スロヴェニアやセルビアなど各国が移民の通過を制限
ドイツやフランスなど押し寄せる難民に苦しむ国々は多い。当初は難民に寛容だったドイツでさえも、近ごろは難民受け入れ反対運動が激しさを増している。今年に入ってからもオーストリアが難民申請の受付数に制限を設けるなど、難民問題にヨーロッパ各国は手を焼いている。そんな中、セルビア、スロベニア、クロアチア、マケドニア各国が、シェンゲンビザを所持せず、人道的理由など特段の事情を有しない難民の入国を原則禁止することを発表し波紋を呼んでいる。各メディアは次のように報じている。
3月9日付
『BBCニュース』(英)はギリシャ経由でヨーロッパ各国に入国する難民の過剰な流入を防止するため、スロベニア共和国が入国制限を設けたと報じている。新しい制限によれば、人道的支援が必要な特別な場合を除き、シリアなどから来た難民は、スロベニアには入国できないことになる。
今回のスロベニアの措置に呼応して、セルビア共和国もマケドニアとブルガリアの国境を原則封鎖し、ビザか正当な理由無しでは入国を認めない方針を打ち出している。...
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3月9日付
『BBCニュース』(英)はギリシャ経由でヨーロッパ各国に入国する難民の過剰な流入を防止するため、スロベニア共和国が入国制限を設けたと報じている。新しい制限によれば、人道的支援が必要な特別な場合を除き、シリアなどから来た難民は、スロベニアには入国できないことになる。
今回のスロベニアの措置に呼応して、セルビア共和国もマケドニアとブルガリアの国境を原則封鎖し、ビザか正当な理由無しでは入国を認めない方針を打ち出している。同記事はこれを「シェンゲンビザのシステムの崩壊」と指摘する。シェンゲンビザとはヨーロッパ25か国が結ぶ協定により発行されるビザで、180日間の期間内であれば当該ビザを所持していれば加盟国内を自由に行き来することができるというものである。シェンゲン協定の加盟国であるオーストリア、ハンガリー、スロベニアなど8か国はすでに国境での事実上の入国制限に乗り出しており、現在も多くの難民がギリシャで足止めを食っている状況だという。
スロベニアは今までドイツや北ヨーロッパに向かう難民の通過国として機能してきたが、EUの加盟国ということもあり今回の措置に踏み切ったものと考えられる。スロベニアの首相であるツエラル氏も「今やバルカン半島経由の難民ルートは効率的に閉鎖されている」と述べたという。
今回の各国の措置に対しては国連は懸念の意を表明し、人権団体「アムネスティ・インターナショナル」も「難民にとって致命的」と批判の声明を発表している。また、欧州評議会の事務総長であるヤグランド氏も、国際法に違反する恐れがあるとコメントしている。
3月8日付
『U.S.ニュース』(米)は今回の各国の措置により、ギリシア国内のマケドニア国境付近にいる難民は、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリアを経由することが事実上不可能になったとする。
今回難民の移動の制限を発表していない国を通るルートとなると、アルバニア、モンテネグロ、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナを通るルートも考えられるが、これらの国々には内戦で残された多数の地雷が今も未処理のまま点在しており、移動中の難民が被害に遭う可能性が大きいという。また、運よくボスニア・ヘルツェゴビナまで辿り着いたとしてもその先にはクロアチア、スロベニア、オーストリアがあり、地上を通るルートは事実上不可能だ。こうなると海上ルートでイタリア入りすることも考えられるが、ゴムボートでの渡航が命がけなのは周知の事実であろう。
3月9日付
『ドイチェ・ヴェレ』(独)は今回の措置に関して、トルコはギリシアから引き返してくるシリア人などの難民を受け入れる方針を明らかにしている。また、引き返してきた難民も一定条件を満たせばトルコからEU各国に直接移送するという。また、今回トルコが難民問題に協力したとして、EUはトルコに対し経済援助を約束し、さらにトルコ人のEU各国入国のビザの要件を緩和することを約束している。そして、トルコが切望するEUへの加盟が早められるとの指摘もなされている。
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難民政策をめぐり、揺れるデンマーク
デンマーク国内で難民問題をめぐり、議論が巻き起こっている。というのも、デン
マークに入国しようとする難民に対し課金し、また課金のために難民の身体や持ち物
検査を可能とする法案が可決されようとしているからだ。この法案に反対の意を表し
た議員が1名政党を離脱したことから話題を呼んでいる。各メディアは次のように報
じている。
12月20日付
『ザ・ガーディアン』はデンマークの欧州議会議員であるローデ氏が、政
府が難民対策として掲げる法案に抗議し、「デンマーク自由党」を離脱することを報
じている。今回問題となっている法案というのが、デンマークで現在施行されている
法律の改正案で、デンマークの国境検査において難民一人当たり3000デンマーク・ク
ローネ(約5万3000円)を超える金額を所持する場合これを徴収することができ、徴
収の手段として当局がデンマークでの滞在許可を与えることなく難民の衣服や持ち物
の検査ができるというものである。...
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12月20日付
『ザ・ガーディアン』はデンマークの欧州議会議員であるローデ氏が、政
府が難民対策として掲げる法案に抗議し、「デンマーク自由党」を離脱することを報
じている。今回問題となっている法案というのが、デンマークで現在施行されている
法律の改正案で、デンマークの国境検査において難民一人当たり3000デンマーク・ク
ローネ(約5万3000円)を超える金額を所持する場合これを徴収することができ、徴
収の手段として当局がデンマークでの滞在許可を与えることなく難民の衣服や持ち物
の検査ができるというものである。デンマークは現在大量の難民が他国へ移動するた
めの「通り道」となっており、デンマーク政府は難民に料金を課すことにより、難民
流入の抑止効果を狙っているのだという。法案には料金を課すこと以外にも難民に対
して不利な条項が含まれているという。
このような一連の法案に対しローデ氏はデンマークの新聞「ポリティゲン」の取材に
対し、「デンマーク自由党は独自の路線を見失い、反移民政策を推奨するデンマーク
国民党にすり寄っている」と語ったという。「デンマーク国民党の主張も確かに一理
あるが、なぜ我々がそれを真似しなければならないのかが分からない。さらに国民の
間で、今回の法案が非人道的だと主張する運動が起きないことにも懸念を抱いてい
る。デンマークにたどり着いた難民が持ってる、最後の貴金属や尊厳まで奪っていい
はずがない」。
政府与党である「デンマーク自由党」は中道右派であり、与党とはいっても179議席
のうち39議席を有しているのみであり、国政の運営は常に綱渡りの状態だという。同
党はデンマーク国民党に歩調をあわせつつも、EU寄りの政策を実現するため中道左派
の反対政党である社会自由党にも支持を求めなければならない微妙な立場にあるのだ
という。
12月19日付
『ヤフーニュース』はAFP通信の記事を引用し、前出のローデ氏のコメン
トを載せている。「デンマークでは近時、国民の行動規範や価値基準が変化しつつあ
り、憂慮すべき方向に向かいつつある」。デンマークでは最近難民に対する世論が厳
しく、EUの難民政策についても懐疑的な意見が多いのだという。
今回の法案では、結婚指輪や携帯電話など個人的価値の高いものは、徴収額の査定か
らは除外されるというが、今回の難民にたいする法案は国際社会から非難を浴びてお
り、中には法案をナチズムになぞらえる意見もあるという。
同記事は、この法案はデンマークに隣接するスウェーデンへの難民の流入を少しでも
減らしたいという意図も含まれているという。デンマークへの難民は今年は1万8000
人であるのに対し、スウェーデンでは15万人にものぼるという。
また、今回の法案で合わせて提案されている他の難民流入対策としては、滞在可能期
間を短縮し、さらには難民申請してもすぐには家族を呼び寄せることができないこと
などが含まれているという。レバノンの新聞にも公告を出し、デンマークが難民受け
入れに消極的であることを示して行く方針だという。
12月20日付
『ドイチェ・ヴェレ』(ドイツ)も多くの難民がデンマークを通過し、ス
ウェーデンはデンマークの10倍もの難民を受け入れていることを伝えている。
デンマークは1973年にEUに加盟したものの、自発的というよりはむしろ「嫌々ながら
の」加盟であったという。現に国内政治や司法、防衛などに関してはEUの規則を適用
しなくても良いとされる適用除外権を留保しているという。国内の風潮としてはEUに
合わせるというよりは独自の路線を維持したいのであろう。2週間前に行われた国民
投票では、政府が提案するEUの司法に関する法律受け入れ案(すなわち適用除外権の
一部放棄)に対し53%が反対票を投じたという。政府としてはこの国民投票で「賛
成」の結果が出ることがデンマークにとって最善の道だと考えていたようだ。という
のも、今回の国民投票の結果によりデンマークの欧州刑事警察機構での権限が来年は
制限されることになるからである。同記事は、政府はこの他にもサイバー関連の犯罪
や債権回収に関してEUとの連携を強めていく案も国民投票で合わせて提案されていた
が、これらも否決されたという。
EUとの連携強化によりデンマークは多くの利益を受けられそうなものなのに、なぜ国
民投票では連携案が否決されたのか。この背後にはデンマーク国民の難民受け入れに
対する恐れ、そしてそれに乗じたデンマーク国民党の戦略があると同記事は指摘す
る。デンマーク国民党は国民に対し、EUと連携を強化すればヨーロッパ全体に大量に
流入しているシリア難民の受け入れ義務を割り当てにより課されるだろうと訴えたの
である。
パリのテロ以来、事実関係は歪曲して人々の印象に残り、ヨーロッパでは難民に対す
るアレルギー反応が広まっている。EUによる難民受け入れ割り当てが実現するかは別
として、難民の与える印象の改善対策も併せて必要ではなかろうか。
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