ロシア検察当局は今週、既にロシア国内で禁止となり、海外で活動している英字メディア「モスクワ・タイムズ」を「好ましくない組織」に指定した。ウクライナ侵略を開始した2022年以降、このような組織は急増しているという。
7月11日付
『AP通信』:「ロシア、批判への弾圧で”好ましくない”新聞認定」:
ロシア連邦検察庁は10日、在外ロシア人コミュニティで人気のオンラインニュース「モスクワ・タイムズ」を「好ましくない組織」に認定したと発表した。
批判的なメディアや反体制派の取り締まりの一環とみられる。同紙はロシア国内でのあらゆる活動を停止することが求められ、また同紙に協力したロシア人は最大5年の禁固刑の対象となる。...
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7月11日付
『AP通信』:「ロシア、批判への弾圧で”好ましくない”新聞認定」:
ロシア連邦検察庁は10日、在外ロシア人コミュニティで人気のオンラインニュース「モスクワ・タイムズ」を「好ましくない組織」に認定したと発表した。
批判的なメディアや反体制派の取り締まりの一環とみられる。同紙はロシア国内でのあらゆる活動を停止することが求められ、また同紙に協力したロシア人は最大5年の禁固刑の対象となる。
これは11月に同紙が認定された「外国の代理人」よりも厳しい対応となる。「外国の代理人」に指定された個人や組織には、経営審査が行われ、如何なる公的書類においても同認定の告知を行なう義務が生じる。
「モスクワ・タイムズ」は、ロシア軍やウクライナ戦争を批判した記事が法的処罰となったことで、既に2022年に編集活動をロシア国外に移転している。英語とロシア語で報道しているが、ロシア語サイトはウクライナ戦争開始後数ヶ月で、ロシア国内でアクセス禁止となっている。
今回の認定に編集者注では、「これは我々のロシアやウクライナ戦争の真実に関する報道を抑圧する動きの一環である。国内の記者や関係者が処罰対象となるリスクがあり、ソースや聞き取りが今後ますます難しくなるが、我々は圧力に屈しない」としている。
同紙は1992年、外国人の多い飲食店やホテル等で配布される無料日刊紙として創刊され、ソ連崩壊後のロシアでの認知度が上がった。その後、週刊誌に以降し、2017年からオンラインのみとなった。
近年ロシアは政府に批判的な組織を「外国の代理人」に指定し、さらにその中に「好ましくない組織」を指定している。「好ましくない組織」に指定された他のメディアとしては、独立系新聞でドミトリー・ムラトフ編集長がノーベル賞を受賞した「ノヴァヤ・ガゼータ」やオンラインニュース「メデューザ」などがある。
また、プーチン大統領に最も批判的だった反体制派アレクセイ・ナワリヌイ氏、反体制派のウラジーミル・カラ・ムルザ氏、イリヤ・ヤシン氏を懲役刑としている。
同日付独『DW』:「ロシアがモスクワ・タイムズ紙の活動を禁止」:
ロシア連邦検察庁は10日、英語紙「モスクワ・タイムズ」を「不適切な組織」と断定し、活動を禁止するとした。同機関と協力すれば、最大5年以内の禁固刑処分となり得るとしている。
同紙は、ウクライナ侵攻直後からロシア連邦軍を批判しているとの理由から、国内のホームページへのアクセスが禁止されている。ロシア最高検察庁は声明で同紙が「内政、外交両面でロシアの指導部の決定を批判する目的で報道している」としている。
2023年11月、「モスクワ・タイムズ」はスパイを意味する「外国の代理人」に指定された。ロシアメディアでは、「ノヴァヤ・ガゼータ」、「メデューザ」、「ザ・インサイダー」、「イストリー」も「好ましくない組織」に認定され活動が禁止されている。最高検察庁は、「モスクワ・タイムズ」がこれらのメディアと協力したため、禁止措置が必要となったとしている。
同紙はウェブサイト上で、今回の認定に「驚きはなく」、活動は継続されるものとし、「我々の仕事は難しくなる。ロシアで我々と如何なる関わりを持つことも今後は刑事処罰のリスクを伴うだろう。しかし我々が口をつぐむことはない」としている。
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6月26日付米
『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』紙、英国
『BBCニュース』は、昨年3月に“スパイ容疑”で逮捕された米国人ジャーナリストが密室裁判にかけられようとしていると報じた。
『WSJ』ロシア特派員のエバン・ゲルシュコビッチ記者(32歳、『ニューヨーク・タイムズ』、『モスクワ・タイムズ』、『AFP通信』を経て2022年『WSJ』入社)は昨年3月29日、取材旅行先のエカテリンブルグ(モスクワの約1,770キロメートル東方)でロシア連邦保安庁(FSB、1995年設立、旧ソ連国家保安委員会(KGB)後継組織)によって逮捕された。
FSSは、米中央情報局(CIA、1947年設立)の命を受けて、エカテリンブルグ在のロシア戦車工場にかかわる機密情報を収集した“スパイ容疑”だとし、証拠等も揃っていると発表している。
ただ、15ヵ月余りも拘束した上で、6月26日にエカテリンブルグで開廷される裁判は非公開とされている。
『WSJ』欧州・中東・アフリカ担当部門のデボラ・ボール副責任者(ロンドン駐在)は、“これはインチキで突拍子もない手続きだ”と非難した上で、“ロシアにおける無罪率は1%未満であり、彼が無罪となる可能性は全くない”と悲観している。
同記者の逮捕当時、米政府及び『WSJ』は挙ってロシア当局の不当逮捕を厳しく非難し、同告発は全く受けいれられないと強く主張していた。
なお、同記者は最長20年の懲役刑が科せられる恐れがある。
一方、今回の同記者の密室裁判含めて、ロシア当局は対米強硬措置の一環で、後述どおり多くの米国人を逮捕し、また長期の懲役刑を宣告していることから、『WSJ』は、“ロシア政府は、海外で投獄されているロシア人を解放させるべく、そのための交換要員として米国人をロシア刑務所に投獄している”と強硬に非難している。
● ポール・ウィーラン(54歳、元海兵隊員)
・2018年12月、旅行先のモスクワに滞在中、FSBによってスパイ容疑で逮捕。
・本人も米政府も不当逮捕と主張するも、2020年6月に懲役16年の有罪判決が下され服役中。
● アルス・クルマシェワ(ロシア系米国人、米議会出資の『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』所属ジャーナリスト)
・2023年10月、ロシア在住の母親の病気見舞いでカザン(モスクワの約900キロメートル東方)を訪問中にFSBによって逮捕。
・逮捕容疑は、外国エージェント(注後記)であることの申告義務違反だが、起訴状では、ロシア軍のウクライナ軍事侵攻を非難する内容を含んだ本を発行することによって“虚偽情報”を流布したとする容疑。
・裁判はこれからだが、最悪15年の懲役刑の恐れ。
● マーク・フォーゲル(63歳、アングロ-アメリカン・モスクワ校(1949~2023年)の元教師
・2021年8月にロシア再入国時、マリワナ所持で逮捕。
・医療用マリワナであると主張するも認められなかった上、2022年6月には、麻薬密売罪で14年の懲役刑が科され服役中。
● ゴードン・ブラック(34歳、在韓米軍所属の軍曹)
・今年5月、韓国からの帰国途上で立ち寄ったロシア極東ウラジオストックで逮捕。
・容疑は、韓国滞在中に知り合ったガールフレンドの私物窃盗及び脅迫。6月に3年9ヵ月の懲役刑宣告。
なお、ロシア側がこれらの逮捕・拘留米国人と交換したいと考えている人物の一人は、目下ドイツにおいて殺人罪で服役中のロシア人工作員ワディム・クラシコフ被告(58歳、2019年にドイツ避難中の反チェチェン活動家幹部を暗殺)と考えられる。
ただ、今年2月にウラジーミル・プーチン大統領(71歳、2000年就任)は捕虜交換の対象としてクラシコフのことを仄めかしていたが、今回のゲルシュコビッチ記者の裁判に関わる質問では、何ら言及していない。
(注)外国エージェント:一般的に外交使節の一員である外交官(公務員)として働く人に提供される保護・特権の範囲外で、外国の利益を積極的に遂行する個人または機関を指す。2017年制定のロシア「外国エージェント法」に基づき、当局への申告義務が課されている。
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