フィリピンのドゥテルテ大統領はテレビ演説で、中国が領有権を主張している南シナ海問題について、「中国が石油掘削を開始したら、我々との合意の一部なのかと中国に問うだろう。それが合意の一部でなければ、こちらも同海域で石油を掘削する」等と述べ、中国が石油や鉱物資源の採掘をした場合は、フィリピン海軍の軍艦を派遣すると警告している。
4月20日付香港
『サウスチャイナ・モーニングポスト』は「血の争いとなるだろう:フィリピンのドゥテルテ氏が南シナ海へ軍を派遣し領有権を主張すると警告」との見出しで以下のように報道している。
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はテレビ演説で、南シナ海の石油や鉱物資源をめぐり、「軍艦派遣の用意がある。だが、覇権の主張は暴力に繋がらない。我々が領有権を主張すれば、血みどろの争いとなるだろう。」と述べた。3月南シナ海に数百隻の中国船が確認されて以来、領有権問題に関した初の言及となった。
ドゥテルテ氏は「現時点では漁業への関心はそれほどない。争うほどの漁獲量があるとは思えない。」と述べ、沿岸警備船5隻を派遣し追跡するとした。一方、「我々の石油を採掘し始めたら、中国へ告ぐ、これは合意のもとなにかと。これが合意のうちでなければ、私はそこで石油を採掘する。中国が石油を取るなら、我々は行動にでる」とし、中国が海底資源を採掘すれば、「領有権を主張するため灰色の軍艦を派遣する」と述べている。
ドゥテルテ氏は2016年就任以来、中国との同盟関係を求め、関係悪化を避けてきた。大統領はフィリピンが中国を阻止することはできず、中国の動きに対抗することは戦争のリスクとなるとの姿勢を示してきた。しかし、2国間の緊張関係はここ2週間で高まり、フィリピンは中国からのコロナワクチン供給に感謝を示し、友好的なスタンスを保ちながらも、軍艦を派遣し、繰り返し中国の派遣主張に抗議してきた。
同日付ロシア『スプートニク』は「中国が石油採掘しない限りは争わないとドゥテルテ氏」との見出しで以下のように報道している。
オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、中国の海洋進出を巡り主張に法的根拠がないと判断した。しかしその後も中国は数百の中国船をフィリピンの排他的経済水域に集結させてきた。
フィリピンの大統領は、中国の軍事的脅威についてテレビ演説で19日、「戦争以外に方法はない。」とし、自国の軍艦を配備すると警告した。「紛争は勝敗のつかない血みどろの戦いになる」とも言及。公に中国船の集結に言及したのは初めてのこととなる。
フィリピンの外務省は、たびたび中国の軍事配備に抗議の意を示してきた。最後は2020年に国連総会で中国の領有権主張を否定したが、それ以降、この問題には沈黙を続け、国連が強制しても中国は西フィリピン海から撤退しないのではないかとの懸念を示してきた。フィリピンは、攻撃を受けた場合には、アジアにおける古くからの米国の同盟国として、米比相互防衛条約を発令することも視野に入れている。
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3月15日付米
『AP通信』:「中国牽制のため、トランプ政権下で米海軍のFONOP頻発」
中国は、南シナ海の90%前後を自国の主権下にあるとし、また、台湾は中国の領土だと主張して、一方的に様々な行動に出てきている。
そこで米政府は、中国がこれらの地域で軍事力を以て制圧し、米国の影響力を減退させようとしていると懸念し、米軍艦を同地域に派遣して中国牽制に出ている。
特に、中国に対して貿易・最先端技術・新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題等でどぎつい対応を繰り広げたトランプ政権下では、南シナ海の中国人工島周辺でのFONOPを2019年、2020年とそれぞれ10度ずつ、また、台湾海峡横断航行も2020年に13度と、過去14年間で最多回数実行されている。...
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3月15日付米
『AP通信』:「中国牽制のため、トランプ政権下で米海軍のFONOP頻発」
中国は、南シナ海の90%前後を自国の主権下にあるとし、また、台湾は中国の領土だと主張して、一方的に様々な行動に出てきている。
そこで米政府は、中国がこれらの地域で軍事力を以て制圧し、米国の影響力を減退させようとしていると懸念し、米軍艦を同地域に派遣して中国牽制に出ている。
特に、中国に対して貿易・最先端技術・新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題等でどぎつい対応を繰り広げたトランプ政権下では、南シナ海の中国人工島周辺でのFONOPを2019年、2020年とそれぞれ10度ずつ、また、台湾海峡横断航行も2020年に13度と、過去14年間で最多回数実行されている。
このFONOP航行は、国際法に基づくものと主張できるだけでなく、具体的な武力衝突なしに目に見える形で対中国牽制が可能となるため有効と考えられる。
バイデン新政権下でも、南シナ海におけるFONOP継続は実行される可能性があり、2月17日にはミサイル駆逐艦“ラッセル”(1995年就役)がスプラトリー諸島(南沙諸島)周辺海域においてFONOPを実施している。
その際、米海軍第7艦隊は、“違法かつ一方的な海洋活動は、南シナ海周辺国にとって、同海域における自由航行・飛行、自由貿易、自由経済等への深刻な脅威となる”として、FONOP実施の理由を公式表明している。
一方、台湾海峡横断も同様の作戦が継続されるとみられるものの、米国はかつて“一つの中国原則”を公認している手前、中国の主張を露骨に批判することがためらわれる。
そこで、オバマ政権下では、中東からアジアへの重点政策転換を経て最後の2年間(2015~2016年)ではそれぞれ十数回横断航行していたが、トランプ政権下になっての最初の2年間(2017~2018年)では僅か数回しか実施されなかった。
ただ、冒頭で触れたとおり、形振り構わなくなったトランプ政権は、2019年に9度、2020年に直近最多となる13度も実行している。
なお、バイデン政権下での台湾海峡横断は、3月10日にミサイル駆逐艦“ジョン・フィン”(2017年就役)が横断航行したことで2度目の実施となっている。
一方、同日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース:「米軍、2020年に南シナ海で最多となるFONOP作戦及び監視飛行を実施」
北京大学(1898年設立)傘下のシンクタンク、南シナ海問題率先調査(SCSPI、2019年設立)が直近で発表した調査報告によると、米国は2020年、南シナ海においてこれまで最多となるFONOP作戦及び監視飛行を実施したという。
また、同海域での軍事演習も、前年より回数は減っているものの、単に軍事力を見せつけることに留まらず、将来の戦闘に備えての実戦訓練の様相を呈しているとする。
SCSPIによると、衛星写真や公開されているデータから分析したものなので、一部不正確な部分はあるとしながらも、次のように事態を詳述している。
<監視飛行>
・少なくとものべ1,000回に及ぶ偵察飛行を中国沿岸部等で実施。
・烏山空軍基地(オサン、ソウル南部)、嘉手納空軍基地(沖縄)、アンダーセン空軍基地(グアム)及びクラーク空軍基地(フィリピン・ルソン島)所属の様々な偵察機による監視飛行。
・民間の軍需産業保有の航空機を偵察機に起用しても情報収集。
・パラセル諸島(西沙諸島)海域で5度、スプラトリー諸島海域で4度FONOP作戦実行。
・2016年3度、2017年4度、2018年5度、2019年8度と、従来実績より最多。
・米国は、海洋法に関する国連条約(UNCLOS、注2後記)を依然批准していないにも拘らず、同条約に則っての作戦だと主張。
・更に米国務省は2020年7月になって初めて、中国が南シナ海において主張する九段線(同海域の約90%をカバー)を全面否定。
・一方、台湾海峡横断航行も過去最多となる13度実施(従来の実績は、2007~2009年:6度ずつ、2010年:4度、2011年9度、2012年10度、2013年11度、2014年5度、2015年11度、2016年12度、2017年5度、2018年3度、2019年9度)。
・台湾は中国の領土の一部であることを米国も公式に認めているにも拘らず、中国による侵略に対応するためとして、台湾宛に武器供与を継続。
<戦闘に備えての実戦訓練>
・COVID-19感染問題下で、多くの米軍艦がそれぞれの港での停泊を余儀なくされ、演習自体の回数は減っているものの、戦闘に備えての実戦訓練の様相。
・特に、原子力空母“ロナルド・レーガン”(2003年就役)が率いる空母打撃群による南シナ海における実戦訓練と思しき演習が4ヵ月超にわたり実施。
・また、台湾海峡周辺においても、監視及び目標攻撃レーダーシステム(JSTARS)搭載の対地版早期警戒管制機E-8Cによって20度近くも偵察飛行。
・更に、別の実戦訓練の一環で、戦略爆撃機B-52ストラスフォートレス(成層圏の要塞の意)及び超音速戦略爆撃機B-1Bを台湾北部からフィリピン南部の広範囲にわたって飛行訓練実施。
(注1)クワッド会議:非公式な戦略的同盟を組んでいる日・米・豪・印の四ヵ国における会談で、二ヵ国同盟によって維持。対話は2007年当時、安倍晋三首相(当時53歳)によって提唱され、その後ディック・チェイニー副大統領(同67歳)の支援を得て、ジョン・ハワード首相(同68歳)とマンモハン・シン首相(同75歳)が参加して開催。この対話によって、インド南西端で毎年開催されるマラバール演習(四ヵ国合同演習)が実施されている。
(注2)UNCLOS:海洋法に関する包括的・一般的な秩序の確立を目指して1982年4月に第3次国連海洋法会議にて採択され、同年12月に署名開放、1994年11月に発効した条約。国際海洋法において、最も普遍的・包括的な条約であり、基本条約であるため、別名「海の憲法」とも呼ばれる。なお、世界の大洋に面しているにも拘らず、依然非締結であるのは、米国、トルコ、ペルー、ベネズエラ。
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