環境保全先進国の呼び声が高いNZは、再生可能エネルギー活用政策・ゴミ削減計画・環境保護・生態系保護等々の施策に積極的に取り組んでいる。そしてこの程、低所得世帯に対して、多量の温室効果ガスを発生させるガソリン車から、環境に優しいハイブリッド・電気自動車への買い替えのための補助金を支給する政策を発表した。
5月16日付米
『AP通信』は、「NZ、温室効果ガス削減政策の一環でクリーンエネルギー車への買い替え補助金を支給」と題して、低所得世帯に対して、高燃費ガソリン車から環境に優しいクリーンエネルギー車への買い替え用補助金を支給するとの政策について報じている。
NZ政府は5月16日、低所得世帯に対して、温室効果ガスを多量に発生させるガソリン車から、環境に優しいハイブリッド、あるいは電気自動車への買い替えのための補助金を支給するとの政策を発表した。
これは、温室効果ガス削減のために取り組んでいる様々な総合政策の一部で、5億6,900万NZドル(3億5,700万ドル、約464億円)を予算計上するとしている。
同政府は、その他次のような取り組みを行っている。
・温室効果ガス削減のための事業補助金
・2035年までに全てのバスをクリーンエネルギー車に転換
・食品ロス削減のため、今後十年を目処に全世帯に回収用街頭ゴミ箱を設置
ジャシンダ・アーダーン首相(41歳、2017年就任)は声明文で、“(今回の政策発表となった本日は)温室効果ガス排出量低減の将来を見据えた、画期的な出来事を迎えた日となる”とした上で、“海水面の上昇等、NZにとっても深刻な事態が起こりつつあり、気候変動対策に後れを取った、という事態は絶対に避けなければならない”と強調している。
今回提言された政策は、NZ政府がパリ協定(注1後記)に基づいて掲げた、2050年までにカーボンニュートラル(注2後記)達成という目標に適うものだとしている。
政府説明によると、当該補助金はまず、45億NZドル(28億ドル、約3,640億円)の気候変動緊急対策基金から拠出することとするとする。
ただ、ある政府高官によると、時の経過とともに、汚染源の事業体等から徴収した資金を充てることもあるとしながらも、各世帯への課税による捻出はないとしている。
しかし、何人かの批評家は、NZの輸出産業の主力を担っているものの、同国で排出される温室効果ガスの約半分の排出元となっている酪農産業への対応策が不十分だと批判している。
自由至上主義を標榜するACT党(1994年設立)のデイビッド・シーモア党首(38歳、2014年就任)は、“世の堕落者を支援するこのような政策は、全く有益でないことは明白で、多くの国の失敗例に枚挙のいとまがない”と痛烈に非難した。
同党首は、消費者には、市場原理に基づいた温室効果ガス排出取引等のスキームを通じて、如何に温室効果ガスを削減していくか等の選択肢を残す必要がある、とも付言している。
同日付NZ『スタッフ』オンラインニュース(2000年設立)は、「温室効果ガス削減計画は電気自動車販売戦略にとって“多くのことをするのに急過ぎる”」として、NZ政府の発表した環境政策への批判について報じている。
NZ南島南端のサウスランド地方のインバーカーギル市で自動車ディーラーを営む経営者は、政府が公表した29億NZドル(約2,350億円)の温室効果ガス削減計画の要とされる補助金支給制度について、むしろ電気自動車の価格を押し上げてしまい、反って一般人の買い控えを誘発してしまうと批判した。
政府は5月16日、気候変動緊急対策基金の中から12億NZドル(約970億円)を輸送関係の環境対策に充てると発表した。
そのうち5億NZドル(約400億円)余りが、低所得世帯に対する、環境に有害なガソリン車から、電気自動車等の環境に優しい車に買い替えるための補助金に回されるという。
しかし、この政策について、サウスランド地方本拠の電気自動車販売会社オーナーのアレックス・デ・ボア氏は、補助金支給制がサウスランド地方の住人の電気自動車への買い替え促進に繋がるようなことにはならず、逆に販売価格を暴騰させる結果となってしまう、とコメントした。
同氏は、“補助金を当てにする人からの電気自動車需要が高まると、それにつられて、供給が限られているNZで運転可能な右ハンドル(左側通行)の電気自動車の価格が高騰し、結果的に補助金分くらい上がってしまう恐れがある”と解説した。
すなわち、欧米の大手自動車会社は左ハンドル(右側通行)の電気自動車を多量に注文販売しているが、NZや豪州のように、右ハンドルの車が使用されている市場向けは日本が主要供給元となっていて、オークションによって手当てをするシステム(需要が高まれば値段高騰)となっているからであるという。
なお、同氏は、世界の多くの自動車メーカーが、2035年までにガソリン・ディーゼル車生産を止めて電気自動車にシフトするとの方針を打ち出しているものの、NZに潤沢な電気自動車供給が期待できるのはまだ当分先になる、とも嘆いている。
(注1)パリ協定:第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されたパリにて2015年12月に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)。1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196ヵ国全てが参加する枠組みとしては史上初。排出量削減目標の策定義務化や進捗の調査など一部は法的拘束力があるものの罰則規定は無い。2020年以降の地球温暖化対策を定めている。2016年4月のアースデーに署名が始まり、同年9月に温室効果ガス2大排出国である中国と米国が同時批准し、同年10月の欧州連合の批准によって11月4日に発効。日本の批准は、協定発効後の同年11月8日。
(注2)カーボンニュートラル:環境化学の用語のひとつ、または製造業における環境問題に対する活動の用語のひとつ。カーボンオフセット、排出量実質ゼロという言葉も、同様の意味で用いられる。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量にする、という考え方。
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ロシアの対独戦勝記念日の前日となる今月8日、ウクライナ西部や国外へ退避していた米外交官らが3か月振りに首都キーウの米大使館に戻った。米外交官の帰還は、ロシアのウクライナ首都掌握が失敗したことを浮き彫りと狙いがあるという。
5月8日付米
『CBSニュース』:「ロシアの戦勝記念日を前に、米外交官がキーウ入り」:
ロシアの戦勝記念日の前日となる8日、米外交官らが3か月振りに首都キーウの米大使館に戻った。大使館の公式ツイッターには、「ヨーロッパ戦勝記念日にキーウ到着!ウクライナに栄光あれ!」と書き込まれた。
米国や欧州では、5月8日が欧州での第二次大戦終戦記念日となり、ロシアや旧ソ連共和国では9日を終戦記念日としている。米外交官の帰還は、ロシアのプーチン大統領のウクライナ首都掌握が失敗したことを浮き彫りとする動き。
国務省筋によると、米国は、キーウの大使館の機能を全面的に回復し、数週間以内には米国旗掲揚も行いたい意向だという。この動きは、戦勝記念日に関するロシアのプロパガンダへの対抗策の側面もある。国務省のプライス報道官は今月2日、「ロシアはプロパガンダ拡大目的でこの日を利用するため何でもやるだろう。だが、9日にむけ、米国やNATO側からより多くのことを聞けるだろう」と述べていた。
バイデン政権は、ロシアによる侵攻以前となる2月12日に米ロの紛争の危険を回避するため、外交官をキーウから退避させた。まずNATO同盟国であるポーランド国境に近い西部の都市リビウに、その後戦況が悪化すると国外退避させていた。4月初旬にロシア軍はキーウと周辺地域から撤退。先週には大使館スタッフが現地スタッフと仕事が出来るよう、日帰りでリビウに行き来するようになっていた。
5月9日付『ロイター通信』:「侵攻後初、米外交官がキーウの米大使館に帰還」:
米当局によると、外交官トップであるクリスティーナ・クヴィエン臨時代理大使をはじめとする米外交官らが、万全なセキュリティのもと、8日キーウ入りした。
先月ブリンケン米国務長官がウクライナを訪問した際、在ウクライナ大使館の早期再開を約束していた。今回の動きは、先月リビウに移転していた大使館機能の全面再開へのステップとなるものだが、8日のヨーロッパ戦勝記念日に合わせたもので、暫定的な移動であり大使館の再開ではない。ブリンケン国務長官は、外交官のキーウ入りは、「ウクライナの成功とロシアの失敗の試金石だ」と表現している。
ロシアによる侵攻以来、首都キーウに入ったバイデン政権関係者は、ブリンケン国務相とオースティン国防相の訪問に続き2度目となる。一方、ジル・バイデン大統領夫人は8日、スロバキア経由でウクライナを電撃訪問し、オレナ・ゼレンスキー大統領夫人と面会している。
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