロシア宇宙局、英国の衛星通信会社の衛星を軍事目的不使用の保証を要求」と題して、ロスコスモスが、ソユーズ・ロケットで打ち上げが予定されている英国衛星通信会社の衛星を、軍事目的に使用しないよう法的拘束力を伴う保証を求めたと報じている。
すなわち、ロスコスモスは3月2日、3月5日にソユーズ・ロケットで打ち上げる予定の36基の衛星について、依頼主である英国の衛星通信会社ワンウェブ及び欧州ロケット打ち上げ企業アリアンスペース(1980年設立、フランス本拠)に対して、“軍事目的に使用しないこと、また、関連軍事機関に衛星サービスを提供しないことにつき、完全な法的拘束力に基づいた保証をすることを求める”との声明を出した。
更に、“英国のロシアに対する姿勢が敵対的”であることを理由に、英国政府に対してワンウェブへの出資を引き揚げるよう要求した。
その上で、ロスコスモスは、グリニッジ標準時の3月4日午後6時半(日本時間5日午前3時半)までに明確な回答がない場合、5日に予定しているワンウェブの衛星を搭載したソユーズ・ロケットの打ち上げを中止すると言明した。
(注1)ISS:米国・ロシア・日本・カナダ及び欧州宇宙機関(ESA、2012年設立)が協力して運用している宇宙ステーション。地球及び宇宙の観測、宇宙環境を利用した様々な研究や実験を行うための巨大な有人施設である。1998年11月から軌道上での組立が開始され、2011年7月に完成。当初の運用期間は2024年までの予定であったが、2022年2月、米航空宇宙局(NASA、1958年設立)は2030年まで運用を継続すると発表している。
(注2)ワンウェブ:2012年に米国で立ち上げられた低軌道衛星群を用いた衛星通信会社。ソフトバンクグループが10億ドル(約1,100億円)出資して、650基の衛星を打ち上げて衛星通信サービスを開始する計画であったが、74基打ち上げたところで追加資金調達に失敗し、2020年3月に米連邦破産法第11章(チャプター11)に基づく会社更生手続きを申請。同年7月に英国政府・インド通信会社が計10億ドルを出資して事業再開。
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仏ラジオ放送局
『RTL』は、ウクライナ危機によるエネルギー価格、特にロシアから供給されるガス価格に与える影響について懸念の声が上がっている一方で、穀物への影響についてあまり報道されていないと伝えている。しかし、ウクライナとロシアは世界有数の穀物生産国であり、特にウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」とも呼ばれている。しかし、主な生産地は、プーチンが併合する可能性のある東部の土地にある。
紛争地域であるドンバス地方は、小麦やトウモロコシが育つ肥沃な平原地帯で、ウクライナの小麦の40%を生産している。ウクライナは世界第4位の穀物輸出国であり、この地域に関する不確実性から世界価格はさらに上昇し、小麦1トンが270ユーロ(約3万5千円)と数週間で20%も上昇した。この緊張状態は、世界最大の小麦輸出国であるロシアに対する経済制裁でも続きそうである。東欧の干ばつやフランスの大雨による不作で価格は昨年からすでに上昇していた。幸いなことに、南米が豊作となっている。しかし、ウクライナでの紛争が食料価格に与える影響を制限するためには、フランスなど他の生産国での、穏やかな天候と豊作を頼りにしなければならない。
仏紙『ルフィガロ』によると、フランスの多数派組合である農業経営者連盟FNSEAのクリスティアン・ランベール会長は、ロシアとウクライナの紛争でヨーロッパ諸国が発表した制裁措置は、ロシアからの報復措置が懸念されるとして、フランス農業にとって「大きな懸念材料」だと述べている。「ロシアに対する金融制裁は、欧州製品、中でも最も重要な農産物に対する報復の大きなリスクを生む」という。ランベール会長は、2014年にクリミア併合を受けてEUがロシアに制裁を加えた際、「農業はプーチン大統領が最初に狙った分野だった」と説明している。ロシアの食糧禁輸は、当時、主に「牛乳、チーズなどすべての乳製品」に適用されていた。そして今に至るまで、制裁以前のロシアに対する輸出量を取り戻すことができないでいるという。ランベール会長は、「プーチンはあの時の機会を利用して食料主権を取り戻した。「プーチンは外交を駆使して農業生産資本を再建した。もちろん農業にとって、これは大きな関心事である」と述べている。
また、ランベール会長は、すでに1年間で90%も値上がりしている肥料のさらなる高騰を危惧している。「肥料を作るにはガスが必要であり、プーチンはガスの蛇口を握っている」と強調し、農業食品産業の生産価格に「紛れもない」影響を及ぼすと警告している。
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