ハンガリーは、2004年に加盟したEU(1951年前身設立)の中では独裁的と目されている。特に、2010年から長期政権を率いるオルバーン・ビクトル首相(60歳、1998~2002年にも首相在任)は、ウラジーミル・プーチン大統領(71歳、2000年就任)の欧州における数少ない盟友とされることから、EUによる対ロシア制裁に唯一反対していた。そうした中、同国はこの程、12月中旬に開催されるEU加盟国首脳会議において、ウクライナのEU加盟についての討議開始はもとより、ウクライナ宛への更なる長期的資金支援策にも強硬に反対すると宣言した。
12月1日付
『AP通信』、
『ボイス・オブ・アメリカ』は、ハンガリーがウクライナをEUに招き入れるための交渉開始に断固反対すると表明したと報じている。
EU加盟27ヵ国首脳は12月14~15日、ブラッセルに一堂に会してEUに関わる重要事項について討議する。
今回主題とされているのが、ウクライナのEU加盟に向けての交渉を開始すること、及び同国に対する長期的資金支援策である。
ところが、ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官(42歳、2018年就任)が11月30日の記者会見で、戦争真っ只中にあるウクライナをEUに招き入れる交渉を開始することは全く受け入れられないと表明した。
更に同長官は、EUがウクライナに対して500億ユーロ(545億ドル、約8兆660億円)もの長期的資金援助を行うことにも反対すると強調した。
同長官は、“EUはハンガリーが拠出した資金を不当に凍結していることから、如何なるEU予算案の改定にも応じられない”とも言及している。
これに先立ってEU執行機関が11月上旬、ウクライナにおける汚職問題や少数民族独自の言語の使用禁止政策等が改められる見通しが立つならば、ウクライナをEUに招き入れる交渉に入りたいとの意向を表明していた。
これについて、同国のオルバーン・ビクトル首相は早速、戦争中のウクライナはEU加盟によってEUの保有する豊富な資金をあてにしようとしているとして、EU執行機関による提案は全く受け入れられないと表明している。
同首相は、欧州諸国にあって数少ないウラジーミル・プーチン大統領の盟友とされていて、以前からEUによる対ロシア制裁はもとより、ウクライナへの資金拠出にも強硬に反対していた。
ハンガリーの頑なな背景には、EUがハンガリーの汚職対策が不十分であることやEUルール(司法の独立や報道の自由の保障)に従っていないとして、24億ユーロ(約3,860億円)に及ぶハンガリー向けのコロナ禍後の景気刺激基金の提供を凍結していることがある。
なお、EU加盟国首脳会議において、重要な政策を採択するには全加盟国の賛同が必要であることから、ハンガリー一国でも拒否権を行使することができる。
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欧州連合(EU、1951年前身設立)は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴って新たにスウェーデン・フィンランドという中立国2ヵ国の参加が期待されている。そしてこの程、EUの最も新しい加盟国のクロアチア(1991年ユーゴスラビアより独立、2013年EU加盟)が、ユーロ参加基準を満たしたことから、2023年1月から20ヵ国目のユーロ採用国になる目処が立っている。
6月2日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』は、「EU、クロアチアが2023年よりユーロ採用予定と発表」と題して、EUに最も直近に加盟したクロアチアが、EU共通通貨ユーロの参加基準を満たしたことから、2023年1月から正式に採用・流通させることになると報じている。
欧州委員会(EC、1967年設立のEUの政策執行機関)は6月1日、クロアチアがユーロ参加基準を満たしたことから、来年1月1日以降正式にユーロを採用・流通させる20ヵ国目となる見通しとなったと発表した。
クロアチアが自国通貨クーナ(約0.13ユーロ、18円)からユーロに変更となれば、2013年にEUに加盟以来10年弱での実現となり、EUの統合を益々強化することになる。
EU幹部によれば、クロアチアは、EU加盟国と同等のインフレーションを維持できることや公共投資が健全であること等、厳しいユーロ参加基準を満たしたという。
ECのウルズラ・フォン・デア・ライエン第13代委員長(63歳、2019年就任、元ドイツ国防相)は、クロアチアがユーロを採用することによって、“同国の経済を強化し、市民・産業界・社会等広範囲に利益をもたらすことになろう”とコメントした。
更に同委員長は、“クロアチアのユーロ採用によって、ユーロ自身もより強い通貨になるものと思う”とも付言した。
欧州中央銀行(ECB、1998年設立、ユーロ圏の金融政策決定機関)も6月1日、クロアチアのユーロ採用について支持する声明を発表している。
クロアチアのユーロ採用のためには、7月に開催されるEU加盟国財務相会議において承認される必要がある。
ただ、ECのバルディス・ドンブロウスキス副委員長(50歳、2014年就任、元ラトビア首相)は、“加盟国からは支持の声を多く聞いているので、クロアチアが来年からユーロ採用となるのは確かなことだと思う”とコメントしている。
クロアチアのアンドレイ・プレンコビッチ第12代首相(52歳、2016年就任)も、来年からユーロ圏の仲間入りとなるのは確実なことと信じていると表明した。
同首相はまた、ユーロ採用開始と同日に、シェンゲン圏(注1後記)に加入することも強く希望しているとも語った。
通貨ユーロは、2002年1月1日にEU加盟12ヵ国(イタリア・フランス・ドイツ・ギリシャ等)によって採用・流通が始まった。
以降、順次7ヵ国が参加して目下19ヵ国が採用している。
クロアチアの次にはブルガリアが採用の意向を示していて、2024年からの移行を目指している。
しかし、EU加盟国内では、同国の経済が脆弱であることや政治的支持が十分集められていないことを懸念する声がある。
何故なら、20年前のユーロ立ち上げ時、例えば金融不安を抱えるギリシャなどを急いで参加させたことから、暫くの間ユーロ圏において債務危機が取り沙汰される状態となっていたからである。
同日付ブルガリア『ノビニテ(ブルガリア語でニュースの意)』(2001年設立の英語ニュース)は、「EC、クロアチアはユーロ採用可だがブルガリアはまだ、と発表」と報じている。
ECが6月1日に発表したところによると、クロアチアはユーロ参加基準の4項目(安定かつ持続可能な公的金融、為替レートの安定、長期金利率、物価の安定)を満たしたので2023年1月1日以降ユーロ採用が認められる見通しだが、ブルガリアは物価の安定基準を満たせず見送りになったという。
ECのパオロ・ジェンティローニ経済担当委員(67歳、元イタリア首相)は、“今回は対象7ヵ国のうちクロアチアだけが参加基準を満たしたが、ブルガリアもあと1項目だけであるので、2024年ユーロ採用に向けて支援していきたい”と述べている。
ECがリリースした2022年統合レポートによると、対象となったのはブルガリア、ルーマニア、クロアチア、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スウェーデンの7ヵ国である。
なお、欧州理事会(注2後記)が今年7月上旬に開く会合において、クロアチアのユーロ採用の可否について最終決定することになる。
(注1)シェンゲン圏:1985年にルクセンブルク・シェンゲンにおいて署名された協定が適用されるヨーロッパの26の国の領域。1995年に発効。渡航者が圏内に入域、または圏外へ出域する場合には国境検査を受けるが、圏内で国境を越える際には検査を受ける必要はなく、この点で単一の国家のようになっている。シェンゲン圏はアイスランド、ノルウェー、スイスといったEU非加盟国も含まれている。
(注2)欧州理事会:EU加盟国の国家元首または政府の長と欧州理事会議長、EC委員長で構成される、EU条約に定められている機関。1961年前身の会合開催。立法権は与えられていないものの、重要な問題を扱う機関であり、またその決定はEUの一般的な政治指針を定める推進力となる。半年間に少なくとも2回の会合を、EU本部のあるベルギー・ブリュッセルで開催。
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