7月25日付【
時流;東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断狙う中国】及び
Globali「仲裁裁定後に更に緊張高まる南シナ海(3)」で触れたとおり、常設仲裁裁判所(PCA)裁定を無視する中国は、ASEAN外相会議の共同声明の中に同裁定について一切触れさせないことによって、南シナ海領有権問題を抱えるASEAN自身が同裁定に固執しないことを世界にアピールすべく、ASEANの分断を図った。49年の歴史の中で共同声明が再び出せないことを憂慮するASEAN各国に対し、中国が個別波状攻撃を仕掛けた結果、ASEANをして全会一致の原則を踏襲できる最低限の表現に留めさせることに成功した。一方、暖簾に腕押しではあろうが、日本は米国・豪州とともに、PCA裁定を尊重するよう、引き続き中国に圧力をかけている。
7月25日付英
『ザ・テレグラフ』紙:「中国の猛反発で、ASEAN共同声明の南シナ海関連の表現腰砕け」
「●ビエンチャン(ラオス)で開催されたASEAN外相会議は7月25日、中国の猛反発に遭って、中国の主張を全面否定したPCA裁定について何ら言及されない共同声明を採択。
●ASEANは全会一致を旨としており、中国側が事前に、中国派の議長国ラオスを初め、同じく中国擁護派のカンボジアを抱き込んだこともあって、PCA裁定の言及を訴えていたフィリピンも最終的に譲歩せざるを得なかったもの。...
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7月25日付英
『ザ・テレグラフ』紙:「中国の猛反発で、ASEAN共同声明の南シナ海関連の表現腰砕け」
「●ビエンチャン(ラオス)で開催されたASEAN外相会議は7月25日、中国の猛反発に遭って、中国の主張を全面否定したPCA裁定について何ら言及されない共同声明を採択。
●ASEANは全会一致を旨としており、中国側が事前に、中国派の議長国ラオスを初め、同じく中国擁護派のカンボジアを抱き込んだこともあって、PCA裁定の言及を訴えていたフィリピンも最終的に譲歩せざるを得なかったもの。
●ただ、ASEANは、南シナ海において進行中の状況への深刻な懸念があることを認識し、また、複数の外相より、岩礁の埋め立て工事等への懸念が表明されたことを留意する、との表現は採用。」
7月26日付フィリピン
『マニラ・ブルティン』紙(
『ロイター通信』記事引用):「ASEAN声明にPCA裁定を言及させず中国外交の勝利」
「●米国のジョン・ケリー国務長官は7月25日、ASEANが共同声明を出す前に、同議長国のラオスのサロームゼイ・コマシッツ外相と面談し、同声明の中でPCA裁定に言及するよう要求。
●同長官は、ASEAN他国外相との面談時にも同様の要求をしたが、結果は叶わず。
●フィリピンとベトナムも、同声明にPCA裁定を含めるよう最後まで抵抗したが、ASEANの全会一致原則の前に断念。」
同日付中国
『環球時報』(
『新華社通信』記事引用):「中国外交部長、南シナ海問題を政治問題化するのは止めて、対話による解決の道に戻るよう要求」
「●中国の王毅(ワン・イー)外交部長は7月25日、ASEAN外相会議後の記者会見で、ASEAN各国に対して、南シナ海問題をこれ以上政治問題化するのは止めて、2002年11月に中国とASEANが合意した、南シナ海に関わる行動規範を策定するとの基本に立ち返るよう要求したと発表。
●また同部長は、ケリー国務長官との面談の際、中国とフィリピンが対話のテーブルに着くことを米国も支援するよう望むと説明し、同長官もこれに同意したとコメント。
●更に同部長は、ASEAN加盟国にも、南シナ海領有権問題で中国とASEANが対立するような事態は避け、むしろ中国とフィリピンが対話を通じて問題解決に当るよう後押しすることを要望したと付言。」
一方、同日付米
『AP通信』:「日米豪、結束力弱体のASEANに代わって中国に苦言」
「●日米豪3ヵ国は7月25日晩、中国に対して、南シナ海の軍事拠点化と、更なる埋め立て工事を止めるよう強く求める共同声明を発表。
●ASEAN外相会議において、全会一致原則の理由から、PCA裁定につき全く言及しない共同声明が出されることになったことを憂慮して、ASEANに代わって発表したもの。
●同声明において3ヵ国は、PCA裁定を支持し、また、フィリピンと中国双方がその結果を尊重するよう強く求めるとも言及。」
2013年に中国外交部長に就任して以降の王氏を見ていると、十数年前の駐日大使だった頃の温和で親日的な印象とは大違いで、“君子は豹変す”(本来の意味ではなく、現代よく使われている悪い方の意味で)あるいは“立場は人を変える”(これも悪い意味で)という故事を実感している。
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