ドナルド・トランプ前大統領(76歳)は、連邦捜査局(FBI)による家宅捜索を受けたり、ニューヨーク州司法長官から過去の不動産取引に関わる不正疑惑で提訴されたりと、逆風にさらされている。そうした折り、この程下院議会で、2020年大統領選挙について副大統領にその結果を覆す権利があるとトランプが主張した妄言について、条文で明確に否定する内容を含んだ大統領選改定法案が採択され、益々窮地に追い込まれようとしている。
9月21日付
『Foxニュース』(1996年設立の保守系メディア)は、「下院、トランプ妄言による“再暴動”発生阻止のため民主党主導の大統領選改定法案を採択」と題して、反トランプ派急先鋒のリズ・チェイニー議員(56歳、ワイオミング州選出共和党員、2017年初当選)草案の大統領選改定法案が、他に8人の共和党議員の賛成票を得て229対203票で採択されたと報じている。
下院議会は9月21日、リズ・チェイニー下院議員が草案した大統領選改定法案を、共和党議員の9票及び多数派民主党議員全員の支持を得て採択した(賛成票229票)。
同議員は、昨年1月6日発生の議事堂乱入事件を調査する下院特別委員会(1/6 HSC、2021年6月設立)の副委員長を務めていて、同じく同特別委に所属するゾーイ・ロフグレン議員(74歳、下院総務委員会委員長、カリフォルニア州選出民主党員、1995年初当選)と連名で同法案を提出している。
同法案は、2020年大統領選時にドナルド・トランプ前大統領が言い出した、副大統領に選挙結果を覆す権利があるとする主張を完全に潰すものである。
同法案提出の目的は、当時のマイク・ペンス副大統領(63歳、2017~2021年在任)が、法的根拠がないとしてトランプの指示に従わなかったこと等を契機に、議事堂乱入事件が発生していることから、当該主張を具体的な条文で完全否定するためである。
同法案は、「1887年選挙人投票数確定法」を一部改定して、副大統領には自由裁量の余地はなく、選挙人の投票結果に介入したり変更したりする権限が一切ないことを明文化している。
チェイニー議員は、トランプが将来再び妄言を繰り返せないようにするためだと説明した。
同議員は更に、1/6 HSCの調査結果で、トランプはその主張が違法であることを知っていたことが明らかになっているが、“しかしトランプはそれを押し通そうとした”と言及している。
同じく1/6 HSC委員を務めるピート・アギーラ議員(43歳、カリフォルニア州選出民主党員、2015年初当選)は、“今回の法案に反対した共和党議員(203名)は、暴動首謀者らの肩を持つことになる”と非難した。
これに対して共和党勢は、同法案の審議や聴聞が十分行われなかった点や、中間選挙を前にして、有権者にドナルド・トランプに関わる問題に目を向けさせようとしたものだとして、民主党側に反論した。
下院総務委員会の幹部メンバーであるロドニー・デイビス議員(52歳、イリノイ州選出共和党員、2013年初当選)は、“同法案が、中間選挙が直前に迫る中で提出されたことから、民主党主導の1/6 HSCが、選挙に有利と考える話題、すなわちトランプ前大統領の件を意図的に注目されるように仕向けたものだ”と非難している。
9月22日付『ザ・ヒル』(1994年設立の政治専門ニュース)は、「1/6 HSC提出の選挙法改定法案に賛成した9人の共和党議員」として、民主党側に組みした共和党議員について詳報している。
1/6 HSC所属の2人の委員が共同提案した「大統領選改定法案」は9月21日、229対203票で可決成立した。
当該法案には、次の9人の共和党議員が賛成票を投じている。
リズ・チェイニー議員、アダム・キンジンガー議員(44歳、1/6 HSC委員、イリノイ州選出、2011年初当選)、フレッド・アプトン議員(69歳、ミシガン州選出、1987年初当選)、ジェイミー・ヘレーラ・バトラー議員(43歳、ワシントン州選出、2011年初当選)、ピーター・メイジャー議員(34歳、ミシガン州選出、2021年初当選)、トム・ライス議員(65歳、サウスカロライナ州選出、2013年初当選)、ジョン・カートコ議員(59歳、ニューヨーク州選出、2015年初当選)、アンソニー・ゴンザレス議員(38歳、元アメリカンフットボール選手、オハイオ州選出、2019年初当選)、クリス・ジャコブス議員(55歳、ニューヨーク州選出、2020年補選で初当選)。
但し、上記9人の議員は、今秋の中間選挙に立候補しないと決定しているか、あるいは共和党予備選で敗退しており、2023年1月までの任期しかない。
前者は、キンジンガー・アプトン・カートコ・ゴンザレス・ジャコブス5議員で、後者のチェイニー・バトラー・メイジャー・ライス4議員はいずれも、トランプ推薦の対立候補に敗れている。
また、ジャコブス議員を除く8人はいずれも、議事堂乱入事件後に行われたトランプ前大統領弾劾裁判で賛成票を投じていた。
なお、同法案成立には、上院において60%(60票)の賛成票が必要となる。
一方、上院でも大統領選改定法案が、民主・共和超党派議員によって7月に提出されており、来週審議されることになっているが、各州選挙人の投票結果に反対する場合に、上院・下院それぞれの議会の5分の1の支持票を必要としている(下院法案では、各々3分の1が必要とより厳しめ)。
メイジャー議員は9月21日、“いずれにしても超党派、かつ両院が合意する改定法案が成立するのを期待している”とツイートしている。
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アメリカのサイバーセキュリティ社「マンディアント」は19日、親ロシア派のハッカー集団が、ロシアのウクライナ侵攻を支援するためにハッカー攻撃や偽情報拡散キャンペーンを繰り返し行っているとする報告書を発表した。
米紙
『ザ・ヒル』と仏経済誌
『チャレンジ』によると、マンディアントは、ウクライナ戦争では、ミサイル、ドローンや戦闘機など、目に見える攻撃以外に、熾烈なオンライン上のサイバー戦線が繰り広げられていると報告している。19日に発表された報告書によると、ロシアの支援を受けたネット兵士たちは、ウクライナ人の士気を低下させ、内乱を扇動することを目的とした数多くの偽情報キャンペーンを展開しているという。
偽情報拡散キャンペーンの1つでは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、国の安全を守れなかったためにキエフのバンカーで自殺したという偽情報を拡散した。4月に行われた別のキャンペーンでは、ウクライナの特殊作戦部隊であるアゾフ連隊が、マリウポリで部隊を見捨てたゼレンスキーに復讐しようとしているという情報を拡散した。
マンディアントは、こうした偽情報キャンペーンは、ウクライナ政府のウェブサイトを標的とした破壊的・破壊的なサイバー攻撃と並行して実施されたと報告している。同社のシニアアナリストであるアルデン・ウォールストローム氏は、「こうした活動の一部は既に知られているものであるが、この報告書は、攻撃を行っている人々やその活動が、大規模紛争など新たな安全保障上の利益を支えるために、いかに活用できるか、あるいは意図的に活動してもらうことができるのかを捉えている」と述べている。
ウクライナを同盟国から引き離そうとする試みの一つとして、ベラルーシの支援を受けているハッカー集団「ゴーストライター」が、ポーランドの犯罪組織がウクライナ難民から臓器を採取し、欧州連合で違法に取引しているという偽情報を流し、ポーランドの高官がこの計画に関与しているという更なる偽情報を拡散した。
先月、マイクロソフトも、ロシアの支援を受けているハッカーが主導する一連のサイバー作戦の実態を報告した。報告書は、主要機関や重要なセクターを標的とした約40の破壊的な攻撃を含む、200以上のサイバー攻撃がウクライナに対して行われたことを明らかにした。ウォルストローム氏は、「長年にわたり、ロシアの重要な戦略的利害関係者であるウクライナは、ロシアのサイバー脅威の実験場であり、その後、他の場所でも展開される可能性があるということをアナリストたちが指摘してきた。今、私たちは、親ロシア派がウクライナを標的にするために、時間をかけて開発した資産とキャンペーンインフラを活用していることを目撃している。」と述べている。
『AP通信』によると、マンディアントは、ウクライナに対するサイバー攻撃や偽情報拡散キャンペーンは、ロシア以外にも「ベラルーシ、中国、イラン」の支援を受けているハッカーたちによっても行われていると報告している。親中派と親イラン派の偽情報ネットワークは、ウクライナ戦争を自分たちの目的のために利用しようとしていると指摘している。
親中派のネットワークは、米国がウクライナで秘密裏に生物兵器の研究を行っているという、根拠のないロシアの主張を増幅させた。一方、イランのネットワークは、イスラエルがウクライナ側についたという主張を広め、ロシアとイスラエルの間の緊張を高めようとしたという。
ただし報告書は、どちらの国に対しても、それぞれの政府機関の仕業だと断定することは避けた。そのような関連性を証明することは困難であるためだ。それでもウォルストローム氏は、イランと中国がそれぞれの目的を達成するために偽情報の拡散や、ロシアの侵略を利用している、と指摘している。
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