3月11日付米
『AP通信』や中国
『チャイナ・デイリィ』は、「米国、中国人旅行者への出国前検査義務化取り止め」として、日本や欧州に続いて、米国も中国人旅行者の入国制限を緩和したと報じている。
米国政府は昨年末、1月5日以降、中国から米国に入国する旅行者に対して、出国前にCOVID-19陰性証明書の取得を義務化すると決定していた。
何故なら、中国政府が昨年12月初め、“ゼロコロナ政策”を止めて中国人の海外渡航制限を緩和すると発表していたが、同政府が公式発表している感染者や死者数が実態を表していないという疑念が強かったからである。
ただ、エモリー大(1836年創立のジョージア州在私立大学)感染症専門のカルロス・デル=リオ教授(63歳)は『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューに答えて、“目下重要なことは、如何に米中間の政治・外交関係を改善していくかであるが、今回の措置によって中国側に無用な反発を起こさせることを懸念する”とコメントしていた。
しかし、ここへきて中国国内における感染状況が漸く局所的・散発的となって安定していることが認められたため、米疾病予防管理センター(CDC、1992年設立)がこの程、3月10日米東部標準時午後3時以降中国本土・香港・マカオを出発する航空便搭乗者に対して、中国出国前のCOVID-19陰性証明書の取得義務を取り止めることとする旨発表した。
なお、かかる変更措置が講じられる前に、ユナイテッド航空(1926年設立、売上高世界4位)は1月末、米航空会社の先陣を切って、上海空港への直行便を再開し、今後他都市向けも飛ばす意向を表明していた。
デルタ航空(1928年設立、同2位)もこれに続いたが、アメリカン航空(1930年設立、同1位)は今月下旬から再開するとしている。
一方、バイデン政権による中国と対峙する姿勢は依然頑なで、特に先月初めの中国製偵察気球の撃墜事件や、中国によるロシアへの武器供与の可能性についての情報局情報を受けて、両国緊張関係は更に増している。
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中国では、10月中旬に5年に一度の全国人民代表大会(共産党大会)が開催される。そこでの最大の関心事は、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)の異例の3期目が承認されるかどうかである。このため、同国家主席主導の“ゼロコロナ政策”の成果を見せる必要があり、9月中旬及び10月初めの長期休暇期間において、特に新型コロナウィルス(COVID-19)感染再拡大にある大都市圏では、不要不急の旅行を制限する通達が出されている。
9月8日付欧米
『ロイター通信』は、「COVID-19感染再流行下、より多くの大都市で長期休暇期間の旅行自粛を呼びかけ」と題して、中国では比較的早い段階でCOVID-19封じ込めに成功し全国的に安定推移してきたが、今年になってオミクロン変異株が再び猛威を振るい始めていることから、これから秋にかけて続く長期休暇期間において、全国の大都市圏で旅行の自粛が呼びかけられていると報じた。
今年に入ってCOVID-19再流行が起こっている中国において、多くの都市で感染拡大防止のため、数千万人規模に及ぶ都市封鎖措置が講じられている。
そうした中、中国東端の江蘇省(チャンスー)の二大都市が9月8日、9月10~12日間の中秋節(お盆に相当)期間における不要不急の旅行を控えるよう通達を出した。
同省西部の南京(ナンチン、人口約900万人)及び無錫(ウーシー、同約600万人)で、北京(同約2,100万人)・上海(同約2,800万人)等の大都市に続く行動制限となっている。
中央政府主導で全国的に“ゼロコロナ政策”が実施されている現状下、世界レベルより遥かに低いとはいえ、9月6日の新規感染者が全国で1,695人も発生していることから、必然的に多くの都市圏でより厳しい制限措置が取られることになる。
ただ、世界に比較して総感染者数が少なく、感染防止政策は成功とみられるが、その結果として景気後退が起こり、また、行動制限が3年にわたり断続的に続けられていることから、国民の不満が次第に大きく広がりつつある。
中央政府は未だ、いつ“ゼロコロナ政策”を終わらせるか公表していないが、入境を制限しての外国人旅行者の受け入れ停止措置は依然継続されたままである。
ただ、今回の大都市圏の行動制限呼びかけは、習国家主席の異例となる3期目続投が主題となる、5年に一度の党大会開催まで1ヵ月余りとなった時期になされたものである。
その他の都市での行動制限措置は以下のとおりである。
●中部四川省(スーチュワン)の成都(チェンドゥ、人口約900万人)及び近郊(合計約2,100万人):9月1日より都市封鎖措置が講じられているが、依然解除時期は未定。
●北京近郊の亦庄地区(イーチュアン)経済・技術特区:同特区共産党高官に対して、中秋節及び国慶節(10月1~7日)期間中の不要不急の特区外移動を禁止。同特区内住民に対しても、同様行動自粛を要請。
なお、9月7日に当局からリリースされた8月の貿易高は、輸出・輸入とも大きく減退していて、“ゼロコロナ政策”による都市封鎖措置等が影響しているとみられ、また、世界的インフレーションや現下の新たなCOVID-19流行問題に伴い、今後の見通しも更に低下すると予想されている。
同日付中国『チャイナ・デイリィ』(1981年創刊の共産党宣伝部保有英字紙)は、「中国高官、ゼロコロナ政策は人命も経済も救うと表明」として、感染症対策部門幹部が、“ゼロコロナ政策”遂行によって、感染症拡大抑制が図られ、結果として経済再生にもつながると表明したと報じている。
感染症対策部門幹部が9月7日、中国政府による大胆な“ゼロコロナ政策”は経済上もまた科学的なアプローチの観点からも、世界的に依然まん延しているCOVID-19の新たな流行を抑える最適な政策だと訴えた。
中国国家疾病予防管理局(2021年設立)の張ジル副局長が語ったもので、同政策は新規感染症予防に最適で、低コストでの拡大防止かつ短期間での成果が期待できるものだと主張した。
同副局長は中国共産党宣伝部が催した記者会見の席上、“同政策の下で、生産性が維持され、かつ全国民の健康が守られており、結果として安定的なサプライチェーン(総合的供給網)が確立・継続されている”と言及した。
記者団から、同政策は経済成長に水を差すものではないのかと問われたところ、同副局長は、COVID-19は依然沈静化しておらず、また、変異株の現出によって猛威を振るっていることから、ウィルス対策の最適化を優先していくことが肝要で、この成果に基づいて、将来の社会及び経済の繁栄に繋げられる、と回答した。
更に、同副局長は、中国における新感染症発生時の即応体制の充実さや、これまで発生した感染症-鳥インフルエンザ(2013年)、中東呼吸器症候群(2012年)等の感染抑制に良く対応できた経験則や、西アフリカのエボラ出血熱(2014年)抑制のための国際貢献等、中国における感染対策の成功例を挙げ、これらを踏まえて上で取り組んできている現行の“ゼロコロナ政策”の有効性について改めて称賛している。
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