ウクライナ支援;軍宛の直接資金援助は倫理的にOK?【米メディア】
3月2日付GLOBALi「
ウクライナ支援;暗号資産寄付額が3,400万ドルまで積み上がり」で報じたとおり、手間もかからず迅速な暗号資産によるウクライナ宛の寄付が約3,400万ドル(約39億円)まで積み上がっている。そうした中、クラウドファンディング(注1後記)で集められた多額の資金がウクライナ軍宛に直接わたることで、間接的な戦争支援と見做されないか倫理問題が浮上している。
3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。...
全部読む
3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。
その中でも大きな役割を担っているのが、カリフォルニア州法人でウクライナ・キエフにも本拠を構えるITサービス企業ソフトジョーン社(2001年設立)がツイッターやリンクトイン上に設営したクラウドファンディングのプラットフォームで、人道支援のみならずウクライナ国立銀行(1991年設立)経由ウクライナ軍への資金援助を呼びかけている。
キエフ在住のエミー・ジェングラー社長は、同社は“ロシアによる2014年クリミア半島併合以来、ウクライナ軍への支援を続けてきている”と明かした。
同社の支援は、救急車等の医療機器の援助も含まれるとする。
同社には多くの国の出身者が在籍していて、ウクライナ内でも約200人雇用しているが、(戦禍の中)一部は退社しているが、会社に留まって業務を続けている社員も多いという。
米国政府や北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)加盟国は、ウクライナに武器等を提供する一方、対ロシア制裁を科しているが、多くの市民や私企業は、反抗するウクライナや同国の人道支援のために直接あるいは間接的にインターネットを通じての資金援助を行っている。
オーストラリア・シドニー大(1850年設立の公立大学)のディジタル変革・ディジタル戦争専門のオルガ・ボイチャック講師(ウクライナ出身)は、2014年以来ウクライナにおいて実施されている軍向けクラウドファンディングを研究してきているが、クラウドファンディングに参加することでインターネットユーザーを“紛争と密接な関係に追い込んで”しまっていると警鐘を鳴らす。
“何故なら、投じた資金が軍事用兵站に使用されるのか、または市民レベルの物流関係に回されるのか境が見えないからだ”と指摘している。
ブロックチェーン(注2後記)の分析を手掛ける英国エリプティック(2013年設立)によると、ウクライナ侵攻以来、ウクライナ国立銀行及びNGOカムバックアライブ(CBA、2014年設立の軍事支援用クラウドファンディングを行う団体)宛に寄付された暗号資産は5,900万ドル(約67億8,500万円)に及ぶという。
一方、セキュリティ・クリアランス(注3後記)を伴う人材派遣・雇用相談を担うクリアランスジョブ・コム(2002年設立)のリンディ・カイザー情報担当役員によると、“ウクライナ軍に寄付したいがどうか”という質問を多く受けるが、“今のところ違法だと確認している訳ではないが、もしセキュリティ・クリアランスの資格を保有しているならば、思い止まった方が良い”と助言しているという。
なお、ロシア政府はこれまで長い間、“偽情報操作”によって大衆をミスリードしてきたことから、マイクロソフト、グーグル、メタ(前フェイスブック)等の米IT大手企業は、ウクライナに対して直接、あるいは間接的支援を行っている。
例えば、マイクロソフトは、ロシアによるハッカー攻撃の具体的防御策支援をウクライナ政府宛に行っているし、グーグル、メタは、ロシア政府に盲従して軍事侵攻と認めようとしないロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』等へのアクセスを制限したりしている。
ただ、アップルの態度がはっきりしないため、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼ディジタル担当相(31歳、2019年就任)は、“ウクライナの子供たちを平気で殺害しているロシアという国において、アップル製品の販売を即時に停止するべきだ”として、アップルのティム・クック最高経営責任者(61歳、2011年就任)を非難するツイートをしている。
(注1)クラウドファンディング:群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語。多数の人による少額の資金が他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味し、ソーシャルファンディングとも呼ばれる。支援したお金がどのように使われるのかが分かること、少ない額から気軽に支援できることなどが、被災地の復興支援に必要な資金を集めるために大きな役割を果たし、注目されている。
(注2)ブロックチェーン:暗号技術を使ってリンクされたブロックと呼ばれるレコードの増大するリストで、設計上、データの改変に強い。そこで、2つの当事者間の取引を効率的かつ検証可能で恒久的な方法で記録することができるオープンな分散型台帳の役割を成す。
(注3)セキュリティ・クリアランス:国家等の秘密にすべき情報を扱う職員に対して、その適格性を確認すること。特別管理秘密を扱う行政機関の職員を対象とする秘密取扱者適格性確認制度などがこれにあたる。また、そうした秘密情報を取り扱う資格。
閉じる
ロシアも細やかな抵抗(?)、欧米の制裁に対抗してソユーズ・ロケット打ち上げ協力停止と発表(2)【米・フランスメディア】
2月27日付GLOBALi「
ロシアも細やかな抵抗(?)、欧米の制裁に対抗してソユーズ・ロケット打ち上げ協力停止と発表」で報じたとおり、ロシア側も細やかな抵抗ながら、国際宇宙ステーション(ISS、注1後記)への補給船の輸送等に提供されているソユーズ・ロケットの打ち上げ協力を停止すると発表した。そして今度は、今週末に予定されている、英国政府参画の衛星通信会社ワンウェブ(注2後記)の衛星搭載のソユーズ・ロケット打ち上げを中止すると脅しをかけてきた。
3月2日付米
『スぺース・ポリシー・オンライン』ニュース(1973年設立の米宇宙政策等の専門ニュース)は、「ロゴージン長官、ISS含めて米・欧州との事業協力模索」と題して、英国政府参画の衛星通信会社の衛星打ち上げを中止すると脅しをかける一方、最終的には欧米との宇宙開発事業継続を望んでいる模様と詳報している。
ロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』テレビニュースは、ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス、1992年設立)のドミトリー・ロゴージン長官(58歳、2018年就任)が3月1日、欧州が制裁によってロシアのロケット・宇宙産業を破壊しようとし、ウクライナ人ハッカーがロシアの宇宙船コントロール・センターにサイバー攻撃をかけようとしていると非難していると報じた。...
全部読む
3月2日付米
『スぺース・ポリシー・オンライン』ニュース(1973年設立の米宇宙政策等の専門ニュース)は、「ロゴージン長官、ISS含めて米・欧州との事業協力模索」と題して、英国政府参画の衛星通信会社の衛星打ち上げを中止すると脅しをかける一方、最終的には欧米との宇宙開発事業継続を望んでいる模様と詳報している。
ロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』テレビニュースは、ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス、1992年設立)のドミトリー・ロゴージン長官(58歳、2018年就任)が3月1日、欧州が制裁によってロシアのロケット・宇宙産業を破壊しようとし、ウクライナ人ハッカーがロシアの宇宙船コントロール・センターにサイバー攻撃をかけようとしていると非難していると報じた。
更に同長官は、ロシアに敵対的な英国政府が参画している衛星通信会社ワンウェブから出資を引き揚げること、及び、同社衛星を軍事目的に使用しないことを保証することを要求するとし、もし実行されなければ、3月5日発射予定の同社衛星36基搭載のソユーズ・ロケット打ち上げを中止する、と脅した。
ワンウェブは、英国政府及びインドの移動通信会社バーティ・グローバル(1976年設立)が主要出資者となっていて、他にフランスの通信衛星運営会社ユーテルサット(1977年設立)、ソフトバンク(1986年設立)、米国の衛星通信会社ヒューズ(1971年設立)、韓国の複合企業ハンファグループ(1952年設立)が加わっている。
同社はこれまで、衛星通信運用のために計画した648基の衛星のうち422基の打ち上げをソユーズ・ロケットに委ねてきていた。
この脅しに対して、英国のビジネス・エネルギー・産業戦略担当のクワシ・クワルテン国務長官(46歳)が、英国はワンウェブから撤退するつもりはないと言い返したことから、ロゴージン長官は3月2日、英国政府に2日間の猶予を与えるとして、3月4日までにロシア側要求を呑む回答がない限り、3月5日のソユーズ・ロケット打ち上げを中止する、とやり返してきた。
一方、ロゴージン氏は米国に対しても冷ややかなコメントをしていた。
同氏は2014年当時、国防及び宇宙開発事業担当の副首相であったが、同年発生のクリミア半島併合に伴う欧米による制裁に遭っている。
その際、同氏は、米国が対ロシア制裁に踏み切れば、ロシアは米国人宇宙飛行士をISSに向かわせるためのロケット提供を止めることになるが、そうなったら、米国はトランポリンを使ってISSまで飛行士を飛ばすのか、と皮肉交じりに批判していた。
米国は、スペースシャトル運用を2011年に終了してしまったので、その後の米国人宇宙飛行士をISSに送り込むのにロシアの協力を仰いできていた。
ただ、同氏の批判はあったものの、その後もロシアは米国人宇宙飛行士をISSに送り届ける協力は続けてきていた。
今回、同氏が言わば降格人事で2018年にロスコスモス長官に就任していることから、米国への対応が注目される。
何故なら、昨年4月9日にソユーズ・ロケットでISSに向かった米国人のマーク・バンデ・ヘイ宇宙飛行士(55歳)が、ISSに連続355日という最長滞在記録を打ち立てた後の今年3月30日、ソユーズ・ロケットで地球に帰還する予定となっているからである。
しかし、今のところロゴージン長官は、米国がロシアに対してこれ以上“冷酷にならなければ”、ISSに関わる事業協力を再考する用意はあると仄めかしている。
3月3日付フランス『AFP通信』は、「ロシア宇宙局、英国の衛星通信会社の衛星を軍事目的不使用の保証を要求」と題して、ロスコスモスが、ソユーズ・ロケットで打ち上げが予定されている英国衛星通信会社の衛星を、軍事目的に使用しないよう法的拘束力を伴う保証を求めたと報じている。
すなわち、ロスコスモスは3月2日、3月5日にソユーズ・ロケットで打ち上げる予定の36基の衛星について、依頼主である英国の衛星通信会社ワンウェブ及び欧州ロケット打ち上げ企業アリアンスペース(1980年設立、フランス本拠)に対して、“軍事目的に使用しないこと、また、関連軍事機関に衛星サービスを提供しないことにつき、完全な法的拘束力に基づいた保証をすることを求める”との声明を出した。
更に、“英国のロシアに対する姿勢が敵対的”であることを理由に、英国政府に対してワンウェブへの出資を引き揚げるよう要求した。
その上で、ロスコスモスは、グリニッジ標準時の3月4日午後6時半(日本時間5日午前3時半)までに明確な回答がない場合、5日に予定しているワンウェブの衛星を搭載したソユーズ・ロケットの打ち上げを中止すると言明した。
(注1)ISS:米国・ロシア・日本・カナダ及び欧州宇宙機関(ESA、2012年設立)が協力して運用している宇宙ステーション。地球及び宇宙の観測、宇宙環境を利用した様々な研究や実験を行うための巨大な有人施設である。1998年11月から軌道上での組立が開始され、2011年7月に完成。当初の運用期間は2024年までの予定であったが、2022年2月、米航空宇宙局(NASA、1958年設立)は2030年まで運用を継続すると発表している。
(注2)ワンウェブ:2012年に米国で立ち上げられた低軌道衛星群を用いた衛星通信会社。ソフトバンクグループが10億ドル(約1,100億円)出資して、650基の衛星を打ち上げて衛星通信サービスを開始する計画であったが、74基打ち上げたところで追加資金調達に失敗し、2020年3月に米連邦破産法第11章(チャプター11)に基づく会社更生手続きを申請。同年7月に英国政府・インド通信会社が計10億ドルを出資して事業再開。
閉じる
その他の最新記事