フィリピン;来年選出の新大統領は親中派、それとも親米派?【米メディア】(2021/12/17)
フィリピンでは来年5月、6年に一度の大統領選が行われる。大統領は1期のみで再選は許されないが、強権を発揮できることから、特に外交関係において、大統領自身の政策に左右されがちである。そこで、ロドリゴ・ドゥテルテ現大統領(76歳)の親中派政策が継承されるのかどうかは、偏に新大統領の政策に委ねられることになる。
12月16日付
『ザ・ディプロマット』 オンラインニュース:「フィリピンの新大統領の対中政策は如何に」
フィリピンでは直近二十年間、中国との関係が“黄金期”、“アジアで最悪の関係”、また“揺れ動く関係”と変化してきた。
これは偏に、同国の大統領の外交政策によって左右されてしまうからである。
同国大統領の任期は6年、但し“1期のみ”に限られ“再選は認められない”。
従って、大統領独自の個人的利権に注力してしまう傾向となる。...
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12月16日付
『ザ・ディプロマット』 オンラインニュース:「フィリピンの新大統領の対中政策は如何に」
フィリピンでは直近二十年間、中国との関係が“黄金期”、“アジアで最悪の関係”、また“揺れ動く関係”と変化してきた。
これは偏に、同国の大統領の外交政策によって左右されてしまうからである。
同国大統領の任期は6年、但し“1期のみ”に限られ“再選は認められない”。
従って、大統領独自の個人的利権に注力してしまう傾向となる。
1.これまでの大統領の外交政策は以下のとおりであった。
●グロリア・マカパガル=アロヨ第14代大統領(2001~2010年在任、就任時53歳)
・中道右派のラカス党(1991年設立)。
・米国との関係は継続するとするも、南シナ海領有権問題に拘泥せず、中国との貿易・投資関係増強を優先。
・任期中、中国の活動が平和的だったこともあって、軍上層部や大手企業は、同大統領の対中政策を評価。
●ベニグノ・アキノ3世第15代大統領(2010~2016年在任、1960~2021年)
・中道右派の自由党(1946年設立)。
・前政権と反対に、中国と対峙する一方、親米政策を推進。2014年には、米比拡大防衛協約を締結。これに伴い、米国側からフィリピン側に、監視艇、戦闘機、その他フィリピン国軍近代化のための装備品を提供。
・一方、中国は、南シナ海における領有権主張(九段線)を基に、2013年から同海域の環礁に人工島の建設を開始し、更に軍事拠点化を推進する等、一方的な海洋進出を実行。
・これに業を煮やし、同政権はハーグ(オランダ)在の常設仲裁裁判所(PCA、1899年設立)に対して、“九段線”は無効だとして提訴。結果、PCAは2016年7月、フィリピンの訴えを支持する裁定。
●ロドリゴ・ドゥテルテ第16代大統領(2016~現在、就任時71歳)
・中道左派のPDPラバン党(フィリピン民主党・国民の力の合併で1986年設立)。
・前政権の方針に真っ向から反対し、親中政策を推進。PCA裁定を不問にして、中国からの投融資やインフラ援助獲得に注力。
・オバマ政権が、同大統領が麻薬犯罪撲滅の一環で行った超法規的殺人政策に批判的であったことから、益々謙米政策に移行。
・2020年2月には、米比間訪問部隊協定(VFA、1999年発効)を一方的に破棄すると宣言し、駐留米軍の早期撤退を要求。ただ、その後の中国の強硬策に恐れを抱いたこともあって、2021年7月にVFA破棄宣言を撤回。
2.新大統領の有力候補者は以下である。
●フェルディナンド・マルコス・ジュニア(64歳、前上院議員。独裁者フェルディナンド・マルコス第10代大統領の長男)
・フィリピン国民党。
・ドゥテルテ大統領の親中政策を“正当”なものと評価。従って、当選した場合、南シナ海領有権問題含め、対中政策に変更はない見込み。
●レニー・ロブレド(56歳、2016年就任の現副大統領)
・自由党。
・アキノ3世大統領と同じ政党ながら、中国と対峙することは避けて、“包括的かつ独自の外交政策”を推進する意向を表明。
・特に、ベトナムの対中政策を見習って、中国と衝突することのない分野での経済・投資関係構築を模索。
・ただ、PCA裁定の意義を認め、中国がフィリピンに事前相談もなく、南シナ海での天然資源開発を進めることは問題視すると表明。
●マニー・パッキャオ(42歳、ボクシング界の国民的英雄)
・PDPラバン党。
・ドゥテルテ現大統領と同じ政党ながら、反対派に推されて立候補。
・従って、特に同大統領の南シナ海領有権問題での対中軟弱姿勢を非難。
●フランシスコ・ドマゴソ(47歳、元俳優、2019年就任の現マニラ市長)
・中道右派の国民統一党(2011年設立)。
・対中強硬派。フィリピン主権擁護のために“戦うことは全く恐れない”とし、当選した場合、PCA裁定“遵守”を中国に強く迫る、と表明。
3.なお、アルバート・デル・ロサリオ元外相(82歳、2011~2016年在任)が、2016年の大統領選時、(親中派の)ドゥテルテ候補を当選させるべく中国が画策した疑いがある、とコメントしている。
そこで、米国政府としては、“中国政府の傀儡政権”が誕生することを恐れて、2022年大統領選挙は如何なる外国勢力の影響も排除するよう、フィリピン側を支援していく意向である。
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国連気候変動評価報告ではインド洋が他の大洋に比較し地球温暖化の影響最悪【米メディア】(2021/09/01)
既報どおり、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC、注1後記)第6次評価報告書/第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が今年8月に公表された。総論として、地球温暖化の主因は人間活動によって排出された温室効果ガスであり、また、向こう数十年の間に温室効果ガス排出量が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は2℃を超える、というものであった。そしてこの程、本報告書によると、世界の大洋の中で、インド洋が最も地球温暖化の影響を受けることになると読み取れる、と専門家が警鐘を鳴らしている。
8月31日付
『ザ・ディプロマット』 誌(2001年創刊):「気候変動問題はインド洋の安全保障上最大の脅威」
インド熱帯気象学院(IITM、1962年設立)気象学者のスワプナ・パニカル氏は、8月に公表されたIPCC作業部会報告書を踏まえて、“インド洋は他の大洋に比べて最も水温上昇が顕著だ”とし、それに伴う様々な気候変動問題が発生すると警鐘を鳴らした。
当該報告書は、地球温暖化の進行で、世界並びにインド洋は今後数十年間にわたって深刻な災害に見舞われることを明言している。...
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8月31日付
『ザ・ディプロマット』 誌(2001年創刊):「気候変動問題はインド洋の安全保障上最大の脅威」
インド熱帯気象学院(IITM、1962年設立)気象学者のスワプナ・パニカル氏は、8月に公表されたIPCC作業部会報告書を踏まえて、“インド洋は他の大洋に比べて最も水温上昇が顕著だ”とし、それに伴う様々な気候変動問題が発生すると警鐘を鳴らした。
当該報告書は、地球温暖化の進行で、世界並びにインド洋は今後数十年間にわたって深刻な災害に見舞われることを明言している。
そこで、気候変動に伴う様々な危機に対応するため、今こそ多国間協力が必須であることから、これまで休眠状態であった環インド洋連合(IORA、注2後記)の再活性化が求められ、具体的に次のようなインド洋特有の問題に対処していくことが期待される。
<環境劣化>
地球温暖化の影響で、インド洋の水温上昇は太平洋に比べて3倍も高くなるとされている。
それによって、海面上昇が起こり、そのために海岸レベルが低い国や地域では洪水が頻繁に発生するようになる。
インド洋の海面は毎年3.7mm上昇していると言われており、結果として極端な海洋災害が毎年発生する可能性がある。
また、IPCC報告書によれば、インド亜大陸に発生する西南アジア・モンスーンは軌道が変り、また、どんどん激しくなるため、いろいろな地域に豪雨をもたらすとしている。
以上の結果、特に、IORA加盟国であるインド洋のモリディブ・モーリシャス・セイシェル等の島嶼国は気候変動に脆弱であるため、IORAとして最優先で支援していく必要がある。
更に、同じく加盟国である東南アジアのタイやインドネシアも、2004年発生の津波で大被害を被っているとおり、頻繁に洪水被害に遭う可能性が高い。
一方、インド洋周辺には数百万種類の固有の動植物が生息しているが、環境汚染や漁獲過多に伴って、熱帯雨林・サンゴ礁等の生態系に大きな脅威となっている。
この問題についても、アフリカ大陸の国々からアジアそして豪州までが加盟しているIORAが主体となって、包括的に対応していくことが望まれる。
<海洋安全保障>
IORAにとって、もうひとつの優先課題は同海域の安全保障問題である。
中国が2013年に一帯一路経済圏構想(OBOR)を立ち上げて以降、東南アジアの諸港からアフリカ東部のジブチに至るまで、中国によるインフラ投資が加速されたことに伴い、インド洋における中国の制海圧力が高まってきている。
更に、中国は、南シナ海での一方的海洋進出に味を占めて、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題で多くの国が困難に陥っている隙をついて、インド洋にも中国海上民兵が多数進出してきて周辺国にとっての脅威となっている。
この中国の脅威に対抗するためにも、IORAを母体とした戦略的対応が必要となる。
<貿易・経済発展>
インド洋地域は、世界人口の3分の1が居住し、また、原油取引でも世界の中心になっている。
更に、インド・バングラデシュ・タイのように成長著しい国々が存在する。
しかし、域内諸国間の貿易連携は脆弱で、特にCOVID-19問題から自国の経済発展が停止の状態に追い込まれている。
そこで、この問題においても、アフリカとアジア諸国が加盟しているIORAを主体とした経済連携が有効な手段となると思われる。
直近で南アフリカから、目まぐるしい経済成長を称賛されたバングラデシュは、IORA加盟国に対して経済協力の強化を呼び掛けている。
IORAの経済連携の具体的進捗には、2018年末に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPPあるいはTPP 11)における交渉や合意事項等が参考になろう。
インド洋地域における様々な問題を解決していくためには、IORAの能動的な活動が必須で、インド洋のみならずインド太平洋地域における「ブルーエコノミー(注3後記)」を創設していくことが肝要である。
(注1)IPCC:国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための国連傘下の政府間機構で、1988年設立。学術的な機関であり、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それがない場合の被害想定結果等に関する科学的知見の評価を提供。数年おきに発行される「評価報告書」は地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治及び各国の政策に強い影響を与えつつある。
(注2)IORA:1995年に設立された国際組織で、加盟国域内での貿易と投資の活性化を目的とする地域協力連合。加盟国は、インド洋周辺のインド・豪州・インドネシア・マレーシア・イラン・南アフリカ・アラブ首長国連邦(UAE)の他、島嶼国のセイシェル・モーリシャス・モルディブ等計22ヵ国。対話パートナーとして、日本・米国・英国・フランス・ドイツ・中国等がいる。
(注3)「ブルーエコノミー」:海を守りながら利用することで経済や社会全体を持続的に発展させていこうとする海洋産業のこと。2010年にゼロ・エミッション構想を考案した、グンター・パウリ氏(65歳、ベルギー出身起業家)の著書「The Blue Economy」に始まる。 ブルーエコノミーの考え方は以前からあったが、プラスチックごみの問題以降、注目を集めている。
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