中国大手企業の米映画産業への投資、米中政治対立激化で減退【英国メディア】(2022/10/11)
中国は、最先端技術含めて、西側先進国にいち早く追い付くべく、まず先進国産業界への投資活動で技術・ノウハウ等を吸収し自国産で賄おうとしている。映画産業も同様で、多くの大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下して、自国での映画産業隆盛を目指している。しかし、トランプ政権後期から現バイデン政権にかけての政治的対立の激化の影響を受けて、多くの企業が撤退、もしくは追加投資の二の足を踏む結果となっている。
10月6日付
『フィナンシャル・タイムズ』紙(1888年創刊、2015年日経紙傘下)は、「ハリウッド、大挙した中国資本の退出」と題して、直近十年間で十数社の中国大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下していたが、米中政治対立が激化する中、撤退や追加投資の沈静化の波が押し寄せていると報じた。
世界最大のビデオゲーム製作グループのテンセント(1998年設立)は2019年、ハリウッドの映画制作会社スカイダンス(注後記)と共同して、トム・クルーズ主演の「トップガン:マーベリック」制作・配信・公開に関わる旨発表した。...
全部読む
10月6日付
『フィナンシャル・タイムズ』紙(1888年創刊、2015年日経紙傘下)は、「ハリウッド、大挙した中国資本の退出」と題して、直近十年間で十数社の中国大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下していたが、米中政治対立が激化する中、撤退や追加投資の沈静化の波が押し寄せていると報じた。
世界最大のビデオゲーム製作グループのテンセント(1998年設立)は2019年、ハリウッドの映画制作会社スカイダンス(注後記)と共同して、トム・クルーズ主演の「トップガン:マーベリック」制作・配信・公開に関わる旨発表した。
同社は2018年、スカイダンスに資本参加(10%)しているが、2010年代には同社を含めて中国大手企業十数社がハリウッドの映画制作会社等に投資していた。
しかし、同映画が米国で5指に入る最高傑作で、今年5月に世界各地で上映された結果、14億ドル(約2,030億円)もの興行収入を叩き出しているにも拘らず、同社はその分け前に与ることを諦めざるを得なくなった。
何故なら、中国共産党政府が同映画内で米軍が賛美されすぎていることに不快感を抱いていると同社幹部が懸念し、同社に対する謂れのない取り締まり等が行われることを避けて、同映画からの興行収入を得る道を断念せざるを得ないと判断したためである。
(編注;同映画は、トップガンと呼ばれる海軍精鋭ジェット戦闘機部隊が、ならず者国家とされる某国が建設・稼働しようとしているウラン濃縮施設を破壊すべく、強力な防空網等を勇猛果敢に掻い潜り、見事特殊対地攻撃作戦を成功させるストーリーとなっている。筆者が観た限り、某国とは中国を想定していると思われた。)
ただ、テンセントはスカイダンスの少数株主の立場は保持していて、その他、アベンジャーズシリーズで有名なマーベルを支援しているAGBO(2016年設立の映画・TVドラマ制作会社)に投資している貨意グループ(フアイ、1990年設立)等数社は依然撤退はしていない。
中国では、映画鑑賞対象となる中堅クラスの人口がとてつもなく多いが、映画制作上のソフトウェアやその他ノウハウが不足しているため、多くの大手企業が中国の映画産業を隆盛させるため、手っ取り早くハリウッドの映画製作会社等に投資することで早急な成長を目論んだ。
米独立系リサーチ会社ロジウムグループ(RG、ニューヨーク本拠)によると、2012年に始まった中国企業による米メディアやエンターテインメント分野への資本投下は27億ドル(約3,915億円)、中国の対米総投資額の37%にも上ったという。
また、同社によると、2016年には中国企業による米メディア・エンターテインメント業界への総投資額が48億ドル(約6,960億円)にも達していて、そのうち、大連万達グループ(ターリアンワンダ、1988年設立の複合企業)によるレジェンダリー・ピクチャーズ(2000年設立の映画制作会社、バッドマン・スーパーマン・キングコング・ゴジラ等)買収額の35億ドル(約5,075億円)が大半を占めるという。
しかし、大連万達グループは2021年、2012年に26億ドル(約3,770億円)で買収したAMCシネマチェーン(1920年設立の世界的映画館チェーンでIMAX 3Dシネマで有名)を手放し、また、レジェンダリー・ピクチャーズの株式保有率を引き下げている。
中国企業向け融資が主流のイーストウェスト銀行(1973年設立、ロスアンゼルス本拠)のベネット・ポジル企業融資担当部門長は、中国企業によるハリウッドの映画製作会社の爆買いは“もはや手に負えなくなり、急激に減退してしまっている”とし、“今後再び活性化することはないだろう”と嘆いた。
RGのマーク・ウィツク上級アナリストは、中国当局が2017年に“不合理な”海外投資を制限する法整備をして以来、エンターテインメント業界含めて中国企業による投資が大きく減退していると分析している。
更に同アナリストは、2020~2021年に中国投資額が一時的に増えたのはテンセントがユニバーサル・ミュージック・グループ(1934年設立、世界最大のレコード会社)の10%株式を取得したことが主要因だとしながらも、中国政府の昨今のIT企業への取り締まり強化政策に遭って、今後同社が引き続き積極的投資を行うが不確かとなっているとコメントした。
なお、同社幹部は最近、海外投資案件を切り詰めることを模索していると発言している。
一方、イーストウェスト銀行のポジル部門長は、2017年配信・公開の「戦狼:ウルフ・オブ・ウォー」(中国映画史上、興行収入1位を記録。中国版ランボー)が大成功を収めたことから、“中国側はもうハリウッドの映画製作会社等のノウハウは必要なくなった”と感じ始めており、そこで中国企業による米エンターテインメント業界への投資熱が冷めたとも分析している。
因みに、2020年の中国における興行収入が初めて北米を抜いている。
北米における新型コロナウィルス感染流行問題に関わる行動制限が多分に影響しているものと考えられるが、目下、中国も“ゼロコロナ政策”に伴う厳しい都市封鎖措置に遭っているものの、業界専門家は、近い将来、中国の興行収入が世界を牽引することになろうとコメントしている。
(注)スカイダンス:2006年設立、2012年にパラマウンド映画(世界で5番目に古い映画制作会社)と共同出資契約締結。主な作品に、ミッション:インポッシブル、スタートレック、ターミネーター等がある。
閉じる
ウクライナ支援;軍宛の直接資金援助は倫理的にOK?【米メディア】(2022/03/09)
3月2日付GLOBALi「
ウクライナ支援;暗号資産寄付額が3,400万ドルまで積み上がり」で報じたとおり、手間もかからず迅速な暗号資産によるウクライナ宛の寄付が約3,400万ドル(約39億円)まで積み上がっている。そうした中、クラウドファンディング(注1後記)で集められた多額の資金がウクライナ軍宛に直接わたることで、間接的な戦争支援と見做されないか倫理問題が浮上している。
3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。...
全部読む
3月8日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙は、「“ウクライナ軍に支援したい”と集まったクラウドファンディングがウクライナ軍の武器調達資金に流用」と題して、ウクライナ人難民救済ではなく、ウクライナ軍の直接戦費に充当されるクラウドファンディングが増えていることに警鐘を鳴らしている。
ここ数年の中で、異常な程のクラウドファンディングによる資金がインターネット上で集まっている。
それは、2月下旬のロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからのもので、多くのインターネットユーザーや主要米国メディアまでもがウクライナ軍への直接寄付という形で表れている。
その中でも大きな役割を担っているのが、カリフォルニア州法人でウクライナ・キエフにも本拠を構えるITサービス企業ソフトジョーン社(2001年設立)がツイッターやリンクトイン上に設営したクラウドファンディングのプラットフォームで、人道支援のみならずウクライナ国立銀行(1991年設立)経由ウクライナ軍への資金援助を呼びかけている。
キエフ在住のエミー・ジェングラー社長は、同社は“ロシアによる2014年クリミア半島併合以来、ウクライナ軍への支援を続けてきている”と明かした。
同社の支援は、救急車等の医療機器の援助も含まれるとする。
同社には多くの国の出身者が在籍していて、ウクライナ内でも約200人雇用しているが、(戦禍の中)一部は退社しているが、会社に留まって業務を続けている社員も多いという。
米国政府や北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)加盟国は、ウクライナに武器等を提供する一方、対ロシア制裁を科しているが、多くの市民や私企業は、反抗するウクライナや同国の人道支援のために直接あるいは間接的にインターネットを通じての資金援助を行っている。
オーストラリア・シドニー大(1850年設立の公立大学)のディジタル変革・ディジタル戦争専門のオルガ・ボイチャック講師(ウクライナ出身)は、2014年以来ウクライナにおいて実施されている軍向けクラウドファンディングを研究してきているが、クラウドファンディングに参加することでインターネットユーザーを“紛争と密接な関係に追い込んで”しまっていると警鐘を鳴らす。
“何故なら、投じた資金が軍事用兵站に使用されるのか、または市民レベルの物流関係に回されるのか境が見えないからだ”と指摘している。
ブロックチェーン(注2後記)の分析を手掛ける英国エリプティック(2013年設立)によると、ウクライナ侵攻以来、ウクライナ国立銀行及びNGOカムバックアライブ(CBA、2014年設立の軍事支援用クラウドファンディングを行う団体)宛に寄付された暗号資産は5,900万ドル(約67億8,500万円)に及ぶという。
一方、セキュリティ・クリアランス(注3後記)を伴う人材派遣・雇用相談を担うクリアランスジョブ・コム(2002年設立)のリンディ・カイザー情報担当役員によると、“ウクライナ軍に寄付したいがどうか”という質問を多く受けるが、“今のところ違法だと確認している訳ではないが、もしセキュリティ・クリアランスの資格を保有しているならば、思い止まった方が良い”と助言しているという。
なお、ロシア政府はこれまで長い間、“偽情報操作”によって大衆をミスリードしてきたことから、マイクロソフト、グーグル、メタ(前フェイスブック)等の米IT大手企業は、ウクライナに対して直接、あるいは間接的支援を行っている。
例えば、マイクロソフトは、ロシアによるハッカー攻撃の具体的防御策支援をウクライナ政府宛に行っているし、グーグル、メタは、ロシア政府に盲従して軍事侵攻と認めようとしないロシア国営メディア『RT(ロシア・トゥデイ)』等へのアクセスを制限したりしている。
ただ、アップルの態度がはっきりしないため、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼ディジタル担当相(31歳、2019年就任)は、“ウクライナの子供たちを平気で殺害しているロシアという国において、アップル製品の販売を即時に停止するべきだ”として、アップルのティム・クック最高経営責任者(61歳、2011年就任)を非難するツイートをしている。
(注1)クラウドファンディング:群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語。多数の人による少額の資金が他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを意味し、ソーシャルファンディングとも呼ばれる。支援したお金がどのように使われるのかが分かること、少ない額から気軽に支援できることなどが、被災地の復興支援に必要な資金を集めるために大きな役割を果たし、注目されている。
(注2)ブロックチェーン:暗号技術を使ってリンクされたブロックと呼ばれるレコードの増大するリストで、設計上、データの改変に強い。そこで、2つの当事者間の取引を効率的かつ検証可能で恒久的な方法で記録することができるオープンな分散型台帳の役割を成す。
(注3)セキュリティ・クリアランス:国家等の秘密にすべき情報を扱う職員に対して、その適格性を確認すること。特別管理秘密を扱う行政機関の職員を対象とする秘密取扱者適格性確認制度などがこれにあたる。また、そうした秘密情報を取り扱う資格。
閉じる
その他の最新記事