南太平洋島嶼国のソロモン諸島(SI、1978年に英国より独立した英連邦王国)の首相は、今年4月に中国と安全保障条約を締結したが、爾来米豪等の高官が次々に文句を言うために同国を訪問してくることに嫌気がさしていた。そうした中、第二次大戦の激戦地となった「ガダルカナル島(SI最大の島)の戦い(注後記)」80周年を記念する現地式典に米国高官が出席したが、同首相は欠席して物議を醸している。
8月9日付
『豪州AP通信』は、「米国高官、SI首相は“貴重な機会を喪失”とコメント」と題して、第二次大戦中の激戦地となったガダルカナル島の戦い突入80周年を記念する慰霊式典に、SI首相が出席しなかったのは誠に残念だと表明したと報じている。
米国務省のウェンディ・シャーマン副長官(73歳、2021年就任)は8月8日、第二次大戦において激戦地となったガダルカナル島の戦い突入80周年を記念する慰霊式典に欠席したSI首相について、“貴重な機会を喪失した”とコメントした。
当該慰霊式典は8月7日、SI首都ホニアラ郊外で開催され、米国からは同副長官に加えて、駐豪州キャロライン・ケネディ大使(64歳、2022年就任)が列席した。
同副長官の父マル・シャーマン氏は海兵隊員として連合軍のガダルカナル作戦に参戦し重傷を負ったが、同大使の父ジョン・F.・ケネディ元大統領(1963年暗殺、享年46)も、艦長を務めていたパトロール魚雷艇が日本軍によって沈没させられ、九死に一生を得ていた。
SI地元紙は、マナセ・ソガバレ首相(67歳、2019年に返り咲いて4期目就任)が、今年4月に中国と安全保障条約を締結していたことから、当該式典を蔑ろにしたと報じたが、同首相事務所は即刻否定した。
同首相自身も『ソロモン・スター』紙(1982年創刊)に投稿し、決して当該式典を軽んじたことはなく、自身は先約で欠席を余儀なくされたが、3日間にわたる一連の式典には閣僚級を出席させている、と言及している。
ただ、シャーマン副長官は豪州『ABCニュース』のインタビューに答えて、“ガダルカナル島の戦いは第二次大戦を勝利に向かわせた大切な作戦であり、そこで命を落とした多くの人々を慰霊する大切な式典である”とした上で、“SI首相に直接、かかる重要な式典に都合で出席できないのは非常に残念である”旨話したと述べている。
中国がSIと安全保障条約を締結したことによって、豪州やNZの玄関口であり、かつ、米軍のグアム基地にも至近の距離にあるSIが、中国軍の海外拠点となる恐れがあることから、米国、豪州、NZが異口同音に深刻な懸念を表明してきている。
しかし、SI及び中国とも、当該条約で以てSIが中国の海外軍事基地になることはないと全面否定している。
シャーマン副長官も、SI首相が会談の席上、中国の海外軍事拠点にはならないと繰り返し述べていたとコメントした。
なお、4月にはカート・キャンベル米国家安全保障会議インド太平洋調整官(64歳、2021年就任)及びダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当、2021年就任)一行がSIを訪問して、SIが中国と締結した条約によって米国及び同盟国に脅威をもたらすことになったら、米国はSIに対して相応の対応をすると脅しをかけている。
ただ、豪州に続いて米国からも非難の声を浴びせられたソガバレ首相は、脅迫的かつ無礼な行動は許されないと逆に怒りを表していた。
一方、ガダルカナル島の戦いの慰霊式典の8月8日の行事には、日本政府を代表して鬼木誠防衛副大臣(49歳、2021年就任)が、また、NZからはピーニ・エナーレ国防大臣(2020年就任)が出席している。
(注)ガダルカナル島の戦い:第二次大戦において1942年8月7日から1943年2月7日の間に日本軍と連合軍が西太平洋ソロモン諸島のガダルカナル島を巡って繰り広げた戦い。ミッドウェー海戦と共に太平洋戦争における攻守の転換点となった。日本側は激しい消耗戦により、戦死者だけでなく兵員に多数の餓死者を発生させたうえ、軍艦、航空機、燃料、武器等多くを失った。
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既報どおり、前回の米大統領選で激戦区だったジョージア州において、今秋の中間選挙に臨む党候補者を決める共和党予備選で、トランプ前大統領が推す候補が反トランプ派に惨敗した。この勢いが続くとみられたが、同じく激戦区だったアリゾナ州の直近の予備選の結果、トランプ派が大勝した。しかし、対抗する民主党陣営としては、今回勝ったのが泡沫候補であり、むしろ本選では民主党が戦いやすいと強気のコメントをしている。
8月4日付
『NBCニュース』は、「共和党トランプ派:トランプ推薦候補がアリゾナ州・ミシガン州で大勝したことから、トランプは“最強の人物”と称賛」と題して、共和党陣営が、アリゾナ州・ミシガン州における直近の共和党予備選で、下馬評を覆してトランプ前大統領が推した候補が大勝したとして、改めてトランプの影響力の強さを絶賛したと報じている。
今年前半に実施されたいくつかの州における共和党予備選で、ドナルド・トランプ前大統領が推薦する候補が軒並み敗退し、トランプの神通力もこれまでかとみられた。
しかし、8月2日に行われたアリゾナ州・ミシガン州においては、トランプが支持する候補が大勝を収め、改めてトランプの影響力の強さが示された。
例えばアリゾナ州では、トランプが推した同州代表連邦上院議員、同州務長官(大統領選等選挙結果証明の任)、同州上院及び下院議員の予備選に立候補した12人のうち、実に11人が勝利した。
これらの候補は全員、2020年大統領選は不正選挙だと根拠のない主張をするトランプを称賛している。
当時、激戦区となったアリゾナ州・ジョージア州では、両州知事及び州務長官ともトランプによる選挙結果を覆せとの指示に抵抗していたが、ジョージア州で5月に行われた予備選でトランプ推薦候補が大敗していたことから、アリゾナ州でも同様の結果が想定されていた。
しかし、アリゾナ州ではトランプ派が大勝した訳だが、同日の予備選ではミズーリ州・カンザス州でもトランプ推薦の候補が勝利を収めた。
更に、ミシガン州では、トランプ前大統領の弾劾裁判において共和党議員でありながら賛成票を投じた10のうちの1人であったピーター・マイヤー下院議員(34歳、2021年初当選)が、トランプが推したジョン・ギブス候補に敗退しており、改めてトランプの影響力の強さを示している。
この結果を受けて、ミシガン州共和党元議長で同党顧問のソール・アヌジス氏(63歳、2005~2009年在任)は、“トランプは「800ポンドのゴリラ(注後記)」だ”とし、“彼は絶大な影響力を持っている”と称賛した。
まだ数州の予備選が残っているが、トランプ陣営によると、これまで実施された予備選では、トランプ支持の候補188人が勝利、負けたのは14人だけで、他2人は立候補を取り止めたか立候補を認められなかったという結果になっているという。
しかし、かかる結果に対して民主党陣営は、トランプの影響力は確かに独特なことは認めるものの、彼の推薦した候補は、アリゾナ州・ミシガン州のようにどれも中心州とは言えない場所だと言及している。
更に、アリゾナ州の民主党首席顧問のD.J.クィンラン氏は、“トランプが推薦したアリゾナ州の候補者は誰も極論者ばかりで、発信する言葉が余りにも管理・統一された表現となっている”として、同州知事候補のカリ・レイク氏(52歳、同州フェニックスTV局元ニュースジャーナリスト)、連邦上院議員候補のブレイク・マスターズ氏(35歳、投資ファンドのティール財団代表)、州務長官候補のマーク・フィンケム氏(同州下院議員、2015年初当選)を酷評した。
ただ、同氏は、“民主党には逆風が吹いていることもあり、トランプやレイクが奮い立たせる影響力を侮ってはならない”と釘を刺している。
一方、ミシガン州教育省所属で同州民主党女性党員代表のパメラ・プーフ氏は、同州のような民主党・共和党が拮抗している州では、トランプの息のかかった候補で、しかも人種差別主義者や同性婚否定論者等極端な人物が出てきているので、むしろ11月の中間選挙では民主党に優位にはたらく、とコメントしている。
なお、共和党連邦議員でありながら、トランプの弾劾裁判で賛成票を投じた10人のうち、6人の議員は立候補を断念していて、上述どおりミシガン州のマイヤー下院議員はトランプ派候補に敗退しており、カリフォルニア州のデビッド・バラダオ下院議員(45歳、2021年初当選)のみがトランプ支持候補を破っただけである。
ただ、ワシントン州のハイメ・エレーラ・ボートラー下院議員(43歳、2011年初当選)及びダン・ニューハウス下院議員(67歳、2015年初当選)はいずれもトランプ支持候補より多くの支持率を獲得している。
同日付『ABCニュース』は、「アリゾナ州のトランプ推薦候補が共和党予備選に勝利したが、一部の共和党関係者は今秋の中間選挙本選に懸念」と、トランプ派に勢いがつくことで民主党より不利になる恐れを抱いていると報じた。
『ABCニュース』他のメディアは、まだアリゾナ州の共和党予備選の最終結果を確認していないが、トランプ前大統領の支持を得ていた同州知事選候補のカリ・レイク氏は8月3日、勝利宣言をした。
彼女は、前大統領が2020年選挙に不正があったと主張しているとおり、“自分の勝利によって、この主張が裏付けられた”とし、“MAGA(米国を再び偉大な国に)運動が依然活気づいていることが証明された”と豪語した。
記者団から、『AP通信』が対立候補のカリン・テイラー・ロブソン氏(57歳、宅地造成業者代理人弁護士)の勝利に言及していると問われたのに対して、レイク氏は、“『AP通信』は民主党に肩入れしている問題あるメディアだ”とした上で、“最終集計をみれば自分が勝っていることが明らかになる”と強調した。
これに対して、ロブソン氏は、“最終結果が判明していないのに勝利宣言するのは言語道断だ”とし、“(トランプ同様)欺瞞に満ちている人物は、アリゾナ州知事になどなる資格はない”と反論している。
しかし、同州の共和党選挙対策顧問のブライアン・シーチック氏は8月3日、『ABCニュース』のインタビューに答えて、“(レイク氏含めた)トランプ支持の候補者が軒並み予備選に勝利したことで、同州が再び共和党の州に戻ることは確実だ”とコメントした。
その他、アリゾナ州においてトランプ推薦で予備選に勝利したと言われているのは、連邦上院議員候補のブレイク・マスターズ氏(人種差別主義者で同性婚反対論者)、同州務長官候補のマーク・フィンケム氏(極右政治家で反政府民兵組織オウスキーパーズ(誓の守護者)所属)、同州司法長官候補のエイブ・ハメイデ氏(マリコパ郡検察官だが、同郡の2020年選挙結果を根拠なく誤りと主張)等がいる。
かかる背景もあって、『ABCニュース』が同州の共和党支持者にインタビューして回ったところ、“トランプ時代に国も州も分断されてしまい、結果として三十有余年共和党の州であった同州がバイデン民主党に覆ってしまった”と嘆いた上で、“例えばレイク氏にしても、トランプが支援していることだけを理由として、共和党ではなく民主党候補に投票する人が多く出てくることを懸念する”とコメントする人が複数存在した。
(注)800ポンドのゴリラ:〔特定の分野・市場などを独占・寡占・支配している〕巨大な存在、巨人、絶大な[ただならぬ]力、巨大[ガリバー]企業、大きな影響力を持つ人、有力者、支配者、等を意味する米俗語。
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