米国と英国は、香港国家安全維持法(国安法)施行により、香港の政治的・司法的状況が悪化しており、「香港と中国との差は縮まっている」とした政府報告書を公表。香港政府はこれを「根拠なき馬鹿げたもの」と批判している。
3月31日付
『USニュース&ワールドレポート』(ロイター通信):「香港政府、市の自由が脅かされているとする英米の報告書を批判」:
香港政府は、香港国家安全維持法(国安法)施行により、香港の政治的・司法的状況が悪化しているとした英国及び米国の政府報告書は、「根拠なき馬鹿げたもの」と批判している。
英米は木曜、香港の自由が侵害されており、議会、自治社会、メディア等反対派への圧力が続いていると強い言葉で詳細な懸念を綴った報告書を公表した。直近では水曜、国家安全法を理由にイギリス人最高裁判事が辞任している。
香港のキャリー・ラム行政長官は、判事の辞任に関し、「政治的理由だ」としているのに対し、中国は「イギリスの圧力」だと批判。香港政府は声明で、「我々は香港特別行政区に対する根拠なき主張に強く反対する。諸外国に対し香港を巡る中国の内政問題の干渉をやめるよう求める」 としている。また香港政府は、法と司法の独立を順守し、報道や言論の自由を擁護し、法に反しない限りにおいて、メディアには政府の監視と政策批判の機会を与えているとも主張している。
英国の報告書では、最高裁判事辞任の理由として、政治司法の状況が、「判事を置くに値しない次元に悪化している」としている。 1997年香港が中国返還時の合意により、香港の司法制度の独立性を保つ目的で、イギリス人判事が長く香港最高裁判事職を担ってきた。 他に10人の外国人判事がおり、6人は退官イギリス人、カナダ人が1人、オーストラリア人3人が判事となっている。
ブリンケン国務長官は報告の中で、 香港と中国の距離が、「中国の圧力により縮まってきている」と指摘。企業関係者や外交官は、世界金融の中心である香港の司法独立性の行方を注視している。
4月1日付中国『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』:「香港の政治司法制度は゛崩壊している゛とした英外相の報告書は゛馬鹿げたもの゛と香港が反発」:
香港政府は、香港の政治司法システムを批判した英国の報告書に反発し、香港の裁判所は「かつてなく健全」だとしている。
昨年7月~12月に関する6か月報告書は、リズ・トラス英外務相が木曜に英議会に提出したもので、香港の司法システムが「最高裁に英国の判事を置くことが出来ないほどに破壊されている」としている。報告書によると、副首相、大法官、最高裁長官との協議をトラス氏が主導し、香港最高裁から判事2人を辞任させるという結論に至ったという。
香港政府のスポークスマンは、判事辞任は、「司法行為や司法の独立性に影響を与えるものではない。国家安全法により、香港の混乱を沈め安全な秩序を取り戻せた。すべての法的措置は、政治的動機でなく、証拠に基づき行使されている」としている。
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中国は、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に伴うサプライチェーン(注1後記)の混乱や「ゼロ-コロナ政策」によって経済成長率の大幅後退に喘いでいる。そこで、常に我が道をいくことが許されると思っていることからか、急速な景気回復を実現させるためには「パリ協定(注2後記)」の約束などお構いなしに、反クリーンエネルギー戦略を実践している。
2月24日付欧米
『ロイター通信』は、「中国、2016年以来最大規模となる33ギガワットの石炭火力発電所建設に着手」と題して、COVID-19禍からの景気回復のためには「パリ協定」で定めた目標などお構いなしに、反クリーンエネルギー戦略を実践していると、環境NGOの調査報告を引用して報じている。
フィンランドのNGOエネルギー・クリーンエア―研究センター(CREA)及び米国のシンクタンク国際エネルギー監視(GEM)が2月24日に公表した調査報告によると、中国は2021年に、2016年以来最大規模となる33ギガワット(3,300万キロワット、編注;日本全体の発電容量の約13%)の石炭火力発電所建設に着手したという。
これは、全世界の石炭火力発電所総発電容量の3倍にも匹敵する規模のものである。
更に中国は昨年、石炭使用に準拠した鉄鋼生産について7,400万トン規模の施設建設を許可しているが、これは全世界の生産規模を上回るものである。
CREAとGEMは共同声明で、“「パリ協定」で定められた枠組みに全く反するもので、これによって(反クリーンエネルギーの)不毛な資産が900億ドル(約10兆3,500億円)増えて1,300億ドル(約14兆9,500億円)にも膨れ上がる”と非難している。
背景には、COVID-19禍に伴うサプライチェーンの混乱や「ゼロ-コロナ政策」によって大幅に減退した景気を回復させるため、環境問題などには構わず独自の政策を進めようとしている中国政府の姿勢がある。
CREAのローリー・マイリビルタ筆頭研究者は、“不動産業界の減退に加えて、COVID-19禍やその防止政策に伴う景気落ち込みに遭ったことから、形振り構わず、最も典型的な炭素集約型の産業や建設業界を盛り立てようとしている”と糾弾した。
一方、習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)は先月、二酸化炭素削減政策は、エネルギーや食糧の安定供給、更には国民の“日常生活”を犠牲にしてまで追及するものではない、と宣言している。
かかる背景もあって、中国生態環境部(省に相当、1998年前身設立)の孫寿凉総務部主任(ソン・ショーリアン)は2月23日、中国はまず“安定を第一に”据える必要があり、また、“(環境対策の)目標を余りに高く設定するべきではない”と表明した。
なお、中国国家電網(2002年設立の送電企業)の研究員によると、中国は2026年から石炭使用料削減に着手するとしているが、それまでにまだ150ギガワット(編注;日本の総発電容量の約58%)規模の石炭火力発電所建設計画があるという。
同日付香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は、「中国、景気回復のために石炭火力発電も製鉄産業も必要」と題して、国際環境NGOの研究レポートの詳細について触れている。
それによると、中国は、「パリ協定」に基づき、2060年までにカーボンニュートラル(注3後記)を達成するとの目標を立てているが、それと逆行するように、33ギガワット規模の石炭火力発電所の建設に着手し、また、7,400万トンの石炭使用準拠の製鉄増設を許可しているという。
前者は、世界全体の石炭火力発電所の3倍、また、後者も同様に他国の5倍の規模になるとする。
環境NGOのCREAのマイリビルタ筆頭研究員は、2060年までにカーボンニュートラルを達成するためには、中国は石炭火力発電所及び製鉄生産規模を2050年までに約8割削減する必要があるが、上記の動きはこれに全く逆行するものだと非難している。
なお、中国は2021年末現在で、石炭火力発電所2,380ギガワット(編注;日本の総発電容量の約9倍)及び石炭使用準拠の製鉄所2,933万トンを擁している。
(注1)サプライチェーン:商品が消費者に届くまでの、「原料調達」に始まり「製造」「在庫管理」「物流」「販売」等を通じて、消費者の手元に届くまでの一連の流れのこと。供給を鎖に見立て、ひと続きの連続した流れとして捉える考え方。
(注2)パリ協定:第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されたフランスのパリにて2015年12月に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定。1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する196カ国全てが参加する枠組みとしては史上初。排出量削減目標の策定義務化や進捗の調査など一部は法的拘束力があるものの罰則規定はない。2020年以降の地球温暖化対策を定めている。
(注3)カーボンニュートラル:環境化学の用語の一つ、または製造業における環境問題に対する活動の用語の一つ。カーボンオフセット、排出量実質ゼロという言葉も、同様の意味で用いられる。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量にする、という考え。
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