ISが1500人の人質をモスルへ連行
IS(イスラミック・ステイト)の拠点となっているイラク。イラクとそれに協力するアメリカなどの連合国は昨年からISの拠点を次々と奪還してきたが、中でもモスルはISの最後の砦といわれていた。そして、この最後の砦を奪還すべく、モスルへの進撃を開始してから早4週目に入った。モスル奪還は時間の問題ともみられていたが、モスル近辺には多数の民間人が取り残されていて、この民間人が「人間の盾」として利用されることが懸念されていた。ここにきて悪い予測が的中し、ISは1500人のイラク人をモスルへ連行する動きを見せているという。ISの狙いは何か、モスル奪還の情勢について、各メディアは以下のように報じている。
11月8日付
『タイム』(米)は、国連が、ISが劣勢となりモスルを守るために1500人のイラク人を人質として利用していると発表したことを報じている。国連人権高等弁務官のシャムダサニ氏は、この動きについて、「人々は強制的に連行されているようだが、人間の盾として利用されているか、まだ断定はできない。ひょっとすると、殺害される可能性も否定できない」」と語っている。
ISは今回のイラク人連行に先立って、モスル近郊でイラク治安部隊員295人も拘束したことが明らかになっている。...
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11月8日付
『タイム』(米)は、国連が、ISが劣勢となりモスルを守るために1500人のイラク人を人質として利用していると発表したことを報じている。国連人権高等弁務官のシャムダサニ氏は、この動きについて、「人々は強制的に連行されているようだが、人間の盾として利用されているか、まだ断定はできない。ひょっとすると、殺害される可能性も否定できない」」と語っている。
ISは今回のイラク人連行に先立って、モスル近郊でイラク治安部隊員295人も拘束したことが明らかになっている。また、今月3日には、モスルから西に約20キロに位置するマワリ村で100人の元イラク治安部隊員、先週にはモスル近くのタル・アファー村で村民195人を拘束している。シャダムサニ氏によれば、連行されたイラク人たちは、モスルから南に15キロほどのところにある町ハマム・アル・アリから、モスル空港に向かったという。
同日付
『IBタイムズ』(英国版)では、連行された人々は、現在IS内では非戦闘員として位置づけられていたとする。また、今回連行された人の中には様々な部族の首長30人も含まれており、イラク国内では不安が一層増している。
前出の町ハマム・アル・アリは今週月曜日にイラク連合軍がISから奪還したことが発表されているが、ISが撤退したその地では、惨殺された100人の遺体が発見されたという。法医学専門家らが調査を開始してはいるものの、遺体の損傷が激しく、民間人か軍人かの特定も難しいとされている。
同日付
『ザ・ガーディアン』(英)は、イラク国内でISが劣勢になるにつれ、ISが拘束していたイラク人の即時処刑や連行が頻繁に起こっていると報じる。これまでにもISは、拘束した人を人間の盾として利用し、逃げようとした人は殺害するということを行っていただけに、今回の連行も予想はされていた。同記事によれば、前述の処刑された人はおそらくは軍事・警察関係者で、イラク連合軍が接近してきた場合に連合軍に加勢することを恐れて処刑された可能性が高いとされる。
同記事は、モスルでは今後戦闘が激しさを増すことが予測されるとしつつ、最前線で戦ってきたクルド人民兵組織「ペシュメルガ」が戦闘の最前線から外れる可能性もあり、奪還作戦は困難になる可能性もあると指摘する。ペシュメルガの幹部は、「我々は、これまでにイラク連合軍と合意していた目標の達成に成功した。ペシュメルガは、モスル奪還作戦前に不可欠とみられていた800平方キロの領土の回復に寄与してきた。イラク北部の都市ニネヴェにいたっては、イラク軍が参戦する前にペシュメルガが半分以上を回復していた」と語っている。ペシュメルガの兵士は、戦線の最前列で戦ってきたことからすれば、離脱はイラクにとって大きな痛手となる。
IS最後の砦の奪還は、人質と最前線で戦っていた兵士の離脱というマイナス要因を抱えることになる。今後の展開から目が離せないといえよう。
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ボコ・ハラム旧リーダー、死亡報道を覆す
ナイジェリアを拠点にテロ活動を行うイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」だが、昨年はこれまで連携してきた「アルカイダ」から「イスラミック・ステイト(IS)」へと連携先を変え、厳格なイスラム主義から多少の軟化傾向も見られるようになった。この軟化傾向の一環として旧リーダーのシェカウからアルバルナウィへの交代が先月ISより発表された。この発表後もシェカウは自己が真のリーダーだと主張しており、「ボコ・ハラム」内は内部分裂状態にあった。このような状況下で今月初めにナイジェリア軍が祭典に集合した「ボコ・ハラム」メンバーの空爆を行い、シェカウを殺害したと発表した。これにより「ボコ・ハラム」内の組織分裂に動きが出る可能性も指摘されていたが、25日、シェカウが自己の健在ぶりをアピールするビデオをYou-Tubeに投稿したことが明らかになった。これにより、「ボコ・ハラム」は分裂したまま活動を行うのか今後の動きが気になるところである。各メディアは次のように報じている。
9月25日付
『IBタイムズ』(米)は死亡発表から数週間後、シェカウが自己の健在をアピールする動画をSNSに投稿、ナイジェリア軍を嘲笑っていると報じる。ナイジェリア軍は今月初め、空爆によりシェカウが死亡、もしくは致命傷を負ったと発表していた。
記事によればナイジェリア軍はこれまでにも2013年と2014年の2度にわたりシェカウの死亡を発表してきたが、発表後シェカウが自身の健在をSNSなどで発表したことによりいずれも誤報であることが明らかになっていたという。...
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9月25日付
『IBタイムズ』(米)は死亡発表から数週間後、シェカウが自己の健在をアピールする動画をSNSに投稿、ナイジェリア軍を嘲笑っていると報じる。ナイジェリア軍は今月初め、空爆によりシェカウが死亡、もしくは致命傷を負ったと発表していた。
記事によればナイジェリア軍はこれまでにも2013年と2014年の2度にわたりシェカウの死亡を発表してきたが、発表後シェカウが自身の健在をSNSなどで発表したことによりいずれも誤報であることが明らかになっていたという。2週間ほど前に「ボコ・ハラム」がYou-Tubeに投稿したビデオ内にはシェカウが登場せず、その代理人と名乗る男の映像が映っていたため、今回のシェカウの死亡報道は真実味を帯びてきていたが、今回もその期待は本人のビデオ投稿により覆された。
同日付
『BBC』(英)によると、ビデオ内のシェカウはいたって健康そうに見え、アラビア語、ハウサ語(ナイジェリア北部で話される言語)、カヌリ語(ナイジェリア周辺地域で話される言語)で自己の健在を40分にわたる映像内でアピールしていると報じる。ただ、ビデオの収録時期は明らかになっていない。
このビデオに関して、ナイジェリア軍からのコメントは発表されていないという。
同日付
『ロイター通信』(米)は今回発表されたビデオの画像が粗いため、シェカウであるとの確認がまだ取れないと報じる。ビデオ内のシェカウと名乗る男は「自分の時代が来るまでは決して死なない」と語っている。
「ロイター通信」の取材に対して、ナイジェリア軍の報道官ウスマン氏は「ボコ・ハラム」は確実に弱体化しており、近々撲滅するとコメントしたものの、やはりビデオの人物がシェカウ本人かについては言及していない。
「ボコ・ハラム」は先月新リーダーにアルバルナウィが就任したことを発表したが、その直後シェカウが反対の意を唱えるビデオを発表し、組織内は事実上分裂状態にあるとみられている。アルバルナウィがもし死亡していたならば組織のさらなる弱体化に拍車をかけることにもつながったとみられるだけに、今回発表されたビデオがナイジェリア軍に与える精神的ダメージ、アルバルナウィを支持する者への精神的鼓舞の効果は大きいと考えられる。
事実、「ボコ・ハラム」が内部分裂したといっても、依然として大きな勢力であることはナイジェリア軍も認めている。25日にはパトロール中のナイジェリア軍兵士らが「ボコ・ハラム」に待ち伏せ、攻撃され、民間人を含む20人が殺害、負傷している。またナイジェリアの隣国のチャドでもチャドの軍人4人が「ボコ・ハラム」によると考えられる攻撃により死亡している。このような殺害行為が絶えずナイジェリアおよびその周辺地域で頻発しているのだ。
組織が分裂、一部が他の組織と合流するなど、「ボコ・ハラム」の大きな流れが把握しづらくなっている。さらには一部がISと合流となると、テロ発生の予測がさらにつきにくくなり、国際社会の悩みの種がまた一つ増えることは確実であろう。
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