中国の国立大学である復旦大学のグリーンファイナンス&ディベロップメントセンターは、世界で最も貧しい68カ国が、今年530億米ドル(6兆5千億円)近くを債権者に支払わなければならないと予測している。上海にある同研究センターが発表した報告書によると、この金額のほぼ4分の1に当たる140億ドル(約1兆7千億円)は、これらの国々への主要な支援国の1つである中国の懐に入ることになるという。
香港の
『サウスチャイナモーニング・ポスト』によると、同報告書は、2020年末時点で、68カ国が中国の様々な金融機関に対して、二国間の公的債務として合計約1100億米ドル(約14兆円)を負っており、2019年の1050億米ドル(約13兆円)から増加していると推計している。中国は、世界銀行の国際開発協会に次ぐ最大の単独債権者であったという。中国の公的債権者への返済コストは、2022年には8カ国において国民総所得の2%を超えると見られている。アンゴラが最も悪い状態に置かれており、利子の支払いと過去の借入の元本の返済のために、国民所得のほぼ5%を中国に負っている。
また報告書は、中国は債務救済対象国の主要債権者であることから、「他の国よりも債務再編のための二国間・多国間支援を行う責任と機会がある」と記している。中国は債務救済に参加しているが、他の国際的な貸し手は中国の融資の総量についてもっと透明性と明確性を必要としているとも指摘されている。
2020年末、中国政府は、パンデミックを通じて貧しい国々を支援する国際的な取り組みのもと、20億米ドル(約2500億円)以上の債務について債務返済義務を停止したと発表した。しかし、その取り組みは2021年12月に終了した。
仏『レゼコー』によると、モラトリアムの終了に伴い、地球上で最も貧しいとされる国々は、今年から再び公約を守らなければならなくなる。そのうちの17カ国は、中国が最大の債権者である。
中国政府は、トンガとジブチの負債の55%、ラオスの負債の52%、カンボジアの負債の44%を保有している。そして、中国がその国の最大の債権者でない場合でも、世界銀行に次ぐ債権者になっていることが多い。8カ国が2022年に国民総所得の2%以上を支出し、中国への債務の一部を返済しなければならない。アンゴラとジブチがそれぞれ国民総所得の4.9%と3.9%に相当する返済額でトップに来ている。続いて、トンガ(2.8%)、ラオス(2.8%)、モルジブ(2.7%)、ザンビア(2.6%)、コンゴ(2.4%)、サモア(2.3%)と5カ国が続く。
なお、米『ブライトバート』によると、英BBCは1月、ウィリアム&メアリー大学のAidDataプロジェクトの報告書を引用し、「中国の途上国への融資の半分は公式の債務統計で報告されていない」とし、途上国の財政状況は公式の数字に基づく報告よりもさらに悪いと思われると伝えている。
BBCは、ジブチ、ラオス、ザンビア、キルギスの債務残高を計算すると、年間GDPの20%近くにもなるとして、AidDataの報告書は、中国の金融業者への債務リスクがGDPの10%を超える低・中所得国が現在40カ国以上あると報告している。
こうした帳簿上のごまかしは、中国の一帯一路インフラ融資の大部分が名目上「民間」銀行を通じて行われているため、政府間の送金と同様に世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの機関に報告されないことで可能となる。
報告書は、「中国は対外貸付の記録を公表しておらず、契約の大部分には非開示条項があり、借り手はその内容を明らかにすることができない」と付け加えている。
AidDataは、中国に対する「隠された債務」の例として、59億ドル(約7千億円)の中国とラオスを結ぶ鉄道プロジェクトを挙げている。ラオスでは完全に帳簿から外されているが、ラオスにはGDPの3分の1に相当する非公式債務が課されている。報告書は、「中国政府は、他の公的債権者よりもリスクの高い国のプロジェクトに資金を提供することに積極的だが、返済待ちの列の先頭に立つことに関しても他の債権者よりも積極的だ」と指摘している。
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東南アジア唯一の内陸国ラオスにおいて、中国が世界で推進する「一帯一路経済圏構想(BRI)」下のプロジェクトである中国~ラオス鉄道がいよいよ今週開通する。同国首脳は、“陸の封鎖国から陸の接続国への転換”が図れると絶賛している。しかし、多くの専門家は、総工費が同国国家予算の5分の1にも及ぶことや、大量物資輸送が期待できるタイ・バンコク港までの鉄道開通は7年後であること等から、アフリカなどの他途上国と同様、中国の“債務の罠(注後記)”に嵌る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
12月1日付
『AP通信』:「対中国債務が膨らむ中、中国~ラオス鉄道のラオス国内線が開通」
中国は、2013年に立ち上げたBRI構想の下、アジア、アフリカ及び太平洋圏で港湾、鉄道、道路等の数百のインフラ建設プロジェクトを推進している。
途上国の多くは、中国資本によるインフラ建設を歓迎しているが、中国国営銀行からの融資を拠り所とするため、当該国には大きな債務として残る。
そこで、当該国の中には、建設費用が膨大の割に自国の収益が十分確保できず、融資金返済に窮する国が出現してきている。
そうした中、BRIプロジェクトのひとつである中国~ラオス~タイを結ぶ総工費59億ドル(約6,730億円)の高速度鉄道建設プロジェクトの一部である、中国~ラオス鉄道が今週開通する運びとなった。
同鉄道は、雲南省都昆明(ユンナン、クンミン)とラオス首都ビエンチャンを結ぶ1,035キロメートル(642マイル)に及ぶが、新型コロナウィルス感染問題による旅行制限から、当分は貨物輸送のみに限られる。
ラオス首脳らは、陸の孤島と言われた当国の経済活動が中国と連携することで、遠く欧州までも広げられると期待しているが、海外の専門家の多くは、中国との連携が果たしてラオス自体に利益をもたらすか疑問であるばかりか、むしろ将来にわたって大きな負債リスクを負うことが懸念されるとコメントしている。
例えば、米シンクタンク・世界開発センター(2001年設立)のスコット・モリス上級研究員は、当該鉄道は中国他の国々にとって“大きな利益となることは確か”であるが、だからと言ってラオスに“経済的利益をもたらすか”は甚だ疑問だとする。
同氏は、同鉄道のラオス国内の駅は21しかなく、中国にとってはタイ等へ速く輸送ができるのでメリットだが、ラオスの農民にとって農作物を輸送するためには駅数が少なく効率的ではないとし、“中国以外の国に設けられた中国公共インフラ・プロジェクトでしかない”と断言している。
更に、中国~ラオス鉄道の延長となる、タイ北端のノーンカーイから南端バンコクまでの高速度鉄道路線は2028年まで完成しないことから、ラオスにとっての国産品輸出メリットはすぐには発生しない。
なお、同鉄道のラオス国内の総延長は418キロメートル(260マイル)で、中国中鉄(2001年設立の国有企業)及び2社の国営企業合計70%と、ラオス国営企業30%の合弁事業の体裁をとっている。
しかし、同合弁事業体にとって、ラオス国内の鉄道路線の総工費35億ドル(約4,000億円)の融資金弁済が大きくのしかかることになる。
米バージニア州にウィリアム&メアリー大(1693年設立の公立大学)エイドデータ研究所(公的援助資金の透明性等を調査)のブラッドリー・パークス所長及びアンマー・マリク上級研究員は調査報告書の中で、もし当該鉄道業績が悪化して債務不履行に陥り、中国側が追加出資しないとなったら、当該債務は全てラオス側が負うことになる恐れがあるとし、ラオスの昨年の経済規模の5分の1にも当たる負債を同国が到底弁済できるはずがない、と分析している。
更に、現在でも同国は経済規模の3分の2に相当する負債を抱えていて、そのほとんどが対中国であることから、同国は“債務超過リスクが非常に高い”国と認められる。
2019年に中国は、エチオピアとカメルーンに建設したインフラ・プロジェクトに対して、両国が債務弁済不履行を起こしたため、止む無く債務免除に応じている。
また同時期、マレーシアは200億ドル(約2兆2,800億円)の新設鉄道プロジェクトについて、中国側がマレーシア側負担額の減額の再交渉に応じなかったことを理由として、当該プロジェクトをキャンセルしている。
果たして、ラオスには、将来どのような事態が発生するのか。
(注)債務の罠:別名、借金漬け外交。国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態をいう。この表現は、インドの地政学者ブラフマ・チェラニー教授によって中国のBRIと関連づけて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。
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