12月15日付米
『Foxニュース』は、「ベトナム、米武器メーカーと折衝の背景に南シナ海で領有権を争う諸島の前哨基地拡充」と題して、長い間南シナ海の領有権問題で対立しているベトナムが、実効支配を強化すべく、南沙諸島(スプラトリー諸島)の複数の環礁を埋め立てて前哨基地を設営しており、これが俄かに米武器メーカーと折衝を進める背景とみられると報じている。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は12月15日、防衛・国家安全保障問題研究のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、本部ワシントンDC)が取り組んでいる「アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI、注後記)」プロジェクトが調査した報告を掲載した。
それによると、ベトナムが2022年後半、領有権問題となっている南シナ海の南沙諸島の複数の環礁を埋め立てて、計170ヘクタール(1,700平方キロメートル)の人工島を建設したという。
埋め立て工事を済ませたのは4つの小島・環礁で、ベトナムが実効支配しているナムイエット島・ピアソン礁・サンド礁・テネント礁である。
特に、最初の2つに造られた人工島は、39ヘクタール(390平方キロメートル)にも広げられていて、大型船が停泊できる港湾設備の建設が可能となっている。
また、ベトナムはその他5つの環礁の埋め立て工事にも着手しているとする。
そのうち、バーク・カナダ礁は既に23ヘクタール(230平方キロメートル)も広げられており、まもなく大掛かりな工事が始められるようになっているという。
かかる建設工事は、ベトナムによる南シナ海領有権問題に関わる大胆な活動と言えるが、中国が2013から2016年の間に実施した、のべ1,295ヘクタール(1万2,950平方キロメートル)に及ぶ人工島建設と比べると見劣りがする。
中国は更に、これら人工島を軍事拠点化して、既に対地・対空ミサイル、電子妨害装置のみならず、軍用機離発着が可能な滑走路まで設営している。
中国はこれらを用いて、米国等が実施している“航行の自由作戦”への強烈な対抗措置を講じたりして、同海域ほとんど全てにおける領有権主張を強靭なものにしつつある。
英国メディア『ザ・ガーディアン』紙は、ベトナムが使用しているのはグラブ型浚渫機であり、“環礁を浅く掘って埋め立てを行っていることから、中国が行った浚渫・埋め立て工事より環礁の破壊度合は少ない”と報じている。
以上より、CSISのAMTI調査報告では、“ベトナムが2022年に実施した小島・環礁埋め立て工事は、南シナ海における領有権主張をより鮮明に表す意図がある”と結論付けられているが、“(この活動に対して)中国や他の領有権主張国がどういう対応を見せるのか、注目していく必要がある”としている。
なお、同海域で他に領有権を主張しているのは、台湾・フィリピン・ブルネイ・マレーシアで、ベトナムと同様中国の一方的な領有権主張に懸念を示しているが、ベトナムが主張するような、どの小島・環礁がどの国に帰属しているかとの見解には賛同していない。
一方、『ロイター通信』は12月15日、米武器メーカーのロッキードマーティン・ボーイング・レイセオン・テクストロン等がベトナム政府と折衝していて、ヘリコプターや無人攻撃機の供給について協議していると報じた。
同報道によると、これらのメーカー代表が、ベトナムが初めて開催した兵器・装備品国際展示会への参加を契機にベトナムを訪問して、軍事装備品提供の交渉を行ったという。
なお、対象品目の無人攻撃機については、今回ベトナムが南沙諸島内に築いた小規模の人工島において、周辺哨戒や対艦攻撃を想定した場合、有力な武器となるとみられる。
同日付欧米『ロイター通信』は、「米シンクタンク、ベトナムが南シナ海領有権主張で実力行使との調査報告」として詳報している。
CSIS調査報告によると、ベトナムが2022年に南沙諸島内に計420エーカー(170ヘクタール)の埋め立て工事を行った結果、同国が直近10年で実施してきた工事と併せて、のべ540エーカー(220ヘクタール、2,200平方キロメートル)にも達したという。
この結果、同国は4つの人工島を建設した上、更に他にも5つの小島・環礁で浚渫工事を展開しているとする。
ただ、“中国が、2013から2016年にかけて実施した広大な埋め立て工事面積の3,200エーカー(1,300ヘクタール、1万3千平方キロメートル)より遥かに狭い”としている。
しかし、“これまで中国が一方的に領有権を主張し、実力行動に出てきていたことに対して、今回のベトナムによる実力行使は、同海域における領有権問題で同国の主張をより強く示すことになる”とし、“今後の中国や他の領有権主張国の行動が注目される”と結んでいる。
(注)AMTI:南シナ海を航行する船舶の船籍を特定したり、中国が進める人工島の建設の様子を追ったりして、分析をウェブサイトで公開する調査プロジェクト。
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12月1日付英
『ガーディアン』:「2022年世界で最も物価が高い都市はニューヨークとシンガポール」:
今年最も生活費が高い都市はニューヨークで、シンガポールと並んだ。調査を行ったエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の世界主要都市の物価比較レポートによると、世界各地でエネルギー価格が急騰し、インフレ率が倍増した影響とみられる。
昨年首位だったテレアビブ(イスラエル)が3位に下落。シドニーがトップ10入りし、ロシアのモスクワとサンクトペテルブルグは経済制裁や石油価格上昇の影響で88位も上昇した。
ベネズエラの首都カラカスは今年物価が132%上昇、2019年のハイパーインフレの影響でランクは下がったものの高止まりしている。
通貨が下落しランクを落とした都市もある。東京や大阪は最もランクを落とした10都市に入り、それぞれ37位と43位で、2021年の13位と10位から下がった。最も下げ幅が大きかったのは、スウェーデンのストックホルムとルクセンブルグで、38位下がって99位と104位となった。シリアのダマスカス、リビアのトリポリは依然として最も生活費の安い都市となっている。
シンガポールがトップに立ったのは全く驚くべきものではなく、2021年にも2位タイ、過去10年間で8回も首位となっており、今年ニューヨークが首位となったのは初のこと。
イギリスの3都市はすべて順位を落とした。ロンドンは昨年の17位から28位に、エジンバラは27位から46位、マンチェスターは41位から73位に下がっている。オーストラリアを見ると、港湾都市を中心に総じて上昇。
上昇を続ける石油価格がインフレの最たる要因で、平均すると1リットルあたり22%値上がりしている。ロシア以外の代替供給先をさがしている欧州の都市では、天然ガスや電気も29%値上がりし、世界平均11%の3倍となっている。
レポートによると、今後はウクライナ戦争が激化しない限り、エネルギーや食糧などの物価は、2022年の上昇率と比べれば、2023年には安定するとみられる。
同日付香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(AFP通信):「インフレの影響で世界一物価の高い都市はニューヨークとシンガポール」:
2022年の世界的インフレにより、世界で最も生活費が高い都市にニューヨークとシンガポールが選ばれた。1日英エコノミストの調査部門が8月、9月に実施した「世界各地の生活費インデックス」に関する最新レポートが発表された。
レポートによると、「ウクライナ戦争や長引くパンデミックにより、エネルギーや食糧の流通が困難になったことから、世界の大都市で生活費が高騰した」という。
ニューヨークが1位となったのは初の一方、香港とロサンゼルスは5位から脱落。最も生活費が安い都市は変わらず、ダマスカス(シリア)とトリポリ(リビア)だった。
調査対象の172の都市での物価上昇率は平均8.1%と高騰した。国により多少の違いはあるが、アジアの各都市では、物価上昇率は平均4.5%と、急激な上昇は免れる傾向にあった。
調査では5万項目の商品が米ドルに換算され、「都市ランキングにはドル高の影響が大きい」。今年FRBがインフレ抑制策として金利を引き上げたことでドルが上昇した。ニューヨークの他、米国ではロサンゼルスとサンフランシスコがトップ10にランクインした。
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