4月3日、ウクライナのキーウ近郊ブチャで多数の民間人がロシア軍に殺害されたというニュースが報じられた。アメリカの多くのメディアはロシアによる虐殺を非難する一方で、ニューヨーク・タイムズをはじめとしたいくつかのアメリカのメディアとまずは慎重な事実確認が必要であると報じている。
『ロイター通信』は5日、アメリカの国防当局高官は、米軍は、ロシア軍によるブチャの町の民間人に対する残虐行為に関するウクライナの証言を独自に確認する立場にはないが、その証言に異議を唱える理由もないと述べたことを伝えている。
一方、アメリカの調査報道ニュースサイト『コンソーシアム・ニュース』は、民間人の虐殺について時系列に出来事を追った際、疑問点がいくつか湧いてくると伝えている。
ロシア国防省によると、ロシア軍は3月30日にブチャから撤退した。3月31日、ブチャ市議会の公式フェイスブックページで、笑顔のアナトリー・フェドルック市長が動画を投稿し、ブチャ市が解放された事を発表した。「3月31日、ブチャの解放の日。ブチャ市長のアナトリー・フェドルークが発表。この日は、ウクライナ軍によるロシア占領軍からの解放の日として、ブチャとブチャのコミュニティ全体の輝かしい歴史に刻まれるでしょう。」と投稿されている。
『コンソーシアム・ニュース』は、ロシア軍が撤退したこの時点で、大虐殺があったという話は出てきていないことを指摘し、もし周囲に何百人もの民間人の死体が散乱していたのであれば、市長はブチャの歴史の中で「輝かしい日」だとにこやかに話すことはできないのではないかと疑問を呈している。なお、ロシア国防省はテレグラムへの投稿で、「すべてのロシア軍は3月30日にブチャから完全に撤退し、ブチャがロシア軍の支配下にあった間、一人の地元住民も負傷していない」と報告していた。
4月1日、ニューヨーク・タイムズの記者がブチャにいたものの、タイムズ紙も大虐殺を報じていない。その代わりに、タイムズ紙は、ロシア軍の撤退が完了し、「目撃者、ウクライナ当局者、衛星画像、軍事アナリストによれば、死んだ兵士と燃えた車を残していった」と伝えていた。また6人の民間人の遺体を発見したことに言及し「彼らがどのような状況で死亡したかは不明だが、頭を撃たれた一人の男のそばには、ロシア軍の配給品の廃棄された包装が横たわっていた」と伝えた。
『コンソーシアム・ニュース』は、2日にはまだ虐殺の全容は明らかになっておらず、市長でさえ2日前には気づいていなかった可能性があると指摘する一方で、現在では多くの遺体が町の通りに野ざらしになっている写真が出てきており、こうした情景を見逃すことは困難だったのではないかと指摘している。
ニューヨーク・タイムズはその後、ウクライナ内務省管轄の国内軍組織アゾフ大隊が殺害に関与している可能性を示唆した。記者は、「4月2日、国内外のメディアに大虐殺が取り上げられる数時間前に、非常に興味深いことが起こった。」と書いており、米国とEUが資金を提供するゴルシェニン研究所のオンラインのウクライナ語サイト「レフトバンク」が次のように発表したと伝えた。「特殊部隊は、ウクライナ軍によって解放されたキエフ地方のブチャ市で掃討作戦を開始した。この街は、ロシア軍の破壊工作員や共犯者から解放されつつある。」タイムズ紙はさらに、前日の1日には、ブチャ市議会当局を代表するエカテリーナ・ウクレンチヴァが、ブチャ・ライブ・テレグラムページの動画に登場し、軍服を着てウクライナの旗の前に座り、「街の浄化」を宣言したと伝えている。ウクレンチヴァは、ロシア軍は撤退したものの、アゾフ大隊の到着は解放が完了したことを意味せず、「完全な掃討」を行わなければならないと住民に告げた。ブチャでの虐殺が世界に報道されたのは、ウクライナ治安維持局とウクライナメディアの代表が町に到着してから4日目のことである。
一方、米ニュースサイト『パリスベーコン』の番組に出演したジャーナリストのグレン・グリーンウォルドは、現在の欧米のソーシャルネットワークは、ウクライナ戦争への他国の参加に反対する者を「ロシアの工作員」に変えてしまう傾向があると指摘した。また、過去20年は、「戦争のプロパガンダに疑問や異議を唱えることができない場合、とんでもない結果を招く」ことを世界に教えてきたと警告している。
他の紛争では、公式に確認された死者数でさえ、この種の反応を呼び起こさなかったことを想起し、アメリカの一部メディアにおける「第三次世界大戦への呼びかけ」も「冷静さを必要とする」とした。特に、米国のイラク侵攻後、最初の6から8週間で死亡した民間人の数は、公式には8千人を超えていたことを想起した。
「もし私に一つの政治的希望があるとすれば、それはすべての戦争、特に米国とそのパートナーが関与している戦争が、ウクライナと同じようにメディアの注目を集め、その犠牲者が同じように共感されることだ」と強調した。グリーンウォルド氏は、米『フォックスニュース』の番組に出演した際、「ウクライナ人を助けることができるのは、戦争を外交的に解決することだけだ。皮肉なことに、それを唱えると、ロシアの工作員と呼ばれることになる」と述べている。
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『ニューヨーク・タイムズ』
この程リークされた機密文書によると、中国とソロモン諸島(SI、1978年英国より独立した英連邦王国)が、中国軍部隊や軍艦が同国に自由に出入りできるようにする安全保障条約の締結間近になっているという。
SIは、南太平洋の島嶼国のひとつで、第二次大戦時に旧日本軍が同諸島内のガダルカナル島を拠点としたことから、激戦地となっていた。
当該文書は、SIの親中国政策に反対するグループによって3月24日晩にオンラインで公開されたもので、豪州政府も正規の文書であると認めている。
米中道シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、ワシントンDC本拠)豪州支部のチャールズ・イーデル新代表は3月25日、“SIに戦略的敵対国(中国)の海外軍事基地が設営されれば、豪州及びNZの安全保障をすこぶる低下させるだけでなく、地元政治家の不正を惹起し、資源の搾取がまかり通るようになることが懸念される”と警鐘を鳴らした。
目下のところ、どちら側が同条約締結をはたらきかけたか明らかではないが、中国にSIにおける軍事拠点化を認めることで、米国・豪州間の南太平洋海域の航行を分断する機会を与える代わりに、SIのマナセ・ソガバル首相(67歳、2019年に4期目就任)にとっては、政権維持のための支援を中国に求め易くなることになる。
5ヵ月前、中国が密かにSIへの影響力を高めていることに反発したグループが、首相官邸を襲撃し、また、首都ホニアラのチャイナタウンの商店を焼き討ちする事件を起こしていた。
この事件の犠牲者は3人であったが、現在SI市民が恐れる最悪のシナリオは、来年予定されている総選挙までに民主主義が冒されて、暴動が頻発し、平定のために中国軍や治安部隊が介入してくることである。
何故なら、リークした文書によれば、“SIは、社会秩序や国民の生命・財産を守るために必要と判断した場合、中国に対して、警察・軍・その他治安部隊をSIに派遣するよう求めることができる”と言及されているからである。
野党党首のマシュー・ウェイル議員(53歳、2019年就任)は、“どのようにも解釈しうる当該条約案は、現首相の保身だけのためのものであり、SIの安全保障とは何ら関係のないものだ”と酷評した。
一方、中国側にとっては、同条約案によれば、“SIが同意すれば、必要とされるときはいつでも、中国船舶を寄港させ、兵站を補充し、短期滞在のための便宜供与を受け、かつ如何なる設備も使用することができる”とされている。
そこで、これまでSIと伝統的に安全保障関係を有してきた豪州は、即刻外務省の声明を発表し、“当該安全保障条約締結に伴い、南太平洋地域の安定を損なう恐れがある”と警告している。
ただ、ソガバレ首相の今回の対応は以前から推測できていて、2019年に4期目の首相として返り咲いた際には、就任早々長年国交のあった台湾と断交し、中国との国交を樹立させているからである。
なお、米国政府関係者も、中国が何年も前から、SIの他、キリバス(1979年英国から独立、英連邦加盟国)やフィジー(1970年英国から独立、英連邦加盟国)等の南太平洋島嶼国に外交官を多く派遣し、中国人を移民させ、また、インフラ整備を積極的に行い、影響力を高めているとして、懸念してきていた。
先月になって漸く、アントニー・ブリンケン国務長官(59歳)がフィジーを訪問し、中国に対抗して南太平洋島嶼国におけるプレゼンスを高めるべく、SIに大使館を再設置すると宣言している。
野党代表のウェイル議員も、“米国なら、可及的速やかに有効な手段を講じてくれるはずだ”と期待を込めてコメントしている。
『ABCニュース』
3月24日にリークしたSI政府関係文書について、SI政府は3月25日、“SI市民の生命・財産を守るため、必要に応じて、より多くの国々と安全保障条約を締結する意向”であると釈明している。
しかし、豪州・NZ両政府とも即座に懸念を表明している。
豪州のゼッド・セセリャ国際開発・太平洋担当大臣(44歳、2020年就任)は『ABCニュース』のインタビューに答えて、専制国家が太平洋島嶼国の“安全保障環境”に関わってくることを全く望んでいないとした上で、SIの行動について非常に懸念していることを他の太平洋島嶼国にも伝えているとコメントした。
同大臣によれば、駐SIのラチラン・ストラハン高等弁務官(英連邦の呼称で特命全権大使に相当、56歳)が既にソガバレ首相に対して豪州政府の懸念を伝達しているという。
同大臣は、“公開された文書は依然条約案の段階のものであるので、まだ両政府間の協議によって如何なる対応も可能だと信じる”とも言及した。
なお、同大臣は3月25日夕、マリーズ・ペイン外務大臣(57歳、2018年就任)と連名で、“豪州政府は同胞である太平洋島嶼国が独自の決定を行うことを尊重する”としながらも、今回の中国との安全保障条約締結とのニュースについては重大な関心を抱いている旨発表している。
すなわち、同声明では、“中国がSIに軍事基地を開設する等の結果、南太平洋地域における安全保障が脅かされることを深く懸念する”と強調している。
また、NZのナナイア・マフタ外務大臣(51歳、2020年就任)も、駐SI高等弁務官を通じてSI政府にNZ政府の懸念を伝達済みである旨コメントしている。
一方、中国外交部(省に相当)の汪文斌報道官(ワン・ウェンビン、50歳、2020年就任)は定例記者会見で、関係各国は、中国とSI間の安全保障協力関係について“過剰に反応しない”ように求めた。
同報道官は、“豪州の何人かの政治家が、「中国による支配」などと誤った考えを公表しているが、このような偏見は悪戯に緊張を高めるだけで、地域の安定や平和を脅かす無責任な発言”だと一蹴した。
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