9月25日付米
『ABCニュース』:「元首相国葬を巡る論争がおきる」:
27日安倍晋三元首相の国葬が営まれる。政府によると、ハリス米副大統領を含め国外からも700人が参列するというが、国葬費用に見合うのかとの疑問から重苦しい空気が漂っている。
25日には東京で国葬反対デモも行われた。警察は周辺県からの応援を得て警備強化に努めている。岸田首相は国葬決定にあたり、レガシーへの称賛だけでなく、日本が暴力に屈せず、民主主義を守る決意を示すのだとしたが、開催決定事態が民主的でなく、このイベントがレガシーの塗り替えだとの批判もある。
世論調査によると、約60%の国民が国葬に反対し中止を求めている。反対派は、国葬実施は国民からの追悼を強要することだとするが、政府は「すべての人が喪に服す必要はない」と念を押している。
7月の安倍氏暗殺により、政府指導者らが統一協会(世界平和統一家庭連合)との繋がりがあることが明るみに出た。これが明らかになるにつれ、国葬への支持が減り、安倍氏のレガシーの輝きは失われていった。専門家からは、現政権の正確な評価を歪め、好印象を残すための国葬だとの批判もある。
自民党の内部調査からも、教会との繋がりのある政治家が多数存在することが分かっている。消費者庁は、教会の悪徳商法を調査する対策検討会を設置。安倍氏の最大の成果は、教会と政治家との関係を明らかにしたことだともいわれている。
同日付加『CBCニュース』:「安倍元首相国葬開催に多くの国民が抗議するのはなぜか」:
過去2ヶ月、日本各地で元首相の国葬に反対するデモが行われ勢いを増していった。7月の総選挙期間、屋外での応援演説中に安倍氏が男に襲撃された事件で、日本には衝撃が走り、世界も悲しみに包まれた。
安倍氏の親族による葬儀から一週間後、死を悼む国民も弔続々と弔問に訪れたが、2ヶ月を経た今、国葬への支持は大きく揺らいでしまった。元首相の国葬は55年ぶりとなる。海外からも要人が訪問するが、トルドー首相は24日、カナダに上陸したハリケーンの災害対策のため欠席すると発表した。
最新の世論調査や報道によると、約60%の人々が、国葬に反対しており、市議会議員や法曹界からも国葬に法的根拠がないとの指摘がある。
国外で安倍氏は、日本の国際的認識を高めた人物として知られている。首相在職9年間で外遊81回は首相交代が激しい日本では例外的。トランプ元米大統領とゴルフ外交をするなど、欧米の首脳との関係を深めていった。トルドー首相は安倍氏を「志ある偉大な人物であり、カナダの親しい友人」と呼んだ。
だが、国内では、戦後最も賛否が分かれる首相で、アベノミクス政策によるデフレ脱却で経済の安定を築いたことで評価されているが、安全保障問題では、タカ派の改憲論者で、自衛隊強化による平和憲法の改正論で国民の怒りを招いた。2020年の辞任後も、クロニズム(ひいき主義)スキャンダルがついて回った。安倍氏の国への貢献や国内外での成果により国葬を開催することを決めた岸田首相の決定は、統一教会との関係が明るみに出ることで、政治的緊張の火種となった。
早稲田大学の政治社会学の河野教授は、国民感情がまだ犯人への怒りで高まっていた事件後すぐに葬儀をしていたら、大きな反対に合わなかっただろうが、情勢は明らかに逆転してしまったとする。「安倍氏のスキャンダル対応に目をつぶっても、今回は追悼をしようとの機運が高まっていたのだが、教会の問題により見過ごすわけにいかないという流れに変わってしまった」としている。
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8月31日付米
『AP通信』は、「豪州外相、東ティモール政府に中国融資に注意するよう警告」と題して、両国間のティモール海海底に賦存する天然ガス田の生産物のパイプライン輸送敷設計画推進に当たって、中国融資に委ねようとしている東ティモール政府に対して、“債務の罠”にはまらないよう警告したと報じている。
豪州のペニー・ウォン外相(53歳、2022年就任)は9月1日、東ティモール(1975年ポルトガルより独立宣言、2002年インドネシアより主権回復)を訪問した際、大規模天然ガスパイプライン敷設プロジェクト推進に当たって、中国に対して“返済不可能な債務”を負わないよう警告した。
同外相がジョゼ・ラモス=ホルタ大統領(72歳、2022年就任)と会談した際、両国間海底に賦存する500億ドル(約6兆9,500億円)相当の“グレイターサンライズ(GS)”天然ガス田開発に関わる問題について直接討議した。
同大統領は先月、ティモール海海底のGS天然ガス田の生産物を東ティモールまで輸送するパイプライン敷設建設計画実現のために中国融資に頼る意向を表明していた。
同外相は、同大統領との討議内容詳細は明かさなかったが、豪州政府は“(東ティモールが)足りないものを提供する精神”で支援していく用意があると伝えたとする。
同外相は訪問先の首都ディリでの記者会見で、“経済再生は、返済不可能な債務を抱えることで大きく制約されたり、また、債権者の意向に左右されてしまう”と懸念を表明し、“豪州政府は、東ティモール経済を強化するために支援をしたい”と強調した。
両国は、東ティモールが2002年にインドネシアから事実上の独立を勝ち取って以来、両国間のティモール海海底のGS天然ガス田からの収益をどう分配するか討議してきていた。
そして2018年締結の海洋境界協定で、東ティモールの分配収益は、豪州までパイプライン輸送される場合は80%、東ティモールまで輸送される場合には70%とするとされた。
ただ、同協定前に締結された2006年協定は、東ティモール側から、豪州情報員による策謀があったとの申し立てがなされて取り消しされていた。
今年5月に前政権に取って代わった豪州労働党政権が、当該スパイ活動を証明しようとしていた豪州人弁護士バーナード・コレリー被告(77歳)に対する提訴(政府関連情報漏洩等の罪)を7月に取り下げたことから、東ティモール政府も歓迎していた。
なお、同外相は更に、GS天然ガス田開発合同事業プロジェクトを推進する東ティモール国営企業ティモールギャップ、豪州企業ウッドサイド・エナジー(WE、1954年設立)及び日本企業大阪ガス(1897年設立)間の合意が急がれると、同大統領に伝えたと言及している。
9月1日付豪州『ABCニュース』は、「ペニー・ウォン外相、ジョゼ・ラモス=ホルタ大統領の中国融資頼みとの発言を受けて静かに問題提起」として、東ティモール政府が中国の“債務の罠”にはまらないよう、直接進言したと報じている。
ラモス=ホルタ大統領はかねてより、GS天然ガス田開発プロジェクト推進に当たり、豪州企業WEとの開発推進交渉が長年にわたって中断していることから、豪州政府の仲介を求めていた。
何故なら、同プロジェクト開発主体のWEが、東ティモール側の意向を無視して、生産物を北側(東ティモール向け)ではなく南側(豪州ダーウィン向け)に輸送する計画に拘泥しているからである。
東ティモールは、天然ガス等を主たる収益としてきたが、現行稼行天然ガス田が2020年代末には枯渇してしまうため、GSプロジェクトの早期開発着手を希望している。
そうした背景もあって、同大統領は先月、度々開いた記者会見を通じて、同プロジェクトから産出される天然ガスを東ティモールまで輸送するパイプライン敷設計画推進に当たって中国融資に頼りたいとの意向を表明していた。
かかる背景もあって、同外相は初めて東ティモールを訪問し、8月31日晩に同大統領と直接会談を持った。
同外相は9月1日の記者会見で、同大統領に対して、“豪州政府は、GS天然ガス田開発プロジェクトと直接の資本関係にはないが、同プロジェクトの合同事業会社間の交渉進捗を強く求めていく”とした上で、“(政府の意向等を)メディアを通じて行うのではなく、今回のように直接会談で相互理解を進展させる必要がある”と言及した。
更に同外相は同大統領に対して、“本プロジェクト推進に急ぐことは肝要だが、中国資本に頼ることは逆効果になる恐れがあると説明した”と付言した。
その上で同外相は、“東ティモールのような小国は、太平洋域内で影響力を高めていこうとしている中国に対応していくためには、豪州のような国と連携することが交渉力強化に役立つことになる”とも強調したとする。
(注)債務の罠(借金漬け外交):国際援助等の債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国から有形無形の拘束を受ける状態をいう。この表現は、インドの地政学者ブラフマ・チェラニーによって中国のBRIと関連付けて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資等のモラルハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。
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