メキシコでのコカ・コーラのコマーシャルが非難の的(2015/12/03)
クリスマスまであと3週間となった。街にはイルミネーションが溢れ、クリスマス商戦も日を追うごとに激しさを増していく。そんな中、メキシコで放映されたクリスマス向けのコカ・コーラのコマーシャルが現地で大きな論争を巻き起こし、ユーチューブ上にもアップされていたが、削除を余儀なくされたという。どんなコマーシャルなのか、何が問題となったのかについて各メディアは次のように伝えている。
12月1日付
『ワシントンポスト』は「AP」の記事を引用し、メキシコで放映された一見普通のコカ・コーラのコマーシャルが「偽善」であるとか、メキシコの先住民族への侮辱であるなどと、すさまじい批判を浴びているとする。
問題となっているコマーシャルでは、長いブロンドの髪の女性やゴーグルをかけた若者らがチェーンソーで楽しげに木を伐り、木の板をつなぎ合わせ、赤のペンキを塗ってちょっとしたクリスマス・ツリーのようなオブジェを作り、それを軽トラックに乗せてメキシコ南東部にあるミヒ族の住むトトンテペック村に運んでいる。...
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12月1日付
『ワシントンポスト』は「AP」の記事を引用し、メキシコで放映された一見普通のコカ・コーラのコマーシャルが「偽善」であるとか、メキシコの先住民族への侮辱であるなどと、すさまじい批判を浴びているとする。
問題となっているコマーシャルでは、長いブロンドの髪の女性やゴーグルをかけた若者らがチェーンソーで楽しげに木を伐り、木の板をつなぎ合わせ、赤のペンキを塗ってちょっとしたクリスマス・ツリーのようなオブジェを作り、それを軽トラックに乗せてメキシコ南東部にあるミヒ族の住むトトンテペック村に運んでいる。そこで若者らは、村人たちが畏怖の念を抱いて見守る中運んできたツリーを設置し、そこにコカ・コーラのロゴの入った明かりを灯す、というものである。コマーシャル内では、データの出所は明らかではないものの、「81.6%のメキシコの先住民族がスペイン語以外の言葉を話すことについて屈辱的と感じている」との字幕が現れ、「偏見を打ち破り、分かち合おう」という言葉が出てくる。そして「今年のクリスマス、若者たちはオアハカにあるトトンテペック村の人々に特別な贈り物をすることを決めた。あなたもこの若者たちのように心を開こう」というメッセージが出てくる。
このコマーシャルが非難の的になっているというのである。「食と健康の連合」(消費者の権利と健康を謳う組合)はメキシコ政府に対してコマーシャルの放映を中止するよう求めたという。その理由としてはまず第一にコマーシャルが先住民族の尊厳を傷つけるものであり、第二に先住民族の健康に更なる悪影響を及ぼす恐れがあるためだとする。同団体はメキシコ政府の「差別を防止するための全国協議会」に対して正式にコマーシャルの放映の中止を申し入れたという。同団体を構成する1グループの渉外担当であるターナー氏は「当該コマーシャルは先住民族に対して大変無礼な内容だ」と述べたという。
同記事は、メキシコのコカ・コーラ社に対して何度も電話で取材を試みたが、留守番電話にしかつながらなかったという。
多くの批判を浴びて、ユーチューブ上の画像は結局削除されたという。
「コカ・コーラは飲料メーカーとして、長年メキシコで独占的かつ支配的な地位を維持してきたので、人種差別の問題に対して疎くなってしまっていたのではないか」と語る批評家もいるという。中には「オアハカの文化をよその国にも強制すればいい」などという痛烈な皮肉もコカ・コーラに寄せられたという。
こういった批判にコカ・コーラ社はウェブで、「関心をお寄せくださり、感謝申し上げます。皆さまの御意見は社内にしっかりと伝えてまいります」とのコメントを発表したという。
12月3日付
『ヴァイス.com』は、今回のコマーシャルの騒動を報じたうえで、先住民族の保護を目的とする人権団体や、消費者保護団体が、メキシコのコカ・コーラ社への制裁を求めていることを報じている。
消費者保護団体の会長であるカルヴェロ氏は「今回のコマーシャルが放送されたことにより、コカ・コーラ社が我が国の先住民族と健康問題に対していかに無神経であるかが判明した」と語ったという。同団体は多国籍企業が人種差別の思想に基づき経営を行っており、先住民族に不健康な食料品を売りつけていると主張している。メキシコでは近年、国民一人当たりの炭酸飲料の消費量が世界一となっている。さらに2013年にはアメリカを抜いて肥満率で世界一となっているという。
先住民族の弁護士であるパブロ氏は「この手の広告は人種差別に他ならない。また、我々の生活スタイルを批評し、消費至上主義を押し付けようとするものである」とコメントしたという。「この広告は先住民族が文化的にも人種的にも劣っているという考えを植え付け、助長するものである」。
同記事によればこのコマーシャルはソーシャルメディア上では批判を浴びていたものの、特に騒ぎが大きくなったのは、主要地元メディアがこの議論を取り上げてからだという。
コカ・コーラ社はマスコミに宛てたメール内で、「今回のコマーシャルは、団結と幸福を伝えることを目的としており、決して先住民族を攻撃したりさげすむ意図はない。コマーシャルが我々の意図したものと全く逆に解釈されたとすれば、大変遺憾である」とのコメントを発表しているという。
今回問題となったコマーシャルの最後にはミヒ族の言語で「団結しよう」とのメッセージが出てくるという。これに対してはミヒ族の学生から「団結するためには我々は、自身の尊厳、健康、文化をまず守らなくてはならない」との批判の声が寄せられているという。
12月2日付
『フォーチュン』も今回のコマーシャルへの一連の批判を載せた上で、このコマーシャルは奇しくもコカ・コーラ社が設立した肥満撲滅団体が解散するのと時期を同じくして発表されたとしている。
問題となったコマーシャルには「悪気がない」という言葉が実によく当てはまる。しかし、悪気なく、良かれと思って行われたからこそ、無意識の発露が他者の感情を害することもあるということを忘れてはならないだろう。
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アメリカでスターバックスのカップの色をめぐり大論争(2015/11/16)
アメリカのスターバックスで11月から赤いカップが使われているということで、アメリカ国内で論争が起きている。いわゆる「ごく普通の」日本人の感覚からすれば、「クリスマスだから赤、いいじゃないか」と考えがちであるが、アメリカでは様々な立場から様々な意見が寄せられているようだ。
11月14日付
『フォーチュン』によれば、アメリカのスターバックスが「ホリデー・カップ」と銘打って赤いカップでコーヒーなどの飲料を提供したことが論争を巻き起こしていると報じている。カップには前年までのクリスマスデザインとは異なり、雪の結晶や星、雪だるまなどは施されておらず、ただ単に「赤い」カップなのだという。
この赤いカップがキリスト教に対する冒とくと捉える者がいるのだという。...
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11月14日付
『フォーチュン』によれば、アメリカのスターバックスが「ホリデー・カップ」と銘打って赤いカップでコーヒーなどの飲料を提供したことが論争を巻き起こしていると報じている。カップには前年までのクリスマスデザインとは異なり、雪の結晶や星、雪だるまなどは施されておらず、ただ単に「赤い」カップなのだという。
この赤いカップがキリスト教に対する冒とくと捉える者がいるのだという。ソーシャルメディアで活躍するフォイヤーシュテイン氏がスターバックスの赤いカップを批判したのをきっかけに、様々なメディアがこの論争を取り上げたという。大統領候補のトランプ氏も、先週イリノイ州で行われた集会で、スターバックスの商品の不買運動を呼びかけたという。
同記事は賛否両論あり、どちらが正しいとは言えないものの、デジタル社会で企業イメージを守るためにどうすればよいのか、4つのポイントに分けて論じている。
1・事態は急速に拡大することを忘れるな
11月1日にスターバックスが赤いカップを発表し、同月5日には論争が始まり、あっという間にこの論争は各メディアの見出しを席巻した。そして1500万人以上が前述のフォイヤーシュテイン氏の動画を見て、そのうち50万人以上がそれを他の人に送信したという。つまり、たった5日の間にスターバックスの赤いカップは、赤色だけでは宗教色が濃くなるなら雪の結晶などのデザインを入れるべきなども含めてアメリカ人の注目の的になったわけである。
2・企業の行動に対する社会の反応を予測するのは困難
同記事は、今回問題となっている赤いカップがこれほどまでに論争を巻き起こすなどと、誰も予想はしていなかったはずで、スターバックス側も驚いているはずだとする。現にスターバックスは赤いカップをめぐる論争がヒートアップしてしまった後に初めて「カップを真っ白なカンバスに見立ててお客様に、それぞれの物語を描いてもらいたい」とのコメントを発表したという。
また、同記事はスターバックスのカップが予期せぬ事態を招いたのはこれが初めてのことではないとして、予想外の展開は何度も起こりうることを示唆している。前回スターバックスが巻き起こした論争は、今年3月にカップに「人種問題について一緒に語り合おう」という趣旨のメッセージをプリントしたことが、世論の反発を招いたというものである。会社はたしかに、自社の起こした行動がどんな展開を招くかきちんと予測すべきであるが、と同時に全てを正確に予測するのは不可能だとしている。今回もスターバックス側には赤いカップを採用したことに深い意味は無く、ただ単に洗練されたデザインを取り入れる意図しかなかったのだろうとしている。
3・問題が起こったら即座に対応すべき
このように事態の展開を全て予測するのは不可能であることを前提として、問題が発生してしまったらできる限り速やかに手を打つべきだと同記事は指摘する。スターバックスは11月8日には赤いカップを採用した意図について説明し、今回の件に関しては素早く、適切に誠意をもって対応にあたったとしている。
同記事は他の事例を用いて、対応が数時間遅れるだけでも取り返しのつかないことになり得ると指摘する。ユナイテッド航空にギターを壊されたというカナダ人ミュージシャンのデイブ・キャロル氏は、同社の対応が遅かったために、そのことを歌にしてビデオをネットに投稿し、動画は1500万回以上再生されたという。また、2013年の12月にはインターネット関連会社の企業広報担当者であるジャスティン・サッコ氏がロンドンから南アフリカのケープタウンへ飛行機で移動する直前に人種差別的なコメントをツイッターに載せ、11時間後の飛行機が着陸する頃には瞬く間に「時の人」になっていたという件が挙げられている。
4・最後には常識的な結果に落ち着くことを信じよう
同記事は締めくくりに、今回の赤いカップの論争も、時間が経つとスターバックスに擁護的な論調が増えてきたことを指摘する。「キリスト教らしいメリークリスマスの文字が入っているわけではないのだからいいじゃないか」ともっともな意見の書き込みもあるし、トリビューン紙の記者はツイッターで「ただの赤い色をしたカップ。それ以上それ以下でもない」とコメントしたという。
11月13日付
『CNBC』は、今回の論争は、のちに大学の経営学の授業で、商品のイメージが消費者の潜在意識にどれだけ強く働きかけるかという事例を説明する上で恰好の教材になるだろうとしている。そして、やはりスターバックスは赤いカップを採用した時点では、こんな騒ぎになろうとは思いもよらなかったはずであるとしている。また、今回の問題を蚊帳の外から冷ややかに眺めており、去年のスターバックスのクリスマスシーズンのカップのデザインを、雪の結晶があったか、「メリークリスマス」の文字が入っていたか正確に思い出せる人はほとんどいないだろうとし、今回の件も少し時間がたてば大した問題ではなくなるだろうとしている。
また、同記事はスターバックス側も抜け目なく、また新しいデザインを導入するだろうとする。そしてそれは敬虔なキリスト教徒に敬意を払っているわけでもなんでもなく、会社側は「話題にのぼることの重要性」を理解しているためだとする。ただ、同じ柳の下にいつもドジョウはいない、次回はもう少し工夫が必要だろうともしている。
11月13日付
『ハフィントンポスト』は、今回の論争をやはり全体として「取るに足らないもの」としている。たしかに宗教上の立場から「真摯に」赤いカップを批判する意見もあることにはあるが、それはごく少数で、批判の大部分はソーシャル・ネットワークによるウイルス的な意見の拡散によるものだと指摘する。前出のトランプ氏の不買運動も、本人の言い分はキリスト教を守りたいとのことであるが、同人の愛読書などから推測される知的レベルでは、おそらくは政治的売名行為だろうと辛辣な指摘をしている。
ソーシャル・メディアの持つ威力は誰もが痛感しているところだろう。池に投げ込まれた小さな石が、良くも悪くも大きな「波紋」を作り出すことがある以上、事態の予測、展開に対応する能力は必須である。
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