ベトナム;対中強硬政策を貫いたトランプ大統領の敗退に落胆?【米メディア】(2020/11/11)
11月8日付GLOBALi「
米大統領選;市場も世界の首脳もバイデン氏当確を祝福」で報じたとおり、世界のほとんどの首脳が、これで漸く米国首脳と、気候変動、新型コロナウィルス(COVID-19)感染症対策、その他諸々の重要問題について協議することができるとして、ジョー・バイデン民主党候補(77歳)の当確を祝福した。しかし、ここ5年余り、急速に親米化が進んだベトナムでは、対中強硬政策を貫いたドナルド・トランプ大統領(74歳)の落選に落胆している模様である。何故ならトランプ政権が、中国と揉めている南シナ海の領有権問題での頼もしい支援者であったばかりか、同政権の仕掛けた米中貿易紛争によって、中国リスクを嫌った多くの国際企業が拠点をベトナムに移転してきていたからである。
11月10日付
『バイス』オンラインニュース(1994年設立):「ベトナム政府がバイデン次期大統領を歓迎していない理由」
世界の多くの首脳が、先週の米大統領選で勝利を収めたジョー・バイデン民主党候補を祝福しているが、ベトナム政府は依然何のコメントも発信していない。
ファム・ビン・ミン外相(61歳)の直近のツイートは11月6日付で、ニュージーランドの新外相就任を祝うメッセージだけであり、また、11月10日午後現在、外務省の公式サイト上でも米大統領選のことは一切触れていない。...
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11月10日付
『バイス』オンラインニュース(1994年設立):「ベトナム政府がバイデン次期大統領を歓迎していない理由」
世界の多くの首脳が、先週の米大統領選で勝利を収めたジョー・バイデン民主党候補を祝福しているが、ベトナム政府は依然何のコメントも発信していない。
ファム・ビン・ミン外相(61歳)の直近のツイートは11月6日付で、ニュージーランドの新外相就任を祝うメッセージだけであり、また、11月10日午後現在、外務省の公式サイト上でも米大統領選のことは一切触れていない。
共産党一党のベトナムでは、独立系メディアは制限されており、また、事実上高官が自由に発言できる状況にない。
シンガポールのシンクタンクISEASユーソフ・イシャー研究所(1968年設立)のル・ホン・ヒープ特別研究員(ベトナム問題専門)は『バイス』のインタビューに答えて、“米国において正式決定がなされていないため、ベトナム政府は少々慎重になっている”とした上で、コメント発信を拒んでいる中国に倣って、東南アジア諸国(ASEAN)の動きを注視しているものとみられる“とコメントした。
ASEANでは、既にインドネシア、シンガポール、フィリピンがバイデン氏の当選を祝福しているが、他国は沈黙したままである。
米国防大学(1946年設立、ワシントンDC)東南アジア政治・安全保障研究専門のザーチャリー・アブーザ教授は、“ベトナム政府はトランプ大統領の二面性をとても不満に思っていたとみられる”とし、“何故なら、ビジネス的に事を進める首脳だと理解していたものの、その重要な対象である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から突然離脱したことに対して、非常に立腹していたから”だと解説した。
一方、NZビクトリア大学(1897年設立、首都ウェリントン)ベトナム研究専門のヌィエン・カーク・ギアン博士号取得候補者は、バイデン氏が、米国が離脱した後に組織された“環太平洋パートナーシップ協定に関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、注後記)”に再加盟してくれば、ベトナムにとって歓迎すべきことと期待していると考えられる、とコメントしている。
ただ、トランプ政権が米中貿易紛争で中国産品に高関税を賦課したお陰で、多くの国際企業がベトナムに生産・販売拠点を移転してきていることから、今回のCOVID-19感染流行問題で景気後退してしまったものの、ベトナム経済界としては来年にすぐさま復活できると期待している。
更に、トランプ大統領が、昨年の第2回米朝首脳会談の開催場所としてハノイを選択してくれたことで、同会談事態に大した進展はなかったものの、米政府がベトナムを信頼してくれた証拠だとして大いに評価している。
そしてもちろん、トランプ政権下で、南シナ海における中国との領有権問題を抱えるベトナムにとって、度々米軍艦を派遣してくれたことで、中国に対して大いに牽制となったことも感謝しているはずである。
アブーザ教授によれば、バラク・オバマ政権下(2期)では僅か5度ほどであったが、トランプ政権下では20度以上も米軍艦が派遣され、航行の自由作戦を展開しているという。
しかしながら、同教授によれば、“マイク・ポンペオ国務長官(56歳)が直近でベトナム訪問して間もなく、米通商代表部がベトナムにおける為替操作について調査に乗り出したことに対して懸念しており、貿易を有利に運ぶような為替政策は取っていないと全面否定している”という。
なお、ベトナムメディアが大統領選前に市民にアンケートを実施したところ、約6万人の回答者のうち79%もがバイデン氏よりトランプ氏を支持するとしており、民間レベルではトランプ氏の人気が高い結果となっている。
また、“2020年アジア系米国人に対する投票調査”の結果、回答者1,569人のうち、ベトナム系米国人のみがバイデン氏ではなくトランプ氏に投票したとの結果となっている。
(注)CPTPP:2016年に署名まで漕ぎ着けた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から、2017年初めに米トランプ政権が離脱を決定したことよりTPPが頓挫したため、残った11ヵ国(日本、シンガポール、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、豪州、NZ、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ)によって2018年末に形成され、2019年末に発効した自由貿易協定。世界の国内総生産(GDP)の約14%を占める巨大自由経済圏で、加盟国間での関税の撤廃等によってヒト・モノの移動がより活発化。
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南シナ海をめぐる近況【米メディア】(2020/08/25)
既報どおり、中国側が南シナ海における領有権主張を既成事実化しようとしているのに対して、東南アジア諸国(ASEAN)も期待しているはずだとの思い込みを胸に、米軍が同海域での中国牽制に拍車をかけている。直近の状況は以下のとおりである。
8月24日付
『ABCニュース』(
『AP通信』配信):「南シナ海をめぐる近況」
<中国軍、再び軍事演習>
中国海事局(1998年設立)は先週(8月17日の週)、8月24~30日の間、南シナ海において軍事演習を行うので、航行船舶に対して、当該海域から5海里(約9.26キロメートル)以内に進入しないよう警告を発した。
中国は先月末にも、同海域で長距離戦略爆撃機等を含めた軍事演習を実施している。...
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8月24日付
『ABCニュース』(
『AP通信』配信):「南シナ海をめぐる近況」
<中国軍、再び軍事演習>
中国海事局(1998年設立)は先週(8月17日の週)、8月24~30日の間、南シナ海において軍事演習を行うので、航行船舶に対して、当該海域から5海里(約9.26キロメートル)以内に進入しないよう警告を発した。
中国は先月末にも、同海域で長距離戦略爆撃機等を含めた軍事演習を実施している。
これに対して、米海軍が、中国が実効支配する島嶼近海において“航行の自由作戦”を展開する他、米・豪州共同の軍事演習を実施しており、同海域の緊張が否応なしに高まっている。
<中国、ASEANに外交的支援を要請>
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は8月24日、中国外交部(省に相当)が8月初め、ASEAN代表を北京に招へいして、南シナ海問題において中国との連携推進を要請したという。
これは、3週間前の7月中旬、米国国務長官が、中国による南シナ海海洋進出は国際法違反だと強く宣言したことに端を発している。
中国側は、米国は中国・ASEAN間で平和裏に進めようとしている行動規範(COC)の交渉進展に水を差すものだと非難している。
同紙は、ASEAN側の対応結果まで触れていないが、中国側からは、“域外国”(中国が意図するのは米国・日本・豪州)の無用な干渉によって、軍事衝突等不測の事態を招きかねないとの懸念をアピールした模様である。
<フィリピン、中国に抗議>
フィリピン政府は、中沙諸島内のスカボロー礁(ルソン島西約230キロメートル)近海においてフィリピン漁師が仕掛けた漁労装置を中国海警局が不当に押収したとして、中国政府に対して外交ルートを通じて抗議した。
同礁は2012年に中国によって実効支配され、中国海警局・フィリピン漁船間での小競り合いが何度も生じたことから、フィリピン側が2013年に常設仲裁裁判所(PCA)に提訴した。
PCAは2016年7月、同礁がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある岩礁であり、中国が所有権を主張することはできないとの判断を下したが、中国側はこれを一切無視している。
なお、フィリピン外務省はまた8月20日、フィリピン機による監視飛行に対して中国側が無線で妨害してくることに対して、“断固として抗議”するとの声明を発表している。
これに対して中国側は8月21日、フィリピン機が中国主権を脅かそうとしたので、法に則って中国海警局が対応したものだと反論した。
<ベトナム、マレーシアに対して発砲事件の調査を要請>
ベトナム政府はマレーシア政府に対して、マレーシアの沿岸警備艇からベトナム漁船に対して発砲があり、漁師1人が犠牲になった事件について調査するよう要請した。
これに対して、マレーシア海事執行局は、ベトナム漁船が8月16日の晩、マレーシア領海内に不法侵入したことから、取り締まりを行おうとした際、同漁船から火炎瓶が投げられて抵抗してきたため、同警備艇が自己防衛のために発砲した、との説明がなされた。
なお、ベトナム漁師1人が死亡、残り18人は拘束したとも付言している。
<米海軍の空母打撃群が南シナ海に復帰>
米海軍は、空母“ロナルド・レーガン”率いる空母打撃群が今月初め、南シナ海に戻って従来の任務に復帰したと発表した。
同打撃群には、ミサイル巡洋艦“アンティータム”、ミサイル駆逐艦“マスティン”及び“ラファエル・ペラルタ”が含まれ、“南シナ海における海洋安全を確保するための、様々な作戦を展開している”としている。
なお、中国側は、特に複数の空母打撃群が南シナ海に出現することや、他国の海軍との共同訓練を実施していることに懸念を抱き、断固反対するとの声明を繰り返している。
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