習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は、異例となる3期目続投が決まった先月中旬開催の中国共産党第20回全国代表大会(党大会)において、台湾統一のために武力行使を厭わない旨再度宣言した。そしてこの程、中国人民解放軍(PLA)の戦闘機・軍艦が、同国家主席の発言に後押しされるかのように台湾海峡に進入してきた。
11月5日付
『Foxニュース』は、「台湾、PLA戦闘機・軍艦の異常接近を確認してスクランブル発進」と題して、習近平国家主席の台湾統一実力行使宣言を受けて中台関係が緊張する中、PLA戦闘機・軍艦が再び台湾海峡に進入してきたため、台湾軍が戦闘機のスクランブル発進に加えて、ミサイル防衛システムを準備させたと報じている。
台湾は11月5日、PLAの戦闘機・軍艦が台湾に異常接近してきたため、戦闘機のスクランブル発進に加えて、ミサイル防衛システムも緊急配備した。
台湾国防部(省に相当)によると、PLA戦闘機9機及び軍艦2隻が台湾海峡に進入してきて、そのうち1機は台湾の防空識別圏(ADIZ、注後記)を横切ったという。
PLAはこれまで何度か台湾付近で実戦演習をしてきているが、PLA高官が数日前に、台湾海峡での戦闘態勢は“常時準備万端だ”と発言したと香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙が報じていた。
同高官の不吉な発言の前、習近平国家主席が先月、“戦争のための実戦訓練及び準備を万端にせよ”と発令していた。
また、中国中央軍事委員会(1983年設立)傘下の調査局長である劉延東少将(リュウ・イェンドン、76歳)が党大会に提出した報告文の中で、“台湾独立に関わって外国勢力の加担等不穏な動きが認められた場合には、武力行使も含めて、常時対応できる準備を怠ってはならない”とした上で、“PLAは、いついかなる時でも戦時体制を敷けるよう準備しておく必要がある”と言及している。
かかる中国の動きに対して、民主主義国で形勢される主要7ヵ国(G-7)は11月4日、中国が地域の“現状変更”をしようとする企てに断固反対する旨の共同声明を発信している。
なお、G-7は一つの中国原則を尊重するとしながらも、中国に対して、“脅威、抑圧、脅迫、武力行使等は控えるよう”要求している。
同日付『ザ・デイリィ・コーラー』政治専門ニュースは、「中国軍戦闘機、習氏の“戦闘準備”宣言に続いて台湾ADIZに進入」と報じている。
習国家主席が「台湾問題」解決のためには武力行使も辞さじ、と発言してから数週間後の11月5日、PLAの戦闘機9機及び軍艦2隻が台湾海峡に進入してきた。
台湾軍は早速スクランブル発進を行って警戒に当たった。
国家主席発言後のかかる挑発行為はお決まりのパターンで、アントニー・ブリンケン国務長官(59歳、2021年就任)は、中国の“敵対行為”が増幅しているとし、より侵略的活動は米国及び同盟国にとって“深刻な懸念”となると警鐘を鳴らした。
なお、同国家主席は10月中旬開催の党大会で、「台湾問題」を解決するため、武力行使の選択肢を排除するつもりはなく、断固として台湾統一を実現する旨表明していた。
(注)ADIZ:各国が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域のこと。防空識別圏では、常時防空監視が行われ、通常は強制力はないが、予め飛行計画を提出せず、ここに進入する航空機には識別と証明を求める。更に、領空侵犯の危険がある航空機に対しては、軍事的予防措置などを行使することもある。
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習近平国家主席(69歳、2012年就任)は、今月中旬に開催される中国共産党第20回代表大会(党大会、注後記)において異例となる3期目の続投が承認される見込みである。そこで、同国家主席が主導する“ゼロコロナ政策”は成功事例のひとつとして堅持されることとなり、この程、新疆ウィグル自治区では1日僅か100人未満の新型コロナウィルス(COVID-19)感染者が発生しただけで、10月1日からの国慶節長期休暇期間であっても、厳格な都市封鎖措置が取られている。
10月6日付米
『AP通信』は、「広大な新疆ウィグル自治区、COVID-19問題で一斉に行動制限」と題して、新疆ウィグル自治区でCOVID-19新規感染者が出たが、1日100人弱にも拘らず、重要な党大会開催直前の事態であることから、“ゼロコロナ政策”の下で厳重な行動制限措置が取られていると報じた。
広大な新疆ウィグル自治区では、中国本土において直近のCOVID-19感染拡大問題に遭っている。
中国では今月中旬、重要事項が決定される党大会が開催されることから、COVID-19感染防止対策がより厳しくなっている。
そこで、10月1日からの国慶節長期休暇期間の真っ只中ながら、人口2,200万人の同地区において厳格な行動制限措置が取られることとなり、同地区に出入りする電車・バスの運行が停止され、また航空便も75%まで減便された。
地元政府の10月4日付発令によると、“感染拡大を断固として食い止めるため、厳格な措置を講じる”としている。
ただ、国家衛生健康委員会(1949年前身設立)の発表では、10月5日の新規感染者は93人、10月6日は97人と僅少数値であるばかりか、全員が無症状であるという。
従って、感染状況と行動制限措置が不均衡となっているが、“ゼロコロナ政策”が絶対的なものであることから疑問を挟む余地はない。
何故なら、同政策を主導してきたと言われる習近平国家主席にとって、党大会において異例となる3期目の続投が決定されるかどうかの重要な局面にあるからである。
更に、COVID-19感染で100万人以上の犠牲者を出している米国に比べて、同国家主席のリーダーシップの下で取られた感染症対策によって、1万6千人弱に抑えられており、如何に同政策が素晴らしいかと喧伝されている。
同国家主席自身も、中国の感染症対策が“素晴らしい戦略の成功例”であり、また、中国の政策決定システムが民主主義を標榜する西側諸国よりも“著しく顕著な利点”であることの証左となっていると表明している。
しかし、中国南西部の貴州省で9月中旬深夜、陽性患者の濃厚接触者であるとの理由だけで夜中に強制的に隔離されようとした人たちを乗せたバスが高速道路を移動中に転落して27人が死亡する事故が発生している。
また、2,600万人の人口を抱え、直近2ヵ月間の都市封鎖措置が講じられた中国最大都市の上海においても、10月6日の新規感染者が僅か11人(但し無症状)であるにも拘らず、引き続き2日間のPCR検査を強制する等の厳格な防疫政策が取られており、国内から不満の声が更に高まってきている。
同日付香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は、「中国の感染症専門家、新疆ウィグル自治区の感染拡大に警鐘」として、同地区での感染拡大が懸念されていると報じている。
中国疾病予防管理センター(CCDC、1983年設立)の你明健主任研究員(ニー・ミンチアン)は10月5日晩、先週から発生している新疆ウィグル自治区の新規感染者が、今後更に増える可能性があると警鐘を鳴らした。
同地区では8月に再びCOVID-19感染者の発生が報告され始め、10月6日には首都ウルムチの40人含めて全地区合計で97人の陽性者が出ている。
ただ、無症状患者は452人となっている。
同主任研究員は、感染拡大の原因として、感染が疑われる人々のマスク着用が不適切であったことや、9月からの経済活動再開に伴う人流活発化が考えられるとした。
また、同地区でのPCR検査体制の不十分さで隠れ陽性者が把握できていないことや、限られた医療従事者の激務で二次感染が広がっていることも考えられるという。
その上で同主任研究員は、オミクロン変異株の感染拡大状況等、今後の見通しが読めないこともあり、予断は許さないと強調した。
同自治区の劉崇謝主席代行(リウ・スーシェ)は10月4日、8月以降一部地域での行動制限措置を講じていたものの、感染抑制対策が不十分であったことを認めた上で、同日から公共の電車・バスの運行を停止し、住民の移動を制限して感染拡大を防ぐとの方針を発表している。
なお、同自治区では2020年以来数度にわたり都市封鎖措置が講じられていたが、直近で発生している新規感染者数は過去最大レベルとなっている。
(注)党大会:5年に一度開催される、全国共産党代表によって同党の最重要事項を決定する会議。共産党一党独裁の中国における事実上の最高機関。全国から選ばれた2,200人余りの代表者によって、中央委員205人、中央政治局委員25人、同常務委員7人、総書記1人が選ばれる。なお、毎年3月に開かれる全国人民代表大会(全人代)が憲法上で最高の国家権力機関と定められている。
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