欧州連合(EU)は4月23日、デジタルサービスの全利用者の基本的権利を保護する一環で、グーグル・フェイスブック等法巨大プラットフォームの規制強化を目的とする「デジタルサービス規制法(DSA)」を制定することを決定した。これによって、超巨大プラットフォームを含めたグローバル・プロバイダーは、ヘイトスピーチ、虚偽情報等を排除し、適正な取引のための公正性・透明性・説明責任を強く求められることになる。
4月23日付米
『AP通信』は、「EU、ヘイトスピーチ・虚偽情報等を規制する画期的な法案制定」と題して、EUがこの程、大手IT企業に対してヘイトスピーチ・虚偽情報及びその他有害な投稿等を自ら監視して排除する義務を強化する規制法案を制定することを決定したと報じた。
4月23日午前のEU幹部が制定に同意したDSAで、フェイスブックやグーグル等超巨大プラットフォーム企業含めて、世界のプロバイダー自らがユーザーの人権等を脅かす投稿を排除することを義務付け、違反した対象者には数十億ユーロ(数千億円)の罰金を科すこと可能としている。
EUの当該法制定意図は、世界に先駆けて、オンラインにおける消費者とその基本的権利を保護することや、オンライン・プラットフォームに対する強力な透明性と明確な説明責任の枠組みを確立していこうとするものである。
欧州委員会(EC、1967年設立のEU政策執行機関)のティエリ―・ブルトン域内市場総局長(67歳、フランス人実業家・政治家、2019年就任)は、“DSA制定によって、今後オンライン・プラットフォーム大手企業は、「巨大すぎて統制できない」という言い訳ができなくなる”と表明した。
また、ECのマルグレーテ・ベスター副委員長(54歳、デンマーク人政治家、2019年就任)も、“今回の法制定に伴い、社会や市民に有害を及ぼしかねないリスクが発生した場合にプラットフォーム企業に責任追及ができるようになる”と強調した。
今回のEU対応と反対に、米国ではシリコンバレー(IT大手企業の本拠)の利益を代弁するロビーイストの暗躍で、連邦議員が規制法制定の動きができないようコントロールされてしまっている。
米司法省及び連邦取引委員会(1914年設立の独占禁止当局)はグーグルやフェイスブックに対して独占禁止法違反行為で提訴しているが、連邦議会の方は、自由な競争・オンラインプライバシー保護・競技情報禁止等を規制する法案策定に関しては政策が分断されたままの状態である。
一方、ECのブルトン総局長は、“今回の法案によって、違反したプラットフォーム企業に対して、総売上高の最大6%相当の罰金を科すことが可能となり、また、違反行為が繰り返された場合にはEU市場からの退場も命令ができることになる”と言及している。
2016年大統領選時のヒラリー・クリントン候補のIT政策顧問であり、現在は権利擁護団体リセットの代表であるベン・スコット氏(44歳)は、“DSAは現在のIT分野における画期的な政策である”と絶賛している。
なお、EUがDSAを施行するに当たって、200人余りの取り締まり担当専門職を新たに雇用することになるが、当該費用は、グローバルIT企業の年間純利益の0.1%相当の“監督手数料”を徴収して賄うことを考えている。
また、EUは先月、「デジタル市場法(DMA)」を制定することも決定していて、これによってデジタル・プラットフォーム大手企業に対して、中小企業の競争を阻害して自社サービスを優先利用させることを禁止することが可能となる。
同日付英国『ザ・ガーディアン』紙は、「EU、巨大IT企業に対して、違法コンテンツを自ら取り締まらない場合に莫大な罰金賦課が可能な新法を制定」と題して、世界に先駆けて巨大IT企業を取り締まる法案策定を決定したと報じている。
DSAが施行されることになると、フェイスブック・グーグル・ツイッター等の大手IT企業は、自社プラットフォーム上の違法コンテンツをもっと厳しく検閲する義務が生じ、これに違反すると最大数十億ユーロの罰金が科されることになる。
想定される罰金額は、総売上高の最大6%が科されることになり、フェイスブックの場合であると、70億ドル(59億ポンド、約8,820億円)にも上ることになる。
更に、当該違反が繰り返されると、EU市場における事業展開が禁止される恐れがある。
DSAは今後具体的な手続きや公布期間を経て、2024年に施行されることになる。
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2020年に米国で大きなうねりを見せた「Black Lives Matter(BLM、黒人の命も大切)」運動は、英国にも飛び火して、奴隷貿易王かつ政治家として英国南西部ブリストルの街の名士となっていたエドワード・コルストン(1636~1721年)の銅像が引き倒されてブリストル湾に投げ入れられてしまった。そしてこの程、名士の名前を冠した伝統私立校であるコルストン校が遂に名称改称へと重い腰を上げた。
12月6日付米
『AP通信』:「創立311年の伝統私立校、奴隷貿易王の名前を冠した校名改称へ」
昨年米国で大きなうねりとなったBLM反人種差別運動は、英国南西部のブリストルにも大きな影響を与えた。
まず、市の中心部に建立されていた奴隷貿易王かつ政治家エドワード・コルストンの銅像が引き倒されて海に投げ入れられてしまった。
そして今度は、創立311年の伝統私立校であるコルストン校(2~18歳の約800人在籍)が校名を改称することになった。
同校の評議委員会は12月6日、来夏に校名を改称することとし、新校名候補は同校の在校生、卒業生、及び保護者や教職員から広く集めた上で決定すると発表した。
同評議委員会声明によると、“本校名のコルストンは奴隷問題を惹起することが明白となってきており、このまま同校名を維持することは、今後も奴隷貿易を通じて命を落とした多くのアフリカの成人男性・女性・子供への責任に関与していると取られかねないことを憂慮する”という。
コルストンは1636年、ブリストンの裕福な商家に生まれ、同地が中心となった奴隷貿易会社の王立アフリカ社(1672~1698年)に入社して頭角を現し、後に奴隷貿易王とまで言われる程出世した。
同社は、アフリカの黒人を数万人以上、カリブ海の植民地での砂糖栽培事業や北米のタバコ産業の労働力として供給した。
英国においては、1807年に奴隷貿易が禁じられたが、実際に禁止法が制定されたのは1834年であった。
それまでに奴隷貿易によって1,200万人以上のアフリカ人が新大陸に移送されたが、航行途上で約200万人が落命していた。
なお、奴隷貿易で財を成したコルストンは、同市に多額の寄付をしてことから、市内の多くの施設にこの名前が冠せられている。
ただ、同校評議委員会によれば、“本校名はコルストンの功績から名付けられたものではなく、コルストンが自身の名前を冠することを決めた”という。
一方、同校の動きに先立ち、昨年11月に同市内のコルストン女子高は、在校生及び職員の投票によってモンペリエ高校に改称されている。
同市の多くの市民は、以前から奴隷貿易王のコルストンの名前がそこここに残されていることを恥じていたが、昨年米国で巻き起こったBLM運動を契機に、市中心部に建立されていた銅像が引き倒された海に投げ入れられる事態まで発生していた。
かかる背景もあって、コルストン校においても校名についてアンケートを取ることとし、1,096人の一般人含め合計2,500人余りの回答を得た。
その結果、一般人の80%以上はコルストンの名前は残すべきだとの回答であったが、学校関係者からの回答の大勢が校名を変更すべきというものであった。
同校評議委員会としては、“学校の歴史を消去”したくないものの、“新しいアイデンティティで以て、多様性かつ開放的な校風を創造していくべきであり、また、地元にとっても誇れるような名前とすることが重要だと考える”とした。
なお、世界各国で、奴隷制や人種差別に関わった歴史上の人物の記念碑や銅像を保持していることに対し、活動家らから多くの批判の声が上がっている。
同日付英国『ザ・ガーディアン』紙:「奴隷王エドワード・コルストンの名前を冠する最後の学校が校名改称」
奴隷王エドワード・コルストンの名前を冠した、ブリストル市内の私立伝統校が、関係者に対して行ったアンケートの結果を踏まえて、遂に名称を変更することにした。
コルストン校は、ブリストル生れのコルストンによって1710年に創立されて以来、コルストン校と称されてきた。
しかし、奴隷制や人種差別問題に焦点が当てられる時代となり、2018年にコルストン小が改称され、今年になってコルストン女子高がモンペリエ高校に改名されることになって、ブリストル市内で唯一コルストンの名前を冠した学校となっていた。
そこで今回、同校評議委員会が一般市民及び学校関係者(在校生、卒業生、保護者及び教職員)に対して行ったアンケートの結果を踏まえて、同校名を改称することとし、同時に新校名を募集することとした。
同評議委員会のニック・ベイカー委員長は、“長い間、繰り返し繰り返し相談・協議を行ってきたが、アンケート結果も考察した上で、現在及び将来の本校生や教職員にとって誇れる名称に変更することが大切だと判断した”と言及した。
また、同校のジェレミー・マカロー校長は、“校名改称は、これまで本校が培った幸福で多様性かつ開放性に富んできた歴史を否定するものではない”とした上で、“本校の全関係者が、本校の将来に関わって考察してくれていることを誇りに思う”とコメントした。
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