米中二大国は、貿易紛争・新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行・人権問題・南シナ海の制海権等々でことごとく対立している。そしてこの程、両国間の鍔迫り合いが宇宙空間にも拡大しようとしている。
6月29日付
『CNBCニュース』:「中国はかつて宇宙への進出など夢物語としていたが、今や火星探検ミッションを計画する程進歩」
1957年、ソ連が世界で初めて人工衛星・宇宙船スプートニク2号(イヌを搭載)の打ち上げに成功して以来、米ソ間の宇宙開発競争が激化した。
その当時、中国の毛沢東初代国家主席(マオ・ツォートン、1893~1976年)は、“中国は宇宙に芋さえ運んでいくことはできない”と述べていたという。
しかし、六十有余年後の現在、習近平第7代国家主席(シー・チンピン、68歳、2013年就任)は、今月初めに同国で初めて中国独自の宇宙ステーションに到達して乗り込んだ3人の宇宙飛行士を称賛している。
毛国家主席の発言以来、中国は着々と宇宙開発を進め、人工衛星を打ち上げ、人間を宇宙に送り、そして現在は、火星に宇宙基地を建設しようと画策している。
この試みは、7月1日に創立100周年を迎える中国共産党にとって、大躍進の成功例の一つに数えられる。
かくして、かつての米ソ宇宙開発競争が、今後は米中間で繰り広げられることになる。
英国ノーザンブリア大(1969年設立の国公立大学)国際宇宙法専門のクリストファー・ニューマン教授は、“習国家主席は、宇宙開発において他先行国を追い抜き、2045年までに宇宙空間における先進国になるという「中国の夢」を実現する、と宣言している”とし、“この大方針の下、宇宙空間における世界で唯一の科学・技術大国となるべく全てを注ぎ込んでいる”とコメントしている。
<宇宙開発に挑む理由>
中国は今年3月、宇宙は“新たな技術開発を繰り広げる場所”だとし、“宇宙の起源と進化”の研究に注力していくとぶち上げた。
ロンドン宇宙法・政策研究所のザイード・モステシャー専務理事及びクリストフ・ビーチル研究員によると、これには別の見方があって、“国家安全保障や社会経済発展の分野でしのぎを削る米中両国にとって、宇宙分野での優位性確立も最重要課題であるからだ”という。
専門家は、宇宙戦争に発展する可能性は低いとしながらも、地球外での活動は地球上の軍事行動の助けになることは十分考えられるとする。
また、モステシャー及びビーチル両氏は、“米中両国は月や火星探検活動を通じて、自国民や世界に対して洗練された技術力を見せつけることで、国内及び国際社会での存在感、国家活動としての正当性並びに国際社会への影響力を高めていこうとしている”と分析している。
<中国の宇宙開発の野望>
中国の直近の技術進歩は著しい。
例えば、昨年6月には、米政府が開発・運用している全地球測位システム(GPS、1993年運用開始)に対抗して、北斗衛星測位システム(Beidou、2012年運用開始)を完成させた。
12月には、月で採取した石を持ち帰るという同国初のミッションを成功させている。
そして今年5月、前述せるとおり、自国開発した宇宙ステーションに初めて3人の宇宙飛行士を送り込むことに成功した。
更に中国は、火星探検に注力するとし、同じく5月に火星への無人宇宙船の着陸を成功させた。
そして、2033年には有人宇宙船を送り込むとも宣言している。
<米中間の宇宙における鍔迫り合い>
米中両国は、半導体から人工知能の分野において優位性を取るべく競争している。
そして、宇宙開発についても、これまでは米国が先行していたが、今後は新たに競争が激化する分野となる。
ジョージ・ワシントン大(1821年設立の私立大学)附属のエリオット国際関係大学院(1898年設立)のスコット・ペイス宇宙政策研究所長(62歳)は『CNBC』のインタビューに答えて、“宇宙開発全般では米国の優位性に変わりはないが、中国がものすごい勢いでその差を詰めてきている”とコメントした。
同所長は更に、“米国は宇宙開発政策について明確なビジョン、有能な同盟国やパートナーを有しており、中国の付け入る隙は中々ないと思われるが、今後米国が如何に迅速かつ良好な計画を立案・実行していけるかにかかっている”と付言している。
ただ、米中間の政治的齟齬・対立構造が、宇宙空間にも及ぶ可能性がある。
それは、宇宙開発に関し公平かつ責任の伴う国際ルール作りを目指して、米航空宇宙局(NASA、1958年設立)主導で昨年成立したアルテミス合意(注後記)について、米国の他に日本・英国・オーストラリア・カナダ・イタリア・ルクセンブルグ・アラブ首長国連邦が署名しているが、中国はこれに応じていないからである。
ノーザンブリア大のニューマン教授は、“地政学的な二大国の宇宙開発に関わる二極分化は、今後の人類の宇宙開発活動にとって重大な脅威となる恐れがある”とコメントした。
すなわち、同教授は、“両国間の不一致によって、スペースデブリの削減や地球外の資源の搾取問題等を解決することが益々困難になるからである”と付言した。
(注)アルテミス合意:月や火星などの宇宙探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた国際的な合意。2020年10月に日本、米国、英国など8ヵ国の署名により成立。昨年から今年にかけて、ウクライナ、韓国、ニュージーランド、ブラジルが署名し、合計12ヵ国が合意。1967年発効の宇宙条約(中国含め130ヵ国以上が署名・批准)を踏まえ、宇宙の平和利用やスペースデブリの削減、歴史的遺産の保護、国家間の干渉の防止を求めている。
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欧州連合(EU)が7月1日に「ヘルスパス」と呼ばれるコロナパスポートの運用を開始する。中国の在仏大使館は、中国製ワクチンをシステムから除外するという欧州連合の決定に追従するフランスに対して、中国に入国しようとするフランス人旅行者に対する規制を強化することで報復すると発表した。
仏ラジオ局
『フランス・アンテール』によると、ヘルスパスは、直近の検査で陰性であったこと、ワクチン接種が完了したこと、あるいはコロナから回復したことを証明するもので、フランスではすでに、紙とデジタルの2種類が使用できる。11歳以上から提示が義務付けられ、2021年9月30日まで使用が認められている。
しかしニュースサイト『Cnetフランス』によると、ヘルスパスでは「欧州医薬品庁が認可したワクチン」のみが認められるため、ロシアの「スプートニクV」や中国の「シノバック」などのワクチンは、対象外となる。例えば、ロシア製のワクチンを接種しているハンガリー人は、フランスをはじめとするEU諸国に入国するためには、PCR検査を受けなければならない。欧州で認められたファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ヤンセンのいずれかのワクチンを接種した人のみ、PCR検査なしでEU27カ国への渡航が可能になる。
米『エポックタイムズ』によると、フランスでは6月9日から先駆けて、新しい入国規制を施行し始めた。欧州で認められたワクチンを接種した人は、フランスに入国する際に「やむを得ない理由」の提示や検疫の必要性がなくなった。
しかし、フランスはコロナの流行状況に応じて世界を緑、オレンジ、赤の3つの地域に分けており、中国はオレンジ色の地域に分類されている。そのため、中国からフランスに入国するためには「やむを得ない理由」を提示し、入国が許可された場合でも到着後7日間の検疫が求められる。
在仏中国大使館員がラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、中国政府はフランスに対する報復制裁として、フランスから中国に入国する際に、中国製以外のワクチンを接種した人を認めないことを明らかにした。
中国本土のメディアは6月15日、このフランスに対する報復措置を報じ、フランスからの旅行者には到着後28日間の隔離が義務付けられ、フランスが中国国民に求める期間よりもはるかに長いと付け加えた。記事は、中国製のワクチンが世界保健機関(WHO)で承認されているにもかかわらず、政治的な理由でフランスとEUに受け入れられていないと主張している。そして、中国政府の報復は「フランスに思い知らせる」ためのものだと伝えている。
フランス在住の時事評論家、ワン・ロンメン氏は、RFAに対し、中国の報復は中国人のナショナリズム感情を掻き立てるためのものだと考えられると語った。同氏は、政権の「戦狼外交」の代表者の一人である中国の盧・在仏大使が、新型コロナウイルスの起源の調査を求める欧米諸国をたびたび批判していることを指摘した。また、「中国が主張している相互制裁は馬鹿げている。フランスに住む、西洋の予防接種を受けた中国国民はどう感じるのか。彼らは中国への帰国を禁じられるのか」と述べ、EUの主要国であるフランスは、中国製ワクチンの有効性の低さや、臨床試験データの透明性の低さが報告されていることから、中国製ワクチンを承認しないことで、フランス国民に対する責任を果たしていると語っている。
フランス在住のカザフ人ジャーナリスト、アーキン・アザット氏も、中国製ワクチンを承認しないというEUの決定を賞賛した。しかし同氏は、中国の「一帯一路構想」に参加し、中国から多額の融資を受けているEUのいくつかの国が中国製ワクチンを承認していることから、EUの政策がいずれ中国政府のワクチン外交によって破られるのではないかと懸念している。
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