ギリシャ債務危機、歴史の教訓を忘れるドイツ(2015/07/13)
ギリシャ債務危機問題が重大な局面を迎えている。ギリシャへの強硬な姿勢を変えないドイツに対し、第二次大戦後に連合国債権者がドイツ債務の半分を放棄した歴史の教訓を忘れている、との批判が出ている。
7月7日付の
『ニューヨークタイムズ紙』は、ドイツのギリシャに対する強硬路線を批判し、「債務切り捨てなどの施策によって、解決を図るべきである」とするエドアード・ポーター氏の論評を掲載した。ドイツ連邦共和国の代表団長ハルマン・ジョセフ・アブスが、1953年2月27日にロンドンで同国の対外債務を半分に削減する条約に署名する写真を掲載し、「ギリシャは痛みを伴う緊縮財政に同意しなければならないとドイツは言うが、ドイツ自身が過去にはるかに寛大な条件を享受していた」と述べている。...
全部読む
7月7日付の
『ニューヨークタイムズ紙』は、ドイツのギリシャに対する強硬路線を批判し、「債務切り捨てなどの施策によって、解決を図るべきである」とするエドアード・ポーター氏の論評を掲載した。ドイツ連邦共和国の代表団長ハルマン・ジョセフ・アブスが、1953年2月27日にロンドンで同国の対外債務を半分に削減する条約に署名する写真を掲載し、「ギリシャは痛みを伴う緊縮財政に同意しなければならないとドイツは言うが、ドイツ自身が過去にはるかに寛大な条件を享受していた」と述べている。
また、こうした措置が過去に成功したことは重要な教訓である。20世紀には、数多くの国家の債務危機が発生し、危機打開の成功例と失敗例には事欠かない。今では、大概の経済学者は成功の手法を理解しているが、政策統治者は、忠告になかなか耳を傾けようとしない(先ず、失敗した政策を繰り返そうとする)。
7月8日付
『ワシントンポスト紙』も同様の論旨で、「ドイツは、ギリシャにとって悲劇的であるが、明らかにこの教訓を学んでいない。ドイツの厳しい緊縮財政への拘りは、ギリシャの失業が25%となり、40%の子供が貧困の状態に置かれ、ネオナチ政党が出現している状況でも、一向に変わらない」と批判している。
一方、
『AFP通信』は7月10日、ドイツのウオルフガング・ショーブル財務相がギリシャの状況は第二次大戦後60%の負債を返済したドイツと比較できないと述べた、と報じている。「当時、明らかにナチズムがあり、連合国は第二次大戦以降のドイツの債務を切り捨てるという賢明な選択をしたのだ。」と財務相は反論する。これが、ここ数日メディアやインターネットで過熱する歴史比較論議に対し、メルケル政権が出した最初の反応である。
ポーター氏によれば、歴史は、「負債を切り捨てるのに時間がかかればかかるほど、切り捨てるべき額はより巨額になる」ことを示している。負債の償還期限の繰り延べと、金利引下げを柱とする債務繰り延べが計画され、長期にわたり交渉をおこなわれる。しかし、負債が切り捨てられた後でしか財政危機は終息せず、経済は改善しない―これが、負債の本質にかかわる歴史の教訓であり、第一次世界大戦後の10ヵ国以上にのぼる財政破綻や、1990年代初頭のラテンアメリカ諸国や途上国の負債問題等で、幾度も経験したことである。
従来のギリシャへの財政援助は独、仏およびその他外国銀行や投資家への返済に回され、ギリシャには殆ど恩恵をもたらしていない。一方、ギリシャは、この国特有の経済政策の失敗に対し、何ら改革に取り組んでいない。しかし、経済回復の果実が全て債権者にわたるとすれば、殆どそのインセンティブはない。ドイツは巨額の貸付には応じたものの、その損失の引受けについては、経済大国としての責任を果たそうとしない。IMFの経済学者は既に、ギリシャの債務切り捨ては不可避と考えているが、ドイツはまだ、そのように考えてはいないようだ。
閉じる
ミャンマーの少数民族問題と民主化の行方(2015/07/08)
タイやマレーシアに難民として逃れているミャンマーの少数民族ロヒンギャの悲惨な状況は、国際的にも大きな問題となっているが、ミャンマー国内での抑圧や差別は一向に改善されていない。今秋に予定されている国政選挙を控え、ミャンマーの少数民族問題は同国の今後の民主化の行方を左右しかねない。
7月2日付
『ロイター通信』は、外国人の立ち入りが制限されているミャンマー北部のラカイン州で許可を得て取材をおこない、ロヒンギャに対する抑圧の実態を報告している。それによると、軍部は、ロヒンギャへの強制労働を止めると宣言したが、現地軍隊は日常的にロヒンギャを徴用し、軍所有の畑の耕作、農作物の栽培などを強制し、家畜や奴隷のように扱っている。報酬は一日0.9ドル以下で、米で支給したり、全く支払わないこともある。...
全部読む
7月2日付
『ロイター通信』は、外国人の立ち入りが制限されているミャンマー北部のラカイン州で許可を得て取材をおこない、ロヒンギャに対する抑圧の実態を報告している。それによると、軍部は、ロヒンギャへの強制労働を止めると宣言したが、現地軍隊は日常的にロヒンギャを徴用し、軍所有の畑の耕作、農作物の栽培などを強制し、家畜や奴隷のように扱っている。報酬は一日0.9ドル以下で、米で支給したり、全く支払わないこともある。このような強制労働の結果、過去3年間で10万人以上が、死の危険を顧みず近隣諸国に難民として出国する大きな原因となっている。
7月5日付
『ワシントンポスト紙』は、ミャンマー政府が不都合なテーマを取り上げるジャーナリストを黙らせるために逮捕、監視、投獄など以前と変わらぬ手法を使っていると報じる。オバマ政権は先週発行した人権年次報告書で「2011年以降の進展」を称賛しているが、ビルマの活動家によれば、「国外での認識は現実と全く異なっており、人権は損なわれている」。ロヒンギャやそれ以外のイスラム教少数民族にとっては、事態は特に悪いようだ。「ミャンマーでは、イスラム教徒に反対するデモは堂々とできるが、ロヒンギャが人権や教育、医療、土地所有など要求すると逮捕され、処罰される」のだという。ロヒンギャの一人は「ミャンマーでは、政府も全国民主連盟も信用できない。国際社会だけが頼りだ」と呟く。
7月日付
『ウオールストリートジャーナル』紙は、ロヒンギャ問題がスーチー女史にとって政治的火種になっていると報じている。ミャンマー国外では、何千人ものロヒンギャが国を捨て難民となっている状況を看過していると批判される。仏教徒との衝突事件の後、14万人のイスラム教徒が荒れ果てた収容所で暮らしているが、ロヒンギャの苦境が国際的な注目を集める中でも、スーチー氏は収容所訪問をおこなわない。
というのも、仏教徒が多数派を占めるミャンマーでは、今秋、ここ数十年で最も自由な選挙が控えており、スーチー女史がロヒンギャに同情し過ぎると多くの支持を失うリスクがあるのだ。女史の率いる全国民主連盟が、民主主義による未来を建設するために必要な議席を、確保できない可能性がある。先週、ミャンマー議会は、外国人家族を持つ人間が大統領となることを禁止する現行憲法規定の修正案を否決した。このため、スーチー女史は大統領になることはできない。政治家として強い影響力を発揮するためには、選挙に大勝利し、大統領以外で強い権限のある地位に就くしか道はないようだ。
閉じる
その他の最新記事